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ATPを作る時にはビタミンB群や酸素が必要で、疲れた時にはビタミンB群の服用が疲れを取り除くとか言われていますが、実際にビタミンB群が不足してクエン酸回路が回らないってことはあるのでしょうか。負荷の強い運動をして酸素が足りないってのはイメージできるのですが、、、ご教授お願いいたします。

A 回答 (12件中1~10件)

 脚気と並んで問題となる運動失調症について。



 運動麻痺がないにもかかわらず,随意運動がうまく行われない状態に対して用いられたことばであるが,その概念をはっきりと定着させたのはデュシェンヌ・ド・ブーローニュ Guillaume B. A.Duchenne de Boulogne(1806‐75)である。彼は1858年に脊髄癆(せきずいろう)の運動障害について述べ,それが運動麻痺によるものではなく,運動を遂行するにあたって,作動すべきいくつかの筋肉の協調がうまくいかないために生ずることを明らかにした。彼はこの病態に対し運動失調症locomotor ataxia の語を与えた。次いで20世紀初頭にバビンスキー Josef F. F. Babinski(1857‐1932)は,小脳の病変によって生ずる運動障害を綿密に観察し,それが深部知覚障害に基づく脊髄癆の運動失調症とは異なるものであることを強調し,小脳症状としての運動障害に対しては協調障害 incoordination と呼ぶべきであるとした。このため運動失調症という用語を狭義に解釈し,これを後述のような脊髄癆性失調症に対してのみ用いるという立場をとる学者もあるが,今日では随意運動の障害のうち運動麻痺や筋力の低下に基づくものではないものをすべて運動失調症ataxia と呼ぶことが多い。このような広義の運動失調症には数々の異なった病態が含まれているが,その中で最も主要な位置を占めるのは脊髄癆性失調症,小脳性失調症,および迷路性失調症の三つである。
[脊髄癆性失調症 tabetic ataxia]
 関節位置覚,運動覚などの深部感覚の障害によって生ずるものであり,深部感覚の障害されるような病態で共通に認められる。その原因としては脊髄癆が最も古典的なものであるが,ほかにフリードライヒ病 Friedreich ataxia のような脊髄小脳変性症,糖尿病やギラン=バレー症候群のような多発性神経炎または多発性根神経炎,ビタミン B12欠乏症にみられる亜急性連合索変性症,脊髄腫瘍などでも,同様の現象がみられる。下肢に失調症のみられることが多く,起立や歩行時の平衡障害が著しい。起立を命ぜられて,起き上がるのにふつう不自由はないが,起立位を保っているとふらつきが強くなり上体が大きく揺れてくる。このとき,眼を閉じさせると,揺れはいっそう激しくなり,よろけて倒れてしまう。しかし眼を開ければ揺れは少なくなり,立ち続けることができる。また開眼していてもまわりが暗く,まわりをよく見ることができないような場合にも,眼を閉じたときと同じように揺れて倒れる。このようなことは日常生活の中でもしばしばみられ,脊髄癆の患者は暗がりで立ったり歩いたりすると転倒しやすく,また顔を洗うために眼を閉じると,とたんに体がよろける。これを洗面現象 Waschbeckenph∵nomen という。暗がりでの転倒や洗面現象は自覚症状として訴えられることの多い症状である。また脊髄癆性失調症では脊髄癆性歩行 tabetic gait という独特の歩行障害を呈する。一歩一歩不必要なほど大きく足を上げ,次いで床にたたきつけるように踵から足を激しく振り下ろして歩く。このため勢い余って体がよろけてしまうほどである。症状の軽いときには,急に立ち止まったり,すばやくまわれ右をしたり,跳躍をしたときなどに,初めて体の動揺が生ずるだけのこともある。患者にとって最も困難なのは階段を下りるときであり,病気の初期から手すりなどにつかまらないと降段ができなくなってしまうことが多い。このような現象は,下肢の深部感覚障害によって,随意運動の大きさや強さを調節するために必要な末梢からのフィードバックが失われてしまうためのものである。上肢の深部知覚に障害がある場合には,上肢にも失調症状が出現し,書字が乱れるようになったり,ネクタイを結んだりボタンをかけたりすることがうまくできなくなることもある。
[小脳性失調症 cerebellar ataxia]
 小脳をおかすきわめて多数の病気でみられるものであり,やはり起立や歩行における平衡障害が生ずるのと同時に,上肢の運動障害,言語障害など,広い範囲にわたる運動障害を生じやすい。起立歩行の障害は,脊髄癆性失調症の場合とは異なって,眼を閉じても平衡障害が強くなることはない。ちょうどアルコールに酔っぱらったときのように,体が不安定となって揺れてしまうためにうまく立っていることができず,歩行もよろよろと左右に揺れてしまう。また,ろれつがまわらずうまくしゃべれなくなり,話す速度が遅くなり,一つ一つの音節の発音は明りょうであるのに,一つの音節から次の音節への変化が不明りょうかつ円滑でなくなるのが特徴である。上肢の運動もやはり強く障害されることが多い。物をつかんだりしようとすると,手は目標を行きすぎてしまったり,大きく揺れて一定の位置を保つことができなかったりする。字を書いたり,はしを扱ったりすることはとくに早期からおかされやすい。小脳性失調症における失調症状は筋緊張低下(ヒポトニー hypotonia),異なる筋群の間の協調障害(アジネルジー asynergia),随意筋収縮の開始の遅れ dischronometria など,随意運動のコントロールに重要ないくつかの要素に対する障害が合わさって生ずるものと考えられている。
[迷路性失調症 labyrinthine ataxia]
 起立歩行時の平衡障害のみを生じ,体肢の個々の運動や,言語の障害は認められない。これは内耳の迷路,とくに三半規管や前庭,およびそこに由来する平衡感覚を受容する神経系の構造である前庭神経や前庭神経核の病変によって生ずるものである。起立・歩行でよろけやすく,とくに急激な方向転換や回転などで動揺が増し転倒してしまう。脊髄癆性失調症と同様,眼を閉じると平衡障害は強くなる。すなわち,迷路性失調症もまた視覚によって代償されやすい。
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[葉酸 folic acid]


 ビタミン B12と同様に,悪性貧血に関与する水溶性ビタミンであり,ビタミンM,ビタミン BC とも呼ばれた。動物細胞においては合成することができないために,食品から葉酸を摂取する必要がある。
(1)生理作用 生体内の種々の反応における C1化合物の転移反応に関与する補酵素として作用している。また,アミノ酸代謝,タンパク質合成,メタン生成などにも関与している。
(2)欠乏症
 葉酸が欠乏すると,大赤血球性の貧血になり,骨髄では巨赤芽球の出現がみられる。妊娠時には,葉酸は大量に消費されるので不足しがちになり,妊娠性巨赤芽球性貧血を発症することもある。ニワトリひなの食品性貧血の予防と治療,さらに哺乳類の抗貧血因子として有効である。
(3)過剰症 ヒトに対する副作用は,1日5mg程度の葉酸を長期間投与しても観察されてはいない。しかしながら,ラットやウサギに大量投与(40~75mg/kg体重)すると,腎障害がみられるという。(とりあえず、ビタミンB群はここまで)
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 難しいということは、情報が不足ということですね。

