A 回答 (8件)
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No.1
- 回答日時:
人体に有害なウイルスに対する感染対策として「滅菌・消毒」とがあります。
これは、違うものです。死滅、と仰るので「滅菌」=対象物に存在するすべての生物をころしてしまうことであり、最も抵抗力の強い生物を殺せる方法。ということになります。
「ウイルス」は、そもそも生体内(宿主)へ侵入できないと空気中では長期間生存できません。今、流行りのウイルスも手洗い・うがいの励行をされているのは加熱処理するまでもなく、そこで人体への影響を及ぼせなくなるからです。
現在、最も抵抗力の強い感染性物質は「プリオンタンパク質」です。
これを滅菌するには、132℃、1時間の高圧蒸気滅菌が必要となります。
回答ありがとうございます。
プリオンとはヤコブ病を発症させるウイルスですね。
そういえば、胎盤注射経験者が献血できない理由とかになってたと思います。
すると、胎盤療法で人体に入れる胎盤粉末は、プリオンが入っていると危険なので、加熱処理ではなく高圧蒸気処理しないと滅菌できないということですね。
プリオン以外の肝炎やエイズ等のウイルスは、加熱処理で滅菌できるという事でしょうか。
No.2
- 回答日時:
獣医師でウイルスに専門知識を有します。
最初に「滅菌」と「消毒」の違いですが、滅菌は「対象物に存在する(と考えられる)全ての微生物を死滅させる方法」であり、消毒は「対象物に存在する(と思われる)有害な微生物を死滅させる方法」です。
・・・どこが違うのか判らないと思いますが(私だって書きながら苦笑してます)、要するに「対象を特定せずに無条件に皆殺しにする」のが滅菌、「ある程度対象を絞った上で殺す」のが消毒です。
というわけで、ご質問では「ウイルス」と対象を絞っている時点で「滅菌」ではあり得ません。芽胞や真菌は対象外ですから。まして"微生物"ではないプリオン(正しくは異常プリオン)を考慮に入れる必要もありません。(異常プリオンは"微生物"ではないので、通常の滅菌条件では対象として想定されません)
まして質問は「加熱処理」にメソッドを特定しているわけですから、ここで質問されているのは「ウイルスの熱による不活化条件」に過ぎません。
ここをきちんと理解しないと、とんちんかんな回答をする羽目になります。看護大学や獣医学科の試験回答だったら合格点はあげられません。熱処理の不活化条件という問いに答えてないですから。
さて、ウイルスの熱に対する耐性ですが、もちろん加熱処理で不活化されます。まあ生物たるもの、高温には耐えられないのがタンパク質から構成されるものの宿命ですが。
でも、「何度の熱をどのくらいの時間かければ不活化されるか」という不活化条件は、ウイルスによって大きく異なります。
あまり明白な基準ではないのですが、1つの基準として「56℃30分に耐えるか否か」というのがあります。
何の基準かというと、未知のウイルスを分離した際に、そのウイルスの性状を調べて「正体」を調べる(同定と言います)際の基準です。
細菌でしたら糖を分解するかとかカタラーゼがどうのとか、いわゆる「どんな代謝をするか」を調べていって同定するのですが、ウイルスは代謝という生命らしい活動は一切しない微生物なので(だから"ウイルスは生物か非生物か?"という議論が成立するわけです)、ある条件で処理したウイルスが「不活化されるか否か」言い換えれば「感染能を失うか否か」で調べていくわけです。言い換えれば、ウイルスを分類するパラメータはマクロではそれしかない、ということです。
その理化学性状検査で調べる項目は、遺伝子型はDNAかRNAか、ウイルス粒子の大きさ、酸に耐えるか否か、クロロホルムやエーテルなどの有機溶媒に耐えるか否か、など多くの項目があるのですが(なので面倒くさいので最近はあまりやる人はいません。私も数回しかやったことがないです)、その中の一つに「56℃30分に耐えるか否か」というのがあるわけです。
耐えるウイルスはノロウイルスやロタウイルスが代表(一般の人でも名前を知っているようなウイルス)でしょうか。
インフルエンザウイルスは「耐えることができない」グループになります。
耐熱性ではノロウイルスやロタウイルスが最強の部類に入るのですが、60℃で5分、65℃で3分、70℃では瞬時(東京都衛研のデータ)や85℃1分、など、世に出ているデータにばらつきがあるのですが、まあそんなあたりの温度と時間で不活化する、ということです。
