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インフルエンザは、その抗原性の変異が頻繁におこるため、一度ワクチンを打っても翌年またワクチンを打たないといけませんが、同じRNAウィルスである日本脳炎ウィルスや狂犬病ウィルスは、免疫記憶の増強という意味でなく、抗原性の変化という意味では新しいワクチンを打ち直す必要がないようです。どちらも変異のおきやすいRNAウィルスということは分かるのですが、なぜインフルエンザウィルスは抗原性の変異株が生じやすいのでしょうか。ヘマグルニチン(HA)の構造にでも関係があるのでしょうか。ウィルス学の教科書は読んだのですが分かりません。どうかよろしくお願いします。

A 回答 (2件)

 獣医師でウイルスを専門としています。


 ただ、このような基礎的な問題はちょっと苦手なのですが、判る範囲で回答します。
 RNAウイルスがDNAウイルスと比較して桁違いに変異しやすいのは事実ですが、どのRNAウイルスの変異も同じ率というわけではありません。

 その理由と1つ目として考えられるのは、ウイルスの複製機序は非常に多様だということです。
 +鎖のRNAウイルスのゲノム(すなわち+鎖のRNA)は、それ自身が感染した細胞内でmRNAとして機能することができます。それに対し、-鎖のRNAウイルスのゲノム(すなわち-鎖のRNA)は、そのままではmRNAとして機能することができず、細胞の機能を利用してゲノムにコードされたタンパク質を合成するためには、「-鎖RNA分子から+鎖RNA分子へ転写されること」が必要になります。すなわち、-鎖RNAウイルスは、細胞に感染してからウイルスが複製されるまでに、+鎖RNAウイルスより少なくとも1回多い転写が必要だということです。すなわち、変異が入る機会がそれだけ多い、ということです。
 とはいえ、話はそれほど単純なものでもなく、+鎖RNAウイルスの中にも、例えば非構造蛋白(酵素等のことです)はウイルスゲノムがそのままmRNAとなって翻訳→合成されるのに、構造蛋白(カプシド等のことで当然抗原決定基部位を含みます)は+鎖RNA→-鎖RNA→+鎖RNAと2回も転写され、そこで初めてmRNAとして機能する、といった自己複製をするウイルスもあります。
 これはまだ単純な方で、複雑すぎてとてもここで言葉を使って説明できないような一見回りくどい自己複製をするウイルスもあります。
 まあ単純に考えて、複雑な自己複製法を持つウイルスほど転写回数が多くなるので変異する機会が増える、ということになりますが、必ずしもそういうウイルスの方が変異率が高いわけではありません。
 つまり、この自己複製法による変異率の差、というのはひとつの要素にしか過ぎない、ということです。

 次に、同じRNAあるいはDNAでも、「変異しやすい配列」とそうでもない配列、というのがあります。例えばGC含量が高い配列は変異しやすいとか、ATATATのような単純反復配列は欠失などの変異が入りやすいとか、いろいろ一般的に言われていることはあります。
 あるウイルスのゲノムも、全体が同じように変異するのではなく、あまり変異しない部位(保存性が高い、という言い方をします)と激しく変異する部位があったりします。

 また、変異は「転写」される時に生じるもので、ある1個のウイルスの遺伝子がそのまの状態で変異するというものではありません。
 つまり、仮に「変異率」が同じであっても、激しく増殖するウイルスほど単位時間当たりに変異する確率は高い、ということになります。
 狂犬病ウイルスや日本脳炎ウイルスは、体内でそれほど激しく増えるウイルスではないので、これらの変異率の小ささはこのことも関係があるのでしょう。麻疹のウイルスもエアロゾル感染するウイルスですので、少量のウイルス量で効率よく感染していくことができる→それほど増殖しなくても生存可能、ということで、それほどけたたましくは増えないウイルスです。

