No.2ベストアンサー
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フーコーは、私たちがものごとを認識したり考えたりする時の思考の土台のようなものが、時代によってどのように変わってきたのか、ということについて大胆に考えた人です。
『言葉と物』のなかで、彼はベラスケスの絵画や『ドン・キホーテ』を題材に、智の変遷について論じています。(以下、引用は『言葉と物』から。ちなみに、第三章の1は、ずばり「ドン・キホーテ」と題されています)
彼によると、16世紀末までの西欧文化の知の基盤は「類似」でした。ちょうど絵画が空間の模倣であったように、言語による表象も常になにものかの模倣であった、とされます。
「・・・世界の鏡であること、それがあらゆる言語の資格であり・・・」、「言語は世界の中におかれ、世界の一部をなしている」、とフーコーは書いています。簡単に言えば、かつて、言語とは書かれた「物」であった、言葉と物というのは同じ平面にあったのだ、と言っているわけです。
そこに『ドン・キホーテ』が転機をもたらした、とフーコーは考えます。
ご存知のとおり、ドン・キホーテは目にする凡庸なモノ全てを、城や軍勢や貴婦人といった、英雄譚の必須アイテムと誤解し、ひどい目にあいます。一般にこの小説が、中世かぶれで時代遅れの愚か者に対する風刺、と評されるゆえんです。
ただ、フーコーに言わせれば、単にそれだけではありません。この小説は「・・・ルネッサンス世界の陰画(ネガティブ)を描いている。書かれたものは、もはやそのまま世界という散文ではない。類似と記号とのあの古い和合は解消した。相似は人をあざむき、幻覚や錯乱に変わっていく」。
つまり、どこにでもある風車を、類似によって邪悪な巨人と認識したような、ドン・キホーテの愚かな行動とその顛末は、ルネッサンス的な認識の枠組みの戯画化だといえる、ということです。
それともうひとつ。
『ドン・キホーテ』の第二部では、第一部を読んだという(カルラスコなどの)人物が登場してきて、ドン・キホーテとやりとりを交わします。最初のうち、『ドン・キホーテ』はよくある騎士物語をふまえて展開したのですが、ところがそのテキスト自身が、第一部における騎士物語の役割を持つようになるわけです。
テキストが自分自身に準拠するようになったことで、この書物は実際存在する物との関連を必要としない、自律的な空間となっていきます。かくしてドン・キホーテはにテキストの中に閉じ込められ、「彼の肉体そのものがこの書物」となります。言語のみの力によって、まったく言語の内部にとどまる新しい現実が作り出されたのです。
フーコーいわく、「・・・これらすべての書かれたテクスト、これらすべての荒唐無稽な小説は、世のなかのだれもかつてそれらに類似したことがないという意味で、まさしく比類のないものなのだ。それらの語る際限のない言語は、いつまでも宙に浮いたままであり、けっして何らかの相似によってみたされることはない」。
この小説は、物の実在する空間を初めて離れて、純粋な表象の空間を作り上げた、その点に意味があるのだ、というわけです。
この回答へのお礼
お礼日時:2011/01/12 15:57
授業でやったり、自分で調べたりしてもよく分からなかったのですが、引用文とneil_2112様の解説
を読んでものすごく分かりやすかったです。哲学や文学がすきなのですが理解力が乏しくて…涙
とても勉強になりました。お礼が20ポイントしかつけられないのが申し訳ないです。
親切なご回答、本当にありがとうございました。
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