頑張ってみます。

[ビタミン B1]  水溶性ビタミンで,チアミンthiamine,アノイリン aneurin とも呼ばれる。脚気を予防するビタミン(抗脚気因子)として発見された。鈴木梅太郎のオリザニンもこれにあたる。
(1)生理作用
 ビタミン B1はチアミンピロホスホキナーゼにより,チアミンピロリン酸が合成されて,補酵素として作用している。この補酵素は主として糖質代謝に関与するもので,ビタミン B1の1日の所要量は摂取エネルギー1000kcal当り0.4mgとされ,成人男子では1日0.9~1.0mg,女子では0.8mgである。
(2)欠乏症
 健康人の血液中のビタミン B1濃度は68.1±31.2ng/ml であり,40ng/ml 以下になると欠乏症,すなわち脚気が起こる。ビタミン B1の欠乏症としては,神経痛,筋肉痛,関節痛,末梢神経炎,末梢神経麻痺,心筋代謝障害などが報告されている。激しい肉体労働時や消耗性疾患では,ビタミン B1の需要が増大する。さらに,食事からのビタミン B1摂取が不規則で,ビタミン B1が潜在的に欠乏しているような状況では,脳や神経系におけるグルコースの利用が円滑に行われなくなるので,多発性神経炎症状が起こりやすいといわれている。
(3)過剰症
 ヒトでは,ビタミン B1の大量投与を長期間(数ヵ月)続けても副作用はみられず,血液や臓器にも病理学的変化はみられないといわれている。
[ビタミン B2]
 ビタミン B 複合体のうち,耐熱性の成長促進因子として発見されたものであり,化学名リボフラビン riboflavin。
(1)生理作用 リボフラビンは,植物や多くの微生物によって合成されるが,高等動物においては合成されない。生体内では,フラビンタンパク質またはフラビン酵素と呼ばれる酸化還元酵素として機能している。牛乳,卵,鶏肉,魚介類,胚芽,酵母,肝臓などに多く含まれており,また豆類,緑色野菜,海藻,シイタケなどにも多い。成人の1日必要量は1.0~1.4mgである。
(2)欠乏症
 ビタミン B2の摂取不足,体内でのエネルギー消費の増大,腸内細菌叢によるビタミン B2合成の低下,ビタミン B2の吸収不良,補酵素への合成障害,酵素反応阻害などによって,欠乏状態をひき起こす。欠乏症状としては,口内炎,舌炎,咽頭痛,脂漏性皮膚炎,角膜辺縁血管増生などがみられ,小児では肛門周囲あるいは陰部に皮膚炎がみられる。精神安定剤,抗生物質,副腎皮質ホルモンなどの投与時,糖尿病,肝臓疾患,脳下垂体疾患でも欠乏症がみられるという。
(3)過剰症
 リボフラビンは,1日の必要量の数百倍を長期間投与しても無害であり,血液や臓器にも病理学的変化は生じないといわれている。
[ニコチン酸 nicotinic acid]
 ナイアシンniacin ともいう。ビタミン B 群に属する水溶性ビタミンの一種である。
(1)生理作用
 補酵素,NAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド),および NADP(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸)の成分として,酸化還元反応の水素の受容体として作用している。植物や動物の体内においては,トリプトファンからニコチン酸を合成することができる。トリプトファン60mgは,ニコチン酸1mgに相当するといわれている。1日の所要量は食物中のトリプトファン含量によっても変わるが,成人では11~17mgとされる。
(2)欠乏症
 ニコチン酸の欠乏症としては,イヌの黒舌病,ヒトのペラグラ pellagra などがある。ペラグラは,動物性タンパク質の摂取が少なく,トウモロコシを多食している地方に,地方病としてみられる。ペラグラの主症状は,皮膚炎,消化器障害,精神障害などである。米のトリプトファンやニコチン酸の含量は,トウモロコシのそれとほとんど変わらないが,米を主食とする地方ではペラグラはみられない。それゆえ,ペラグラの発症要因は,ニコチン酸やトリプトファンの欠乏によるのではなく,他の要因によるとも考えられている。トウモロコシはロイシンの含量が高いので,ロイシンやイソロイシンのアンバランスによって,ニコチン酸や他のビタミン B 群の複合的な欠乏状態をひき起こすためではないかとも考えられている。
(3)過剰症
 ニコチン酸を多量に摂取すると,皮膚紅潮,仰痒(そうよう)感,胃腸障害を起こすといわれている。血清コレステロールを低下する作用も報告されているが,その機序は明らかでない。
[ビタミン B6]
 水溶性ビタミンで,構造の密接に関連した三つの誘導体であるピリドキシンpyridoxine,ピリドキサール pyridoxal,ピリドキサミン pyridoxamine の総称である。この三つの誘導体は,酵素反応により相互に転換することができる。ビタミン B6は,動物では肝臓,腎臓,筋肉に多い。また,酵母,豆類,穀類に多い。
(1)生理作用 タンパク質の代謝に重要な役割を示している。また,大脳では,神経伝達物質の生成,ならびに刺激伝達に必要なアミン類の生成に関与している。
(2)欠乏症
 ヒトでは腸内細菌によって合成されるので,欠乏症はほとんどみられない。ビタミン B6の拮抗剤を投与した場合には,痙攣(けいれん),皮膚炎などがひき起こされる。先天性の代謝異常症に,ビタミン B6酵素の異常によるものが知られている。これには,ビタミン B6依存性痙攣,ビタミン B6反応性貧血,シスタチオニン尿症,キサンツレン酸尿症,ホモシスチン尿症などがあり,痙攣,貧血,知能障害などがみられる。
(3)過剰症
 ビタミン B6は,1日1000μg を数週間あるいは数ヵ月間継続した場合でも,過剰症や副作用は認められない。
[パントテン酸 pantothenic acid]
 ビタミン B 群の一つであり,食品中には広く分布している。動物組織,未精白の穀物類,豆類に豊富に含まれている。微生物の生育因子,ニワトリひなの皮膚炎防止因子として発見され,その後,動物の成長にも不可欠なことが明らかにされた。
(1)生理作用 パントテン酸は,エネルギー代謝や解毒に重要な役割をもつ CoA の構成要素として機能している。また,長鎖脂肪酸,リン脂質,ならびにステロイドの生合成にも関与している。
(2)欠乏症
 ヒトにみられる特異的なパントテン酸欠乏の症状は,実験的に拮抗剤を投与した場合にだけ観察される。パントテン酸の欠乏は,他のビタミン B 群の欠乏を伴うことが多い。欠乏症状としては,副腎,皮膚,末梢神経,消化管,生殖機能,抗体産生などの機能障害が観察されている。
(3)過剰症
 パントテン酸は,大量投与により副作用は認められず,また過剰症についてもほとんど報告されていない。
[ビオチン biotin]  ビタミン B 複合体の一つであり,天然の食品に広く分布し,ビタミン H,補酵素 R とも呼ばれた。酵母の増殖に必要な因子として卵黄から単離された。
(1)生理作用
 生の卵白を大量に摂取すると,卵白に含まれるアビジンが腸内でビオチンと結合して,ビオチンの吸収を妨げるために,卵白障害というビタミン欠乏症がみられる。ビオチンは,この障害を防ぐ因子として見つけられたので,抗卵白障害因子ともいわれた。ビオチンの利用効率は,食品の種類によって異なる。大豆やトウモロコシのビオチンは完全に利用されるのに対し,小麦のビオチンはほとんど利用されない。卵黄,動物組織,トマト,酵母は優れたビオチンの供給源である。
(2)欠乏症
 腸内細菌によって合成されるので,欠乏症状はほとんどみられない。腸内細菌叢を減少させるような抗菌薬剤を投与すると,容易にビオチン欠乏が起こる。ビオチン欠乏の症状としては,結膜炎,皮膚や粘膜の灰色退色ならびに落漢(らくせつ),筋肉痛,疲労感などがあり,それとともに血糖値が著しく上昇する。
(3)過剰症 ビオチンは,ヒトならびに動物実験において,大量投与による副作用はみられないと考えられている。

[ビタミン B12]
 肝臓に含まれる抗悪性貧血因子として単離された B 群ビタミンの一つである。コバラミン cobalamin とも呼ばれ,中心にコバルトイオンをもっている。植物ならびに酵母以外の生物に広く分布し,とくにウシ肝臓,卵黄,魚肉中に多く含まれている。酵母や高等植物の一部にも,ビタミン B12ならびにビタミン B12依存酵素の存在が認められているが,その詳細は明らかでない。
(1)生理作用
 ビタミン B12は,多くの動物の正常な発育にとって不可欠であり,血球の生成,腸管の上皮細胞の成熟など核酸やタンパク質の合成をはじめ,脂質や糖質の代謝にも関係している。
(2)欠乏症
 普通の食事をしていて,ビタミン B12の欠乏症になることはほとんどない。ビタミン B12の吸収障害,輸送異常ならびに代謝異常に伴って,ビタミン B12の欠乏状態がみられる。欠乏症状としては,巨赤芽球性貧血,赤色舌,運動失調,昏睡などがみられる。代謝異常によるものでは,アシドーシス,発育障害,嘔吐などがみられる。
(3)過剰症
 ビタミン B12の過剰投与による組織学的障害はほとんど報告されておらず,またヒトにおけるビタミン B12過剰症も報告されてはいない。(続く)
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[無脊椎動物の呼吸器官]


 無脊椎動物で分化した呼吸器官にはえら,気管,肺があるが,特別の呼吸器官をもたないものも多く(腔腸動物,扁形動物,袋形動物,触手動物,棘皮(きよくひ)動物など),これらでは体外,体内の表皮を通して呼吸が行われ,とくに触手などの薄くなった表皮に集中する。軟体動物のえらは,基本的には体側壁が外套腔(がいとうこう)内に突出したくしえら(侯鰓)で,入鰓(にゆうさい)血管と出鰓血管が通る扁平な軸部に薄いえら板(鰓板(さいばん))がくしの歯状に列生して呼吸上皮を形成している。えら板には繊毛があって,水流を起こして呼吸のための換水をするが,頭足類では外套筋の運動で換水する。多板類,単板類ではくしえらは多対あるが,腹足類では体が巻くため片側では消失し,あるいは全部消失して二次的に外套膜の一部が突起してえらとなり,陸生のものでは外套腔壁が肺となる。二枚貝類のえら板は,糸状になって折れ曲がり結合したりして,複雑な構造となっている。多毛類では,いぼ足にある背触鬚(はいしよくしゆ)あるいは腹触鬚が葉状,糸状,樹枝状などに変形して,えらを形成している。羽状触手は呼吸上皮としての役割を果たすが,えらではない。節足動物では,付属肢の付属突起が変形してえらを形成している。剣尾類のえらは書鰓といわれ,腹肢の後面に列生している100~150枚の葉状突起で構成されている。甲殻類のえらには簡単な板状のものもあるが,十脚類の分化したものでは,葉状,糸状,樹枝状の鰓条が列生した構造となり,胸肢の基部に形成されるが,その部位,数は種類により多様である。一般に頭胸甲の側甲で覆われた鰓室内に保護され,付属肢あるいはその特化した部分を動かして換水する。口脚類や等脚類では腹肢の一部分がえらの役割をするよう変形している。橈脚類(じようきやくるい)などの小型の群では特別の呼吸器官はない。昆虫類の水生幼虫には,主として腹部から突出した羽状,総状のえらがあり,血管のかわりに気管小枝が入り込んでいるのが特徴的である。トンボ類幼虫の直腸鰓は,直腸壁に形成された微細なひだで,内部には気管小枝が密に分布しており,肛門を通して換水される。半索動物のえらは咽頭にあいた1~多対の鰓裂で,消化管内と体外とを連絡しており,基本的には脊椎動物の鰓裂と同じ構造のものである。ホヤ類では鰓裂は細分して多数の小孔となり,咽頭は繊毛を密生した網目状の鰓臥となって囲鰓腔の中に包み込まれ,出水口で体外に通じる。気管は,体表皮の一部が体内におち込んで呼吸上皮を体組織中に入り込ませている構造物で,主として陸生の昆虫類,多足類,蛛形類(ちゆけいるい),有爪類(ゆうそうるい)に発達している。軟体動物有肺類にある肺といわれるものは,外套腔体壁に毛細血管が分岐,結合しながら密集して呼吸上皮を形成しているものである。外套腔は呼吸孔をのこして薄い隔壁で閉じられて呼吸気室となり,水分の蒸発を防ぐとともにその下面の筋肉を上下させて換気する。ナマコ類には,直腸から体腔内に膨出した樹状の薄膜管で作られた呼吸樹(水肺)と呼ばれる器官があり,呼吸に用いられる。肛門と直腸の運動によってその管内を換水する。

