部首の名称において、通常の音読みあるいは訓読みが使われているもの
力 → ちから
瓦 → かわら
臼 → うす
鼓 → つづみ
十 → ジュウ
寸 → スン
臣 → シン
龍 → リュウ
や音読み・訓読み両方が使われているもの
比 → ヒ;ならびひ;くらべる
用 → ヨウ;もちいる
走 → そうにょう;はしる
辛 → シン;からい
門 → モン;もんがまえ、かどがまえ
があります。
本質問では、音読み・訓読みとも関係なく作られた部首の名称について聞きたいと思います。
一応、五つの名称タイプを紹介させてもらいます。
1)仮名と関係がある
冖 → わかんむり
宀 → うかんむり
殳 → るまた
禾 → のぎ
釆 → のごめ
2)形と関係がある
丨 → ぼう、たてぼう
亅 → はねぼう;かぎ
3)仮名とも形とも関係がある
丿 → の;はらいぼう
4)他の部首の名称が影響を与えた
冫 → にすい
頁 → おおがい
5)他の部首の名称が影響を与え、区別するためにも作られた
酉 → ひよみのとり
隹 → ふるとり
上記のものはいつ・どこで・誰によって考案されたでしょうか。また、どんな過程によって・どの時点でその名称が定着したでしょうか。詳しい方、是非、教えて下さい。
No.2ベストアンサー
- 回答日時:
『国語学大辞典』1980年9月の「部首」の項(山田俊雄氏執筆)には次のように書かれています。
「部首をなす字が、すべて、そのままの形で実用面に多く出現するわけではなく、その字音・字訓が広く知らているとはかぎらないので、部首の名称についても音よみ、訓よみ、形によるよみなどさまざまである。」
「『新撰字鏡』では連火・三水点・之遶、立心の語も見えていて、部首の呼び名が、いわゆる偏旁冠脚の呼び名の現在のものに、近い形に動いていたことが知られる。」
「古くは部立て・篇立ての意味で、部が作られ、篇が構成され、篇目すなわち部首であったから、篇とは部首全部について適合しうる語であった。また「片」の字も用いたのであって部は篇と同意で、したがって部首字が篇(また片、偏とも書かれた)とも呼ばれた。」
「日常的に多く見る漢字の偏旁冠脚の場合は通俗的なものを必要としたので、ほぼ一般に弘通した名があったが、部首字すべてに通俗の呼び名が行われたものとは認めがたい。部首名のまとまった資料は『運歩色葉集』、キリシタン版『落葉集』(小玉篇)、江戸時代に入っては、『節用集』末書などに付録されたものがある……」
注
『新撰字鏡』(しんせんじきょう)昌住撰、900年成立。漢字を160の部にわけ、漢字で発音と意義を示すが、和訓も少なくない。最古の漢和辞典といわれる。
『運歩色葉集』(うんぽいろはしゅう)16世紀半ばの成立。「色葉集」(語を頭音に従ってイロハ分けしただけの国語辞典)の一つ。
『落葉集』(らくようしゅう)日本イエズス会のコレジヨで、1598年成立。「落葉集」(漢語の最初の漢字の音でイロハ分けした漢語字典120頁)・「色葉字集」(和語を頭音でイロハ分けした国語字典44頁)・「小玉篇」(漢字を140の部首で分けた漢字字典34頁)の三部構成。
『節用集』末書の二つを参看しました。
『(増廣字便)倭節用集悉改袋(やまとせつようしうしつかいふくろ)』1776 「篇冠構尽(へんかふりかまへつくし)」 135部首
『大全早引節用集』天保年間 1840頃 「編冠構字尽(へんかむりかまへじつくし)」 98部首
近代の漢和辞典
榮田猛猪『(縮約)大字典』1920(大11) 「部首名称」 137部首
諸橋轍次『大漢和辞典』1955~60(昭30-35)では部首字(とその異体字)に読みを「国訓」として入れたものがあります。その数およそ110
「部首のよみ」を全部そろえるようになったのは、ごく近年になってからのことのようです。
1955 1920 1840 1776 1598
力 ちから ちから ちから ちから ── ちから
── ちからづくり ── ── ちからつくり
瓦 かわら ── ── ── かはら かはら
臼 うす ── ── ── うす
鼓 つづみ
十 ジュウ
寸 スン ── ── ── すんつくり すん
