■マニアを大量生産する圧倒的な世界観
まずは、SWの世界観が与えた影響についてだ。
「SWの公開当時、宇宙が舞台のSF映画は、安っぽく子どもっぽいものという風潮があったため、ルーカスの企画はいくつもの映画会社に断られたそうです。しかし、ルーカスは制作会社ILM(インダストリアル・ライト&マジック)や音響会社を自ら設立。ルックスと音響に注力することでチープさを排し、本格的な世界観をもつ作品に仕上げました。シンプルでわかりやすい娯楽性と、大人の目にも耐えうるストーリーの両立を実現したのです」(前田さん)
SF映画の金字塔でもあるSWは、イノベイターでもあったのだ。
「SWには、黒澤映画をはじめ、ルーカスが好きだった作品の影響が随所に散りばめられています。その結果、今でいうエヴァンゲリオンのファンが元ネタやオマージュ探しに夢中になるように、作品の世界にのめり込む多数のSWマニアが誕生しました。特筆すべきは、東洋の神秘的なソードアクションや武士道的な価値観をベースに、西洋人が好むアレンジを施した点です。SWをきっかけに日本文化に興味をもちはじめる人も現れました」(前田さん)
マニアたちは「どの作品が好きか」という話題で一日潰せるという……。世界に与えた影響は計り知れないものがある。
■個性的なビジュアルと視覚効果
次は、一目見たら忘れないビジュアルについてだ。
「ILMは原始的ながらCGを使用するなど、一作目から視覚効果や特撮に非常に力を入れています。特に、『ダイクストラフレックス・カメラ』と呼ばれるモーション・コントロール・カメラをコンピュータで制御する技術のおかげで、合成技術と精度が飛躍的に向上し、以降の特撮技術の肝として使わるようになりました。巨大宇宙船スター・デストロイヤーのミニチュア撮影によるオープニングや、ライトセーバーの美しい戦い、デス・スターの巨大さ、あるいはスクロールする文字など、SWを印象付ける映像はいくつもすぐに思い浮かびますね」(前田さん)
今でこそ映画制作に欠かせないCGだが、当時としてはかなり異例だったようだ。
「一方で、『チューバッカ』や『ドロイド』たちはアナログ的な手法で撮影され、人間味あふれる動きから愛されるキャラクター像を確立しました。最新技術と伝統的な手法を適材適所で取り入れた、お手本のような映画ともいえます。また、独特の効果音やフルオーケストラの楽曲は、目を閉じていてもSWとわかるものです」(前田さん)
改めて説明されると、SWがこだわりの塊だということに再度気づかされる。
■抜群のコストパフォーマンス
SWは映画ビジネスにも、多大な影響を与えたという。
「ライトセーバーが、撮影所に転がっていた機材のガラクタをそのまま使ったというのは有名な話ですが、あらゆる点でコスパが優れた制作体制だったといえます。予算は超過したものの10億円程度で作ったSF作品としては、稀にみる完成度です。長大な構想で、9本の本編を作れる発展性。さらに、公式スピンオフ作品の制作を解放するという方針だったため、映画以外にも、漫画やアニメなどの多くの関連作品が作られました」(前田さん)
1シリーズの映画からの波及という意味で、これほど経済効果を上げている作品は過去にはないかもしれない。
「重要なのは、後に作られたシリーズで『使い回し』できた部分が多かったという点です。例えば、効果音や音楽、視覚効果のノウハウ、メカ類、ライトセーバー、衣装などが挙げられます。通常、映画で一番予算のかかる部分が安く上げられた点も革命的でした。エピソード1~3はルーカスの事実上の自主映画だということは有名ですが、きっとこの点を理解して制作していたのでしょう」(前田さん)
誰もがうらやむコスパ抜群の優良シリーズということで、多くの製作者が目標とし、この映画のビジネスモデルを真似したという。SWはあらゆる面において革命的な映画だったのだ。2018年は6月29日から「ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー」も公開ということで、盛り上がりは必至だろう。
●専門家プロフィール:前田 有一
映画評論家。2003年より自身が運営するサイトと日本文化チャンネル桜の番組内で「超映画批評」と題し、大手が配給する映画からインディーズ系の映画まで幅広く批評。「新作映画を公開直前にネタバレ無しで毒舌紹介」として、作品によっては厳しい評価をしている。