[脊椎動物の呼吸器官]
 脊椎動物では,外呼吸に関与する器官には口,鼻,咽頭,喉頭,鰓裂,皮膚,腸管壁などもあるが,これらは呼吸以外に重要な機能も備えているので,普通は呼吸器官には数えない。水呼吸を行う水生脊椎動物の呼吸器官はえらであり,空気呼吸をする動物のそれは肺とその付属器官である。えらはほぼ樹状またはくし状の器官で,その外表面が呼吸作用をもつのに対し,肺は袋状の構造でその内表面が呼吸機能をもつ。また発生学的には,えらは咽頭の側壁に現れる内臓弓(鰓弓)の表面から発生するのに対して,肺は内臓弓の後方の消化管の膨出から生ずるもので,構造的にも発生的にもまったく別個の器官である。高等硬骨魚類だった古生代の総鰭類(そうきるい)はえらで水呼吸をしていたが,それと同時に肺を備え,口腔へ貫通した鼻孔によって空気呼吸をも行うようになっていた(現存の総鰭類であるシーラカンス類は空気呼吸はせず,もっぱらえらによる水呼吸をする)。その直接の子孫である両生類では,幼生(オタマジャクシ)はえら(カエルは内鰓,イモリとサンショウウオは外鰓)で水呼吸をするが,変態して両生化するにつれてえらは退化していき,それに代わって肺が発生し,やがて肺呼吸に頼るようになる。もっとも,えらが消失しても肺は発生せず,外呼吸は皮膚だけに頼るもの(ハコネサンショウウオ,アメリカサンショウウオ)や,天然状態では生殖可能になりながらもえらを終生維持し(この現象をネオテニーという),水呼吸を続けるもの(エゾサンショウウオ,メキシコサンショウウオ∥別名アホロートル)が知られている。現生の肺魚類は水呼吸のためのえらと空気呼吸のための肺をともに備えている。比較発生学的に知られるところでは,硬骨魚類のうきぶくろは肺と相同の器官である。また古生物学的な証拠によれば,空気呼吸をする水生動物にはじめに肺が現れ,次いで水呼吸をする魚類でこれが浮力調節器官であるうきぶくろへ変形したと考えられている。したがって肺とうきぶくろを兼備する動物はいない。
 えらと肺とに共通する点が二つあり,その一つはガス交換という生理的機能である。他の一つはえらの外面,肺の内面は総面積がひじょうに大きく,その表面はきわめて薄い上皮に覆われ,そこに毛細血管が豊富に分布しているという形態的共通点である。血液を通じてのガス交換という共通の機能はこの共通の構造によって達成される。(終わり)
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 組織の毛細血管部で,周囲の組織との間にガス交換(組織呼吸)が起こる。

組織液の O2分圧は細胞の代謝活動によって変化するが,平均40mmHg(20~45mmHg)で,動脈血 O2分圧との間に55mmHgの分圧差があって拡散によって平衡に達し,毛細血管を流れていく血液の O2分圧は40mmHgとなっている。一般に細胞内は細胞外液よりも O2分圧が低く(平均6mmHg),拡散によってO2は組織液から細胞内へと移っていく。細胞内代謝が正常に起こるために必要な O2分圧は1~5mmHgである。細胞や組織の CO2分圧は平均45mmHg,動脈血 CO2分圧は40mmHgで分圧差は小さいが,CO2は拡散性が大であるから速やかに平衡に達する。
[呼吸中枢と呼吸調節]
 生体の酸素需要と炭酸ガスの産生は時々刻々変化していて,これに応じて呼吸運動の頻度と深さが調節され,肺胞換気が増減して体の O2分圧,CO2分圧が一定に保たれる。このような呼吸調節は,脳幹の呼吸中枢による横隔膜と肋間筋の周期的収縮を主体とする呼吸運動の制御,呼吸反射による神経性調節,それと体内の O2分圧,CO2分圧,水素イオン濃度(pH)などの化学的呼吸調節因子による化学調節のメカニズムによって,絶えず促進的,抑制的な影響を受けて行われている。
 呼吸運動は,胸腹部の広い範囲に存在する横隔膜や肋間筋など,多数の呼吸筋の秩序正しい協調活動によって,円滑な吸息運動と呼息運動が交代することで維持されている。呼吸筋の活動を支配している多数の運動ニューロンは脳と脊髄の広い領域に分布しているが,これらは脳幹部の特定の領域にある呼吸中枢によって統合的に制御されている。以下に述べる多数の呼吸調節のメカニズムの大多数は,フィードバック型のループをつくっていて,神経性および化学調節の調節因子による中枢神経系への求心性入力のほとんどすべてがこの呼吸中枢に収束し,呼吸調節の効果は呼吸中枢からの神経性出力の変化として現れてくる。
 呼吸反射による神経性調節には,気道にある肺伸張受容器から起こるヘーリング=ブロイエル反射,肺刺激受容器,肺胞壁の J 受容器から起こる反射,肺血管反射,肺化学反射などをふくむ肺迷走神経反射がある。また,気道とくに咽頭,喉頭,気管,気管支内面にある咳の受容器の機械的および化学的刺激によって発生する求心性インパルスが,肺迷走神経内を上行して延髄に達してひき起こされる咳の反射,鼻腔内の受容器から三叉神経内を上行する求心性インパルスによって起こるくしゃみの反射のように,防御反射としての意味をもつ反射がある。このほか,皮膚,粘膜の化学刺激,温熱,機械的刺激などに応ずる非特異的受容器,骨格筋と腱の固有受容器からの反射も知られている。呼吸運動は精神感動,睡眠,身体運動によっても変化し,また,ある範囲内では随意的に促進(深呼吸),抑制(息こらえ)することができることから考えて,脳の高位中枢(前頭葉,辺縁系,視床下部,その他上位の脳,脳幹部,脊髄に存在する呼吸関連領域,体温調節,発語,発声,嘔吐,嚥下,あくびに関係している中枢内の部位)との機能的結合があると推定されている。循環反射のメカニズムでもある頸動脈洞,大動脈弓の圧受容器も呼吸運動に影響を与える。化学的調節因子のうち動脈血の O2分圧,CO2分圧,pHは頸動脈小体,大動脈小体の化学受容器を介して,髄液のpHの変化は延髄腹面の中枢性化学受容性領野の関与によって呼吸運動に影響し,血中の性ホルモンも影響する。しゃっくりは横隔膜の痙攣(けいれん)性収縮によって起こる発作的呼吸運動であり,声門が閉じているので奇妙な発声と特有な感覚が生ずるが,呼吸調節系の異常によって起こると推測されてはいるものの,発現のメカニズムは不明である。
 身体の運動を行うとき,運動開始とともに換気量は著しく増加する。このときの肺胞気の CO2分圧の上昇は軽く,身体運動による呼吸運動の促進と換気量増加を説明することはできない。O2分圧,CO2分圧以外の原因として種々の因子が考えられているが,呼吸促進がきわめて速やかに現れること,受動的に運動させた場合にも起こることから,神経性因子の働きが有力視されている。すなわち大脳皮質の運動野から脊髄へ送られる遠心性インパルスが,脳幹部の呼吸中枢に促進的に影響し,また屈伸によって四肢の関節の受容器から求心性インパルスが呼吸中枢に伝えられて,呼吸運動の促進,換気量の増加が起こると考えられている。
[呼吸の異常]
 すでに述べたように,健康人の呼吸数は安静時1分間に平均11.7回,1回の呼吸量は約500ml で,リズム,深さともほぼ一様に保たれ,通常は自覚されないが,このような正常な呼吸運動は,上記の呼吸調節機構の異常をはじめいろいろの原因によって,さまざまの異常をきたすことがある。呼吸の深さ,リズムなどの変化は,呼吸中枢の障害のほか,大脳・脳幹の障害,呼吸筋の萎縮・麻痺,胸郭・肺の弾性・粘性の変化,肺のガス交換機能障害,動脈血組成に影響を与える糖尿病性アシドーシス,腎機能障害など多くの原因によって起こる。一般に,呼吸リズムの乱れは中枢神経の障害,浅く速い呼吸は肺・胸郭の硬くなる変化,遅い呼吸は気道の閉塞性障害,大きく速い呼吸は動脈血組成の異常による場合が多い。
(1)回数,深さの異常 頻呼吸は呼吸数の増加した場合を指し,一般に呼吸の深さは浅くなる。正常人での運動後に見られるほか,肺繊維症,僧帽弁狭窄症による肺鬱血(はいうつけつ)などの拘束性換気障害において認められる。これは,肺が硬くて伸びにくくなるために,ヘーリング=ブロイエル反射効果の変化や呼吸筋内受容器の刺激で速く浅い呼吸になるものと思われる。毎回の呼吸量が異常に増加した状態が呼吸亢進であって,神経症患者に多く認められる。徐呼吸は呼吸数が病的に減少した場合を指す。クスマウル大呼吸は持続的に著しい呼吸亢進と徐呼吸が共存する場合で,糖尿病,尿毒症,コレラの昏睡時などに多く認められ,生体の代謝性アシドーシスに対する反応と解される。呼吸低下は毎回の呼吸量が減少した場合で,睡眠時にしばしば認められるほか,呼吸筋麻痺で頻呼吸とともに認められることが多い。
(2)リズムの異常 呼吸の深さ,回数が一定でなく,周期的に変化するので,一般に周期呼吸と呼ぶ。チェーン=ストークス呼吸は,浅い呼吸からしだいに深い呼吸となり,再び浅くなって,15~60秒の無呼吸期に移行するという周期を,比較的規則的に繰り返す呼吸である。大脳半球から間脳にかけての障害による意識障害,心臓や肺の病気の重症末期に多く認められるが,最近では老年者の睡眠中にも比較的しばしば出現することがわかってきた。原因に関してはまだ定説はないが,呼吸中枢の血中二酸化炭素レベルに対する感受性の低下あるいは感度の不安定化,血中二酸化炭素レベルを決定するうえで主役となる肺と,それを感知する呼吸中枢間の血液循環時間の遅れなどが関係しているといわれる。ビオー呼吸は失調性呼吸とも呼ばれ,チェーン=ストークス呼吸のように深さの周期的変化はなく,急激な短い呼吸の間に,持続時間の一定しない停止期のある呼吸で,主として髄膜炎において見られ,呼吸中枢の延髄レベルでの脳障害に関連するといわれる。ため息呼吸は,正常な呼吸が,ときどき深い吸気とこれに続く長い呼気で中断されるもので,神経症や神経循環無力症に多く認められる。
(3)外観の異常 口すぼめ呼吸は,呼気に際して口をすぼめて気道内圧をあげ,気道閉塞を軽減しようと無意識に行っている呼吸で,進行した慢性肺気腫患者に見られる。鼻翼呼吸は呼吸困難のある場合に見られるもので,鼻翼が呼吸に伴って動く場合をいう。細気管支炎,肺炎,鬱血性心不全,自然気胸などに多く見られる。ただし,子どもでは興奮すると呼吸時に鼻翼が運動するので,これだけでは呼吸障害の症状とはいえない。起座呼吸は,寝ていると呼吸困難が強いため起き上がってしまっている状態で,急激に起こった肺鬱血の症状とされてきたが,気管支喘息(ぜんそく)や慢性肺気腫でも見られることがある。下顎呼吸は,吸息時に下あごが上方に上がり,呼息とともにゆるやかに下がるもので,呼吸はしばしば不規則となる。采死の重症患者に見られる。喉性呼吸は同様に采死または昏睡の患者に見られ,かたわらにいる人にも聞こえるほど,ごろごろまたはぜいぜいいう音を伴う呼吸である。咳反射が不十分なため,気管や気管支に痰が貯留し,その中を空気が通るために起こる。

