人身御供についてお尋ねします。
神に生きたまま人を供える、という内容の話は昔話にもありますし、そういう伝承のある神社もありますね。(妻の実家の近くの神社にそういう言い伝えがあるそうです。)
こういう伝承はどう理解すればいいのでしょうか。
そもそも何で神が人を食べる必要があるのか?
何でそういう狂暴な存在が神としてまつられるのでしょうか?
神が人を食べたというのは史実ではなくて創作された伝承だと思いますが、何でわざわざそんな伝承が生まれる理由があるのでしょうか?
考えると謎が深まります。詳しい方、よろしく御願いします。
(ジャンルは伝統の方がよかったかもしれません)
No.5ベストアンサー
- 回答日時:
まさに「創作」された伝承であることは疑いを入れないところでしょう。
「なんで神が人を食べる必要があるのか」という質問は、「どうして人々がそのような伝承を創造したのか」ということと同義だということになります。答えを単純化することは難しいと思いますが、いくつかの考え方があります。
ひとつは、殺生の罪業をやわらげるものとして語られるということ。
わが国では意外と古くから動物の供犠が行われていたことが最近知られるようになってきましたが、最も価値あるものとして神に供えられていた動物のイケニエも、殺生を罪業とする仏教的な不殺生観の高まりに影響されないわけはありません。不浄やケガレという概念の発達するなかで段々と四足獣から鳥類など二足獣へ、さらに魚類へと供物も変遷していったのが大勢でしょう。
このような中で「かつては人を供えていた」という語りは、現在の供儀に伴う罪業を相対的に小さなものとして受け入れるための論理として要請されたもの、という風に見ることができると思います。始源に根源的な罪を仮定することを通じて現在の有り方を肯定する、ということです。
また別の見方もできます。
自然に対する文化という概念により、文化の側に属するものとしての自分たちの出自を語る神話である、という考え方です。
ご指摘のとおり、かつては人身御供が行われた、という伝承を持つ神社は少なからず存在しますが、大体は初出とされる「今昔物語」にあるパターンと酷似しています。ある里ではかつて毎年娘を神のイケニエにしていたが、訪れた旅の僧などがこの神を退治し、後に僧はこの里にとどまって娘と結婚し子どもができる、という語りです。
ここで人を獲って食う「神」はいわば混沌であり制御できない「自然」の擬人化とも言えます。この「祟り神」が外部からやってくる異能のものによって滅ぼされ、里には彼のもたらす(自然に対立するものとしての)「文化」が根づき、その「文化」を享受するかたちで子孫が増えていく、というわけです。文化をもたらした当の人間は、祖神、いわば里の「守り神」というポジションを獲得することになります。
つまりこの場合に人身御供の物語は、「自然と文化」という二項対立の形を借りて「文化」に属する自分たちの出自を語るという、一種の国造り神話として機能している、ということです。
またさらに別の見方もあります。
「今昔物語」の中でも、こういう人身御供のはなしの舞台は山中の隠れ里のような場所で、しかも「どこかにある異界の奇習」の如くに語られています。いわば既にその時点でフィクショナルであることがはっきりしているようなものです。
「東北学」で知られる赤坂憲雄氏はこのフィクション性に注目して、人身御供というのは共同体の秩序を作る働きを担っているという意味のことを主張しています。
大体、祭りや儀礼には暴力がつきもので、けんか祭りのように一定の枠と様式の中で暴力性を露わにすることが儀礼の役割のひとつでもあります。赤坂によると、人身御供の語りというのは、人を犠牲にするという根源的な暴力性を今に再現しつつ、かつその暴力性を隠蔽するメカニズムである、という風に分析されています。
わかりにくいところですが、人身御供となる人間に共同体の中の暴力性を一身に担わせ、暴力性を外へ排除することを通じて内部の共同体秩序が更新されるということです。そのシステムは「かつて存在したもの」として儀礼の中で常に再現され、それを通じて共同体の成員はその価値観を無意識に再確認するのですが、同時に「それは今は行われていない」とされることによってその暴力性との断絶もまた意識させられるシステムになっている、というような意味でしょう。
この他にも、巫女のトランス(神がかり)状態を“神に食べられている姿”になぞらえて理解したアナロジーから人身御供のはなしが生まれたという説もあります。また、神の祭祀の主体が巫女制から頭屋制に移行するなかで、かつては女性が儀礼の中心にいたことを物語るはなしとして生み出された、とする説もあります。
