中世のスコラ学について書かれた書物を読んでいます。現在、ペトルス・アベラルドゥスについての章なのですが、その中で、「consubstantial」と「coeternal」という単語が出てきました。辞書を引いても意味が載っていません。インターネットで調べたところ「consubstantial」の方だけは「同質」という訳語がありました。
具体的には、
「This analogy scarcely succeeds in showing that
the Trinitarian persons, although personally distinct,
are consubstantial and coeternal.」
という一文です。
「この類比は、次のことを示すことに全く成功していない。次のことというのは、三位一体におけるペルソナ(位格)は、おのおのに別々のものでありながら、それらは同質のものであり、~~~なものである、ということである」
どなたか、おわかりになる方がいらっしゃいましたら、どうぞお教え下さい。宜しくお願いします。
No.2ベストアンサー
- 回答日時:
こう言った質問には、中世哲学の専門家でなければ回答できないとは思います。しかし、敢えて、一般人として、「言葉」に関しての私見を述べます。
coeternal のラテン語での元の言葉は、coaeternus です。これは、明らかに、con+aeternus になっています。そこで、aetenus とはどういう意味かという問題です。これは、「永遠の」という意味の形容詞ですが、「永遠の」という言葉の実質意味は何かです。
aeternus の訳語としてはまた、「(不断に)持続する」「間断ない」という意味があります。「永遠」というのは、三つの意味があります。近代的には、「無限の時間経過」というのが第一の意味で、第二に、everlasting 「持続する・永続して止まない」というのが第二の意味で、これが古代での元々の意味だったはずです。第三は、「通常の経過時間を超えた超時間」というような意味です。
第一や第二の意味だと、「前後や後先」が出てきます。しかし、神は、どのように時間的に存在しているかは、「前後や後先」を超越して存在しています。「神の現在=いま」は、「永遠」である訳で、「神のいま」は、空間的に後先のある直線で考えたときの「時間」に対し、「垂直方向」に存在し、神の恩寵とエッセは、垂直方向に「歴史」に対し関与するのだと言えます(参考1,参考2)。
中世哲学において、「神の永遠性」が問題になる場合、三一の神については、それぞれの位格は、「同じ永遠性を備える」と考えるべきです。「永遠性」というのは、「父なる神の永遠性」と「子なる神の永遠性」で、「同じ永遠性」でなければならない、という話です。
「永遠( aeternus )」は、「我々のこの流れる時間」とは「異質な垂直的時間」としてあるのですが、そういう「異質な時間」が、単一であるという証明はないので、三位格がそれぞれに、「異なる永遠」を備えるという可能性もあるので、「同じ永遠を備える」という意味で、coaeternus という言葉が造語されたのだと思います。
「間断ない持続・継続」の aeternus は、神からの恩寵が、「持続するこの時間」において、同期して与えられる、つまり、父からの恩寵、子からの恩寵、聖霊からの恩寵は、「歴史的時間」において、同じ瞬間に、同じものとして与えられる、という風に理解すればよいのではないかと思います(別々の永遠を三位格が持てば、違う瞬間に恩寵が訪れるというようなこともありえるとなります)。
coaeternus に対し、日本語の「定訳」はないと思われます。英語では、coeternal がその訳語として造語されたのでしょうが、日本語の場合は、ケース・バイ・ケースで訳文を造っているようです。
例えば、参考3で、アベラールの時間論への言及がありますが、次のように述べています:
>アベラールにとって知性とは神の全知と永遠に共存するもの(coaeternus)である。
この場合は、「永遠に共存」と訳していますが、「人間の知性(saientia)は、神の全知と同じ永遠(性)を持つ」では、日本語として、意味が分かりにくいためだと思えます。人間に備わる「叡智 sapientia 」は、神の叡智と本質が同じであり、神の叡智は全知であって無限であるに対し、人間の叡智は、その一部で有限であるという違いがあるだけで、「人間の叡智は、神の永遠性と同じ永遠性を備えている」このことを、知性の coaeternus と言うのでしょう(存在 esse が、垂直的に永遠から人間や被造物に付与されるように、叡智も、垂直的に、神の全知から付与されているので、coaetrnus なのだと思います)。
coaeternus の訳語の例として、「アタナシウス信条( Symbolum Quicunque )」に出てくるので、ラテン語-英語訳が並列して示されているページ(参考4)を挙げます。ここでは、26条に、次のようなラテン語原文があります:
>26. Sed totae tres personae coaeternae sibi sunt, et coaequales.
