「ある男たちは、月の満ち欠けにおうじて狼に姿を変えます。......ある夜、過度の恐怖の一撃で精神に変調をきたし、かれは狼に変身したのです。」
(ティルベリのゲルウァシウス『西洋中世奇譚集成 皇帝の閑暇』120章 池上俊一訳 講談社学術文庫kindle版 位置番号2448,2452)
*** *** *** *** ***
月に関連して人が狼に変身するといふ、最も古い文献は何ですか。上記は13世紀のはじめごろとされるものです。単に狼になるだけなら、以下のものなど数多くありますが、月と連動した話がみつかりません。
「ネウロイ人はみな年に一度だけ数日にわたって狼に身を変じ、それからまた元の姿に還るという。」
(ヘロドトス『歴史』第4巻105 松平千秋訳 岩波文庫 中63ページ)
「リュカオンだけは、驚いて逃げ出し、ひっそりとした田園までやって来たが、しゃべろうとしても人語は出ず、けもののように吼えるだけであった。......衣服はもじゃもじゃの毛に、腕は脚に、変わった。要するに、狼に変身したわけだ」
(オウィディウス『変身物語』第1巻237 中村善也訳 岩波文庫 上21,22ページ)
No.2
- 回答日時:
>月の影響によるものかどうかは微妙です。
たぶんそうおっしゃるだろうと思っていました。プリニウスの「博物誌」では、狼男の存在は疑問と書かれているようなので、月との関係など、詳しい記述はなさそうです。16世紀スウェーデンの宗教家、歴史家のオラウス・マグヌスは、「北方民族文化史」という著作の中でプリニウスに反対し、北方には満月の夜に狼に変身する人間たちがいることは確かであると書いているそうです。
彼らは、人家に侵入して、貯えられてある食料を食べる。本来の故郷リトアニアとクーアラント(現在のラトヴィア)の境に壁を建て、一年に一度そこに集まって、その壁を飛び越えることで力を証明した。太りすぎていてこの試験に受からなかったものは、ほかのものから嘲りを受ける。貴族や上流階級の者たちもこれに属していた。数日後に、再び普通の人間の姿に戻った。
Es gebe im Norden sehr wohl Menschen, die sich bei Vollmond in Wölfe verwandelten. Sie brächen in die Häuser von Menschen ein und verzehrten deren Vorräte. Sie hätten an der Grenze zwischen ihrer eigentlichen Heimat Litauen und Kurland eine Mauer errichtet, bei der sie sich jedes Jahr versammelten und ihre Kraft dadurch zeigten, dass sie darüber sprängen. Wer zu fett sei, diese Probe zu bestehen, werde von den übrigen verhöhnt. Auch Adlige und Vornehme gehörten dazu. Nach einigen Tagen würden sie sich wieder in normale Menschen zurückverwandeln.