【呼吸器官 respiratory organ】
 外呼吸を主要な機能とする器官。植物では呼吸根のような特殊化したものがあるが,一般には通気組織と気孔が空気の通路となっており,とくに呼吸器官と呼べるものはない。(続く)

この回答への補足

折角お答えいただきましたが難しいことはわかりません。

補足日時:2012/11/30 10:34
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 吸息は直ちに呼息へ移行するが,通常,呼息と次の吸息の間には休止期がある。

呼吸数は新生児では1分間に29回(未熟児では34回),健康な成人では安静時1分間に平均11.7(10.1~13.1)回,軽労働時に平均17.1(15.7~18.2)回,重労働時に平均21.2(18.6~23.3)回で,24回をこえることはない。呼吸筋として横隔膜がおもに働く場合を腹式呼吸,肋間筋が主体となる場合を胸式呼吸というが,自然の呼吸運動では両方が共存している。おおよそ,肺活量の2/3が横隔膜の運動に,1/3が胸郭の運動によっている。男子では女子に比べて腹式呼吸の割合が大きく,とくに高齢者ではこの割合がさらに大きくなるが,これは加齢による胸郭の伸展性の減少のためと考えられている。
 呼吸運動は,脳幹部の呼吸中枢で形成される自動的周期性興奮が,呼吸筋支配運動ニューロンを経由して呼吸筋へ送られることによって起こる。たとえば横隔膜は,第3・4頸髄の運動ニューロン群から発する横隔神経に支配されているので,それ以下のレベルでの脊髄損傷で肋間筋の運動麻痺が起こっても,横隔膜による呼吸運動は続けることができる。
[肺気量と肺容量]
 安静時呼吸での呼息後,胸郭は中間状態,安静時呼息位(基準位)にある。安静時呼吸において出入する空気量,すなわち1回換気量は成人男子で約500ml である。さらに努力吸入により最大約2500ml(予備吸気量)を吸入できる。安静時呼息位からさらに強制呼息によって呼出できる量(予備呼気量)は最大1500ml である。このときなお肺内に残るガス量(残気量)が約1200ml ある。これらの基本的な肺気量は lungvolume として表され,それらの組合せによる肺容量は lung capacity として表される。capacity として表されるものには,たとえば全肺容量や機能的残気量がある。前者は前記の肺気量すべての和(約6000ml)であり,後者は予備呼気量と残気量の和(約2700ml)である。肺活量もcapacity の一つであって,最大吸息位から最大呼息位,すなわち,1回換気量,予備吸気量,予備呼気量の和(約4500ml)をいう。したがって全肺容量は肺活量に残気量を加えたものでもある。残気量と全肺容量以外の各量はスパイロメーターspirometer(スピロメーターともいう。肺気量計)によって測定され,肺気量測定はコンプライアンス,動作時の呼吸機能検査や肺機能検査に応用される。なお1分間に呼吸気道に入った外気量を分時換気量という。上にあげた種々の気量や容量は年齢,性別,体質,訓練によって個人個人で著しく異なる。したがって肺気量測定結果の絶対値よりも肺気量の変化のほうが重要であって,たとえば肺疾患の経過を監視するのはこのことによる。1回の安静呼吸によって肺胞に入る新鮮な外気量は350ml で,これが機能的残気量約2700ml と混合するのであるから,1回の安静呼吸の換気率は約1/8である。このことは肺胞気の組成が呼吸周期によって大きく変動せず,ほぼ一定の値を保つことができ,呼息相においても血液とのガス交換を可能にしている。
[肺胞におけるガス交換]
 肺でのガス交換には肺胞換気が重要である。しかし呼吸系のうち肺胞までの空気の通過経路となる部分,すなわち口腔,鼻腔,咽喉頭腔,気管,気管支などはガス交換に関与しないので,これらの諸部分の空間容積(約150ml)を死腔または解剖学的死腔という。ところが種々の原因で一部の肺胞が機能的にガス交換に関与しないような場合,これも一種の死腔と考えられるので,この死腔を前記の解剖学的死腔に加えたものを機能的死腔(または生理学的死腔)といっている。健康人ではこの二つの死腔はほぼ等しいが,病的状態では機能的死腔が解剖学的死腔よりも大きくなる。解剖学的死腔は吸気が肺胞へ到達するために必要な経路となること,死腔で吸気の清浄化,加湿,加温が行われること,死腔の一部が発声器官の一部を構成していることなど,重要な機能を果たしている。
 1回換気量のうちの肺胞換気量とよばれる部分だけが肺胞に接する。したがって肺胞換気の程度は,肺胞ガスの組成に直接影響を与えるので重要である。健康人の肺胞換気量は1分間当り約4l,これに対する肺毛細血管血流量は約5l/分で,その割合,換気血流比は約0.8である。外気が呼吸気道を通って肺胞に達すると水蒸気で飽和され,37℃に加温される。水蒸気の圧力は47mmHgで,肺胞気の圧力は大気圧に等しいから,肺胞気の O2分圧は104mmHg,CO2分圧は40mmHgである。呼気は死腔のガスと肺胞気との混合物であり,安静時の呼吸では呼気の1/3が死腔気,2/3が肺胞気で,そのガス組成は水蒸気飽和空気と肺胞気の中間値となる。
 肺胞の平均直径は約0.1mm,ガス交換が起こる全肺胞面積は約70m2と推定されている。それに接する毛細血管には75~100ml の血液が含まれ,ミクロン単位の厚さの膜をへだてて約2000ml の肺胞気との間で O2と CO2の交換が行われる。ガスの拡散は圧力のこう配によって起こる。肺胞気の O2分圧は100mmHg,静脈血では40mmHgで,その差は60mmHgである。CO2分圧はそれぞれ肺胞気で40mmHg,静脈血では46mmHg,その差は6mmHgであるが,CO2の膜の拡散速度は O2のそれの20倍もあるので,十分な交換が行われる。拡散に有効な膜の面積は拡散の過程に影響し,正常面積の1/3~1/4になると安静時でも換気障害が起こる。激しい運動時には膜の表面積のわずかな減少でも影響が大きい。肺胞気と血液の間には肺胞上皮,基底膜,毛細血管内皮があり,これらを一まとめにして呼吸膜(肺膜)といい,厚さは0.1~1μ で,ガスはこれらを通過せねばならない。毛細血管の直径は7μ 前後で,ほぼ赤血球の大きさである。O2もCO2も呼吸膜を容易に通過するが,肺浮腫などで間質液が貯留すると拡散距離が長くなって,換気不全が起こる。
 拡散の距離は短く,血漿(けつしよう)までが約1μ,赤血球内で約1μ と見積もられ,肺胞と赤血球が互いに接触している時間(1秒以下)内に分圧の平衡がなりたつと考えられる(血液から肺胞気への CO2の拡散はきわめて速く,0.4秒以内にほぼガス平衡に達する)。動脈血化した毛細血管内の血液の O2分圧,CO2分圧は肺胞のそれらとほぼ等しいとみなされる。ガスの呼吸膜での拡散のしやすさを拡散能といい,1mmHgの圧力差で1分間に肺胞気と血液との間を移行するガス量で表す。成人の安静時の O2の拡散能は21ml/分・mmHgO2分圧で,激しい運動時には肺胞が伸展されて表面積が増し,呼吸膜の厚さが減少すること,毛細血管が拡張して換気面積が大きくなることなどによって,値が3倍に増加する。CO2の呼吸膜の通過があまりに速やかなので,肺胞気と毛細血管血液との CO2の圧力差は1mmHg以下で,現在の技術では測定できないが,拡散能はガスの拡散係数にほぼ比例するから,O2のそれの20倍として約400ml/分・mmHgCO2分圧と推定される。
[血液によるガス輸送と組織におけるガス交換]
 血液路による O2および CO2の輸送のあらましは次のようである。血液中の O2はおもに赤血球のヘモグロビンと可逆的に結合し,体循環によって組織に運ばれる。動脈血はおよそ21容量%の O2を結合しうる。静脈血も,なお12~14容量%の O2を含んでいる。細胞からは炭酸が血漿の中に出て,一部はそのまま溶けて,一部は重炭酸塩に,一部はタンパク質と結合して血漿中を運ばれ,肺胞の中で呼気に移る。100ml の血液中には50ml の炭酸が含まれているが,2ml が血漿中に溶けていて,およそ40ml は重炭酸塩類の形で化学的に結合し,一部は重炭酸ナトリウムとして血漿中に,一部は赤血球内に重炭酸カリウムとして存在する。およそ8ml は血色素と化学的に結合してカルバミノヘモグロビンとなっている。ガス交換に際して解離されうる炭酸のごく一部分だけが放出されている。
 血液によって運ばれた O2が細胞内に取り込まれて,細胞内の呼吸酵素の働きによって,栄養素などの有機化合物の酸化が起こる物質代謝の過程は多様であって,多数の酵素がそれぞれ定まった反応段階で作用して進められる酸化の過程には,O2の添加によってスタートする好気性反応と水素を放出する嫌気性反応とがある。酸素消費によるエネルギーの産生は糸粒体(ミトコンドリア)の中で起こり,エネルギー貯蔵物質としてアデノシン三リン酸(ATP)がつくられ,呼吸の反応によって遊離されるエネルギーは ATP の化学結合エネルギーの形でプールされ,必要に応じて細胞の生理作用の維持など種々の仕事に用いられることになる。(続く)
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【動物の呼吸】


