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今まで読んだドストエフスキーの小説は『罪と罰』『地下室の手記』『貧しき人びと』『虐げられた人びと』『永遠の夫』『賭博者』です。

次に読むとしたら何がおすすめですか。上に挙げた中では『罪と罰』『虐げられた人びと』が大好きです。読みたくなるような紹介文付きでおすすめのドストエフスキーの作品を教えてください!!

A 回答 (1件)

『カラマーゾフの兄弟』



 < 『カラマーゾフの兄弟』についての基礎知識 >

1.< ドストエフスキーの小説における位置付け >

亡くなる80日前に完成したドストエフスキー晩年の最後の長編小説。    
経済的にも精神的にも比較的安定し充実した晩年期の作として、 自己の死期を予期して渾身の力を振りしぼって書いたドストエフスキーの「小説の技量・晩年の思いや考え」が目一杯詰め込まれた「集大成・総仕上げ(総決算)」 としての、いわゆる「白鳥の歌」と、みなすことができる。

2.予定されていた続編のこと

『カラマーゾフの兄弟』は、続編が構想されていた未完の作とされているが、
( 続編は、本編(現『カラ兄弟』)の冒頭の「著者より(作者の言葉)」で予告されている。その予告によれば、続編は、本編(現『カラ兄弟』)よりも肝心なものとして、現在(事件の13年後)のアリョーシャを主人公にして、世間に出てからの彼の活動と魂の遍歴を描くことになっていた。   
その具体的なストーリーとしては、青年になった町の子供たちを従えて、アリョーシャが革命家に身を投じ、皇帝暗殺未遂事件を引き起こし最後に 断頭台にかけられるという展開の予定だったとする後世の研究家の説が有力。 )
現『カラ兄弟』だけでもそれなりに十分完結していると言える。

3.< 成立過程 >

この小説の構想は、妻子を伴っての欧州旅行中の、小説『白痴』を完成させた1868年の年末(47歳の時。完成の12年前にあたる。)に『無神論者(無神論)』という題名で練り始められ、 翌年(1869年)の末には『偉大なる罪人の生涯』と改題されて構想がすすみ、小説『悪霊』『未成年』が執筆されている間も、その構想は温められ、( 構想された『偉大なる罪人の生涯』という大長編小説は結局実現しなかったが、その一部分は『悪霊』(1871年~72年に発表)『未成年』(1875年に発表)の中へと分与され、残った一部分が『カラマーゾフの兄弟』へと引き継がれた。1878年の6月には、若き親友ソロヴィヨフとともにオプチナ修道院に取材に訪れて、ゾシマ長老や僧院の造型も整えられた。裁判を繁く聴きにいく、少年のことを調べるなど、取材も熱心におこなっている。)
56歳(1878年)の夏、『カラマーゾフの兄弟』の稿を起こし、( 『カラマーゾフの兄弟』の完成の1880年の末まで、1876年の初めから続いていた定期刊行個人雑誌「作家の日記」の編集は休止された。)
翌年(1879年)、「ロシア報知」の1・2・4・5・6・8・9・10・11月号に、翌々年(1880年)、「ロシア報知」の1・4・7・8・9・10・11月号に連載発表されて、完成した。
( 最終章の脱稿は、1880年11月8日。初版の単行本の出版(二分冊、3000部をペテルブルグで発行)は一ヶ月後の1880年12月の初め。数日のうちに半ば売り切れた。)
この小説の、各章ごとにうまくまとまっている傾向は、この連載という発表形式の影響にもよっており、すでに文壇で確固とした名声を得ていた作者の大作だけに、連載当初からロシアの読書界に大きな反響・話題を呼んだ。

4.< 全体の諸テーマについて >
( これから読む人は、ネタばれの箇所(▲~▲の箇所)に注意!)

この小説は、家長殺人事件の下手人捜しとその裁判、「親子・兄弟・男女」間の愛憎劇という一級の「推理小説」「裁判小説」「家庭小説」「恋愛小説」としても面白く読めるが、この小説の最大の魅力の一つは、念入りに描かれた三兄弟(長男ドミートリイ・次男イヴァン・三男アリョーシャ)に典型化された、三兄弟おのおのの、性格や人柄などの人間的魅力、そのいだいている思想の魅力、
受難及び受難を通しての新生への道にあると言える。
( そういう点では、この三兄弟のうち誰をこの「小説の主人公」と呼んだらいいのか決めかねるほどである。三兄弟の新生を描いていくということに関しては、アリョーシャのその後も含め、ドミートリイ及びイワンのその後の新生こそ、続編において展開される内容だったと思われます。) 

この三兄弟は各々、人類の苦悩を何とか解決したいという思いにとらわれていて、三人が考え、担うその解決方向は、作中に、各々提示されているが、
( この点に関しては、アリョーシャやイヴァンの方向だけでなく、ドミートリイの方向も、もっと注目されるべきなのかもしれません。)
キリスト教の思想の面で、信仰・無信仰(無神論)、神は在か不在か、というテーマとして、

