■独身で一人っ子、ストレスでうつ病に。認知症の親とどう向き合う?
明石シニアコンサルティング代表の明石久美さんによると、
「個人的見解では、うつ病の子どもは、自分の病気に専念せざるをえないと思います。精神的な病気をもっている場合、人のことを考えられる状態になかったり、頑張っていない自分を責めてしまったりするのではないでしょうか。また、親自身が財産をあまり持っていない場合には、親を老人ホームに入れたり、ヘルパーを利用したりすることも難しい可能性があります」
とのこと。老人ホームといってもさまざまな種類があり、代表的なものが、社会福祉法人や自治体が運営する公共型の施設「特別養護老人ホーム」と、民間事業者が運営する「有料老人ホーム」。特別養護老人ホームに入所できれば費用は安く抑えられるが、要介護認定が必須で順番待ちも長いため、多くの人は有料老人ホームを選択せざるを得ない。そのため、その費用を捻出できるかどうかを考えなくてはならない。
「将来に備えるにしても、親の資産がある程度あるのか否か、親の判断能力があるのか否か、子が財産管理をできるのか否か、他に頼れる身内がいるのか否かで対策は変わってきます」(明石さん)
これまで経済的にも精神的にも親に頼ってきた人も、親の判断能力がない場合、それも難しくなる。
「何よりも、親に介護が必要になったときに、どのようなところで相談できるのか、どのようなサポートが受けられるのかを知ることです。そして、精神的な障害があることを受け入れ、がんばらないことが一番でしょうね。そのために、相談できる先を見つけておけると、安心だと思います」(明石さん)
では、どのようなところに相談すればよいのだろうか?
■まずは住んでいるエリアの「地域包括支援センター」に行こう
家族や自分が認知症になった場合の相談窓口として、代表的なものに「地域包括支援センター」がある。保健師や社会福祉士など、専門員による相談受付や高齢者の見守りサービスなどを行っているので、困ったときには訪ねてみよう。
また、認知症の親は「介護保険」、うつ病の本人は「精神障害者保健福祉手帳」をそれぞれ利用すると、さまざまな支援を受けることができる。一例として、介護保険には訪問介護やデイサービス、精神障害者保健福祉手帳には公共料金等の割引や税金の控除・減免などのサービスがあるが、どちらも症状の進行具合によって受けられる支援の内容が異なり、申請も少々複雑だ。介護保険について詳しく知りたい場合、地域包括支援センターで相談にのってもらうとよいだろう。ちなみに、精神障害者保健福祉手帳については役所の保健福祉担当課が窓口となる。
■頼れる身内がいるなら「家族信託」という方法も
一方で、「親が判断能力も資産もあり、頼れる身内がいる。しかし、子が親の財産管理をするのが難しい」という状況であれば、将来に向けた備えをしておくことは十分可能だ。
明石さんによると、この場合、自分の財産を信頼できる人に託し、託された人が契約通りに管理したり給付・分配したりする制度である「家族信託(民事信託)」という方法を検討することができるという。
「家族信託なら、親が認知症になってしまったときの財産管理をあらかじめどうするか決めておくことができるため、親が死亡したときには親の財産を子のために給付・分配されるように設計し、子が死亡したあとは財産を託された身内などへ渡すこともできます。ただし、金融機関の理解が得られない場合があるため、まだまだ家族信託が活用できにくいこともありますから、この方法がベストとは限りません」(明石さん)
いつ何時、何が起こるか分からないもの。さまざまな選択肢があるということをまずは知っておこう。
●専門家プロフィール:明石 久美
明石シニアコンサルティング代表。これから相続コンサルネット理事長。ファイナンシャルプランナー(CFP/1級)、葬祭アドバイザー、シニアライフアドバイザーなどの資格を有し、生前対策や相続手続きなど、老後の問題を幅広い視点で総合的にサポートしている。
(酒井理恵)