No.2ベストアンサー
- 回答日時:
外交的には「主権の侵害」です。
パキスタン政府、軍、議会も「主権の侵害」としてアメリカに反発しています。
アメリカとパキスタンの間で言えば関係は冷えました。
そしてパキスタンは中国に接近し、それに慌てたアメリカ政府は何とか関係を修復しようとしています。
パキスタン内部で言えば、パキスタン軍内部でも大きな影響力を持つ情報機関ISIは、アメリカとの関係において距離を広げています。
もともとパキスタンの政情は安定していません。
長年、軍の独裁政権が権力を握っていた事もあり、軍の発言権が強く、現在の選挙で選ばれた文民政権とは必ずしも良い関係にあるとは言えません。
パキスタン政府は軍の影響力を弱めようと常に苦慮しています。2008年には情報機関ISIを内務省の管轄化に置き影響力を弱めようとしましたが、軍の反対により失敗しています。
また、情報機関ISIはビンラディン殺害前からアメリカとは距離を広げていました。
1996年に隣国アフガニスタンで内戦を制して政権を握ったタリバンは、情報機関ISIの支援により勝利をおさめ権力を握れました。アフガニスタンの内戦から生じる難民や混乱をパキスタンにそれ以上波及させないため情報機関ISIが多大な支援をタリバンに行ったのです。
しかし、アメリカの攻撃によりタリバン政権は崩壊し、情報機関ISIの成果は水泡に帰しました。タリバン政権を情報機関ISIはパキスタンの脅威とはみなしていなかった事から、ここに距離が生じます。
さらに、アメリカのオバマ政権によるパキスタン政府への援助には軍・情報機関にとって不愉快な条件が付けられていました。2009年に結ばれたケリー・ルーガー・バーマン法は、パキスタン政府にテロ対策の取り組み、核不拡散、軍が政治に介入しない事を条件とした経済援助条約だったのです。
パキスタン軍部は「国家安全保障に及ぼす影響を懸念する」と声明を出し、パキスタン政府との対決姿勢は避けつつも、国民や野党を味方につけ政府を牽制しようとしました。
ちなみに野党はこの法案を「国家安全保障機構と核開発計画をアメリカが乗っ取る試みだ」と糾弾しています。
パキスタン政府はそうした中で軍の政治への介入を抑制しつつテロとの戦いを進めようとしていました。
そうした時にアメリカのビンラディン殺害が生じます。
アメリカの無断での侵入攻撃に対しパキスタン政府も議会も軍も主権の侵害と批判します。
ただし、パキスタン政府はこの事件を軍の力を弱める事に利用しようともしました。
議会で公聴会を開き、なぜアメリカ軍の侵入を察知できなかったのか、なぜビンラディンが首都近郊に潜伏していた事を掴めなかったのか、軍と情報機関ISIを問い詰め批判したのです。
また、5月31日にはビンラディンの潜伏の真相を調べる独立した調査委員会を設置し最高裁判事5人を指名しています。
ただし、指名を受けた5人のうち3人が辞退しました。実は情報機関ISIと武装勢力の繋がりを調べていたパキスタンの著名なジャーナリストが拷問を受けて殺された姿で発見されたのです。そのジャーナリストは去年から情報機関ISIに監視されていたと言われ、この殺害も情報機関ISIが行ったのではないかと囁かれました。辞退した3人も下手に真相に近づいて命を危険にさらしたくはなかったのでしょう。表向きは違う理由ですが辞退しました。
そうした中、軍や情報機関ISIは自分達を批判する政治家こそが、国家の利益を損なうと反論します。また情報機関ISIのパジャ長官は議会に対して、対米関係の再考を求めました。
議会もこれに同調し政府に対米関係の見直しを求めます。
一方のアメリカではパキスタンがビンラディンを匿っていたのではないかという疑惑が持たれ、アメリカ議会ではパキスタンへの援助を止めるべきだという声が大きくなってきます。
アメリカ政府としてはビンラディンは殺害したものの、まだアフガニスタンを安定に導くにはパキスタンが必要です。
パキスタン国内での反米の動きを抑え、関係を修復しようと、ケリー上院議員が5月16日にパキスンタンを訪問し大統領や首相と会談を行いました。
しかし、パキスタン政府はアメリカよりも中国を選ぶ姿勢を見せます。
5月18日にパキスタンのギラニ首相は中国を訪問し温家宝首相と会談しました。
温家宝首相は「主権と領土は尊重されるべき。国際社会は国内の安全を守ろうとするパキスタンの努力を理解しなければならない」と暗にアメリカを批判しパキスタンを擁護する発言をします。
この時の訪問でパキスタンは中国から新型のサンダー戦闘機50機を購入する事で合意した他、ペルシャ湾に近いグワダル港に海軍基地を中国が建設する事にも合意し、しかもその基地は中国海軍が使用する事を想定したものでした。
