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福島第一原発事故を描いた映画『Fukushima 50』──その製作秘話を聞く

映画『Fukushima 50』のエグゼクティブプロデューサーを務めた株式会社KADOKAWA代表取締役副社長の井上伸一郎さん2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震による揺れと津波の影響によって発生した福島第一原子力発電所事故。その現場に留まり、メルトダウンの危機から日本を救うために奮闘し続けた約50名の作業員たちの姿を描く映画『Fukushima 50』(フクシマフィフティ)が、全国の劇場で公開されて話題を呼んでいる。同作のエグゼクティブプロデューサーを務めた株式会社KADOKAWA代表取締役副社長の井上伸一郎さんに、製作の経緯や狙い、作品への想いなどを伺った。

──本作の構想はいつ頃から温めていたのでしょうか。

井上:5年ほど前に角川(編集部注:株式会社KADOKAWA取締役会長の角川歴彦氏)から「これを映画化できないか」と、門田隆将さんのノンフィクション『死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発』を手渡されたのがきっかけです。もともと角川は俳優の津川雅彦さんから震災を題材にした映画の企画を持ちかけられ、震災企画もの実現に向け動いていたのですが、テーマが難しくてうまく映画化に結びつけられないでいたんですね。そんなときにこの原作に出会ったそうです。私も事故当時に海外メディアの報道で「フクシマ50」と呼ばれる作業員の方たちの存在を知り印象に深く残っていたので、一映画人としてぜひ製作に携わりたいと思いました。

──タイトルは作業員の方たちの通称「フクシマ50」からとっているんですね。

井上:そうなんです。角川から話があった際に、私が「タイトルは『Fukushima 50』にしたい」と提案したところ「いいタイトルじゃないか」と。原作者の門田さんにもご了承いただき、このタイトルで製作を進めることになりました。

──製作はスムーズに進んだのでしょうか?

井上:題材が題材だけに、スムーズというわけにはいかなかったですね。きちんとした裏付けがなければ作ってはいけない映画だと考えていましたから、用語ひとつひとつにいたるまで関係者への取材などを通して事実関係の確認を取っていきました。

井上伸一郎さん

──舞台となる福島第一原発の施設は、セットを建設して再現されたそうですね。

井上:間取りはもちろんですが、計器や、そこに表示されている文字や記号など、細部まで徹底的にリアリティを追求しています。ただ、既存の原発施設内はセキュリティ上の問題でカメラやビデオによる撮影ができないため、美術スタッフが手描きでスケッチしたものを基に再現したんですよ。

──スケッチから!? それはすごい!

井上:完成したセットは、当時の関係者の方が「実物そっくりで、入った瞬間に思わず緊張してしまった」とおっしゃってくださったくらいの仕上がりで……。美術スタッフは本当によく頑張ってくれました。

──セットだけでなく、作業員の方たちの作業工程などもとてもリアルでしたね。

井上:実は撮影が始まる半年ほど前に若松監督やスタッフ数人と福島第一原発に入る機会があったのですが、「現場ではこういうプロセスを踏んで作業しているのか」と肌で感じることができました。たとえば免震重要棟(緊急時の拠点となる建物)に入る際、放射性物質を持ち込まないように靴を履き替えたり線量をチェックしたりするシーンなどは、そのとき私たちが実際に経験したことでもあるんです。

井上伸一郎さん

──今回の作品で印象に残っていることを教えてください。

井上:脚本ができていくまでの過程が印象に残っていますね。私の中で、これだけみんなでいろいろ考えた作品は他に思いつきません。脚本家の前川(洋一)さんには、本当に長い期間をかけて辛抱強く物語を練り上げていただきました。フィクションの要素を極力抑えたストーリー展開ですが、観客の方に共感していただくために登場人物のバックボーンをプラスしたり、家族のエピソードを加えたりして、人間ドラマとして厚みを持たせていきました。本筋であるベントに向かうために手を上げて志願するシーンはもちろん、ディティルの部分にも実際にあったエピソードがたくさん含まれています。

映画『Fukushima 50』メインビジュアル

──どのようなエピソードでしょうか。

井上:たとえば、佐藤浩市さんが演じる主人公の伊崎が、自分の家族の誕生日を書き記した手帳を持ち歩いているエピソード。また、吉岡秀隆さん演じる前田が手動ベントのため建屋に赴く際、放射線の影響を避けるため指輪を外そうとして思い直すところなども実話が基になっています。渡辺謙さん演じる吉田所長のみ実名の人物ですが、渡辺さんが関係者にかなり細かく話を聞いて役作りをされていて。テレビ会議のときにズボンを脱ぎ出したり、やたらと「バカヤロー」と怒鳴ったりするのですが、それらも本当にあったエピソードだそうです。

吉田昌郎所長を演じる渡辺謙さん(左)と主人公の伊崎利夫を演じる佐藤浩市さん(右)

──プロデューサーとして、本作を製作するうえで大切にした部分は?

井上:この映画に携わることが決まったとき、まず思ったのが、10分に1度くらいのペースで次々と襲いかかる危機をしっかり描いていきたいということでした。危機を乗り越えようと努力すると次の危機が発生し、それを解決したところで新たな別の危機が襲いかかる……。福島第一原発の場合はそんな絶望的な中でも諦めずに努力し続けた人々がいたからこそ奇跡としか言いようのない結果を得ることができたのではないか、と。その後の日本があるのもそのおかげで、決して当たり前のことではない。それを心して生きていかなければというのが、3.11以降、私の心にトゲのように刺さっている個人的な戒めであり、今回の作品の原動力になった部分でもあります。

──読者へのメッセージをお願いします。

井上:福島第一原発事故という重いテーマを扱っていますが、一方で家族愛や郷土愛などを描いた人間ドラマでもあります。主人公たちをヒーローではなく、極限状態に放りこまれた等身大の人間として描いています。観がいのある映画だと思いますので、ぜひご覧いただければ幸いです。

ちなみに、本作には自衛隊の協力のもと撮影したシーンや、日本映画として初めてアメリカ軍の協力を得て撮影したシーンも登場するとのこと。また、原発事故のシーンやヘリからの散水シーンでは、VFXを使って当時のニュース映像では見られないアングルで撮影された映像もあるという。そんなところに目を留めてみると、また違った視点から作品を鑑賞できるかもしれない。

映画『Fukushima 50』チラシビジュアル

■映画情報

『Fukushima 50』
3月6日(金)より全国の劇場にて上映中
配給:松竹、KADOKAWA
『Fukushima 50』公式ページ

なお、「教えて!goo ウォッチ」では声優の水島裕さんと対談した「なんと37年振りの出会いにも関わらず、インタビュー中に机を叩いた井上伸一郎さんの心中やいかに!?」という記事も公開しているので、チェックしてみて。
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