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両手用のピアノ曲を左手のみに編曲したものがあるようですが、どんな工夫がされていますか?

A 回答 (2件)

両手用のピアノ曲の左手用編曲というのをそれほどたくさん知りません。


少し前まで一般に知られていた左手用の曲というのは、
パウル・ウィトゲンシュタインのように戦争で右手を失ったピアニストが、
著名な作曲家に委嘱して書いてもらった作品です。
おそらくもっとも有名なのは、ラヴェルの『左手のためのピアノ協奏曲』でしょう。

近年になって、特に日本では、脳溢血の後遺症で右手が使えなくなった舘野泉氏の活動から始まり、
ジストニアのようなピアニスト特有の難病で右手が動かなくなった人たちによって、
左手用の作品が発掘されたり新たに作曲、編曲されたりするようになっていることは知っていますが、まだあまり聞いていません。
それまでは、両手用の作品の左手用編曲というのはほとんどなかったか、
知られていなかったのではないかと思います。

ただ、先述のウィトゲンシュタイン自身も、両手用の作品の左手用編曲はしています。
探したらYoutubeに出ていましたが、演奏の仕方に問題があるせいもありますが、あまり出来はよくないようです。
両手で弾くピアノは、オーケストラに匹敵する複雑な構造の音楽を一人で演奏できるので、
それを片手でやること自体にかなり無理があるのは確かで、聞きごたえのある編曲に仕上げるのは至難の業と思います。
音楽は、やはり低音が支えなので、これを抜くわけにはいきません。
両手が使えないとなると、先に低音を弾いてペダルで延ばしながら高音の旋律などを弾いていくことになります。
しかし、常に低音を先に打鍵するとワンパターンになって単調になるので、
時には先に高音を弾いて、あとから低音を入れるなどの変化もつけなければなりません。
しかも、ペダルをあまり踏みっぱなしにすると響きが濁るので、これにも限界があり、
といって、あまり頻繁に高音域と低音域の間を跳び続けるのも無理です。
そのため、左手用の編曲や作品は、どうしても響きの豊かさが途切れがちになるのは避けられません。
メロディーのパートに動きがある場合は、中断して低音を挟むのもかなり困難になるため、
片手がカバーできる音域内で、メロディーとその支えになる和音を同時に弾いていかなければなりませんが、
これも同じ音域が続くと貧弱になるので、音域を変えるなどの変化が必要です。
両手の場合に左手が伴奏で弾くようなアルペッジョも、しばしば方向を逆に変更しなければなりません。

ウィトゲンシュタインの編曲例をいくつか出して見ます。

リスト『愛の夢第3番』


シューマン『トロイメライ』
https://www.youtube.com/watch?v=k8zEzGweoPs&inde …

ショパン『ワルツ作品64の2』
https://www.youtube.com/watch?v=4qtWCWWNK5M&inde …

ウィトゲンシュタインなりに工夫はしたつもりなのはところどころで感じられるのですが、
効果が上がらず、これではピアノが鳴らないので、退屈してしまいます。
左手だけである程度豊かな響きを維持して、かつ華やかなピアノの技巧的効果もほしいとなると、
かなりの超絶技巧が必要になります。
効果的な編曲を書くためには、作・編曲の技術もかなりいる上、編曲者自身がかなりのピアノの腕前を持っていないといけません。

「工夫」ということから言うと、しなければいけない工夫はたくさんあり、
個々の例を挙げきることは出来ないので、いくつかの例だけにさせていただかざるを得ません。
レオポルド・ゴドフスキーという超絶的な技巧を持っていたピアニストが、
ただでさえ難しいとされるショパンの練習曲をさらに難しく編曲したものがあり、
その曲集の中には、左手のみのための作品がたくさん含まれているので、それを例にとります。
ただしこのゴドフスキーの作品は、原曲に忠実な編曲を目的としたものではなく、
さらに難易度の高い練習曲に作り替えることが目的で、
音楽の内容もゴドフスキーの作曲スタイルで書き換えているところがたくさんあります。
一応、原曲にかなり近いものを選んでおきます。