温度処理はウイルスが含まれる培養液を恒温槽などで温度をかけ、その処理したウイルス液を培養細胞に感染させて「感染するかどうかを見る」わけですが、その培養液の組成などでも耐熱性が変わってきたりするので、ラボが違えば結果もある程度違うのが普通です。
上の不活化条件のデータを見て気づかれると思いますが、「高温なら短時間、低温なら長時間」という関係はどんなウイルスでも共通です。
インフルエンザウイルスは、細かい耐熱性はあまり調べられていないようですね。
一般に、耐熱性が詳細に調べられるのは、高熱に耐えるウイルスや経口で感染するウイルス(つまり汚染物を加熱処理することが可能)です。
インフルエンザウイルスは耐熱性は低いので環境中では放置してもけっこうな速度で死滅していきますし、飛沫感染が主体なので感染源を加熱するわけにもいかないし、接触感染もありますがドアのノブや電車のつり革など、加熱処理できない感染源も多いので、あまり熱心には調べられていないのでしょう。
なお、余談ですが、インフルエンザ感染予防に手洗いやうがいが推奨されるのは、感染源(飛沫やドアのノブやテーブルやつり革や・・)を加熱処理できないことが多く、手洗いやうがいが「最後の砦」だからです。「加熱処理するまでもないから」というのはとんでもない話です。加熱処理できるものならした方がずっとリスクを低減できるのは言うまでもありません。
飛沫を加熱処理できないのは言うまでもありませんが、接触感染の感染源となるものは「日常生活で触れる物体のほとんど」に可能性があるわけですから、インフルエンザ対策として加熱処理が非現実的なのは当たり前の話です。
感染経路が比較的限定されているノロウイルスなどは、詳細に熱処理による不活化条件が検討されていますし、それは感染防止マニュアルなどにもきちんと応用されています。
回答ありがとうございます。
私は素人なので、3回ほど読んでやっと分かってきました。
生物に由来する薬品において、
ウイルスはそれぞれに十分な加熱処理で感染能を失うが、
念の為そのほかに、酸や有機溶媒で処理するとさらに安心できる
という事ですね。
もし間違ってたら訂正お願いします。
No.3
- 回答日時:
>肝炎やエイズ等のウイルスは、加熱処理で滅菌できるという事でしょうか。
…肝炎にも種類がありますね。「急性肝炎・劇症肝炎・慢性肝炎」
急性肝炎にA型、B型、C型肝炎(細かくはD・Eもありますが)とありますが、A型肝炎は経口感染により引き起こされるものなので、血液関連ではなく、B型肝炎・C型肝炎は輸血や針刺し事故によって引き起こされる場合があります。1992年以前に輸血・フィブリン製剤を使用した医療処置を受けた患者さんは注意が必要とされています。
今は、ウイルス検出検査が確立されているので、ちゃんとした処理でウイルスのない輸血・フィブリン製剤が使用されています。
エイズ等のウイルス=HIVについては、現在は非加熱血液製剤の使用は認められていません。よって、加熱処理・検出検査で安全性が確立されたもののみ、患者さんへは使用されます。
ウイルスがエンべローブを持っている(HIV・B型肝炎ウイルスなど)と比較的滅菌(ここでは消毒薬になりますが)に対する抵抗性は小さい(=感受性が大きい=消毒薬の効果がある)と言われています。
私がお答えできるのはここまでですが、報道では、非加熱血液製剤の危険性がアメリカで明らかになってからも、医師はその危険性を患者に告知せず、製薬企業も漫然と輸入と販売を続け、厚生省はなんの対策もとらなかった、ということになっておりますが、ミドリ十字始め様々な機関が関わった裏の薬害エイズ感染者発症の経緯があります。
これは感染症の権威と言われている友人の医師から聞いたのですが、はっきり覚えていないので、この質問者様の回答が締め切られていなければ、友人に聞いてからちゃんとした非加熱血液製剤使用をせざるを得なかった裏の事情を、再度書かせていただきますね。
回答ありがとうございます。
非加熱製剤を使用せざるを得なかったのは技術的な事だったのでしょうか。もちろん、お待ちしております。
素人なので辞書を片手に、とても興味深く読ませて頂いてます。
その中で、もう少し詳しく知りたい事が、2点あるので教えていただけないでしょうか。
1.肝炎の所で、『ちゃんとした処理でウイルスのない』とは、
具体的にどんな処理なのでしょうか?
