1H-NMR ではピークの積分面積が濃度(水素原子数)に比例します。これを利用して分子内の水素原子の比や,混合物の場合は混合比を求めることができるのですが,そもそも,どうして加成性がなりたつのでしょうか? と,このように書くと緩和速度云々の議論のように受け取られるかもしれませんが,私の質問の真意は「なぜランベルト=ベールの式に従わないか?」です。ランベルト=ベールの式の教えるところによると,水素原子数がそのままラジオ波の吸収量に比例するのではなく,吸収量の対数に比例するべきではないでしょうか?
私は,何か重大な誤解をしているのかもしれません。素朴な疑問で申し訳ございませんが,どうかよろしくお願いいたします。
No.3ベストアンサー
- 回答日時:
補足です。
吸収量=I0-I0×10^(-εCl)
両辺を入射光量I0で割ると吸収量/I0=Kですから
K=1-10^(-εCl)
10^(-εCl)=1-K
両辺のlnをとると
εcl×ln10 = -ln(1-K)
であなたの導いた式が導出できます。あとは10^xをテイラー展開するかln(1-x)を展開するかの違いです。
さて「吸収率 K が十分に小さいとき」というのはどんなときでしょうか?
式からは「εclが小さいとき」ということになります。それはどんなときか?
NMRの測定は10%溶液くらいで行うこともままありますから紫外や赤外の測定に比べてCが特に小さいわけではありません。
また光路長も普通のNMR管は5mmですからこちらも紫外や赤外の測定に比べて小さいわけではありません。
結局εが小さいためにKが小さいわけです。
εが小さい理由はスピン遷移のエネルギー準位差が振動や電子遷移のエネルギー準位差に比べて非常に小さいことにあります。エネルギー準位差が小さいために遷移元と遷移先の占有数の差が非常に小さく、正味の吸収が小さいのです。
もしεが小さいのを打ち消せるほどCとlが大きい物体でNMR測定すればランバート-ベールの法則が成立するはずです。一例としてはMRIがあります。もっともMRIではlが大きいので散乱の効果が無視できないので散乱の効果を取り入れた拡張ランバート-ベールの法則を使っているはずですが。
なるほど…。すべてクリアになりました。ありがとうございました。
ところで MRI がランベルト=ベールの式を用いているとは知りませんでした。もし知っていたら,この問題も自分自身で解決できていたかもしれません。色々と参考になりました。
この質問に回答するために,大切なお時間を割かれたことと思います。この度は大変ありがとうございました。
No.2
- 回答日時:
非常に単純な理由によります。
NMRのモル吸収係数εが非常に小さいためです。
このとき
吸収量=I0-I0×10^(-εCl)≒2.303I0εCl
ですから、濃度Cに比例します。
この回答への補足
ご回答ありがとうございます。すみませんが ε は無関係ではないでしょうか? 吸収率 K が非常に小さいから,というのでしたら理解できるのですが…。私なりに式を解くきますと,例えば,吸収率を K,透過率を T,吸光度を A とおくと,
K + T = 1
A = -log T = ε c l
となり,この式から c と K との関係を導出すると,
ε c l = -log ( 1 - K )
となります。ここで対数のテイラー級数展開を用いると,
ε c l * ln 10 = -ln ( 1 - K ) = K + K^2/2 + K^3/3 + K^4/4 + ...
となり,すなわち吸収率 K が十分に小さいときは,c と K との間に線形性があることが導かれます。
この式の導出自体には全く疑問はないのですが,果たして現実はどうなんでしょうか? NMR の場合もやはりランベルト=ベールの式が成立しており,しかし K が小さいために近似的に取り扱っているだけなのでしょうか? 少なくとも,私はこのような記述を読んだことはありませんし,聞いたこともないのです。
No.1
- 回答日時:
> なぜランベルト=ベールの式に従わないか?
ランベルト・ベール則は『1H-NMR でピークの積分面積が濃度(水素原子数)に比例する事』とは直接関係ないと思うんですが・・・・(かなり弱気)。
ランベルト・ベール則では透過(吸収)光と照射光の強度比と濃度等の関係を示していますよね。NMR では「透過(吸収)光と照射光の強度比」を問題にしているわけではありませんから。
ここまでは前振り程度です。本論は以下に。
-------------------------
UV 等で吸収波長が異なった場合,吸収を起こすグループが異なっている事を意味しています。つまり,「濃度c」もですが「吸光係数ε」も異なっています。そのため,お書きの様な「加成性?」は成り立ちません。
一方,NMR で吸収波長(ケミカルシフト)が異なっても,吸収を起こしているのは同じ水素核(1H-NMR の場合)です。つまり,「吸光係数ε」が全て同じため,吸収強度の違いは濃度(水素核の数)にのみ依存し,「加成性?」が成り立ちます。
ですから,εが異なる水素核と炭素核のシグナル強度を比べた場合,強度比だけでは「原子数の比」や「混合比」は求まりません。
いかがでしょうか。NMR の「専門家」などと名乗っている手前,頑張ってみましたが,正直な所「自信なし」です。「専門家」の「自信なし」ですがお許しを・・・。
この回答への補足
吸光係数の話は確かに仰る通りですが…,済みません,私の説明不足で論点がちゃんと伝わっておりませんでした。ここでは周波数依存については一切考えないことに致します。
CW-NMR: ラジオ波を吸収し,α スピンから β スピンに変化する量(=ラジオ波の透過率)を測定
IR: 赤外線を吸収し,基底振動状態から励起振動状態に変化する量(=赤外線の透過率)を測定
UV-Vis: 紫外可視光を吸収し,基底電子状態から励起電子状態に変化する量(=紫外可視光の透過率)を測定
上の三つの現象は,本質的にはすべて同様の現象と考えることができます。しかし,CW-NMR はラジオ波の吸収率(=1-透過率)が物質量に比例しているのに対し,IR と UV-Vis は透過率の対数(=吸光度)が物質量に比例しています。NMR と他の分光方法との原理上(?)の本質的な違いは何なのか? というのが私の疑問です。
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