まず、作品10の3、有名な『別れの曲』ですが、これはゆっくりしたテンポなので、
かなり原曲の雰囲気を保持した編曲が可能です。
片手で押さえられる音を目いっぱい使い、あとはアルペッジョで付け足しながら、
豊かな響きを保つことに成功しています。
調が変えてありますが、これは左手で弾きやすい調に変えたということではなく、
左手が高音域に跳んだときに肘が左側、手の先が右側と斜めの角度になるので、
低音域で弾く場合の最低音が黒鍵である方が、その腕の角度があらかじめ準備できるという理由からと考えられます。
また、やはり片手で響きが薄くなるので、多少音域を下げた方が、重みが出るということもあるでしょう。

ショパン 練習曲作品10の3『別れの曲』
ショパンの原曲
https://www.youtube.com/watch?v=JS7KfOyMEIY
ゴドフスキーの左手用編曲
https://www.youtube.com/watch?v=H0f0pM3ZViM&inde …

次も有名な『革命』と呼ばれる練習曲です。
やはり調が変えられており、これも指使いと腕の角度を考慮した可能性がありますが、
ゴドフスキーは、両手用の編曲でも練習のためにほかの調に変えているので、
必ずしも左手の都合を考えただけではないかもしれません。
メロディーは時々オクターブ下げて、低音域もより低い音を使っています。
片手だけだと音量のコントラストが十分つかないので、
音域を変えることで、オリジナルの音域と、より音量の出る低音域のコントラストがつきます。
原曲の左手のアルペッジョの伴奏は、メロディーを弾いた後にその場所から下降する形を取るので、
原曲とはしばしば逆方向になります。
無理に低音域に戻って、オリジナル通りの伴奏形を保つより、
この方が動きは自然で、作品としてまとまります(画像参照)。
左手用編曲としては非常に群を抜いて優れたもので、聞きごたえも十分あると思います。

ショパン 練習曲作品10の12『革命』
ショパンの原曲
https://www.youtube.com/watch?v=w2vLEQno9Ks
ゴドフスキーの左手用編曲
https://www.youtube.com/watch?v=V83ipsBr9VQ&inde …

次は、作品10の4です。ショパンの原曲では、伴奏は比較的簡素な和音の連打なので、
編曲は比較的易しいかもしれません。しかしゴドフスキーは、
旋律に和音を同時に組み合わせるのはもちろんですが、
指使いを巧妙に変えることで、旋律の下側と上側に交互に和音を入れたりして常に音域を広くとり、
全体的に広い音域を使い切ることでピアノが思い切り鳴るように最大限の工夫をしています。
原曲でオクターブの連打とアルペッジョになっている個所も、
すべてのオクターブのアルペッジョを異なる音域に移動して、
痩せた響きの印象にならないような効果を考えています(画像参照)。

ショパン 練習曲作品10の4
ショパンの原曲
https://www.youtube.com/watch?v=XIKdCTmcTLs
ゴドフスキーの左手用編曲
https://www.youtube.com/watch?v=xjwEQu6zkIE&inde …

解説は以上にして、もう何曲か紹介します。

ショパン 練習曲作品10の5『黒鍵』
ショパンの原曲
https://www.youtube.com/watch?v=gqHL2nvWs2U
ゴドフスキーの左手用編曲(音質が悪いのが残念ですが、この編曲をもっとも完璧に弾くピアニストです)
https://www.youtube.com/watch?v=M6COvccsx8E&inde …

ショパン 練習曲作品10の11
ショパンの原曲
https://www.youtube.com/watch?v=HQLcYe7JlVw
ゴドフスキーの左手用編曲
(これは、原曲にない要素を付け加えて、かなり雰囲気の違う曲に作り替えているので、
原曲にそった編曲からは少しはずれますが、楽譜を見ただけだと両手用の曲かと思うでしょう。
片手でどれだけのことができるかのよい例なので、あえて挙げました)
https://www.youtube.com/watch?v=poREBQwvfO4&inde …

(回答No.2につづく)
「両手用のピアノ曲を左手のみに編曲するには」の回答画像1
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(つづき)



ゴドフスキーの編曲例は、他に類を見ない高度なもので、編曲者自身が超絶技巧の持ち主でないとできない発想です。
作・編曲の技術だけでは、ここまでのアイデアは出てこないと思います。

別件で、左手のためのオリジナル曲の場合の工夫という質問が出ていますが、
効果的な曲を作るために注意することは、基本的にここで話したことと共通なので、
これ以上あまり付け加えることはありません。
もし時間があったら、オリジナル曲の例を挙げて回答しておきます。
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