マクスウエルの4番目の式、rot H = j + ∂B/∂tの第2項のイメージについて質問です。
例えば平行平板コンデンサの電極に向かって電線から充電電流が流れて行く場合、電線の周囲に発生する磁場を決めるのが第1項でコンデンサの電極付近の磁場を決めるのが第2項になるのではないかと思うのですが、これは正しいでしょうか?
正しい場合、第2項は電極付近の磁場がどうなると言っているのでしょうか?第2項が無いとどのような不都合が起きるのか、この例で説明できるのでしょうか?
正しくない場合、第1項、第2項のイメージを実感できる実例には、どのようなものがあるのでしょうか?
No.3ベストアンサー
- 回答日時:
>2)「∂D/∂tを無視したとき、コンデンサー回路などに対して、オームの法則が成り立つ」というのは、∂D/∂tはオームの法則で言うところの電流ではない、という意味だと捉えてよろしいでしょうか?
そうです。∂D/∂tは真電流ではなく、従って荷電粒子の流れではありません。電場の時間変動に比例する量(比例定数は誘電率)です。しかしそれが磁場に対して、真電流と同じ効果を持つからには、∂D/∂tはたんなる数学的量ではなく、何らかの物理的実在を表していると考えざる得ない、というのが今の立場だと思います。それが、電磁場という物理的実在の電の側面を表している、という言い方です。
お礼の1)(お礼を頂き、ありがとうございます)に関連するので、オームの法則について少し言わせて下さい。
オームの法則はもちろん、オーム先生がR回路で導いたものです。R回路の電流は、起電力に比例し抵抗に逆比例する。抵抗は電線(導線)の長さに比例し、断面積に逆比例する、です。つまりオーム先生は最初から真電流の事しか相手にしていません。これは非常に良い近似である事が後にわかります(本当は電束電流∂D/∂tもあるから)。
ところで、電池の+極から出発して-極にR回路を一周して戻った時、電圧は0になる必要がある事を、オームの法則の前半から導けます。そして導電材料が一様であれば、回路抵抗は導線の長さに比例するので、回路に沿った起電力の電圧降下は、回路長に比例する事を、後半から導けます。
一方オームの法則と前後して、電圧とは、回路に沿った電場の積分値である事が知られます(積分パラメータは回路長)。従って電圧降下の傾きそのものが、電場だという事になります。電場の向きは、電圧降下を起こす方向、回路に沿った方向になり、導線内で電場は一定です。導線のような1次元材料でなく、3次元的に拡がった任意の導体内部の1点でも、局所的にこの状況が成り立つと仮定すると、導体材料内の任意の方向に対して、
ρ j =E (1)
が成り立ちます。ここでρは、3次元的に拡がった導体内部の一点で、「電流密度 j 」用に、回路抵抗値Rを、単位長さ単位断面積当たりに規格化した、電気抵抗率と言われる材料定数です。(Eは、その点での電場です)。ρとRには、オームの法則から、
ρ=R・s/L
の関係があります。sは導線の断面積,Lは回路(一様抵抗)長です。ρの逆数σを電気伝導率と言い、(1)のρを移項して、
j =σE (2)
と書けるので、(2)より、3次元的な導体の各点の電流密度(真電流密度)は、その点に作用する電場に比例する、という結果になります。(2)が一般化されたオームの法則です。
>1)「実用回路では、 j に比べて∂D/∂tは非常に小さい」のは、細い電線とぶっとい電極とは太さが違うからと考えて良いのでしょうか?積分した∫jdsと、∫(∂D/∂t)dsは同じ値になるのではないかと思います。
そうですよね。 j は電流「密度」であり、Dは正確には電束密度で、∂D/∂tは電束電流密度です。すいません。少し嘘を書きました。まず「電線内(導線内)」での j と∂D/∂tの大きさを比較しますが、コンデンサーの充電回路だと外部起電力(電池)Vがあって面倒なので、初期電圧V0で充電されたコンデンサーの放電回路で考えます。
(2)から j は、電線内の電場Eに比例します。オリジナルのオームの法則から、E=V/Lです。ここでV<V0は、放電過程でのコンデンサーの電圧です。一方、電束電流密度は、
∂D/∂t=ε・dE/dt (3)
