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 むかし、左兵衛の督なりける在原の行平といふありけり。その人の家によき酒ありと聞きて、上にありける左中弁藤原良近といふをなむ、まらうどざねにて、その日はあるじまうけしたりける。なさけある人にて、かめに花をさせり。その花のなかに、あやしき藤の花ありけり。そのしなひ、三尺六寸ばかりなむありける。それを題にてよむ。よみはてがたに、あるじのはらからなる、あるじしたまふと聞きて、来たりければ、とらへてよませける。もとより歌のことはしらざりければ、すまひけれど、しひてよませければかくなむ
咲く花の下に隠るる人多みありしにまさる藤のかげかも
「などかくしもよむ」といひければ「太政大臣の栄華のさかりにみまそがりて藤氏のことに栄ゆるを思ひてよめる」となむいひける。(1)みな人、そしらずなりにける。
とあるのですが(1)みな人、そしらずなりにける。
はわたしは、皆が争わなくなったと思ったのですが、どうして和歌を読んだらこうなったのかいまいち理解しきれていません。
アドバイスお願いします。・゜・(ノД`)ヽ(゜Д゜ )ヨチヨチ

A 回答 (2件)

「そしる」は、非難する、という意味です。


和歌を詠んだら「そしらず」なった、のではなくて、和歌を詠んだことでそしられたが、和歌の説明をしたら、そしられなくなったのです。
業平がこの歌を詠んだ意図を説明したら、皆がそしるのをやめた、ということは、「などかくしもよむ」には、業平への非難の意味が込められていたということになります。

在民部卿在原行平の「はらから」である、在五中将在原業平は、六歌仙の一人に数えられるほどの和歌の名手ですから、「もとより歌のことはしらざりければ、すまひけれど」というのは、和歌の上手ともてはやされてさも得意げに歌を詠んでみせる、という無粋な態度を控えた、業平流の洒落っ気、男伊達です。
この人は、ちょっとヒネ者でして、常識をひょいっとはぐらかして戯れているようなところがあります。
そんな業平に、周囲の人が、「またまたそんなご謙遜を~。そう言わず、一つ、名歌をご披露なさいませよ」と無理に勧めて歌を詠ませましたが、これが、人々の腑に落ちなかったのです。
藤の花などという風情のある題で詠んだにしては、あまりにも散文的で、説明的で、情趣に欠ける歌だからです。
紀貫之に、「情(こころ)あまりて言葉足らず」と評されたほどの歌人ですから、情感に満ちた歌を詠むのはお手の物のはず。
その業平が、こんな無粋な殺伐とした歌を詠んだので、「どうしてこのように詠むのか(あなたらしくもなく、お情けない)」と、そしったのです。
人々は、この歌を、そこにいる、この宴会の主賓の藤原良近に対するお追従だと思ったのです。

「ありしにまさる」は、以前にも増して、という意味ですが、「藤(原)氏」が「在(原)氏」にまさっている、という意味にも取れます。
自分の家を卑下してまで藤原氏を褒め称えるなんて、確かに卑屈ですよね。
在原氏は、阿保親王と伊登内親王の結婚から成った宮家の男子を臣籍降下した際に賜わった姓ですから、行平も業平も、世が世なら、行平王、業平王、と呼ばれたはずの、れっきとした皇族、やんごとなきお家柄です。
まあ、父親の阿保親王がちょっと間抜けで、政治的に失脚したので、息子たちを、皇位継承争いとか、ややこしい政争に巻き込みたくないと配慮しての臣籍降下だったわけですが。
ちなみに、このとき、在原氏の頭領行平は「左兵衛督」で位は従五位上、主賓の藤原良近は「左中弁」で位は正五位上、良近のほうが高位です。
本来、皇族である在原氏が、藤原氏なんかの後塵を拝するはずではなかったのだから、この歌の「ありしにまさる」は、相当剣呑なものを含んだ句です(こんな危なっかしいことを、わざわざ言わなきゃいいのに、あえて言う、ということは、要するに、その剣呑なものをこそ含ませたい、という意図があるということです)。

在原業平ともあろう男が、藤の花という歌題を前にして、藤原氏賛美などという、らしくもないおべんちゃらを言う。
これが、人々の腑に落ちず、「なぜこんなふうに詠むのか」と皆が非難したとき、業平の説明は、「太政大臣藤原良房様が栄華の絶頂にいらっしゃって、藤原氏がこの上なく栄えていることを思って詠んだのです」というものだった。
この場にいる良近ごとき小物に対するこびへつらいだと思って、あなたとしたことがこんな歌を、と非難した人々も、太政大臣の名を持ち出されては、黙らざるを得なかったということです。

もっとも、ここで業平が藤原氏の栄華を絶賛したのは、本心からこの藤原氏の高級官職独占の世を褒め称えたのではありません。
このような場で、あからさまにお追従を言う、その行為そのものが、いわば、藤原氏一色の政界を風刺したことになるのです。
周囲の人々も、無論、兄の行平も、この白々しいおべんちゃらが、白々しさゆえにこそ、逆に皮肉だということを分かっている。
だいたい、そういう男だしね、業平って、性格的に。
だから、もう、ばかばかしくなって、誰もこの歌のことをこれ以上取り沙汰しなかったのです。
その場にいた良近左中弁は、さぞかし居住まいが悪かったでしょうね。
かなり「イタイ」人として、その場に座っていなければならなかったはずです。

それにしても、業平。
どうして、兄が良近を招いて酒宴を張っていると知っていて、わざわざ顔を出したのでしょうね。
下らん社交界にひょこっと顔を出して、「ケッ」と唾を吐きに来たのでしょうか。
つくづく、難しい男ですよ、業平という奴は。
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この回答へのお礼

うわ~あたしは全然違うこといってました。・゜・(ノД`)ヽ(゜Д゜ )ヨチヨチ
分かり易い解説ありがとうございます!!本当感謝です
どうしてそんなにわかるのか、すごすぎますね 。・゜・(ノ∀`)・゜・。☆
おこがましいのですが、新しく質問スレたてたのですが、どうしてもあなた様におしえてもらいたくて、万葉集の歌の読解が全然できません ・・・(;´Д`)ウウッ…
万葉集の読解をするには何をやればいいのかおしえてください
例(枕詞や序詞を覚える)とか(古代文法を覚えるとか)
文章ではなく歌だと全然読み取れなくて困っています
また、そのような本があったら教えてくださいお願いします(泣)

お礼日時:2008/01/15 08:01

「そしらず」とは現代でも使う「人を批判する」という意味なのではないのでしょうか。

歌を知らない筈の人が良い歌を詠んだので。
http://www.konan-wu.ac.jp/~kikuchi/bunken/90/kak …
に「侍の花車なると云は、行儀よく正じきにして、人をにくみそしらずへつらはす、身に相応の奉公を大事とつとめ、」という文章があります。時代が少し違うかも分かりませんが。
辞典
http://www.asahi-net.or.jp/~mq9k-ymst/KYkobun/zi …
には「(動ラ四)(誹る・謗る・譏る)人のことを悪く言う。けなす。」とあります。
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