 18世紀の末になって,呼吸の実体は,動物が外界から O2を吸収し,外界に CO2を排出することであることがわかった。さらに呼吸器官から取り込まれた O2は,血液によって体中の細胞にまで運ばれ,CO2は逆に細胞から放出されて,血液によって呼吸器官に運ばれるということも明らかにされた。そこで動物と外界とのガス交換を外呼吸,体液と細胞とのガス交換や細胞内での酸化的分解過程を内呼吸(細胞呼吸,組織呼吸)といって区別するようになった。また,血液中のヘモグロビンのように,O2の運搬の働きをしている色素を呼吸色素と呼んでいる。細胞の中では炭水化物,脂肪,タンパク質などの有機化合物が分解され,その中に含まれている化学エネルギーが取り出されて,細胞のあらゆる生命活動のエネルギーとなるのであるが,この分解に O2が利用され,分解の最終産物として CO2が生じるのである。
 外呼吸の際,O2と CO2の移動は,体表や呼吸器官の膜を介しての拡散によって行われる。小型の水生動物,たとえばゾウリムシ,アメーバ,プラナリアなどは体表における拡散だけで体中に十分な O2を補い,CO2を放出できる。しかし,体の厚みが1mm以上になると,拡散だけでは体の深部まで十分に O2をいきわたらせることはできない。とくに活動性が低く酸素要求の少ないものを除くと,ほとんどの動物は体表から深部への O2,あるいは逆方向の CO2の運搬のために,体液の循環を利用している。また昆虫では細かく分岐して体中にいきわたっている気管系が,空気を直接組織に供給している。水生動物の呼吸器官であるえらは,体表の一部の表面近くに血管の分布がとくに密になっているところであるが,ガス交換の面積を増大するためにひだとなっているのが普通である。これに対して陸生動物の肺は空気呼吸に適した器官であって,脊椎動物では食道の一部のふくらみとして形成され,空気をその中に吸い入れることによってガス交換面の乾燥を防ぐことができる。えら呼吸でも肺呼吸でも,たいていの動物では呼吸器表面をたえず新鮮な水や空気にふれさせておくために,呼吸運動によって換水や換気が行われている。魚類では,呼吸運動によって起こるえらの表面の水流の方向と,えらの毛細血管内の血流の方向とが逆になっていて,ガス交換がきわめて効率よく行われることが知られている。また,カツオやマグロのように,たえず泳ぎまわっている魚は運動によって換水をしており,泳がないと呼吸困難になるといわれる。
 空気中には容積比にして約20%の O2と0.03%の CO2が存在する。1気圧で空気と平衡状態にある水1l 中には5℃で9.22ml,20℃で6.51ml,海水にはそれぞれ6.89ml,5.05ml の O2が含まれている。空気の重さは水のほぼ1/1000であり,同じ量の O2を含む水と空気の重さを比較すると,空気は水の約1/30000に過ぎない計算になる。さらに空気は,水に比べて粘度もずっと少ないこともあって,空気中で呼吸運動に費やす労力は,水中よりずっと少なくてすむはずである。魚が呼吸のために使うエネルギーは,哺乳類の20倍以上にも達するという報告もある。
 えらや肺をもつ動物でも,ある程度は皮膚でガス交換が行われている。たとえば,カエルで調べたところでは,冬眠中は必要な O2の2/3以上を皮膚からとっており,CO2の排出は年間を通じて肺よりも皮膚からの方が多い。皮膚呼吸のために,カエルの皮膚はつねに湿っている必要があり,これがカエルが水辺から離れられない理由の一つである。鳥類や哺乳類では皮膚呼吸の割合はきわめて少ない。
 呼吸量や代謝量は体が大きい動物ほど大きいが,体重に比例するのではなく,体重の3/4乗に比例して増加するとされている。この関係は同種の個体間にも,また一つの分類群に属する異種間にもあてはまる。たとえば,哺乳類について体重の対数を横軸に,個体当りの O2消費量の対数を縦軸にしてプロットすると,小さなネズミから大きなゾウまでの種々の動物が,3/4のこう配をもつ直線上にならぶ。個体の呼吸量が体重の3/4乗に比例するならば,単位体重当りの呼吸量(呼吸度)は体重の1/4乗に反比例することになる。すなわち,小型の動物ほど呼吸度は大きい。たとえば体重1kg当り1時間の O2消費量は,体重25gのネズミでは1.65l であるのに対し,体重が4tに近いゾウでは0.07l である。一般に活発な動物は不活発なものより呼吸度は大きい。また同じ個体でも,活動の程度によって呼吸量は大きく変化する。ヒトが走るときは,呼吸量は速さに比例して増加し,静止状態の呼吸量の10倍以上にも達する。昆虫類では飛翔(ひしよう)中に呼吸量が100倍に増加することがある。呼吸量はまた温度,酸素濃度などの環境要因によっても変化することが知られている。