 だんだん話がミクロからマクロへ移りますが、次に考えられるのが「選択」です。
 ウイルスというのは細胞に感染しなければ自己増殖できない微生物です。
 「細胞に感染」というのは、細胞表面から内部に侵入することですが(侵入というより取り込まれると言った方が適切な表現かも)、その際は細胞のどこからでも内部に入れるわけではなく、ウイルスの抗原部位(例えばインフルエンザウイルスならHA蛋白)が細胞のレセプターに結合することによって感染が成立します。
 この抗原とレセプターは「鍵と鍵穴」の関係ですから、多くのウイルスが特定の動物種にしか感染できないのはこのことによるわけです。(ネコエイズウイルスは人には感染できない等)
 この抗原-レセプターの関係によっては、ある程度ウイルスの抗原部位が変異しても感染可能なものもあれば、少しでも変異すると感染が成立しないものもあります。
 後者は仮に変異率が同じだとしても、変異してしまったウイルスは感染できない→生き残れないわけですから、結果として「ウイルスが変異していない」ように見えるわけです。

 もうひとつ。
 ワクチンの効果、と言うことで考えると、例えば日本脳炎ウイルスは蚊によって媒介されるので感染から発病までのステージではウイルス血症期が必要です。つまり、ワクチンによって血中抗体価を上げてやれば極めて効果的に「感染防御」ができるわけです。
 なので多少ウイルスが変異していても交差反応によって感染防御が可能、ということになります。
 例えば日本脳炎ウイルスやセントルイス脳炎、ウエストナイル脳炎などのウイルスは違う名前が付いていますが、実は「同じウイルスの異なる血清型」と捉えることもできるくらいよく似たウイルスです。
 で、例えば日脳のワクチンを接種していればセントルイス脳炎やウエストナイル脳炎もある程度感染防御が可能である可能性があります(まだ検証データは出ていないと思いますが・・・)

 それに対し、例えばインフルエンザウイルスは、気道粘膜に感染してそこで増殖し、そこから次の個体へ感染していきますから、感染から発病の過程でウイルス血症期を必要としません。インフルエンザ脳症を起こすためにはウイルス血症期が必要ですが、通常の感染環の中では血中に出て行く必要がないわけです。
 なのでワクチンは効きにくいです。ワクチンでは血中のIgGしか誘導できませんから、気道粘膜に感染して暴れるウイルスを抑えるための粘膜免疫に必要なIgAはあまり効率的に誘導されません。
 インフルエンザワクチンが重症化は防御するけど基本的に感染防御はできない、というのはこういった理由からなのですが、そのただでさえあまり効かないワクチンなのに、ウイルスが変異してしまっていたらなおさら効かない、ということもあると思います。

 まあこういったことが複雑に絡み合って、"見かけ"も含むウイルスの変異率の違いといったものが出てくるのでしょう。
 まあ、ここまでの基礎分野はそれほど詳しくなく、ごく一般常識的なこと(あくまでウイルス屋としては、ですが)しか書けないのですが、参考になれば幸いです。
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この回答へのお礼

貴重な専門的ご意見ありがとうございました。たいへん参考になりました。たしかにインフルエンザの場合、その増殖力は激しく、感染力も高いウィルスで、変異の入る機会が多いというのは納得できます。インフルエンザは宿主細胞上の糖鎖末端のシアル酸を認識して結合するのですが、このシアル酸レセプターというのは特異性が少しゆるいと仮定すると、インフルエンザの抗原性が次々変異しても感染が進むというのも納得がいきます。実際、インフルエンザのHA1の部分は、in vitroの系で1アミノ酸置換による変異は約40%の部分で許容するという論文がでています(名古屋市大)。この全ての許容されるとする変異がシアル酸の特異性の範囲に入ることはありえないのでしょうが(実際の自然界の変異ですべては見つかっていないため)、ある程度が特異性の範囲に入ると考えると、ちょっと絶望というか、インフルエンザが最強のウィルスといわれていることにも納得がいきます。本当はもっと色々お話を聞きたいのですが、お忙しいことと思いますので、またつまづいてしまったら新しいスレで質問させていただきたいと思います。どうもありがとうがざいました。

お礼日時:2007/07/07 16:52

致死率、感染力、感染経路の違いは関係ないでしょうか?


つまり流行の度合が違えば、当然変異の度合も違うと、、、
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この回答へのお礼

ご返答ありがとうございました。たしかに感染の経路、規模などは関係が深そうです。もう少し他のウィルスについても調べてみます。

お礼日時:2007/07/07 15:57

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