
No.2ベストアンサー
- 回答日時:
以下、概説風に回答いたします。
例えば、「姫(ひめ)」の「メ」と「雨(あめ)」の「メ」とは、現在まったく同じ音です。
ところが、上代(奈良時代)の文献で万葉仮名の使用状況を調査してみますと、
「姫」の「メ」は、「売」「咩」「謎」などの万葉仮名で書かれます。
このときの「売」「咩」「謎」などをまとめて橋本進吉博士は「甲類」と呼びました。
一方、
「雨」の「メ」は、「米」「妹」「梅」などの万葉仮名で書かれます。
このときの「米」「妹」「梅」などをまとめて橋本進吉博士は「乙類」と呼びました。
そして、上代文献では、この甲類・乙類二種の仮名は明確に使い分けられているのです。
つまり、「姫」の「メ」は必ず甲類の仮名が用いられ、決して乙類の仮名が用いられることはありません。「召す」の「メ」も甲類です。
逆に、「雨」の「メ」は必ず乙類の仮名が用いられ、決して甲類の仮名が用いられることはないのです。「目」の「メ」なども乙類です。
では、なぜ甲類・乙類二種の仮名のが使い分けられていたのかということになりますが、
これは、当時、「姫」の「メ」と、「雨」の「メ」とは実際の発音が異なっていたからだと考えざるをえません。発音の違いに応じて二種の仮名を使い分けたと考えるのがもっとも自然でしょう。つまり当時「メ」には、「甲類のメ」と「乙類のメ」の二つが存在したということになります。
このような甲類・乙類二種の仮名の使い分けは「キ」「ヒ」「ミ」「ケ」「ヘ」「メ」「コ」「ソ」「ト」「ノ」「ヨ」「ロ」「モ」、及びその濁音について行われていました。ただし「モ」を区別するのは「古事記」だけです。
以上申し上げてきたような、上代文献での万葉仮名の使用状況、そしてそこから導かれる上代日本語の音韻構造をさして「上代特殊仮名遣」と呼んでいます。
ちなみに、発音の違いについては、母音の違いであるといわれていて、ここにはほとんど異論はないようです。ただし具体的にどんな母音の違いかということについては諸説があって、いまだに定説がありません。
No.4
- 回答日時:
二点ほど追加いたします。
1、「上代特殊仮名遣」研究の歴史について
最初、江戸時代の国学者である本居宣長(もとおりのりなが)が、「古事記伝」の総論で、仮名の使い分けについて指摘しています。
この指摘を受けて、宣長の弟子であった石塚龍麿(いしづかたつまろ)が調査・研究をすすめ、その成果が「仮名遣奥山路(かなづかいおくのやまじ、1798年以前の成立)」にまとめられましたが、当時は全く注目されず、石塚の研究は忘れ去られてしまいます。
後に橋本進吉博士が、上代文献で、特定の音節に甲類・乙類二種の仮名の使い分けがあるという事実を再発見し、公表することによって、「上代特殊仮名遣」が広く認められるようになり、上代日本語の音韻構造が解明されていくことになります。橋本の研究の一端は『古代国語の音韻に就いて』(1937年5月の講話録、現在は「岩波文庫」で読むことができます)によって知ることができます。
2、万葉集はどんな文字でかかれているか
実際はもっと複雑ですが最小限これだけは、という点を確認したいと思います。
万葉集で用いられている文字は漢字と万葉仮名です。
ここでいう「漢字」とは、漢字が漢字本来の意味・用法で用いられているものです。難しく考える必要はありません。「ヒガシ」を漢字で「東」と書く現在のやり方とおなじです。
「万葉仮名」は、漢字本来の意味・用法とは関係なく、ただ日本語をかきあらわすために、同じ、あるいは類似の音や訓を持つ漢字を借りてきただけのものです。
例えば、万葉集の482番歌に、
吾毛見都
とありまして、「吾(われ)も見(み)つ」と訓んででいます。
「吾」と「見」は、漢字本来の意味が生きていますから、これは漢字です。
「毛」は、日本語のモという音を書き表すために、「モウ」という音を持つ「毛」という字を借りているだけです。漢字本来の意味は全く関係ありません。「都」も同じです。日本語の「ツ」という音を書き表すために、「ツ」の音を持つ「都」という字をかりているだけです。