【ヒトの呼吸】
 アメーバのような単細胞生物では,生体と外界との間に行われる O2と CO2の拡散のための移動距離が短いので,細胞表面で直接,周囲の環境とガス交換が行われる。しかし,高等な多細胞動物になると,ガス交換のための特別なしくみが必要となる。ヒトや哺乳類では肺の中に空気を吸い込んで,全身分の O2と CO2の交換をまとめて行い,肺と体内の組織との間のガスの運搬は血液循環のシステムによっている。循環系の分岐によって,毛細血管とその周辺の組織との間の距離は短縮され,ガスの拡散によるガス交換が可能となる。十分に O2を含み,CO2の少ない動脈血が毛細血管に到達すると,ガスの濃度こう配に従ってO2は組織へ移り,CO2が組織から血液へ移る。ここで血液は静脈血となって心臓の右心房,右心室を通って肺へ送られ,肺の中の気道の末端分岐部に位置する肺胞に接する毛細血管に達する。ここで拡散によって血液から肺胞へ CO2,肺胞から血液へ O2のガス交換が起こり,血液は動脈血化し,左心房,左心室を経由して体内の組織へ送られる。
 吸気は気道(口腔,鼻腔,咽頭,喉頭,気管,気管支,細気管支)を通過するうちに水蒸気で飽和され,呼気も完全飽和の状態にあり,このことは体内の水の収支に一つの役割を演じている。
 測定によって成人は1分間に約250ml の O2を消費し,約200ml の CO2を呼出する。一定時間内の CO2の排出量と O2の摂取量の比,呼吸商(RQ)は,呼吸によって燃焼される栄養素の種類に応じて,0.75~1.0の値をとる。大気と血液のガス交換は肺胞で行われる。気管支系の最も細い部分である細気管支が肺胞管に移行し,肺胞管は肺胞に分かれる。一つの細気管支に属する肺胞の集まりが直径1~1.5cmの肺小葉を形成する。肺小葉の内部に細気管支と肺動脈の小さい枝が入り込む。一つの肺胞は直径およそ0.1mmであるが,両側の肺について総計すると,肺胞の数は3億から7億5000万個の間にあり,ガス交換が行われる全肺胞面積は約70m2と推定される。肺胞には弾性繊維と格子繊維からなる支持基質があり,肺胞の入口は平滑筋繊維に囲まれている。血管系は両側の肺で分岐して約300m2の面積をもつ毛細血管網となって肺胞の表面にからみつき,ここで分圧の高低に応じて O2と CO2の交換が起こる。
[呼吸運動]
 肺胞と外界の間のガス交換,つまり換気は,呼吸運動によって生ずる気道の各部の圧力の差が原動力となって起こる。外呼吸のための運動を呼吸運動,それに働く骨格筋を呼吸筋という。呼吸運動は規則正しい吸息と呼息の交代である。吸息によって胸腔が拡張し,外気は気道から肺の中に吸いこまれ,呼息により胸腔は縮小して,肺内の混合ガスが押し出される。両側の肺はこの胸腔の運動に受動的に従う。吸息のときには肺容量が増加して肺胞内の圧力(肺内圧)は外界の圧力(大気圧)より低くなり,呼息のときには肺容量が減少して圧力差は逆となる。吸息は,横隔膜が収縮(平坦化)して胸腔が下方に広がるとともに,外肋間筋が収縮して肋骨がひきあげられ,その他の補助呼吸筋の活動も加わって,結果として胸郭はひき上げられ,胸腔が前方と左右へ広がることにより起こり,受動的に肺へ空気が流入する。呼息は一般に受動的に起こり,胸郭自身の重さと弾性による胸郭の沈下(胸郭の収縮)が主体であるが,強制的に呼息が行われるときには,腹壁の筋肉群の活動(腹圧の上昇)によって,横隔膜が上方へ押し上げられ,それに内肋間筋の収縮が加わって胸腔の容積は減少し,肺は圧縮されて気道内のガス体は外へ向かって流れる。
 肺は気管の部位だけで固定されていて,胸壁には付着していない。肺の表面と胸壁の内面は胸膜でおおわれているが,両方の間の狭い空所を胸膜腔といい,安静呼息時における胸膜腔の内圧(胸腔内圧)は外気よりも約-4mmHg低い。ここにはムコ多糖類を含む胸膜液がある。安静時の呼吸運動による肺内圧(肺胞内圧)の変化は,吸息時には大気圧より0.7~2.2mmHg低く,呼息時には0.7~2.2mmHg高い。このほかに,呼吸運動に伴う肺の拡張,収縮には,肺の弾力繊維,肺胞の表面張力による収縮する性質,肺胞の表面張力を減少させる表面活性物質(レシチンを含むリポタンパク質)の量,肺,胸郭の受動的伸展性を示すコンプライアンス,気道抵抗,非弾力性組織抵抗などの種々の因子が関係し,これらはいろいろな呼吸器疾患の病態との関連からも重要視されている。(続く)
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(しまった、承前)


【呼吸の生化学】
 以上のような歴史的経過から,呼吸は古くは動物の呼吸運動をさす言葉であったものが,動物の外界とのガス交換(これを外呼吸という),さらに体液と細胞のガス交換(これを内呼吸という)をも含める言葉となった。そして,現在,生化学的には呼吸は次のように定義されている。(1)狭義には生体が分子状酸素 O2を最終電子受容体として有機化合物を二酸化炭素 CO2,水 H2O,アンモニアNH3などの無機化合物にまで酸化的に分解し,生体に利用可能な形で(ATP として)エネルギーを蓄えることを呼吸という。(2)この定義を拡張し,無酸素条件下で分子状酸素の代りに硝酸塩,硫酸塩を最終電子受容体として上記と同様の過程が行われる場合をも含める。これはある種の嫌気性細菌が行う呼吸で,それぞれ硝酸呼吸,硫酸呼吸という。(3)さらに広義には,アルコール発酵や解糖のように,外から最終電子受容体の供給がなくても,基質から生じた化合物の間で酸化還元が行われ,この過程で ATP が生成される場合をも含む。この場合を無酸素呼吸,無気呼吸,嫌気呼吸,または分子間呼吸といい,これに対し(1)の場合を酸素呼吸または好気呼吸という。
 呼吸の強さを知るには,酸素消費量または二酸化炭素放出量を測定すればよい。前者の測定には酸素電極法,検圧法などが用いられ,後者の測定には赤外線ガス分析法,電気伝導度測定法などが用いられている。二酸化炭素放出量(モル)と酸素消費量(モル)の比,[CO2]/[O2]を呼吸商respiratory quotient(略称 RQ)という。実際には容積比として求めることが多い。グルコース(糖類)が完全酸化するときは RQ=1(C6H12O6+6O2=6CO2+6H2O)。脂肪やタンパク質のように分子中の酸素原子の割合が糖より少ない物質では RQ<1(ステアリン酸 C18H36O2+26O2=18CO2+18H2O,RQ=0.69)。逆にリンゴ酸のような有機酸の場合は RQ>1(C4H6O5+3O2=4CO2+3H2O,RQ=1.33)。ただし,基質が同じでも呼吸経路により RQ は異なる。たとえば,アルコール発酵のような二酸化炭素放出を伴う無気呼吸が併行して行われると RQ は上昇する。
 グルコース酸化の最終的な反応式だけを見ると,生体外での燃焼も呼吸もまったく同じであるが,両者は次の点で異なる。(1)生体外での燃焼を引き起こすには発火点まで熱しなければならないが,生体内での酸化は酵素により低い温度のもとで段階的に進行する。(2)生体外での燃焼時に遊離されるエネルギーは,ほとんどすべて熱の形で放出されてしまうが,呼吸では遊離されるエネルギーは高い効率で ATP に蓄えられる。
 呼吸の反応系は,多くの場合次の二つの過程に大別される。(1)基質分子が脱水素され(これと共役して水素受容体が還元され),基質分子の炭素鎖が切られる。(2)還元された水素受容体から最終電子受容体へ電子が渡される。呼吸の代謝経路の典型的なものは,解糖系で生じたピルビン酸が,クエン酸回路で完全酸化を受ける場合である。解糖系の諸酵素は細胞質の可溶性画分にあると考えられているが,細胞質中の微細構造に結合していると主張する研究者もある。真核生物では,クエン酸回路,β 酸化,および電子伝達系の諸酵素はミトコンドリアに含まれている。赤血球や肝臓および多くの植物の組織では,グルコースの一部は解糖系とは異なるペントースリン酸回路(細胞質の可溶性画分にある)によって完全酸化を受ける。解糖系で働く補酵素がNAD であるのに対し,この回路の場合は NADPであることと,回路上に五炭糖が出現することが特徴である。脂肪酸が分解されるときは,脱水素されたのちカルボキシル末端から炭素原子 C2個きざみで炭素鎖が切られアセチル CoA を生じる(β 酸化)。これがクエン酸回路へ入り完全酸化を受ける場合と,グリオキシル酸回路(マイクロボディ)へ入りもう一度脱水素されたのちコハク酸となる場合がある。緑色組織で光のもとで行われるグリコール酸の酸化的分解は光呼吸 photorespiration と呼ばれるが,ATP 生成がないから本来の呼吸とは生理学的な意味が異なる。
 呼吸過程の最後の部分で,NADH やコハク酸から電子を分子状酸素に渡す経路を電子伝達系または呼吸鎖という。この系は酸化還元電位の異なる多数の成分から構成されており,電子は酸化還元電位の低いものから高いものへと流れてゆく。電子伝達にはフラビン,ユビキノン,ヘムのほかに非ヘム鉄,銅イオンも関与している。この系の成分は4種の複合体の形でミトコンドリア内膜に存在する。この電子伝達と共役して行われる ATP 生成を酸化的リン酸化反応という。ADP とオルトリン酸の濃度が下がると,呼吸鎖の反応速度(電子の流れの速さ)が低下する現象を呼吸調節 respiratory control といい,基質と酸素の不必要な消費を避け,ATP の消費に見合った供給を行うしくみと考えられている。細菌においては細胞膜にミトコンドリアのものと類似の呼吸鎖が存在する。
 グルコース1molが解糖とクエン酸回路を経て酸化されるとき生成する ATP は,前核生物では38mol,真核生物では36molである。グルコース1molが完全酸化されるときの自由エネルギーの生成は686kcalである。ADP から ATP を生成するのに必要な自由エネルギーを7.3kcalとすれば,ATP が38mol生じる場合を考えると,呼吸によって277.4kcal,すなわち約40%の効率で,ATP の中にエネルギーが蓄えられたことになる。アルコール発酵ではグルコース1mol当り ATP が2molしか生成しない。大気中に分子状酸素が大量に存在するようになったのは光合成生物の出現以後であるから,酸素を用いる効率のよい呼吸系は,無気呼吸を基礎として代謝系の進化の結果,あとからでき上がったものと考えられる。
 呼吸の第1の生理学的意義は ATP の生成であるが,細胞構成成分の前駆体およびこれら成分の合成に必要な還元力(NADPH)を供給するというもう一つの重要な役割をもっている。
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[代謝の局在性]