いずれにしても人身御供譚はフィクションに違いないと思えますが、そのはなしが語られることによって、人々の現在のあり方が肯定されたり再確認されたりするという、無意識下のシステムを持っています。それだからこそ今に伝わっているのでしょう。
こういった神に供えられる「人身御供」のはなしに対して、他のご回答に出ている「人柱」などの犠牲は史実として捉えるべきでしょう。私はこれらはむしろ犠牲によって工事の無事を祈るなど呪術性の方にウェイトがあると思っています。また、その犠牲となった人々の多くは人身御供の娘のような里人でなくて、極めて周縁的な人たちであったことも大きな違いです。
※ 長くなりましたが、質問者氏が必要と思われる適当な所だけ取捨してください(最近は他人の回答が理解できないからといって揶揄中傷を行う程度の低い回答者も散見しますが、本当に呆れたものです)
どうもありがとうございました。丁寧に答えて頂いて助かります。
私は創造された話だろうと思ってましたので、仏教の関係と、自分たちの出自が語られた神話、というのはとても納得できる説明だしよくわかりました。そういえば本当に神話みたいなもんなんですね。
共同体の秩序のところは少し難解ですがまた勉強させてもらいます。暴力性をうまくコントロールして団結を固めているようなこと、という風に理解しましたが。
人柱の件はよくわかりました。
No.3
- 回答日時:
論じるほど知識はありませんが、そんなに昔のことでもないようですし、
凶暴な神ばかりの仕業でもないかも知れません。
「人身御供」はどのように論じうるか?
2001年 日本民族学会 第35回研究大会 発表要旨
http://muguyumi.hp.infoseek.co.jp/ethnolo2001.html
参考URL:http://muguyumi.hp.infoseek.co.jp/ethnolo2001.html
No.2
- 回答日時:
神といってもキリスト教のような神ではないでしょう。
どちらかといえばバケモノや妖怪のイメージであり、これらの悪戯により飢饉や流行病など人々に災いを招いていると考えた昔の人々が、命を捧げますのでお静まり下さいとお願いしたのが人身御供だと思います。神社に祀られてるからといって、必ずしも性格のイイ奴とも限りません。人間の力などとても及ばない能力を持っているので、とりあえず機嫌を損ねないよう崇めたり、他の地方から別の悪い神がやって来てもナワバリとして結果的に村を守ってくれるだろうという想いもあったと思います。
このような人々に災いをもたらす妖怪などの伝説は外国にもあるのではないでしょうか。私が聞いた話ですが、 昔、中国では地下には魑魅魍魎(チミモウリョウ)がいて、「みち」を歩く人を地面に引きずり食べてしまうそうです。そこで罪人の首を切り、その首を埋めたところを歩けば難を逃れることができたことから、「みち」という字は「シンニュウ」に「首」を合わせて「道」という字になったそうです。
回答頂いてどうもありがとうございました。
昔は実際に人身御供が行われていた、ということでしょうか。本当ならそれ相当の記録が残っていないとおかしいと感じたのです。つまり今年はどこの誰の娘が犠牲になった、次はどこの家の番だ、といったような記録をあまり目にしないのは、やはり造られた伝説だからだと思えるんですが。。
No.1
- 回答日時:
神を中心に考えるのではなく、人間をもとに考えてみたらどうでしょう。
お願いごとをするのに自分が一番大切なものを供えるとすれば、それは命をおいて他にない。
そして、もし、命を捧げることが憚られるのなら、その代理行為として断食がある。
そういうことだとおもいます。
勿論、悪い神がいることを創造するなら、人を食べる神が一番悪い。そういうことなのかもしれません。
超越神や八百万の神など、いろいろな神の定義についても考えてみる必要がありそうですね。
回答どうもありがとうございました。
確かに命以上に大切なものはないのかも知れませんね。ただあまりにも伝説ぽくて、昔は実際にやっていたという証拠はないんですよね。。。
断食というのはお祭りとか神に接する前には割とやっていますし、身を清めることの一種のように感じますが。
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