もともとパキスタンはアメリカから戦闘機を購入する予定がありましたが、アメリカ側のせいで延期されていた経緯があります。
以前よりパキスタンはインドを同じ敵とする中国と接近し、戦闘機、戦車など武器を大量に輸入していましたが、さらに増やそうとしました。
この動きに慌てたのがアメリカです。急遽5月27日にクリントン国務長官とアメリカ軍のマレン統合参謀本部議長がパキスタンを電撃訪問しパキスタンの大統領や首相、陸軍参謀長や情報機関のパジャ長官と会談し、関係修復、関係維持の話し合いをしました。
6月にもCIA長官がパキスタンを訪問していますが、これはどうも対米不信感を持つパキスタン情報機関から情報漏れが起こって、作戦に支障があるため、なんとか関係を修復しようとしての訪問のようです。
パキスタンでは現在、ワジリスタンにおけるパキスタン・タリバーン運動組織がビンラディン殺害の報復を叫んでテロ攻撃を激化させています。この組織はパキスタン政府打倒、イスラム国家樹立も叫んでいるため、パキスタンはこの組織を壊滅させるためにアメリカと手を結んでいますが、必ずしも絶対的にアメリカが必要とは感じていない部分があるようです。それが特に顕著なのが情報機関ISIです。
また、パキスタンの経済は慢性的な財政赤字と貿易赤字のため外国、特にアメリカからの財政援助が必要でしたが、昨今はその援助も滞りがちであり、アメリカに変わる国が援助するのなら、アメリカとの関係に距離を置いても構わないような姿勢が見受けられます。その相手候補は中国でしょう。
なお、もともとパキスタンは貿易において一国に依存する体制にはありません。外交関係が悪化しても貿易で致命傷にならないようにするためです。武器の輸入もそうしています。そうした関係で貿易から言えばアメリカはパキスタンにとって輸出先第一位ではありますが、輸出額から言えば全体の20%程度であり、最悪の場合、貿易量が減少したり打ち切られたとしても、完全に干上がる事はありません。
また今月、アフガニスタンと通商貿易協定を結び4年後ぐらいまでには両国間の貿易額を倍以上にしようともしています。
とりあえず、現在のパキスタンは、ある程度アメリカとは距離を置きつつ中国との関係を見せつけ牽制し、経済援助をアメリカから得ようというという目論見だと思います。反政府組織との戦いもアメリカがアフガニスタンから撤退するまでの間、利用できる間は利用しようという風に見受けられます。
そうした中で政府は軍の力を削ごうとし、軍は権力を拡大させたがっていると・・・
アメリカは、パキスタンに対して短期的にはアフガニスタン撤退までに、できるだけパキスタンの支援を得て、テロ組織を叩くようにして、長期的にはイスラム原理主義がパキスタンを手に入れないよう、また核がパキスタンから拡散しないように、さらに中国が伸張してこないような、外交政策をパキスタンにとっていくだろうと思います。
No.1
- 回答日時:
パキスタンという国は非常にやっかいな国です。
インドと対立して、ずっと険悪な関係にあり対抗上核兵器を保有しています。
それだけならいいのですが、その核兵器をカーン博士を通じて北朝鮮に拡散させています。
また、軍部がタリバンを援助していたこともあり、アルカイダとも一部は通じていると思われています。
その連中は国境をまたいでインドやアフガニスタンでテロを行なっています。
そんな国はぶっ潰してしまいたいところですが、そんなことをしたら核兵器がテロリストに渡ってしまいます。
アメリカとしてはパキスタン政府に公式に作戦を事前通知したら、アルカイダに知らせるようなものです。
パキスタンは主権侵害であると反発して見せましたが、自国の軍隊がビンラディンをかくまっていた負い目もあります。
それに一応反発しておかないと自国民から非難されることにもなりかねません。
だから、ほとぼりが冷めるとアメリカに協力して拘束しているビンラディンの家族への聴取に応じたり、ステルスヘリコプターの残骸を返還しています。
パキスタンは、軍事的には中国・ロシアに近いのですが、インドとの紛争でアメリカがインド側につくのを恐れています。
アメリカは、大国インドと経済的にも軍事的にも近づきたいと考えています。
いずれインドの人口は中国を追い越し、中国以上の民主的な経済大国になるとともに、軍事的にも中国の背後を押さえる意味があります。
したがって、パキスタンはアフガニスタンを影でタリバンを使って不安定にしておき、表向きアメリカに協力して援助をもらうということをやっています。
アメリカとしては、とても信頼できるような国ではありませんが、アフガニスタンがもう一つできて、テロリストに核兵器が渡るよりはマシなので付き合うしかありません。
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