 微生物,植物,動物に代表される各種生物の細胞あるいは体の中には,膜,壁,器官,組織,亜粒子(オルガネラ,細胞小器官)などの名称で呼ばれる,いろいろな部分が区別される不均一性構造が存在している。そしてそれぞれの部位では,特徴的な酵素と代謝が局在しており,しかも全体としてはみごとな調和を保ちつつ1個の生命を支えている。例えば先ほども述べたように,解糖や脂肪酸生合成は細胞質,クエン酸回路と電子伝達系はミトコンドリアで営まれる。細胞の外では血液中で働くプロテアーゼによる血液凝固や血圧の調節,また唾液(だえき)中のアミラーゼによる含水炭素性食物の消化,胃液中の酸性プロテアーゼによるタンパク質の加水分解など,体の要所要所で重要かつ特異的な代謝が進行している。
[代謝の速さ]
 同位元素15N を含むアミノ酸を食品として動物に与え,肝臓のタンパク質を標識した後,その分解の速度を測定するという優れた手法で,シェンハイマー R. Schoenheimer は,ラット肝では5~6日という短期間で代謝が回転する事実を明らかにした。肝細胞自身は数ヵ月,また筋肉タンパク質や脳の脂質などはもっとゆっくり交替することが知られている。大腸菌などの単細胞性微生物は常温で約20分ごとに分裂するが,細胞1個の中に2000~3000種のタンパク質分子がそれぞれ400分子程度存在し,約1000種類の有機化合物が200万~300万分子つねに合成と分解をくり返しているといわれている。さらに,食物その他の外的要因や刺激の変動によって,物質とエネルギーの代謝回転はかなり大きく変化することも珍しくない。
[代謝とエネルギー]
 グルコース1molが完全燃焼するときに遊離する600kcalの自由エネルギーの約40%が ATP に蓄えられている。無生物の世界ではとうてい考えられない高い熱効率である。解糖が,あるいはクエン酸回路が,リン酸エステルの生成と分解を含めたきわめて多くのステップを経て進行することの利点がそこに関連する。
[基礎代謝]
 生体が生命を維持するために必要な最小の効率を基礎代謝 basic metabolism(BM と略記)と呼ぶ。筋肉作業などによる機能性消費を除外するため,絶対安静,絶食下,臨界温度において消費するエネルギーを指すが,成人1日の基礎代謝量は日本人で1200~1400kcal,欧米人で1500~2000kcalとされる。実測値と標準値の比を基礎代謝率 basal metabolic ratio(BMR と略記)と呼び,臨床診断の資料として利用される。
[代謝の調節]
 すべての生物は外界から摂取した食物とエネルギーを利用して,上記の各種代謝を営んでいるのであるが,食物の内容が変わっても,また外界の気温その他の環境条件が変化しても,自己の体内の各種物質の濃度,例えば,血糖値,尿の組成,汗の中の塩分濃度などはつねにほぼ一定に保たれている。生物のこのような特徴を恒常性(ホメオスタシス)と呼ぶが,生物が外界との疎通をはかりながら自己の生命活動を独自に維持することができるのは,種々の複雑な代謝の流れを巧みに調節する機能を備えているためである。
 代謝の調節のしくみは,生物の種類,器官や組織の違い,さらに代謝の内容などによって異なるものもあるが,ここでは比較的広い範囲で営まれているものを中心に述べる。最初に分子のレベル,次に生体のレベルで働くしくみに大別して述べる。
(1)分子レベルにおけるしくみ
 代謝の流れに沿って働く個々の酵素の量と活性の増減をひき起こす要因が種々知られている。酵素の量とは,活性型分子の濃度を指すが,その増減はまず酵素の主成分であるタンパク質の生合成と分解の調節の結果を意味する。タンパク質の分解を調節する分子機構がまだ統一的理解に達していないのに対し,生合成のほうは J. モノーらのオペロン説に基づくインダクション(誘導)とリプレッション(抑制)のしくみによって巧妙に説明されている。活性型酵素の量はこのほか,ペプシノーゲン→ペプシン,キモトリプシノーゲン→キモトリプシンなどの例で知られる不活性前駆体(チモーゲン,プロ酵素)のプロテアーゼ限定分解による活性型への転換,不活性サブユニットの分子集合による活性発現,補酵素の供給などによっても調節される。一方,酵素の活性は,外部環境のpH,イオン強度,圧力,温度などの物理化学的要因,基質その他の非タンパク質性分子との相互作用,タンパク質‐タンパク質相互作用などの影響で変動するが,それらの中でとくに代謝の自動制御に寄与する合目的的分子機構としてのフィードバック制御機構が重要である。物質合成系において,最終産物が過剰に蓄積すると,その代謝系の初発段階(律速段階)の酵素 E1の活性が特異的に阻害される。しかし,E2,E3の活性はまったく阻害されない。この点がリプレッションとの大きな違いである。これに対して,物質分解系においては,遊離するエネルギーを利用して合成される ATP が,その前駆体である AMP または ADP の濃度よりも低いレベルで存在する場合,これらの前駆体が E1の活性を賦活し,ATP の補給をはかるというしくみが知られている。高等動物の筋肉のグリコーゲンホスホリラーゼの AMP による活性化,偏性嫌気性細菌 Clostridium tetanomorphum のトレオニンデアミナーゼの ADP による活性化などが典型的例である。上述のリプレッション→インダクション,フィードバック阻害→ヌクレオチド活性化のしくみはいずれも非共有結合性の調節であるのに対し,酵素タンパク質の特定のアミノ酸残基が,特定の酵素によって化学修飾されることによって,酵素分子の活性,pH依存性,フィードバック感受性などが大きく変化する場合がいくつか知られている。上記のグリコーゲンホスホリラーゼの b型は,その活性に AMP を必須とするが,ホスホリラーゼキナーゼと ATP の関与によって,酵素タンパク質の特定のセリン残基がリン酸化されるとAMP が無くても約60%の活性が発現する a 型分子に変換する。プロテインキナーゼのリン酸化,グルタミン合成酵素のアデニリル化なども同様な例である。
(2)生体レベルにおけるしくみ
 膜透過を含む物質輸送,特定の酵素の局在化,さらに各種生理活性物質が関与する液性,神経性の調節など,生物種の違いや代謝の内容によって,多種多様な分子機構が相互に巧みな調和を保ちながら作動している。プロテアーゼ限定分解によるプロインシュリンのインシュリンへの変転と糖代謝の調節,ACTH(脳下垂体ホルモンの一つ)に端を発した限定分解産物としてのエンドルフィン,エンケファリンのような,いわゆるオピエート様ペプチドによる痛みの感覚の調節,血液凝固,血圧の調節など,広い範囲で分子レベルのしくみが高次の調節にも寄与している。

【呼吸研究の歴史】
 いき(息)もの,英語のアニマル(ラテン語のanima=息,生命に由来)などの語からもわかるとおり,呼吸と生命は古来密接に結びつけられてきた。空気中のプネウマ pneuma(精気)が体内に取り込まれて生体を活気づけるという考えはギリシアにひろく見られ,アリストテレスは3種の精気を区別した。2世紀のローマのガレノスは自然精気が消化,栄養,排出などのいわゆる植物性機能をになうと考えた。こうして呼吸を具体的な生命現象と関連させる努力はなされたが,思弁にとどまった。
 W. ハーベーが血液循環を確証(1628)して以来,研究は新しい段階に入り,血流にのって全身に分配される空気の重要成分は何かが問題になった。16世紀の錬金術的化学者・医者パラケルススは,〈硫黄精〉と〈硝石精〉によって燃焼は起こり,かつ呼吸と燃焼は同じ現象であると考えていた。この解釈は,17世紀に呼吸について実験した R. ボイル,メーヨー John Mayow(1640‐79)などに影響を与えた。18世紀にはフロギストン(燃素)説の誤りを経て,ラボアジエが燃焼での酸素の役割を確定する。呼吸も体内での酸化として位置づけられたが,熱をだす燃焼と同じことが体内でも起こると考えられたので,J. L. ラグランジュは,肺のみで燃焼が起これば肺は高熱になりすぎると論じた。ここからかえって,酸素は全身末梢組織に分配されるはずだとの正しい見通しが生まれた。
 20世紀初めのエネルギー代謝の研究は,酸素を用いない解糖,発酵を中心にしていたが,有機酸から水素を奪う脱水素酵素の作用も,1920年代から明らかになる。呼吸とは酸素が直接に基質を〈燃やす〉のではなく,基質から奪われた水素が酸素と出会うことであるとの理解が,こうして整ってきた。細胞内で水素を授受する機構については,セント・ジェルジなどもモデルを提出したが,H. A. クレブスのクエン酸回路(1937)が正しい回答をあたえた。第2次大戦後の研究の発展で,呼吸の反応成分はすべてミトコンドリアに局在することがわかった。こうして,プネウマ説にはじまり,肺での空気の出入りを意味していた〈呼吸〉は,現代生物学の用語では,細胞での基質からの水素原子の取出しと,その水素を酸素と化合させる際のエネルギーを用いての ATP 生成(酸化的リン酸化)を意味するに至っている。
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[代謝1]


