■親元を離れることだけが、自立ではない
大人になっても実家に住んでいるという定義では、多くの人があてはまるが……。
「大人になっても親と同居していること自体は問題ではありません。親と同居している人の中には仕事をし、家計や家事を分担している、言わば『家庭内自立』をしている人も決して少なくないはずです。これは同居していても協力しながら暮らしているわけですから特に問題はないでしょう」(高澤さん)
では、問題になるのはどのようなケースなのだろうか。
「例えば、心身ともに働ける状態にあるのに働くことなく、働いてはいても家庭の運営や維持に協力的ではなかったりと『自分だけ快適な状態』や『不快さを避ける状態』を続けている場合は問題といえます」(高澤さん)
病気、介護、離婚直後、職の喪失など、その時々の状況によって、親と同居せざるを得ない場合は問題ないので区別したい。
「『自立=良い』とステレオタイプで考えるよりも、ケースバイケースでどんな方向性が『家族全体にとって』有用かを考えていくことが大切です。誰かが得をし、誰かが犠牲になるような暮らしではなく、そこに住む全員が役割や責任を持ち、相互に協力し合う生活であるかがポイントです」(高澤さん)
協力し合える同居であるなら、ネガティブに捉える必要はないのだ。
■自立できないのは、実は本人だけの問題ではない?
年老いた親が中年の子供の面倒を見ているときくと、パラサイトシングルと思い、中年の子供が親の面倒を見ているときくと、そう思う人はいない。世の中は「面倒を見ている」ほうに同情的だ。だが、問題はもう少し奥深いようだ。
「一般的な自立を避け、依存的に生きる人は悪者のように取り沙汰されがちですが、そういう暮らし方を選択できるのは、その環境があってこそです。実家暮らしで仕事はしていても、お金を入れず家事も分担していない。そのような状態で、親が生活費や家事を肩代わりしていれば、これが依存を支える行為となります。口ではよくない行為と言っていても肩代わりする行為そのものが『そのままでいいよ』というメッセージとして伝わってしまうのです」(高澤さん)
行動せずに口だけで子供に指示を出していても、望む結果にはならないのだ。
■子供の自立の前に親の自立
当事者の中には、現状を改善したいと思う人もいるはずだ。そんな人は、何をしなければならないのか。
「まず親自身が自立(特に精神的自立、社会的自立)を果たすことがポイントです。自立した親の姿はそのまま子供にとっての手本になり、子供は自然に自立に向かわざるを得なくなります。我が子を大切に思うなら、口で言って動かそうとするのではなく、我が子にこうなってほしいと願う状態を、親である自分自身が目指すこと。その在り様が我が子の自立を促す推進力になります」(高澤さん)
自立の問題は、親の影響の可能性を否定できないという。子供の自立に悩む親は、まずは自分が自立できているか顧みる必要がありそうだ。
●専門家プロフィール:高澤信也
カウンセリングオフィス・トリフォリ代表。公認心理師。機能不全の家族当事者、養育者への環境改善を支援。連鎖しがちな家族の問題に向き合い、子供たちの幸せを第一に考え、連鎖防止に努める。大野城市で月に一度子育て応援セミナー開催中。