https://de.wikipedia.org/wiki/Werwolf
この記述だけだと、伝説というより、異教的な習俗のようにも感じますが。
オラウス・マグヌス
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AA%E3%83%A9 …
あるドイツ語のブログには、古い時代の狼男の伝説は月とは全く関係がなく、なぜ満月という話になったかは全く不明と書いてあります。月が魔力を発して狼に変えるという話はいくつかあるそうですが、そのうちの一つとして、ティルベリのゲルウァシウスを挙げています。オラウス・マグヌスの記述がどこからきているのか、今のところ不明です。
エギルのサガというのは、下のようなものです。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A8%E3%82%AE …
やはり、夜に変身することには変わりありませんが、月は出てきません。あと、スキタイ人の儀礼として、狼の皮をかぶるというのが古代にあるようですね。このあたりはヘロドトスに出てくるのでしょうか。いずれにしても、北方起源のようですが。
*******************
OKWaveに出たベラスケスの件ですが、質問を見た時点で、これはギリシャ神話にお詳しいplapotiさんがお答えになるだろうと思い、すぐに閉じてそのまま忘れてしまいました。少したって締切になっていたので、中を見たのですが、インターネット上のアポロン説の根拠がわからないということで疑っていらっしゃいました。しかし、あれはアポロンでよいのです。月桂樹の冠を戴いているのは芸術の神アポロンの証拠です。出典をいくつか推測なさっていましたが、ベラスケスが典拠としたのは、オウィディウスの「変身物語」第4節、「太陽神には隠し事はできない」というような個所とのことです。つまりヘリオスです。アポロン説とヘリオス説があるのではなくて、ヘリオスは紀元前の時代からアポロンと混同され、同一視されるようになっていました。普段解説書の類をお読みにならないplapotiさんには苦手な部分かもしれません。両者の同一視の文献は紀元前3世紀ごろからあるという記述もありましたが、さらに調べたところ、一番古いものは紀元前5世紀で、たしかギリシャ悲劇の作者の一人だったと思います。どこかにリンクは保存してあると思うのですが、今すぐは見つかりません。スペインのプラド美術館の解説によると、ベラスケスはこの作品を依頼によって描いたのではなく、自主的に制作したようです。その際、鍛冶屋の守り神であるウルカノスと芸術の神アポロンをあのような関係に描くことによって、職人の技能に対する芸術の優位を表したものだそうです。あの時代までの絵画には、芸術賛美のテーマや、画家自身の芸術の賛美というテーマで描かれた作品があります。ベラスケスの作品も、ギリシャ神話の情景を借りながら、芸術賛美の意味を込めた寓意画ということになります。ベラスケス自身にヘリオスとアポロンの区別がついていたかどうかはわかりませんが、あの場合はアポロンでなければならないわけです。
さつそくの追加回答をありがたうございます。結論としてはペトロニウス『サテュリコン』がその可能性がある、といつたところでせうか。私があまり知らないだけで、類似した話は各地にあるのですね。
>太りすぎていてこの試験に受からなかったものは、ほかのものから嘲りを受ける
(笑、笑、笑)
>あるドイツ語のブログには、古い時代の狼男の伝説は月とは全く関係がなく、なぜ満月という話になったかは全く不明と書いてあります。
残念です。今ではテレビや映画、小説などでしきりに用ゐられるモチーフなのですが、起源がわからないほうがありがたみがあるのかもしれません。
>スキタイ人の儀礼として、狼の皮をかぶるというのが古代にあるようですね。
ヘロドトスはスキュタイ人について書いてゐますが、狼の皮の話はおもひだせません。あとで調べてみます。
>月桂樹の冠を戴いているのは芸術の神アポロンの証拠です。
ベラスケスの絵は、おつしやるとほりアポロンなのですが、その出典がわかりませんでした。アポロンにはさまざまな属性が付与され、太陽神とされることもあります。しかしホメロスもルキアノスも、アポロンとヘリオスを別別の登場人物として明確に区別してゐます。回答文に書いたもの以外に、あの物語についての作品を知りません。
>オウィディウスの「変身物語」第4節、「太陽神には隠し事はできない」というような個所とのことです。
巻数とだいたいの行数がわかれば、参照できるのですが、すぐにはどんな話なのかわかりません。単に「太陽神には隠し事はできない」といふ言葉を勝手に解釈したといふことはないのでせうか。また明日調べてみます。
>普段解説書の類をお読みにならないplapotiさんには苦手な部分かもしれません。
これは御指摘のとほりです。解説書を読んでいたら、元の本を読む時間がなくなります。ねこひこさんのやうに音楽についての本を読まないのは、小林秀雄の影響です。これは以前書きました。
>鍛冶屋の守り神であるウルカノスと芸術の神アポロンをあのような関係に描くことによって、職人の技能に対する芸術の優位を表したものだそうです。
ときどき美術カテゴリの御回答も拝見してをります。先日はpark123さんの質問でした。
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ひとつの大きな可能性としてペトロニウス『サテュリコン』を挙げていただいた回答番号1をベストアンサーといたします。666protectさんからも多くの参考文献を教へていただき、ありがたうございました。