と書けます。εは、電線の誘電率です。真空の誘電率をε0とすれば、実用的に導体と考えられる銅などの比誘電率χは、10~100程度なので、ε=10・ε0~100・ε0程度です。よって(2),(3)より、「導線内では」、
|∂D/∂t|/| j |~ε/σ (4)
が得られます。「~」は概ね等しいの意味です。(4)の根拠は、最も粗い近似として、|E|~|dE/dt|だろうです。例えば|E|の最大値に対して、大きすぎる|dE/dt|があったとすれば、その効果で|E|は最大値を超えたしまうはずだ、という発想で、物理では最も粗い近似として良く使われます。つまり、|dE/dt|≦k・max|E|となり、kは馬鹿みたいに大きくならないはずだ、という話です。
そうすると(4)から、εとσの大きさ勝負です。MKSA単位系で言うと、ε0は10^(-12)程度なので、ε=10^(-11)~10^(-10)の範囲です。現実の金属でσは、10^8程度の大きさを持ちます。従って、
|∂D/∂t|/| j |~10^(-18) (5)
という事になり、|dE/dt|≦k・max|E|のkが多少大きかったところで焼け石に水であり、| j |に比較して、|∂D/∂t|は無視できるであろう、という話になります。(5)の比は、現実の物理的効果(結果は無次元)を表すので、MKSA単位系だけに限った話ではありません。どんな単位j系を採用しても、こうなります。ただしこれは、「電線内(導線内)に限った」話です。電線内に限れば、∂D/∂tは無視できます。
次に極板間の電束電流です。コンデンサーの放電回路において、ある瞬間のコンデンサーの電圧Vに対し、導線内には、I=V/Rの真電流が流れます。それに対応して、コンデンサーの極板上には平均して、 j =I/Sの真電流の「電流密度」が存在します。Sは極板の面積です。この電荷移動の流れが、電線に集約されて放電が起き、電線の真電流 I を作ります。
ここに「電束電流を含めた電荷保存則」を、極板体積に対する電荷量の流出入収支に適用すると、極板間には、 j =I/Sの電束電流密度がなければならない事になります。極板面積Sをかければ、電束電流 I =I/S×Sなので、極板間の電束電流は無視できない事になります。これが前回の「嘘」です。
しかし実用回路において、コンデンサーの極板面積Sは、回路全体からみれば無視しうるものです。コンデンサーという「部品」は、回路全体からみれば小さいものだと思えませんか?。そうすると結局、回路全体としてはいたるところで電流 I が流れていた、という事になり、真電流,電束電流の違いを気にする必要はなくなります。電束電流の効果が、磁場に対して真電流と同じだからです。しかもコンデンサーの極板距離は、回路長に対してすごく短いのが普通です。
以上が、実用回路理論の前提と思えます。
No.2
- 回答日時:
荷電粒子(電子など)の事を、真電荷と呼ぶ時があります。
j は真電荷の流れがつくる電流で、電線の中を普通に流れる電流です。これを伝導電流と呼ぶ事もありますが、ここでは真電荷にならって、真電流と呼んでおきます。一方∂D/∂tは、電束D(ふつうは電場Eに比例)の時間変動で、真電荷の流れなどでは全然ないですが、特に磁場への影響が真電流と同じなので、電束電流とか変位電流とか言われます。
>第2項は電極付近の磁場がどうなると言っているのでしょうか?
#1さんの仰るように、イメージはあってます。そして電束電流は真電流と全く同じに磁場に影響するので、大きさ∂D/∂tの極板幅の太さを持つぶっとい電流が、電線内の真電流と同じように磁場を発生する事になります。
ただし実用回路では、 j に比べて∂D/∂tは非常に小さい事がわかっているので、ふつうは無視します。これは全ての実用回路計算の前提で、∂D/∂tを無視したとき、コンデンサー回路などに対して、オームの法則が成り立ちます。
それに対して、ファラデーの電磁誘導の法則に現れる磁束の時間変動∂B/∂tは、 j に対しても無視できません。よってファラデーの電磁誘導の効果で発電機などが可能になり、実用回路計算はもちろん、∂B/∂tの効果を取り込んでいます。
>第2項が無いとどのような不都合が起きるのか、この例で説明できるのでしょうか?