英文を見ると分かりますが、coaeternae と女性複数主格形になっている形容詞に対し、英語では、coeternal を当てています。もう一箇所、coeternal が出てきます。6条で、次のように出てきます:
>6. Sed Patris et Filii et Spiritus Sancti una est divinitas: aequalis gloria, coaeterna majestas.
英文は簡潔に訳していますが、「父・子・聖霊」はそれぞれ属格であり、divinitas(神性)、gloria(榮光)、majestas(尊厳性)にそれぞれかかり、「神性は一」「榮光は同等」「尊厳性は共に永遠」と述べています。
「アタナシウス信条」の日本語訳として、二つを示します(参考5・6):
[参考5]
> 6:しかも父と子と聖霊の神格は……、威厳も同じである。
>26:しかし全三人格は同位同等である。
[参考6]
> 6:しかし、父と子と聖霊の神性は……、尊厳は永遠。
>25:むしろこの三位格はみな、ともに永遠で、同等である。さきに述べたとおり……
参考6は、ラテン語のテクストが、参考4のラテン語文と違っているようです。
なお、「アタナシウス信条」は、ニカイア公会議で、アレイオスと対峙した正統司教アタナシオスの名が冠せられていますが、石原謙の『キリスト教の源流』(岩波書店)の173頁の記述では、アタナシオスと何の関係もなく、後世に造られたものだとされています。(ラテン語で記されていますから、中世に作成されたのでしょう。石原氏の同書、231頁にも、西方教会=カトリック擁護のため、東方教会的伝統と関係なく作成された、と記されています)。
>the Trinitarian persons, although personally distinct, are consubstantial and coeternal.
>三位一体におけるペルソナは、位格としては明瞭に区別されているが、しかし、実質(多分、ギリシア語だと、ousia )を等しくし、同じ永遠性を備える(共に永遠である coaeternae )。
「共に永遠である」の意味は、間違っているかも知れませんが、上に述べたようなことだと思います(ただ、三位一体論は、西欧の神学で、非常に錯綜しており、色々な議論があって、ギリシア語での原語とラテン語での原語を比べたりしなければ、正確には分からないとも言えます)。
(…… ibid. 171 : "mia ousia treis hypostaseis"["一つの本質、三つの実体で" だと思うのですが、よく分かりません。三位一体の一つの表現で、この解釈をめぐり論争があったのです])。
(「永遠に共存」は、人間の知性と神の全知の関係の話で、「共存」という意訳を行ったので、「三つの位格は永遠に共存する」などと言うと、明らかにおかしいです)。
>参考1>No.230634 質問:時間の物理について>No.2 _starflora の回答
>http://oshiete1.goo.ne.jp/kotaeru.php3?q=230634
>参考2>http://oshiete1.goo.ne.jp/kotaeru.php3?q=305411
>No.305411 質問:今触れたものは、永遠?失われる…?>No.3 _aster の回答
>参考3>reconnaissance du temps
>http://homepage.mac.com/mksmzk/archive/2-2.html
>参考4:アタナシウス信条>Symbolum Quicunque: The Athanasian Creed
>http://www.ccel.org/s/schaff/creeds2/htm/ii.xii. …
>参考5>資料集ETH23
>http://www.aguro.jp/file/e/eth23p.htm
>参考6>三大信条
>http://www.remus.dti.ne.jp/~hiromi-y/sinzyou.html
参考URL:http://homepage.mac.com/mksmzk/archive/2-2.html,http://www.ccel.org/s/schaff/creeds2/htm/ii.xii. …
お礼が遅くなり、申し訳在りませんでした。丁寧な回答で、とても参考になりました。結論としては、日本語の定訳はないということですね。英語→ラテン語と遡って、意味を把握すべし、と。いずれにしても、三位一体はよくわかりませんね。
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