 代謝ということばは正確には新陳代謝の略語である。地球上の各種生物が外界との密接なかかわりをもちつつ,しかも自己の生命を維持するために,必要なさまざまな活動を推進するための最も基本になる活動が代謝にほかならない。代謝には,エネルギー代謝,物質代謝(物質交代)という二つの用語に示されるように,エネルギーの獲得,利用と物質の変換が不可欠な活動である。言い換えると,代謝とは酵素の触媒作用に助けられて,生物の体内で絶えまなく営まれている各種の化学反応の総称ともいえる。外界の環境条件,例えば温度,圧力,水素イオン濃度(pH),また種々の物質の濃度などは時々刻々変化している。一方ではまた,生物が日常摂取する食物の内容,種類,組成も変化する。それにもかかわらず,生物の体内の物質の組成や濃度,あるいはpHや体温などはほぼ一定に保たれている。このように,外界への適応性と自己の恒常性という,一見相反する特性を兼ね備えていることからもわかるように,生物は決して閉ざされた系ではなく,外界との疎通を積極的にはかる,むしろ開かれた系としての特徴を備えている。外界のある物質の濃度が,生体内における濃度よりも低い場合であっても,その生物がもっと要求する場合には濃度こう配に逆らってでも摂取する,いわゆる能動輸送の現象などがその典型的な例といえよう。動的平衡ということばで生物の特徴を表す人もある。
 代謝の営みは内容の上で次の四つに大別される。
(1)太陽や食物から化学エネルギーを獲得する営み
(2)外界から摂取した栄養素を,生体構造構築の素材や生体高分子合成のための素材(前駆体)に転換させる営み
(3)上記の前駆体から,核酸,タンパク質,脂質,多糖などの各種生体成分を合成する営み
(4)ホルモン,ビタミン,成長促進因子など,生物が必要とする各種の生理活性物質を合成し分解する営み。

[生物の種類による代謝の違い]
 生物の種の違い,生育環境の違い,生活様式の違いなどで,代謝の様式もかなり大幅に変化する。以下にその一部について考察してみよう。
(1)エネルギー源の違い
 すべての生物のエネルギー供給源はもとをたどれば太陽にいきつくが,太陽エネルギーの利用変換の方式は,生物によって異なる。光を直接エネルギー源として利用できる生物は光合成生物 phototroph と呼ばれ,これに対して酸化還元の化学反応を介してエネルギーを獲得する生物を化学合成生物 chemotroph と呼ぶ。化学合成生物の中で,グルコースなどの有機物質を電子供与体とする生物を化学合成有機酸化生物chemoorganotroph,また硫黄,アンモニア,水素などの無機物質を利用するものを化学合成無機酸化生物 chemolithotroph と呼ぶ。土壌中と海洋に生息する微生物の数は,地球上の全生物の過半数におよぶが,それらの多くは分子状窒素 N2の固定やアンモニアの酸化による硝酸の生成などの化学反応によってエネルギーを獲得している。
(2)炭素源の違い
 生物が大気中の二酸化炭素CO2を唯一の炭素源として利用し,生体内のすべての有機化合物の炭素骨格を二酸化炭素から合成することを独立栄養,あるいは自養 autotrophと呼ぶ。これに対してグルコースなどの,より複雑な還元型の有機化合物を利用しなければならない場合を,従属栄養あるいは他養 heterotroph と呼ぶ。光合成生物やその他の限られたある種の細菌が独立栄養性であるのに対し,すべての高等動物と大部分の微生物は従属栄養性である。
(3)酸素を必要とする生物と必要としない生物の違い
 生物の多くは,含水炭素(炭水化物)や脂肪を酸化することによって,その分解の過程で遊離するエネルギーを利用するが,このようないわゆる生体酸化は,酸素の存在下に進行する場合もあれば,深海や土壌中のような酸素分圧のきわめて低い環境下では,脱水素反応として営まれる場合も少なくない。われわれ人間の体内でも,心臓や肺のように酸素の供給が活発な器官と,筋肉のようにむしろ嫌気条件に近い部位とでは,代謝の方式も大きく変わってくる。従属栄養生物の中には,酸素を積極的に利用する好気性生物と,酸素があっては生育できない嫌気性生物がある。これらに加えて,好気・嫌気両方の環境で生育できる通性嫌気性生物 facultative organism も存在している。嫌気性生物を好気条件下に移すとたちまち死滅するが,その原因の一つとして,カタラーゼが備わっていないために,発生した過酸化水素を処理できず,中毒死してしまうという解釈もある。酸素を利用できる生物にとっては,好気性代謝のほうが嫌気性代謝を営む場合よりもはるかに効率よくエネルギーを獲得することができる。例えば,グルコース1molの酸化によって獲得できる ATPは,好気条件下では36molであるのに対し,嫌気条件下ではわずか2molにとどまる。ATP に転換可能の GTP の生産量を加味しても,前者は38mol,後者は4molと大きく開いている。それでは嫌気性生物は息も絶え絶えに生育するのかというと決してそうではない。細胞の重量あたりの酵素活性を比較してみると,嫌気性細菌における各種酵素の中には,とびぬけて活性の高いものが少なくない。このように,エネルギーの転換,獲得の効率は悪くても,これを補うための別のしくみを巧みに利用して,嫌気性生物は活発に生育増殖を行っているのである。
[代謝の種類]
 エネルギー代謝と物質代謝はつねに密接に関連した形で進行するが,エネルギーの獲得につながる物質代謝を異化catabolism,またエネルギーを消費する代謝を同化 anabolism と呼ぶ。異化代謝においては,食物や生体内の複雑な化合物,すなわち,核酸,タンパク質,多糖,脂質などを分解して,乳酸,酢酸,二酸化炭素,尿素,アンモニアなどの簡単な化合物に変え,それらの過程で遊離するエネルギーを,ATP などの高エネルギーリン酸化合物の形で貯蔵したり,直接運動エネルギーとして利用したりする。これに対して同化代謝は,アミノ酸,有機酸,単糖,脂肪酸,あるいはアンモニアや二酸化炭素などの比較的簡単な化合物を素材とし,ATP などのエネルギーを利用して,より複雑な生体物質を合成する営みである。同化と異化は,その流れの途中にまったく同種の酵素反応を含むこともあるが,全体の流れとしては相互の妨げにならないように,種々のしくみが働いている。例えば,同化方向と異化方向にそれぞれ関与する酵素が別個のものであるとか,長鎖脂肪酸合成多酵素複合体のように,複数の酵素が順序よく並んだ集合体をつくり,そのまわりで代謝中間体(それらは個々の酵素にとっては順次基質,あるいは生成物となる)が,酵素分子とチオエステル性の共通結合を形成した形で最後のステップまで反応を進めるというようになっていたり,また後で述べるように,代謝の局在化による制御も行われている。同化と異化の一つの大きな違いは,後者はピルビン酸,アセチルコエンザイム A(アセチルCoA)といった,ごく限られた中間体をすべての代謝の流れが共通に経由するという特徴であろう。
 同化代謝と異化代謝の両方の目的にかなう両用代謝 amphibolic metabolism の例もいくつか知られている。生体内で営まれている化学反応の種類はきわめて多いが,それらを生体物質の合成と分解という立場で整理してみると,案外限られた数にまとめられる。
 (1)解糖
 グルコースが嫌気的に分解して,ピルビン酸,ATP,NADH 各2分子を生成する経路で,主として細胞質で進行し,各種生体物質の生合成に必要な炭素骨格の供給と,エネルギー源としての ATP の生産を行う。
(2)クエン酸回路(TCA 回路)
 解糖系につづく好気性のエネルギー代謝回路で,主としてミトコンドリアで営まれる。炭水化物,アミノ酸,脂肪酸などがアセチル CoA を経て代謝され,ATP12mol,NADH3mol,FADH21mol,GTP1molが生成する。この回路の一員スクシニル CoA はポルフィリン生合成にも使われ,この回路は物質代謝の面でも無視できない。
(3)五炭糖回路
 核酸の前駆体であるヌクレオチド生合成の素材であるリボース‐5‐リン酸の供給や NADPHの生成のために重要な代謝で,主として細胞質で営まれる。
(4)糖新生
 乳酸,グリセロール,アミノ酸などの炭水化物以外の物質からピルビン酸の生成→炭酸固定によるオキサロ酢酸の合成→リン酸化と脱炭酸反応によるホスホエノールピルビン酸の生成を経てグルコースを合成する代謝で,おもに肝臓や腎臓で営まれる。
(5)グリコーゲンの合成と分解
 合成は UTP とグルコース‐1‐リン酸から UDP グルコースを経てグリコーゲン合成酵素が,また分解はホスホリラーゼが触媒する。
(6)脂肪酸の合成と分解
 合成は先に述べた多酵素複合体の関与のもとに細胞質で進行するが,分解反応の主流である β‐酸化は細胞質で進行した後,アセチル CoA となってミトコンドリア内のクエン酸回路に入るか,またはケトン体の合成に利用される。(続く)
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