2.高圧蒸気処理とは、加熱処理の中の一つの方法でしょうか?
それとも別の方法なのでしょうか?
No.4
- 回答日時:
なるべく簡潔に分かりやすくお答えしようとすると、説明不足の点が多々出てきてしまいますね 笑。
では、細かくご説明しますね、少し長文になってしまいますが。。。
>1.肝炎の所で、『ちゃんとした処理でウイルスのない』とは、
具体的にどんな処理なのでしょうか?
…まず、先程の回答に「A型・B型・C型・D型・E型肝炎ウイルス」と分かれている、と書いたので1つづつご説明しますね。
ちなみに、ワクチンによる予防が可能な肝炎は「A型・B型・D型」です。ワクチンにも種類があり「生ワクチン・不活化ワクチンまたは死滅ワクチン・成分ワクチン・トキソイド」になります。
肝炎で使用するのは「不活化ワクチン」「成分ワクチン」です。
☆不活化ワクチン→それぞれウイルス、細菌をホルマリンや紫外線で殺したもので、抗体の産生しか誘導せず、持続が短い(ex:HAVワクチン)
☆成分ワクチン→感染防御抗原だけを取り出して精製したもので、定着因子なども抗原となる。副作用をなくする対策からつくられたもの(ex:HBVワクチン)
では、肝炎ウイルスを1つづつ。
「A型肝炎ウイルス(以下、HAV)」
小型のRNAウイルスで、ピコナウイルス科のヘパトウイルス属に分類されます。HAVは、経口感染。このウイルスは、耐酸性でpH域3,0~10,0で安定であり、、また耐熱性で60℃、1時間の加熱では不活化されず、100℃、5分の加熱で不活化されます。
ホルマリン処理によって不活化されますが、抗原性は失われないので、この性質を利用し不活化ワクチンがつくられます。
HAVは、塩素およびヨウ素で失活します。
「B型肝炎ウイルス(以下、HBV)」
DNAウイルスで、へパドナウイルス科に分類されます。
HBVは主として血液を介し感染がおこります。感染状態に一過性と持続性があり、急性肝炎・劇症肝炎の病態をとります。
予防としてHBVワクチンの接種があります(3回の接種を必要とします)血液感染が主となるので、血液で汚染された器具は次亜塩素酸ナトリウム(有効塩素濃度1000ppm、1時間)で消毒するか、グルタルアルデヒドによって(ただし、低温では効果が減弱)消毒します。
HBVの感染性は100℃、15分の加熱で失活します。
患者さんへの材料は高圧蒸気滅菌を行います。
「C型肝炎ウイルス(以下、HCV)」
RNAウイルスでフラビウイルス科のヘパシウイルス属に分類されます。感染経路は、血液媒介性。輸血および、経皮感染(注射器・入れ墨・鍼灸など)です。輸血には「自己血輸血・他家血輸血」とがあり、輸血用の血液は事前に血液型・病原体が存在しないかの検査をクリアし、患者さんへ適合したものが使用されます。
予防法としては、上記、「血液」に対する注意を徹底するしかありません。治療法に、インターフェロン療法、あるいは、それと抗ウイルス薬の併用療法が行われています。
「D型肝炎ウイルス(以下、HDV)
