No.3
- 回答日時:
ほかで立てられている質問を見て、自由意志についての書き方が雑で、質問者さんに誤解を与えてしまったかな、と気になっています。
自由意志とキリスト教の関係について、もう少し説明します。
自由意志はキリスト教と相反するものではありません。
神は全知全能であり、その神が自分の姿に似せて作ったのが人間です。
全知全能の神が作った人間が、どうして罪を犯すのか。
また一切が神の予定によって決められているのなら、なぜ人間は道徳的に生きなければならないのか。あるいは、信仰そのものを、なぜ持たなければならないのか。
「自由意志」という考え方は、その矛盾を説明する鍵なんです。
人間には、自由意志があるから、悪いことをしてしまう。
けれども、自由意志によって、良く生きようという生き方を選ぶことも可能である。
そのために信仰を、自由意志によって、選び取らなければならない。
非常に単純化して言うと、こういうことになるかと思います。
したがって、キリスト教は自由意志を認めないかというと、そうではありません。
キリスト教内部でも、この自由意志をめぐってはさまざまな立場があります。
たとえば「予定説」の教義の基礎を築いたアウグスティヌスは、人間の自由意志をアダム一人に認めました。
アダムは神の恩寵によって、自由意志を与えられた。
けれどもその内容は「罪を犯さないことができる」という自由です。
ところが、アダムはこの自由意志を悪用して神に背き(原罪)、これによって人間は「罪を犯さざるをえない」惨めな存在になって、その自由を失ってしまった。
このような人間がどうやったら救われるか?
みずからの力ではなく、神の恩寵に依るしかないのです。
誰が救われ、誰が救われないかは全くの神の意志によるものであり、一切が神によって定められている。
そして神の恩寵を媒介するものは教会である。
それゆえ、人間は教会を通じてのみ、救済される。
アウグスティヌスの「予定説」を単純化すると、このようになるかと思います。
けれどもこの教義に異を唱える人々は当時からいましたし、また、宗教改革のときも、アウグスティヌスを強く継承しようとしたカルバン派は、ローマ・カトリック教会によって異端とみなされます。
このように、自由意志と予定説の関係は、決して単純なものではないので、ここらへんのことに興味がおありでしたら、ぜひキリスト教史の本をお読みください。
「予定説」については、アウグスティヌスからアプローチしていくのが良いのではないでしょうか。
私が読んだのは、哲学系の通史のほかは、山田晶『アウグスティヌス講話』(講談社学術文庫)だけですが、この本はアウグスティヌスの人となりや思想について大変わかりやすく書いてありました。
ご親切にどうもありがとうございます。
いやいや誤解どころか大変参考になっていますよ。
むしろ、僕の質問のほうに問題があるかもって思っているくらいで…。
僕は長い歴史の中でもまだ答えの出ていない自由意志の問題について、答えを出そうなんて、大それたことを考えているわけでもなく、熱烈な決定論者でもありません。
時に唯一神を信じる決定論者であったり、ときに人間は自由意志を持った存在である(自由意志の定義にもよりますが…)としたりと曖昧な感じで日々を送っています。
仮にこの世が決まっていると、全てが決定しているとみた場合、それに近い考え方、全くその通り考えている歴史上の思想家たちにはどんな人がいて、そしてどのような背景があったのかなどをしりたかったんですよね。
(当然、反対意見も知りたくなるのですが)
哲学にも宗教にもそんなにくわしくない僕が、いろんな切り口で頭の中で遊んでいるといった感じです。そしてそんな過程で少しずつですが、本やネット関係で勉強していって、人生にいかせればいいなぁと思っています。
ghostbusterをはじめ、解答してくださっている方々には非常に感謝しています。ありがとうございます。
アウグスティヌス見てみますね。
No.2ベストアンサー
- 回答日時:
予定調和と予定説というのは、若干異なるものです。
人間は、先行する原因、運命、神の予定などによって、とるべき行動があらかじめ決まっているのか、それとも自由意志によって決めることがができるのか、という問題は、ギリシャ時代からあったんです。
予定説というのは、前者の立場、とくに、出来事は単に予め決定されているとするだけでなく、超自然的な力(通常は神)が決定原因の自然的順序を制定したとする立場です(そうした意味で、宿命論や決定説とは異なる)。
特に、神学の分野では、予定説をキリスト教の教義として発展させていったアウグスティヌス、さらにそれを受け継いだカルバン派の予定説は重要なものとされています(神学の領域はよくわからないので内容には踏み込みません)。
ライプニッツの予定調和は、こうした予定説とは立場を異にするものです。
おおざっぱに思想史上の流れをたどっていくと、17世紀初頭、まずデカルトが、ものごとにはすべて原因がある、原因から結果は必然的に導かれていく、あらゆるものはこの法則(因果律)の上になりたっている、と考えた。とくに、自然現象というのは、時計のように小さな歯車が組合わさって動く集合体であると考えたんです(機械論的自然観)。
一方、キリスト教には、目的論というものがありました。
自然界のあらゆるものごとが、秩序正しく、効率がよく動いているのは、究極の設計者(=神)がいることを指し示していることにほかならない。
この世界は究極の設計者の目的に従って動いている。
こうした目的論は、宇宙を機械的な原因-結果の関係によってのみ見ようとする機械論的自然観と対立します。
ライプニッツは機械論的自然観と目的論が相矛盾するものではないとして、予定調和を考えたんです。
#1の方のおっしゃるヴォルフは、ライプニッツの予定調和の思想を継承しつつも、モナド論を宇宙を貫く法則ではなく、精神と身体の間の関係に限定してしまった。
それでも合理論を徹底化させることで大きな影響力を持ち、後のカントへと道を開くことになります。
ですから、ライプニッツの思想的系譜をたどろうと思ったら、デカルト―スピノザ―ライプニッツ―ヴォルフとなっていくのではないかと思います。
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