次の言葉は、通常、概ね次のように定義されていると思います。
(1)標本:統計において、母集団から抜き出した要素の集合。例えば、日本の全家庭の預金高という母集団から無作為に抜き出した100家庭の預金高。
(2)標本空間:標本点全体の集合。例えば、1個のさいころを1回投げたときに出る目の数の集合{1, 2, 3, 4, 5, 6}。
(3)標本点:試行の結果生じ得る1つひとつの現象。例えば、1個のさいころを1回投げたときに出る目の数。{1}、{6}など。
これに関連して次のQ1、Q2についてお教えいただけないでしょうか。
Q1:「標本」は母集団からの抽出の話であり、「標本点」は試行の話です。「標本」と「標本点」とは、たった1文字違うだけなのに、なぜこのように定義内容が大きく異なるのでしょうか。
Q2:「標本」は抽出したもの(つまり、一部分)の話であるのに、「標本空間」は試行の結果の全体(つまり、全体)の話です。。「標本」と「標本空間」とは、たった2文字違うだけなのに、なぜこのように定義内容が大きく異なるのでしょうか。
そもそもの疑問は、「標本点」と「標本」は1文字違うだけなので、「標本点」の定義は「標本」という言葉を用いて定義できるのではないかと思ったことにあります。例えば、「預金高」と「預金」は1文字違うだけなので、「預金高」は「預金の金額」のように「預金」という言葉を用いて定義できるようにです。
これらは全く異なる概念だと言われれば観念して覚えますが、何か腑に落ちないのです。
No.1ベストアンサー
- 回答日時:
確率論と統計学での用語の使い方の問題だと思いますが、いずれにせよ、もともと確率論で使われていた用語を統計用に特殊に解釈したために紛らわしくなっているだけだと思います。
まず「標本空間」ありきだと思ってください。直感的には今考えている確率モデルのすべての事象を集めた空間です。ですが、現代数学流の解釈では単なる確率空間(あるいは測度つき可測空間)を指します。要するに集合であれば何でもよいという感じです。サイコロを一回投げるモデルなら、普通は{{1},…,{6}}からなる6元モデルを考えますが、これ以外にも{9}とかあり得ない元を加えても別に問題ありません。P({9})=0とすればいいだけですからね(9の目が出る確率は0!)
そして確率論ではこの標本空間の元を「標本」とか「標本点」とか「見本」とか英語では「sample」や「sample point」と呼びます。強調しておきますが、これらは“すべて同じものを指しています”。
いろいろ述べるべきこともあるのですが、Q1,Q2に対する答えを簡潔に述べるならば、Q1には「定義内容は実はまったく一緒」、Q2には「標本の集まりを標本空間と呼んでいるだけ(数学でいう空間という用語はその全体を表す意味に用いる;たとえばベクトルの全体をベクトル空間と呼び、ベクトル空間のひとつの元をベクトルと呼ぶ、など)」ということです。
あなたが例で挙げられていることを確率論に基づいてきちんと解釈すると次のようになります。
(1)標本:統計において、母集団から抜き出した要素の集合。例えば、日本の全家庭の預金高という母集団から無作為に抜き出した100家庭の預金高。
→たとえば日本の家庭が5000万世帯であるとして、各家庭の預金高をa_n(n=1~50,000,000)とするとき、この中からランダムに(意味は一様分布に従ってという意味)100個の元を取り、それをX=(a_{n_1},…,a_{n_100})とする。より正確にはn_1,~,n_{100}を1~5000万の異なる数字として、それが実現する確率を1/{50,000,000C100}で与えたものです。これは百元からなる確率ベクトルと解釈されます。すなわち標本空間は1~5000万の異なる数字100個を取ってそれをn_1,~,n_{100}としたときの、X=(a_{n_1},…,a_{n_100})と書かれるもの全体、そしてその中の元がいわゆる無作為標本に当たるXなわけです。「標本空間」と「母集団」はまったく別の意味で使われていることに注意してください。
標本点、標本空間の解釈はあたなのおっしゃる例でばっちりです。一回の試行というとき、100個の無作為標本を選ぶという行為も「5000万個の中から百個無作為に選ぶ」という一つの試行の結果と思うとまさに「標本点」と思える、というわけですね。
この回答への補足
早速に、有り難うございます。
>もともと確率論で使われていた用語を統計用に特殊に解釈したために紛らわしくなっているだけだと思います。
そういうことなんですか。普通なら素人が決して窺い知ることのできない内容を御教示いただきました。天の声にも似た響きにただただ感激しております。
それ以下の御教示、私にとっては目から鱗、青天の霹靂、宇宙の崩壊、只ただ絶句のことばかりです。
でも、たいへんによく分かりました。御礼の申し上げようもありません。有り難うございます。
ところで、あと1つだけお聞きしてよいでしょうか。
標本と標本点ですが、これらは同じものなのでしょうか。というのは、「共立数学公式改訂増補(共立出版1969)」p418には、「試行の結果現れる個々の事象を標本点という」旨の定義があります。つまり、標本点は「個々の事象」とあります。
一方、「チャート式数学C(数研出版)」p.165に「母集団から抜き出された要素の集合を標本という」とあります。つまり、標本は「集合」とあります。
これらを見ると、標本と標本点は異なるように思えるのですが、どうなのでしょうか。
よろしくお願いいたします。
補足させていただきます。
「補足」に述べた質問の要点は、「共立数学公式改訂増補」には標本点は「個々の事象」とあるので、これは「標本点は1個の数値である」と言っているように思え、一方、「チャート式数学C」には「集合を標本という」とあるので、これは「標本は複数の数値である」と行っているように思え、1個と複数とが矛盾していると感じられることです。
よろしくお願いします。
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