このウイルスは、他肝炎ウイルス(HBV)との同時感染か、HBVキャリアー(HBVウイルス保持で発症していない人)にHDVが重複感染するか、いずれかの場合にだけ引き起こされます。
という訳で、このウイルスは少し特殊で分類は、科は未決定のまま、デルタウイルス属、とされています。HBVとの同時・重複感染を起こしやすいので重症化しやすく、劇症肝炎になることが多いのでHBVワクチン接種による予防が勧められ、血液に対する注意が必要です。
「E型肝炎ウイルス(以下、HEV)
一本鎖のRNAをもつウイルスで、こちらも科は未決定、へぺウイルス属に分類されます。HEVは、HAVと同様の感染経路の他、生獣肉を介した経口感染があります。
HEVは熱帯途上国に常在し、輸入感染症として先進国へ持ち込まれます。HEVは、動物由来感染症であることが明らかにされています。
ワクチンはなく、予防法としては免疫グロブリン製剤も、浸淫地の住民の血漿を原料としたものでないと予防効果はありません。
>2.高圧蒸気処理とは、加熱処理の中の一つの方法でしょうか?
それとも別の方法なのでしょうか?
…加熱処理の中の一つの方法です。
加熱処理法には「高圧蒸気滅菌法・乾熱滅菌法・火炎滅菌法」があります。
>非加熱製剤を使用せざるを得なかったのは技術的な事だったのでしょうか。
…「技術的な事」ではなかったように覚えています。厚生省/輸入企業/日本医師会等の裏での色々な“何か”があったのですが、はっきり覚えていないので適当なことを言ってはいけないと思うので、ちゃんと聞いてからにしますね☆
とはいえ、「感染症の権威」=今、新型で家に帰る暇もないようです。
少しお時間かかるとは思いますが、気長にお待ちください♪
ありがとうございます。
A、B型肝炎ウイルスが何度何時間で不活化するか分かりました。
C、D、E型肝炎ウイルスが何度何時間で不活化するものなのかも教えて頂けないでしょうか?
すると、どのようなウイルスも加熱により不活化できるのですね。
まさに非加熱製剤は危険ですね。
No.5
- 回答日時:
おー珍しく専門家の方々が集結されてますね。
専門的なお話は他の方に任せて実際に臨床現場のお話を
臨床的には、費用対効果が入ってきます。
町医者で大学病院レベルの消毒、滅菌が望めるはずもありません。
そんな中でB型肝炎ウィルスが死滅しずらくかつ、治療も難しくかつ、ウィルスの保有者(名称度忘れしました、なんでしたっけ?)
が多いのでB肝が死滅するレベルの消毒を行うが一つの基準です。
そうなると煮沸消毒は不十分です。
金属器具は次亜塩素酸やオートクレーブ
それらが難しいものはディスポにするが一般的だと思います
回答ありがとうございます。
煮沸消毒ではやはり不十分でしょうが、
町医者でも、オートクレーブがあれば、
B型肝炎ウイルスやプリオン蛋白も不活化できますね。
No.6
- 回答日時:
>C、D、E型肝炎ウイルスが何度何時間で不活化するものなのかも教えて頂けないでしょうか?
