
■『死に花』
最初に紹介してもらったのは、犬童一心監督の『死に花』だ。
「4人の70歳超老人軍団を中心とした、銀行強盗のお話です。実は映画に登場するお年寄りたちは超がつく富裕層で、高級老人ホームで悠々自適なセカンドライフを楽しんでいるのですが、日々やるべきことがみつからず退屈という悩みを抱えています。そんなとき、ある友人のお別れ会をきっかけに銀行強盗の計画がもち上がります。お金目的ではなく生き甲斐を求めて、水を得た魚のように老人パワーを爆発させます。思いがけない形で17億円という大金を手にした彼らに、さらなる展開が待ち受けています」(坂和さん)
自らの生き甲斐を追い続けるのは、年金問題などを考えることよりも重要かもしれないと、考えさせられる作品だ。
■『春との旅』
次は、小林政広監督のロードムービーだ。
「孫娘の春と頑固でわがままな祖父忠雄との2人旅を描いたヒューマンドラマです。目的は、疎遠になっている姉兄弟たちに忠雄の世話をしてくれと頼むこと、心が重くつらい旅を、2人がどのように乗り切り成長していくかが見所です。結局受け入れ先はゼロで、2人は石狩市の漁師町に戻ることとなるのですが、ここから春の父、真一が登場し物語は意外な方向に進んでいきます。主人公を演じた名優、仲代達矢が『約150本の出演作中、5本の指に入る脚本』と名言したという作品です」(坂和さん)
頑固で偏屈な老人が、段々素敵なおじいちゃんになっていく姿を是非見てほしい。
■『東京家族』
次は、小津安二郎監督の名作『東京物語』(1953年)のリメイク作品だ。
「『家族』を描くことにかけてはピカイチの山田洋次監督が、今という時代を踏まえた解釈でストーリーを再構築しています。瀬戸内の小島に住む老夫婦が、東京で暮らす子どもたちに久しぶりに会いにいくのですが、長男夫婦は忙しくて相手をしてくれないどころか、家に泊めてもくれません。しかしこの後、思いもよらない事件をきっかけに、家族としての絆を確かめていくことになります。老夫婦が、途中別行動をするシーンがあるのですが、両極端な2人の行動が、血のつながった家族の失われた絆や、家族の優しさを際立たせている部分がクライマックスへのよい導線となっています」(坂和さん)
家族のありかたや、絆を確認できる本作は、敬老の日に相応しい作品といえよう。
■『グオさんの仮装大賞』
邦画から一転し、次は、老人ホームを舞台にした中国の監督、張楊(チャン・ヤン)の作品だ。
「家族と暮らしたいのに、老人ホームに入れられ寂しい気持ちでいるお年寄りたちが、天津で行われる仮装大会に出ることを名目に、老人ホームからの脱出を試みるというストーリーです。仮装大会への出場が決まったあと、生き生きするお年寄りたちの姿を見ると、その老人パワーの凄さに驚かされます。しかしお年寄りだけに、体力や健康、物忘れなどによるトラブルも勃発して、なかなか一筋縄ではいかない。また、メインストーリーとして描かれる、父と子、孫の確執と絆の描写も、老人ホームのありかたなどについて考えさせられる内容です」(坂和さん)
老人ホームからの脱出というハチャメチャ感があることで、より一層人間らしさについての描写が鮮明になっているといえよう。
■『手紙は憶えている』
最後の作品は、アトム・エゴヤン監督のカナダ・ドイツ映画だ。
「70年前、家族を殺したナチスを探すというストーリーです。容疑者は4人で、手がかりは1通の手紙のみ。老人ホームを脱出した90歳の主人公がまずは拳銃を購入し、アメリカに復讐の旅に出るものの、強度の認知症があり一筋縄ではいきません。ラストでは、なんとか容疑者に辿り着くものの、あっと驚く驚愕の展開となりますので、是非ご自分の目で確かめてみてください」(坂和さん)
ハードな認知症のおじいちゃんが復讐の旅に出るという、トンデモない設定だが、逆にどうなってしまうのかと興味をそそられる。
お年寄りが活躍する作品を、おじいちゃんおばあちゃんと一緒に見るのも楽しいだろう。超高齢化社会の日本だが、今後ますますお年寄りの活躍を、スクリーンの内外で期待したい。
●専門家プロフィール:坂和 章平
坂和総合法律事務所の所長。弁護士としての活動だけでなく、映画評論家との2足のわらじを履く経歴をもつ。著書に、『実況中継 まちづくりの法と政策』(日本評論社)など多数。