■住居侵入罪や軽犯罪法違反が成立する可能性は高いが、窃盗罪については判断がわかれる
お話を伺ったのは、弁護士法人アドバンスの堀向良介弁護士。無断でごみを持っていく行為は、犯罪になるのだろうか。
「まず考えられるのが、窃盗罪です。窃盗罪は、『他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する』と述べています。また、マンションの敷地内などに侵入して持ち去り行為を行った場合、住居侵入罪(3年以下の懲役または10万円以下の罰金)あるいは軽犯罪法違反(拘留又は科料)になります」(堀向弁護士)
しかし、ごみ捨て場に出されたごみが「他人の財物」になるかについては、判断がわかれるという。ごみを捨てるとき、通常は「不要なもの」として処理する。そのごみは誰かが所有している訳ではないので「他人の財物」には該当せず、窃盗罪にはあたらないという判断になる。
「一方で、多くのごみ、特に資源ごみや粗大ごみに関しては、自治体ごとに決められたルールがあります。そのため、ごみ捨て場に出されたごみは、ごみを捨てた人物のものから自治体のものになったという解釈があります(東京高裁平成20年12月10日判決など)。この解釈に立つと、窃盗罪が適用される可能性があります」(堀向弁護士)
2016年に奈良市のごみ処理センターの職員が、ごみとして回収した自転車51台とアルミ缶約860キロ(時価換算すると計11万2500円)を盗んだ疑いで、窃盗罪として逮捕された事案もあるとのこと。ただ実際には、ごみは経済的価値が低いことから、窃盗罪として罰せられる事案はあまりないという。
■独自の規則を制定し、持ち去り行為を禁止している自治体も
「ただし、特に資源ごみに関しては、リサイクルが可能なため、ある程度の経済的価値があり、自治体の収入源のひとつになっています。また、資源ごみの持ち去り行為をする人物が不法侵入などの違法行為を行ったり、ごみ捨て場を汚くしたりする行為が目立ち、問題視されていました。そこで、多くの自治体では独自の規則を制定し、持ち去り行為を禁止しています。保護対象を『缶・古紙だけ』と限定している自治体もあれば、『家庭から出されたごみ』と広めに設けている自治体もあります」(堀向弁護士)
例えば、東京都足立区では、保護対象を「古紙、びん、缶その他の再利用を目的として分別されたもの、金属を含む産廃棄物および小型家電」とし、違反すると氏名公表、過料2000円、20万円以下の罰金などの罰則が課せられる。一方、千代田区では持ち去り条例自体が存在しないなど、都内でもかなり差があるようだ。
「資源ごみが対象となることが多いですが、粗大ごみなら自由に持ち帰ってOKという訳ではありません。粗大ごみシールなどで『持ち去り禁止』と印字しており、持ち去り行為を禁止していることが一般的です」(堀向弁護士)
■まだ使えそうな不要品を転売する行為は違法?
では、手に入れたごみを転売する行為は、罪に問われるのだろうか。
「医薬品や酒類などを除き、転売行為自体は、法律違反ではありません。転売というと、チケットを高額で転売する行為を思い浮かべる人も多いと思いますが、オークションサイトの運営会社の独自ルールで、転売目的での利用を禁じているにすぎないのです」(堀向弁護士)
ただし、例外もある。
「ビジネスで継続して転売行為を行っている場合には古物営業法違反、盗品であることを知りながら売買行為に関与した場合は盗品等関与罪が適用されます。転売は小遣い稼ぎで行う方も少なくありませんが、場合によっては処罰の対象となるので注意しましょう」(堀向弁護士)
ごみとはいえ、そこには処分した人の思い出が詰まっている。勝手に持ち去る行為は慎んでほしいものだ。
●専門家プロフィール:堀向 良介
青山学院大学法学部法学科卒業、早稲田大学法科大学院修了。2016年、弁護士法人アドバンスに入所。同福岡事務所所長などを経て、現在はパートナー弁護士として東京事務所に勤務。第一東京弁護士会所属。
(酒井理恵)