臣 シン
龍 リュウ
比 ヒ
ならびひ
くらべる
用 ヨウ
もちいる
走 そうにょう そうねう そうねう さうねう そうにう そうにう
はしる
辛 シン
からい
門 モン
もんがまえ ── もんがまへ
かどがまえ かどがまへ かどがまへ かどがまへ かどかまへ かどがまひ
冖 わかんむり わかんむり わかんむり へきかぶり ひらかふり ひらかむり
宀 うかんむり うかんむり うかんむり うかぶり うかふり うかむり
殳 るまた るまた るまた るまた つはものつくり るまた
── ほこづくり
禾 のぎ のぎ
── のぎへん のぎへん のぎへん のぎへん のぎへん
釆 のごめ のごめへん のごめへん
丨 ぼう
たてぼう ── ── てつちう
亅 はねぼう
かぎ
丿 の ── ── へつへん
はらいぼう
冫 にすい にすゐ にすゐ にすい にすい にすい
頁 おおがい おほがひ ── ── おほがひ
酉 ひよみのとり ひよみのとり ひよみのとり ひよみのとり ひよみ ひよみのとり
とりへん とりへん とりへん
隹 ふるとり ふるとり ふるとり ふるとり ふるとり ふるとり
この回答への補足
「全部そろえるようになった」で考えたが、ある新字体(例:営・単・巣・厳)を網羅するために与えられた名称「つかんむり」はどのようにして決められたのでしょうか。ご存知でしたら、是非、教えて下さい。
補足日時:2014/07/30 15:15貴重な時間を割き、一目瞭然表まで用意したりして詳しいご回答を下さり、誠にありがとうございます。
リストアップして下さった資料はこれから自分の目で確かめたいのです。オンラインで閲覧できないかと思ってちょっと調べてみました。
http://mahoroba.lib.nara-wu.ac.jp/y05/html/675/i …
では巻下を欠いている『新撰字鏡』の江戸後期写を見つけました。そして
http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/993493
では『大全早引節用集』もあります。
オンラインで閲覧できない書籍に関しては、直接大学図書館などへ足を運ぶしかないでしょう。(原物を見せてもらえるかは不明ですが。)
下記は kzsIV様が纏めて下さった情報をそのまま採用させてもらいます。
私にとって三つの点が特に面白い。
1)『説文解字』の部首扱いも『康熙字典』のもが日本の部首分類化に及ぼした影響が以外と限られた、ということ。
2)「瓦」「臼」「寸」が示すように、辞典によってある部首が現れたり消えたりしてきた、ということ。
3)「ふるとり」「ひよみのとり」「にすい」「のぎへん」「るまた」「うか(ん)むり」の名称は 400 年以上前から現在に至って使われてきた、ということ。一方、「のぎへん」と同様の発想で作られた「のごめ(へん)」が現れたのは比較的に最近でしたね。理由は、部首が「釆」の漢字「釈・釋と釉だけ」の少なさにあるでしょうか。そして、「宀 うか(ん)むり」の名称が「ん」のところを除けばずっと同じであるに対して、「冖」が様々な変遷を経て「わかんむり」と呼ぶようになりました。
正に kzsIV様が仰る通り:「部首のよみ」を全部そろえるようになったのは、ごく近年になってからのことのようです。
非常に参考になりました。再び、ありがとうございました。
No.1
- 回答日時:
一応突っ込んでおくと
禾
が「音読み・訓読みとも関係なく作られた部首の名称」かどうかは議論の余地があるんじゃないかな.
ご回答、ありがとうございます。
「音読み・訓読みとも関係なく作られた」とは、例の部首と直接関係がある字の話しです。
「のぎ」が片仮名「ノ」+ (「禾」と語源的な関係のない)「木」の訓読み「き」の組み合わせです。
「禾」には「き」という読みはありません。
尚、釆 → のごめ の場合も、「米」の訓読み「こめ」は「釆」が持つ読みと無縁です。
追加のご回答、楽しみに待っています。
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