──今回、映画『王様になれ』の監督を務めることになった経緯を教えてください。
オクイ:ピロウズの山中さわおくんとは、20年くらい前に僕がDJを務めていたラジオ番組にゲスト出演していただいたのが縁で付き合いが始まりました。お互いウマがあって連絡を取り合うようになり、僕がピロウズのライブに行くこともあれば、さわおくんが僕の舞台を観に来てくれることもあって……。2年ほど前に、そのさわおくんから「ピロウズの30周年を記念した映画をつくりたいので監督をお願いできないか」と相談を受けたのがきっかけですね。
──すぐに承諾されたのでしょうか?
オクイ:それまで芝居の演出には携わってきましたが映画は初めてなので「ちょっと考えさせて」と、いったん持ち帰らせてもらいました。芝居と映画はまったく別物ですし、監督として作品を背負うことになるわけですから軽い返事はできませんよね。でも非常に光栄なことでしたし、断ったらあとあと絶対に後悔すると思ったので「やらせていただく」と返事をしました。
──映画は山中さんの原案をもとにしているそうですが、どのような案だったのでしょうか。
オクイ:実は基本的な設定はそのままで、大きくは変えていません。主人公の祐介とユカリの関係や、祐介がカメラマンを目指しながらラーメン屋でバイトしていることなども原案のままです。さわおくんが思い描く世界観を大切にしながら、僕の人生観などもミックスしてストーリーを肉付けしていきました。ピロウズの30周年記念映画という大前提がありましたから、そのファンの期待を裏切らないように、さわおくんと密に相談しながら進めていったので、決定稿になるまでかなり時間がかかりましたね。
──映画はBUSTERS(ピロウズのファンのこと)にはたまらない作品に仕上がっていますね。楽曲が物語に違和感なく溶け込んでいて。
オクイ:脚本を練り上げる際は、ピロウズの楽曲と物語の双方を最大限に活かせるような方法を常に意識していました。たとえば劇中にはピロウズのライブシーンも登場しますが、ステージと観客の間にカメラマンの視点を入れることで、物語との結びつきを強めると同時にライブの臨場感を際立たせる工夫などもしています。作中のどのシーンにどの楽曲を使うかも苦心したところですね。楽曲と物語が不可分で、使う曲によってストーリーの展開も変わってきてしまうので。だから100パターン以上組み合わせを考えて、そのなかからベストのものを選んでいるんですよ。
──それはすごい! 劇中にはピロウズに関する小ネタも結構仕込んでいますよね。山中さんがネギが苦手な話とか。
オクイ:そうなんですよ(笑)。原案にそういうBUSTERSなら多くが知っているようなネタがいくつかあって、劇中にも意図的に盛り込んでいます。ピロウズのことを知らない人にも違和感なく見ていただけるように表現していますが、観終わった後で「あれはなんだったんだろう」と調べてみたくなるんじゃないかな。そこからピロウズに興味を持ってもらえたら最高ですね。
──今回が映画初監督とのことですが、大変だったことはありますか?
オクイ:舞台の場合は、たとえば登場人物が置かれた状況などを観客の方に想像で補ってもらうことで物語を展開していくことができますが、映画の場合はそれを常に画として見せていかなければならないですよね。かといって、なんでもかんでも映像やセリフで説明してしまうと想像の余地が少なくなってしまう。そういった表現をどうするかがいちばんの課題でした。そこで、極力セリフではなく表情やしぐさ、照明の変化などで登場人物の思いや葛藤、関係性を暗示させるようにしたんです。だから、観てくださる方によって受け取り方は異なってくると思います。それぞれの感じ方で作品を楽しんでいただければ嬉しいです。
──岡山天音さん、後東ようこさん、岡田義徳さんほか、キャストの演技がすごく印象的でした。演出の際にこだわったポイントは?
オクイ:キャストに関しては嘘のない演技をしてほしいと考えていました。とくに今名前の上がった3人はピロウズに人生を動かされる役柄を演じているので、彼らの「ピロウズが好き」という設定に嘘があってはならないと。そこさえしっかり押さえていれば、あとは自由に演じてもらってもうまくいくと感じていたんです。だからキャスティングの際もそこを重視しました。3人とも、もともとピロウズが好きな人ばかりなんですよ。撮影の際は、曲を聴きこんで「ピロウズの曲がファンの心をどう動かしてきたのか」を感じてもらい、それを現場で体現してもらうようにしました。
──劇中にはGLAYのTERUさんとJIROさん、ストレイテナーのホリエアツシさんなど、豪華なゲストミュージシャンが本人役で出演されていますね。
オクイ:TERUさんとJIROさんは劇中でピロウズの「スケアクロウ」をカバーしているのですが、撮影のために何度も繰り返し演奏してくれたんですよ。通常は1回撮ったら別アングルのカットなどは当て振りで撮影することが多いのですが、その場で「全部歌います」と何回も本気で歌ってくれて。劇中で「ストレンジ カメレオン」をカバーしたホリエさんもすごくいい人で、彼らに出演していただけたのは本当に嬉しかったですし感謝の気持ちでいっぱいですね。
──BUSTERSのみなさんには、この映画をどう観てほしいですか?
オクイ:撮影の際は本当にたくさんのBUSTERSのみなさんに協力していただきました。SNSを通じてコメントをくださった方も多く、みなさんと一緒にこの映画をつくりあげてきたという感覚があります。BUSTERSのみなさんが作品から受ける想いはさまざまだと思いますが、そのどの想いも真摯に受け止めていきますので、ぜひ自分なりの感じ方でピロウズの30周年記念映画を楽しんでください!
──最後に、読者の方へのメッセージをお願いします。
オクイ:本作はピロウズというバンドのアニバーサリー映画ではありますが、ピロウズのことを知らない人にとっても身近に共感できるピュアな青春映画に仕上がっています。映画好きの方や音楽好きの方もぜひ劇場で楽しんでいただけると嬉しいです!
なお、「教えて!gooウォッチ」では、映画『王様になれ』の作品情報も別記事で紹介しているので、そちらの記事も併せてチェックしてほしい。
■映画情報
『王様になれ』9月13日(金)シネマート新宿ほか全国順次公開
(C)2019『王様になれ』フィルムパートナーズ
『王様になれ』公式ページ