刑訴法328条にいう「証拠」とは自己矛盾供述に限られると考えられています。
同条の趣旨が、矛盾した供述をしたこと自体の立証を認めることで供述証拠の証明力の減殺を図ることを許容した点にあるからです。
ここまでは理解できるのですが、次に問題となるのが同条にいう「証明力を争う」ことの意義です。
証明力を強める増強証拠は「争う」という文言に合致しないこと、また原則的に証拠能力の無い伝聞証拠によって心証形成が可能となり伝聞法則の趣旨を没却するとして、「証明力を争う」ことにあたらず、同条より証拠とすることは認められないとされています。
ですが、そもそも同条にいう「証拠」を自己矛盾供述に限定した場合、証明力を増強しようとする供述が自己矛盾供述に当たるとは考えられず、「証明力を争う」ことの意義が問題となるとは思えないのです。
最近答練で328条が問題となり、解説には増強証拠・回復証拠の場合は、328条の「証拠」は一致供述を指す、と理由付けも無く記されていました。
確かにこの解説通りであれば、増強証拠が問題となる場合、328条の「証拠」にはあたるものの「証明力を争う」ことにはあたらず、したがって証拠能力が認められないという結論を導くことができますが、特に理由が示されていなかったのでどうもしっくりきません。
どなたかご教授お願いいたします。
No.2ベストアンサー
- 回答日時:
理由付けがないのは当り前だと思う。
供述の証明力を減殺するからにはその供述と矛盾しているはずであるし、回復または増強するならば矛盾していない、つまり一致する供述であるはずである。どこに疑義があるのだろう。
とりあえず、この疑問点とは別に328条について簡単に解説してみることにする。
確かに、328条の説明は基本書、参考書類の解説では解りにくいところかもしれない。
極々簡単に言ってしまえば、328条で証拠とできる「証拠」とは何かという話と、弾劾証拠が自己矛盾供述に限るかどうかという話は「次元の違う話である」。
つまり、証明力を争う証拠とは何かという議論について、弾劾証拠、回復証拠、増強証拠のいずれまでを含むのかという議論があり、「それとは別に」、その内の特に弾劾証拠について、自己矛盾供述に限るのかという議論があるのである。基本書等の記述は、順番が逆なので解り難いのかも知れない。
328条が証拠能力を認める証拠は、「証明力を争う」という性質上、明らかに、実質証拠ではなく補助証拠である。補助証拠というのは、その働きによって弾劾証拠、回復証拠、増強証拠と分けられる。そこで、328条の「証明力を争う」証拠とはどこまでを言うのかという話になる。
弾劾証拠が「証明力を争う」証拠であることは明らかである。まさしく証明力が「ないことを争い、減殺すること」が弾劾証拠の機能なのだから。そして、弾劾証拠によって証明力が減殺された時にそれを回復するのが回復証拠であるが、この回復証拠は、弾劾証拠に対する反論であり、証明力が「あることを争い、回復する」ことがその機能である。いわば「弾劾証拠を弾劾する証拠」なのである。そして、通常の文言の解釈として「証明力を争う」というのは弾劾証拠による証明力の減殺だけではなく、それに対して反論し、証明力を回復することまでも含むと考えるのが自然である。ならば、回復証拠もまた「証明力を争う」証拠である。
しかし、増強証拠となると、弾劾証拠の存在とは無関係に、単に証明力を増強することを目的とするものであり、文言上、「争う」とは言えない。何よりも、これを許容すれば、実質的には、証拠能力のない証拠を広範囲に証拠とすることができ、伝聞法則が絵に描いた餅になってしまう。よって、増強証拠までは328条によっては認められない。
次に、弾劾証拠であればなんでも良いのかという問題がある。
まず、矛盾のある供述でなければ弾劾証拠にならないので、弾劾証拠は矛盾を含む供述であることは明らかである。そこでそれが「自己に限る」のか「他人でも良い」のかが自己矛盾供述に限定するかどうかという議論である。これは判例通説が自己に限るとしているのは言うまでもなかろう。なお、この自己矛盾供述の時期は別に論点である。
そして、最後に、回復証拠が矛盾供述でないことは言を待たない。矛盾供述が証明力を回復するということは常識で考えてもおかしいことは明らかである。とすれば、矛盾していない=一致するという意味で回復証拠が一致供述なのは当然のことである。増強証拠も同様である。
懇切・丁寧かつ解かり易い解説ありがとうございます。
弾劾証拠として用いる場合に自己矛盾供述に限られるということがわかり、納得しました。
ちなみに増強証拠・回復証拠の場合、証拠が「自己」一致供述に限られるのは、弾劾証拠の場合と同じく、他人の供述でもよいとすると伝聞法則を没却するから、という理由でいいのでしょうか?
No.3
- 回答日時:
証人甲が、「犯人は乙ではない」と公判で
証言したとき、検察官は「犯人は乙である」
という甲の供述書、供述録取書、口頭の供述を
提出できます。
この場合、その供述は、そのようなウソをいう
甲の供述は信用できない、という意味で
提出されるにすぎません。
つまり、内容の真偽は問題では無く、
ただ、甲がそういう供述をした、ということを
証明するだけです。
従って、甲の供述書、供述録取書は、そもそも
伝聞証拠ではなく、当然に許容されるものです。
ただ、主要事実に対しては、伝聞証拠であるから
予断偏見を避けるためには、弾劾証拠としても
許されないのか、という疑問が出るので、
それに答えただけの規定です。
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