…C型肝炎ウイルスについては、加熱だと高圧蒸気滅菌機(オートクレーブ)、乾熱、煮沸消毒のいずれかの方法で、設定した温度まで上昇したことを確認した後、15分以上加熱するか、薬物消毒だと塩素系消毒剤=次亜塩素系の消毒剤使用時の有効塩素濃度1,000ppmの液に1時間以上浸漬する。(有効塩素濃度1,000ppmの消毒液をつくる時は、5~6%の次亜塩酸ナトリウム溶液(原液)を50~60倍に希釈する)。
または、非塩素系消毒剤2%グルタールアルデヒト液、エチレンオキサイドガス、ホルムアルデヒド(ホルマリン)ガスを用いて消毒する場合には、器具、機材を充分に洗浄した後に水分をよく拭き取ってから燻蒸を行うことです。
D型肝炎ウイルスについては、このウイルスの最大の特徴は、「単体ではウイルスとして不完全な存在」であるということです。ウイルスの特徴である増殖能力が単体の感染では発揮されないのです。そのため、D型肝炎ウィルスはB型肝炎ウィルスと共存する形で感染・発病します。
よって、B型肝炎の滅菌法を用いればよい、ということになります。
E型肝炎ウイルスについては、生獣肉からの経口感染と先程回答したのですが、野生動物の肉を生食すると感染することがあります。日本でも感染例が数件報告されていて、感染の原因が「生肉を摘んだ箸を食事に使った」「加熱が不十分だった」ことなどが挙げられます。E型肝炎ウィルスは60度以上で30分以上加熱することで不活化されます。
質問者様の疑問に、お答えできたでしょうか?
…私としては、なぜこんなに滅菌・消毒にご興味をもたれたのか、そちらが気になりました 笑。そういった道へ進まれたいのですか?研究などにご興味がおありなのでしょうか?単に、疑問に思っただけなのでしょうか?
私もお答えさせていただきながら、復習させていただき楽しかったです♪長々と、ありがとうございました☆
私の疑問に丁寧に回答頂きありがとうございました。
そもそもなぜ、興味を持ったかというと、胎盤療法のプラセンタ注射を検討してたからです。薬事法の認可を受けてるので大丈夫と思ってたのですが、
非加熱製剤の件を聞いてから心配になりました。
でも、約50年も使われ続けてるので、
『事実上、感染はないでしょう』ということなのでしょうか。
No.7
- 回答日時:
No.2のJagar39です。
珍しく詳しい方が集まってこられて、濃い回答が集中してますね。私も勉強になって楽しいです。さて、
>生物に由来する薬品において、
>ウイルスはそれぞれに十分な加熱処理で感染能を失うが、
>念の為そのほかに、酸や有機溶媒で処理するとさらに安心できる
>という事ですね。
この再質問で、質問者さんが何を念頭にこの質問を立てられたのか、少し判る気がしますが、それはさておき。
そういうことではありません。
ウイルスが含まれている「モノ」によって、加熱できないものや有機溶媒で処理できないもの、いろいろな制約があるわけです。例えば酵素が含まれる薬品からウイルスを除去したい場合、ウイルスを不活化させるような加熱処理を行うと、肝心の酵素まで失活してしまう場合があります。
なのでウイルスの不活化は、そのモノによってベストな方法を選択する、ということです。血液製剤に有機溶媒処理をするわけにもいかないでしょうし。
ウイルス不活化処理をした後のモノがどうなっても良い、というのであれば、「滅菌処理」をするのが簡単です。すなわち、オートクレーブに放り込むわけです。
ちなみに肝炎ウイルスはA~Eなどの「型」という名前が付いているため、インフルエンザのA型B型というような、ごく近縁のウイルスかとお思いなのかなと思いますが、それぞれまったく別の科に属する「別のウイルス」です。なので不活化条件もいろいろ、というわけです。
