■動物との絆がテーマの感動的なストーリー
物語の舞台は太平洋戦争まっただ中の日本。大和少年(石田さん)は、支那事変で足に傷を負って新聞記者を休職中の父(水島さん)と柴犬の麦(井上さん)、いつも餌をねだりにくる野良猫の小太郎(平田さん)とともに、戦時下の大変さはあるものの幸せな毎日を送っていた。一人っ子のため、話し相手となるのはおもに麦と小太郎。父親には言えないような弱音や悩みも、彼らにならなんでも話すことができた。
しかし、戦況が逼迫してくるにつれ大和らの生活にも変化が訪れる。不足する物資を補うため金属類は半ば強制的に供出させられ、ついには犬や猫まで……。愛国心に溢れ物資供出にも進んで協力した大和だったが、深い絆で結ばれた麦と小太郎が捕らえられそうになるのを黙って見ていることなどできようはずもなかった──。
■各キャストの豊かな表現力に圧倒される
朗読劇と銘打っている通り、本作は出演キャストが手に台本を持って音読するスタイルで上演される。舞台上のセットもキャストが使用する椅子のみというシンプルさ。照明や映像、効果音による演出はあるものの、基本的には声の芝居のみで、体全体を使った演技は行われない。その分、身振りや手振りによる誤魔化しが効かないということでもある。
それだけに幕が上がる前はワクワクする反面、「ちゃんと集中して話の筋を追わなければ」と少しだけ身構えてしまう部分も。しかし、水島さんによるオープニングのナレーションが始まったとたん、そんな懸念はあっという間に吹き飛び、一気に物語の中に引き込まれてしまった。
ときには感情をほとばしらせ、ときには感情を押し殺して……。水島さんの語りは臨場感と躍動感に溢れており、まるで本当に大和少年らがいる物語の中に入り込んでしまったと錯覚させられるほど。戦時中の日本の荒廃した風景や、次第に余裕をなくしていく人々の姿、人気のない山の中にある廃屋の様子なども、まざまざとまぶたに浮かんでくる。ちなみに、水島さんは語りのほか、大和の優しい父親と、大和が出会う飄々とした脱走兵の松原、厳しく冷酷な学校の教官など、複数の役を担当していたが、見事に演じ分けていたのは「さすが」の一言だ。
一方、大和を演じる石田さんは、「国のため」と言われても疑うことを知らない少年の純真さやひたむきさを好演。自身の弱さやふがいなさに打ち沈みながらも、生き抜くために強くたくましく成長していく姿を、情熱的かつ説得力のある演技で表現して鮮烈な印象を残した。
作中、コミカルな笑いを提供してくれたのが、井上さん演じる柴犬の麦と、平田さん演じるキジトラ猫の小太郎だ。あくまでも飼い主の大和に従順な麦と、自由気ままで打算的な小太郎は、犬や猫を飼ったことのある人なら「あるある」とつい微笑んでしまうキャラクターに描かれている。井上さんと平田さんによる掛け合いは息もピッタリで、2匹の性格の違いからくる会話のおかしみや、手柄を張り合う可愛らしさなどに客席からは笑いが絶えなかった。
ちなみに後半、大和と麦、小太郎は人目を避けて山の中の廃屋で生活することになるのだが、魚などの食料を獲ってきてもあまり感謝されないことに対して小太郎が「オレはお前たちのなんなの?コック?」とぼやく。また麦が、「人間なら40歳くらいのおばさん」に相当すると聞いて「私40歳なの?」とショックを受けるなど、演者それぞれの持ちネタや代表キャラを想起させるシーンも。別のキャストだと、この辺りの掛け合いを含め、芝居がどう変わってくるのかぜひ観てみたい!と思わされた。
■愛犬や愛猫がもっともっと好きになる
終演後は、ハンカチで目頭を押さえる観客の姿も多く見られたが、どの顔も悲しみに曇った表情ではなく、まるで青空のように明るく澄んだ表情だったのが印象的。公演に先立ち行ったキャストへのインタビューでは、「ペットを飼っている人は、観劇後に家に帰ったとき、きっとそのペットを抱きしめたくなる」という話があったが、まさにその言葉通りの心温まる物語だった。千秋楽までまだあと少しあるので、気になった人は劇場に足を運んで見てはいかがだろうか。きっと、今以上に動物のことを好きになってしまうはずだ。
なお、「あなたが飼っているペットを教えて!」ということで「教えて!goo」では意見を募集中だ!
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