という訳で、不都合はこの例では説明できません。
rot H = j + ∂D/∂t (1)
は、アンペールの法則と言われますが、∂D/∂tがない、
rot H = j (2)
が本来のアンペールの法則です。∂D/∂tは、後年マックスウェルが加えたもので、(1)はアンペール-マックスウェルの法則と言われる時もあります。つまり通常の回路計算は、(2)に基づいていて、実用的には全然問題ない訳です。
マックスウェルが∂D/∂tを加えた目的は、真電荷が存在しないような真空も含めて、全空間で電荷保存則を成り立たせるためでした。真電荷の存在しない真空で電荷保存則とは無意味でないのか?、と思われるかも知れませんが、これには事情があります。
マックスウェルは当初、力線モデルというファラデーの物質観を受け継いでいました。力線モデルの物質観を認めると、真電流も電束電流も、同じ物理的実体が担う現象だと言う事が可能になります(物理的実体を、電子と思ってはいけません)。よってマックスウェルにとって、電場あるところ(真)電流ある事になり、電場しかない空っぽの真空においても、電荷保存則を考えるのは、ある意味当然の事でした。
またファラデーの電気力線や磁力線は当時から、「ファラデーの心眼」と言われてましたので、マックスウェルが上記のような事を言い出しても、同時代の人達は、そんなに違和感を持たなかったと思われます。アンペールの法則(2)に∂D/∂tを足して(1)にすると、電磁気学の他の法則とともに、電磁気学は電荷保存則を内蔵することになって、理論として完結します。
そして∂D/∂tがあると電磁場(電波)が発生する、逆に言うと∂D/∂tがないと、電波は発生しない事が、その後わかります。現在ではGPSなどで、電波の発生は常識ですから、∂D/∂t項の存在は、経験的に確証されたと言えます。∂D/∂tがないと電波は発生しない、これが不都合です。
もちろん今では力線モデルの物質観は妥当でなかったとわかっていますが、マックスウェルは19世紀末~20世紀初頭に生きた人なので、電磁気学を数学的に完成させた後、非常に悩みながら力線モデルの物質観を徐々に捨て去り、電場とは真空という空間の性質を表したものだと言わざる得ない、という地点に最後には達します。ここから通常の物質とは独立で、通常の物質と同等に存在するであろうと考えられる、電磁場という物理的実在の概念が芽生えていきます。
電磁場が「通常の物質と同等に存在するであろう」証拠は、いくつもあります。例えば、電磁場(電波)の質量(慣性)は、原理的に測定可能です。また電磁場の内部には、通常の弾性体内部とそっくりな内力が存在する事も知られています。いずれもファラデーが力線モデルで予想し、マックスウェルが理論的に計算してみせたものです。
現在では電磁場の概念はものにされたので、電荷保存則は「電束電流も含めて全空間で成り立つ」という立場になっています。∂D/∂tがない不都合も、ここまで来ると、けっこう重大と思えませんか?。
最後は、長くなってすいません・・・。
たいへん詳しい説明をありがとうございます。「大きさ∂D/∂tの極板幅の太さを持つぶっとい電流」は、とてもわかり易くて助かりました。でもいくつか疑問が残りました。
1)「実用回路では、 j に比べて∂D/∂tは非常に小さい」のは、細い電線とぶっとい電極とは太さが違うからと考えて良いのでしょうか?積分した∫jdsと、∫(∂D/∂t)dsは同じ値になるのではないかと思います。
2)「∂D/∂tを無視したとき、コンデンサー回路などに対して、オームの法則が成り立つ」というのは、∂D/∂tはオームの法則で言うところの電流ではない、という意味だと捉えてよろしいでしょうか?
後半部分にもまだ良くわからない点もありますが、こちらは自分でもう少し考えてみようと思います。
No.1
- 回答日時:
>例えば平行平板コンデンサの電極に向かって電線から充電電流が流れて行く場合、
>電線の周囲に発生する磁場を決めるのが第1項でコンデンサの電極付近の磁場を
>決めるのが第2項になるのではないかと思うのですが、これは正しいでしょうか?
だいたい正しいと思います。
rot H = j + ∂D/∂t
は磁場は電流と電束の時間変化(変位電流)から生じる ということで、
第1項は電荷の運動(電流)によって、第2項は電磁誘導で発生する磁場です。
電線の中では電場は小さいでしょうから、電流による磁場の発生が支配的に、
電極間には電流は流れないので電場の時間変化だけが磁場の発生源になります。
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