まあそちらの解説は専門家にお任せします。私は教科書レベル以上のことは知らないので。
替わりといっては何ですが、滅菌や不活化処理のいろいろな方法の説明をしてみます。
高圧蒸気滅菌法は最もポピュラーな「滅菌」方法です。オートクレーブという機械で121℃20分の処理をする方法です。温度と処理時間についてはこれと決まっているわけでもなく、115℃15分とか、121℃30分とか、用途やラボによってバリエーションがありますが。
このオートクレーブという機械、要するに「圧力釜」です。100℃以上の温度をかけると水は沸騰してしまいますが、気圧を上げることによって沸騰させずに水蒸気で圧をかけるわけです。
(余談ですが、某大学の魚病学の研究室に入ると、まず最初にオートクレーブでウナギの蒲焼きを作る手法を伝授されるとか)
原理は単なる圧力釜なので安いです。10万くらいあれば小型のものなら買えるので、町医者でもオートクレーブの1基くらいはたいてい持ってます。
BSE、vCJDの病因となる異常プリオンは、一般的なオートクレーブの条件では不活化できません。130℃1時間とか133℃20分など、普通より高温での処理が必要です。私のラボでは136℃30分で処理しています。
より高温になる=より高圧がかかる、というわけで、このようなモードを使用できるオートクレーブは、少し高いです。といっても70-80万円くらいなので、数百万円や数千万円の備品がゴロゴロ転がっているバイオ系のラボの中では、非常にリーズナブルな備品です。
この異常プリオンを不活化できるモードを持つオートクレーブは、町医者は持ってないかもしれません。
使用済みのディスポの注射器などは「感染性廃棄物」として処理する(業者に引き取って貰う)のですが、その前に「滅菌」しなくてはなりません。感染性を持ったままラボの外に出すことはできません。
なのでこれらは全てオートクレーブで処理してから出すことになります。もちろんディスポの注射器などは溶けてクチャグチャになりますが。
金属のハサミやピンセットなどは、オートクレーブ後もそのまま再使用できますから、これらの器具の滅菌処理にはオートクレーブが最もよく使われます。
ウイルスや細菌を扱う実験室や検査室では、培地などを含め、使用する物品の大半はオートクレーブ処理してから使うことになります。
乾熱滅菌とは、オートクレーブのように水蒸気圧をかけず、乾燥した状態で温度だけ上げて滅菌する方法です。加圧しない分、温度は高温が要求されます。私のラボの乾熱滅菌器は180℃2時間に設定されています。(異なる温度や処理時間でも良い場合はあるのですが、設定を変えるのが面倒なので全てこの設定で使用しています)
この乾熱滅菌は、ガラスピペットやガラスビンなど、使用時に水が付着していては困るモノによく使います。ただ、121℃以上の温度に耐える物品はそれほど多くないので、乾熱滅菌が可能なのはガラス器具系だけですね。
煮沸消毒でも、10分もかければほとんどの微生物は殺せます。特にウイルスは全て殺せます。
なので「ウイルスを不活化する」ことに的を絞れば、煮沸消毒で完璧です。
でも、煮沸では芽胞を殺せないので、「滅菌」とは通常見なされません。「煮沸によって滅菌します」などというと素人扱いされます。
というわけで、
1.使うために滅菌または消毒処理をするのか?それとも捨てるために処理するのか?
・・捨てるための滅菌なら、方法を選ぶ必要はほとんどありませんよね。
2.処理したいモノの性質は?
・・加熱しても良いモノか、酸や有機溶媒で処理しても良いモノか?
3.日常的に処理するのか?それともごく限定的に処理するのか?