こういう場合の「毛」や「都」が万葉仮名です。
「万葉仮名」は、「ひらがな」や「かたかな」と同じく「仮名」の仲間です。漢字ではありません。「漢字」と全く同じ形をそのまま利用するので誤解を招きやすいだけです。この「万葉仮名」をどんどんくずして簡略化すると「ひらがな」になります。「万葉仮名」の字画の一部だけを書くというやりかたで簡略化すると「かたかな」になります。「万葉仮名」と「漢字」は見た目は同じでも、その本質がぜんぜん違います。その辺の事情を誤解なさらないようお願いします。
ちなみに岩波書店の日本古典文学大系「万葉集」では、右側のページに原文、左側のページにその書き下し文、という体裁になっています。左側の漢字ひらがなまじりで書かれているのは、万葉集原文をどう訓むかが示してあるのであって、その訓みかたは、研究者によってずいぶん違うのです。その辺も誤解のないようお願いします。
No.3
- 回答日時:
すでに先の方の回答で、的確な説明になっていますが、補足的に記します。
「上代特殊仮名遣い」というのは、明治時代以降にできた概念です。それ以前は、江戸時代にも、室町、鎌倉時代にも、忘れられていて、意識されていなかったのです。
岩波文庫には、「万葉集」の本がありますが、いまはどうか知りませんが、二種類の本があります。一方は、「万葉仮名」という、漢字ばかり使って書かれたテキストが載っている本で、もう一方は、漢字+ひらがなの、現代見る形の普通の文章です。
しかし、「万葉集」は、元々、この漢字ばかりで書かれた「万葉仮名」のテキスト本が、本来であって、漢字+ひらがなの本は、平安時代頃にひらがなが確立して後、漢字をひらがなに直して、漢字交じりのひらがな文章として、書きなおしたものです。
平安時代辺りに、この書きなおしが行われたとき、ひらがなは、すでに現代と同じ数になっていて、例えば、「いろは歌」などのように、四十七文字という風になっています。
しかし、明治時代に、「万葉集」に使われた万葉仮名の研究をしてみると、あるひらがなの場合、万葉仮名は、一つではなく、複数のものが使われていたのですが、特定の単語で見ると、例えば、先の方の例のように、場合によって、使われる万葉仮名の漢字が違っていても、ある単語の、例えば「み」と、別の単語の「み」では、使われる万葉仮名の種類に重複がなく、万葉仮名が綺麗に二つのグループに分かれることが判明したのです。
「万葉集」全体について、こういう使用仮名の区別を調べ、また奈良時代の万葉仮名で書かれていた文書について、同じように分析すると、特定のかなの文字については、それに使う万葉仮名が、二つのグループに分かれていて、混用されることはないということが分かりました。
ここから出てくるのは、「み(甲)」と「み(乙)」では、奈良時代には、違う音として、はっきりと区別されていたという可能性です。音が違っていたとしないと、どうして、こういう整然とした区別をしたのか、また区別が可能だったのか、分からないからです。
万葉仮名が、現代では一つになっている或る特定のひらがな音について、二つのグループに分かれているとき、こういう区別を付けて使われた「万葉仮名」の「仮名遣い」を、奈良時代の特殊な仮名遣いという意味で、「上代特殊仮名遣い」と呼ぶのです。
母音が違っていたのであろうという判断になっていますが、すると、奈良時代には、「い」や「え」や「お」の母音が、違う音で二種類あったことになります。
これは、奇妙なことのようですが、現代の英語の母音の発音を考えると、「e(エ)」なら、「狭いエ」と「広いエ」という二種類の「エ」があります。「狭いエ」は「イ」に近く、「広いエ」は「ア」に近づきます。現代の英語では「o(オ)」も二種類はある訳で、奈良時代に、「い」や「え」や「お」が二種類発音があっても、それほど不思議なことではないのです。
奈良時代以前だと、子音も、現代の音とは違っていたとも言われていて、「はは」は昔は「ふぁふぁ」のような音だったという説もあります。
No.1
- 回答日時:
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