・イヴァン、スメルジャコフの、この世界における罪なき子供たちの受難の事実を挙げて、この世界は神の世界であると いうキリスト教の考えに大いに疑問を呈し、神の意志に反抗し、はては、すべては許されているという立場と父親殺し容認にまで至ろうとする無神論思想 ( 第5編第3~第5 ) と、

・ゾシマ長老、マルケール、アリョーシャ、ドミートリイの、謙抑なキリスト教的な愛と赦(ゆる)しの有神論思想(神への信仰、隣人愛・実行愛、相互の罪の自覚と和解) ( 第6編・第7編 ) の対決という図式が明らかに読み取れる。
( 謙抑な信仰と実行の愛を説くゾシマ長老の教説は、そのまま、イヴァンの思想や悩みに対する返答になっているという両者の緊密な対決性には留意すべきでしょう。)

さらに、この三兄弟は、各々順に、
・「情」「知」「意」を代表する人物また、
・「スラブ人気質を持ち、もっともロシア的な過去と当代のロシア人」
「ヨーロッパの影響を受けて科学的合理主義の立場に染まった近年と当代のロシア人」 「ドストエフスキーの思いが込められた、四海同胞への博愛と和解に生きる未来のロシア人」 を体現する人物として描かれていて、
( その捉え方でいけば、父フョードルは、社会改革を望む青年たちが嫌悪し追放したいと感じている過去及び当代の金や酒色を求めて堕落しきった地主階級の代表とみなすことができ、アリョーシャの指導を受けることになっていくコーリャを中心とする町の子供たちはロシアの未来を担う希望の世代として解釈できるだろう。また、私生児で農奴であり、イヴァンの教唆を受けて彼らの「肉弾」として家長殺しを行い、のちに去勢派に走ったスメルジャコフの位置付けも見えてこよう。)
過去・当代そして未来のロシアのことが大きな一つのテーマにもなっている。
( 三兄弟とその父親フョードルを初め、主要登場人物を貫くものとして、 善悪の深淵を合わせ持ちながら崇高なものへの憧れを失わないロシア人独自の生命力、ロシア人の魂とも言うべき、「カラマーゾフシチナ(=カラマーゾフ的なもの、カラマーゾフ気質)」 を作者ドストエフスキーはこの小説を通して打ち出そうとした、という見方も行われている。

▲作中の思想上のエッセンスとしては、中世のスペインに再来したイエスを、当時の教会側の権力者である大審問官が捕らえて幽閉し、獄中のそのイエスに向かって大審問官が、イエスの唱えた立場(自由な信仰 や自由な愛など)を長々と糾弾し、人間にあまりに「自由」を与えたからこそ、人間社会には不幸や悲惨なことが起こっているのだとして、大審問官が、イエスに代わって新たに、
「自由」を減らして民衆を「幸福」にする教権管理社会の構築を唱えるという内容▲を持つイヴァン作の劇詩「大審問官」の章(第5編第5)が有名である。
この「大審問官」の章は、表向きの内容である、カトリック教会やイエスの立場への批判ということを越えて、社会おける個人の自由と民衆から自由を譲り受けた社会側の権力者による統治を通しての社会の安定・個人におけるパンや心の安心の確保との切実な対立や、後者の、ある意味での有効性(そして、やはり、前者の尊さ・大事さ) を鋭く指摘したものとして、これまで、未来社会論の観点からも、大いに注目を集めてきた箇所である。

作中では、ほかに、親子関係(父と子、遺産相続)、兄弟関係(兄弟愛)、父殺しというテーマ、( 父フョードル及びその殺害に関しては、作中のイヴァン及びスメルジャコフのありように、農奴による父フョードル殺害事件をめぐってのドストエフスキー本人のこと(父の死をひそかに願っていたことに対する終生の罪意識)や少年期に観て強い印象を残したシラー作の劇『群盗』の同テーマが重ねられていると言える。)
少年問題(いじめの問題)、幼児虐待問題、虐げられ辱められた人たちのこと、貧困問題、飢饉飢餓に苦しむ人たちのこと、裁判制度に関する問題、
国家と教会の関係についての議論、教会や長老制に対する批判、文明批判(科学的合理主義や社会主義への批判)、死と不死のこと、死者の報復のことなど、様々なテーマや問題が、相互の密接な連関・関連性の中で、提示されている。
自分の小説は末代まで伝わっていくであろうという自信を得ていた作者は、
ロシアと全人類の教導者の自覚に立ち、未来のロシアと世界へ価値あるメッセージを送ろうとして、作中に、ロシア正教の教えを中心に、宗教的謙譲さや愛の大事さを説く教説を多く組み入れるという結果になったと言える。
そういう点で、この大作は、第一級の「思想小説(宗教小説)」としての性格を持っている。

http://www.coara.or.jp/~dost/1-9.htm
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