・・ホルマリン薫蒸なら広範囲に存在する(と思われる)微生物を全て(微生物、なので異常プリオンは含みませんが)殺せますが、不適切なやり方をすると人間まで殺しかねないので、日常的にはやりません。
というような条件を加味し、条件にマッチした手法を選択するわけです。
分かりやすい説明ありがとうございました。
感染について調べてるうちに、ウイルスにはまってしまいました。
『生物と無生物のあいだ』を読んでみたり。
笑われてしまいそうですが、素人のシンプルな考えでは「条件は違えど自分で増えるのだから、ウイルスも生物では」と思います。
それから、インフルエンザは違いますが、肝炎・エイズ・異常プリオンと20世紀後半に発見されたウイルスの潜伏期間が長いのはどうしてかな~と思います。たまたま、ですかね。
No.8
- 回答日時:
Jagar39です。
>笑われてしまいそうですが、素人のシンプルな考えでは「条件は違えど自分で増えるのだから、ウイルスも生物では」と思います。
私もウイルスは生物だと思っていますよ。というより、そもそも普段からウイルスを「生物として」取り扱っているので、「ウイルスは生物か非生物か」という議論そのものに興味がありません。
ウイルスの培養は、細菌のように栄養を含んだ培地に植えれば勝手に増えてくれるのではなく、まず細胞を培養してそれに感染させて、という二度手間を踏みますが、やはりやっていることは「ウイルスの培養」です。
バイオセキュリティ上はウイルスは重要視されているものが多いので、あるラボでバイオセーフティ対策の組織を立ち上げたり運営したりする際には、ウイルス屋が中心的に動くことが多いです。
遺伝子を調べれば他の生物とまったく同じように進化していますし。
>それから、インフルエンザは違いますが、肝炎・エイズ・異常プリオンと20世紀後半に発見されたウイルスの潜伏期間が長いのはどうしてかな~と思います。たまたま、ですかね。
肝炎は必ずしも潜伏期間が長くはないですが。
それと、人類がウイルスというものの正体を知ったのは、20世紀になってからです。「遺伝子」の正体を人類が知ったのが20世紀も半ばに差し掛かってからですから、本当の意味で人類が「ウイルス」を知ったのは、実は20世紀も後半になってからなんですよ。
なので、現在人類が知っているウイルスの大半が「20世紀後半に人類が知ったウイルス」です。
なのでウイルス屋は、「ウイルスは生物か非生物か」という議論には、あまり興味がないことが一般的です。
なので潜伏期間が長いウイルスが必ずしも最近になって発見された、というわけではありません。
人類が病気の存在に気づいてから、病因であるウイルスを発見するまでに時間がかかる、という点では、確かにエイズや異常プリオン(プリオンはウイルスではありませんが)は大変時間がかかっています。
これは、異常プリオンについては、ウイルスですらない「ただの蛋白質」が伝達性の疾病の原因となっている、という突拍子もない事実を人類が理解するのに時間がかかっただけです。
エイズについては、問題は潜伏期間ではなく、「複合感染症である」ということに尽きます。
病原体と病気が1対1の関係である場合は、いかに潜伏期間が長くても発見は比較的容易です。死体を剖検すれば病変があり、その病変部を組織学的に(つまり顕微鏡で)見れば、その病変がウイルス性のものか細菌性のものか、はたまた代謝性のものかは容易に識別できます(私はできませんが、病理の専門家なら容易です)。あとは、その病変部からウイルスを分離培養して動物実験で"病気"が再現できればokです。
E型肝炎、SARS、ノロウイルスなど、培養系が確立していない、つまり未だ分離培養ができないウイルスですら、動物実験で病気を再現することはできますし、ウイルスがその病気の原因であることを証明することは可能です。
しかし、病原ウイルスと病気が1対1でない病気は難しいです。
その代表格がエイズということになるのでしょう。
エイズはHIV感染が主たる原因であることには間違いないですが、実際に「エイズ」という病気になった時は、HIV以外の病原体が悪さをしているわけです。無菌室にヒトや実験動物を閉じこめてHIVを感染させ、どれだけ観察しても「エイズ」という病気は再現できないわけです。HIVによって免疫が低下した身体に、どんな病原体が悪さをするかでいろいろな病態が生じるわけですから。
つまり、エイズ患者からHIVを発見したとしても、このHIVがエイズの原因であることを証明することが難しかったわけです。
というわけで、難度を上げているのは潜伏期間ではなく、病態である、ということです。
回答ありがとうございます。
細菌、ウイルス、異常蛋白、次々と敵の正体が分かってきてるのですね。本当に興味深い。
よく理解できました。
でも、ウイルスについての私の知識が所々つまみ食いした物なので、
もっと体系的に学ぶべきですね。
色々、お恥ずかしい疑問が湧いてくるのも当然です。
『ウイルス学の初歩の初歩』みたいな本で勉強してみます。
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