
■ふたりの出会いは37年前!?
――初めてお会いしますよね?
記憶がうろ覚えなのですが、21歳か22歳の頃に一度水島さんにお会いさせていただいた事がありまして……。
――ええっ!? それはどのような状況だったのでしょうか……?
学生の頃になりますが、アルバイトで『アニメック』という雑誌で編集の世界に入り、そこで『六神合体ゴッドマーズ大事典』という雑誌の担当をしました。その時代に水島さんの取材をさせていただきました。
――それはそれはそれは! その節は大変お世話になりました!!
いやいや、こちらこそです(笑)。
――その頃だと生意気じゃなかってですか、僕?
全然そんな事はないですよ。テレビで見ていたアイドルそのままで爽やかでした(笑)。
――いやもうなんか恥ずかしいですね、当時の自分を知られていると思うと……(苦笑)
私なんて本当に小僧でしたから(笑)。
――僕も小僧でしたよ(笑)。そうなると37年振りとかの再会ですか……。
1982年ごろですからそうなりますね。

■ウルトラシリーズへの思い
――ちなみに井上さんは、子供の頃どのようなお子さんでしたか?
小学校3年生くらいまでは病弱な子で、月に1回は必ず熱を出していたのでテレビをよく見ている子でした。
――あらま、その頃の一番印象的だった番組は?
『ウルトラマン』ですね。
――『ウルトラQ』は?
もちろん『ウルトラQ』も含め全ウルトラシリーズを見ていたので、夢見がちな子だったのでしょう(苦笑)。
――ちなみにウルトラシリーズで「好きな怪獣」はなんですか?
いっぱい好きなんですが『Q』だとパゴス、ペギラといったありきたりなところと……。
――ありきたりな怪獣とは思えないなあ……(笑)。
『マン』だとパゴスと同じ系統になるネロンガやマグラーとか……。
――どういう系統の怪獣が好きなんですか?
ドッシリとした体型の怪獣が好きですね。東宝のバラゴンから連なる地底怪獣の系譜です。
――ウルトラシリーズで一番好きな作品はなんですか?
やっぱり『ウルトラセブン』ですかね。
――なぜに?
極力未来を描こうとしているところ。そして設定が暗いからじゃないですかね(笑)。

■未来予測……?
――おとなしい子どもだったんですか?
外で遊ぶのが苦手な、非常におとなしい子どもでした。
――当時はどのような事で楽しんでいましたか?
楽しんでいたというか、ちょっとバカみたいな話ですが……未来予測ですかね(苦笑)。
――へ〜、未来予測って……?
例えばですね『ウルトラマン』シリーズの全体のカタチは翌年の作品で大体こうなるだろうなって予測ができました。
――それは自分の中でデータを積み重ね予測するんですか?
そうですね。例えば『帰ってきたウルトラマン』が1971年に放送されたときは、『ウルトラセブン』の後に初代のウルトラマンが帰ってくる予定だったのが、やはり新キャラクターにしようということでデザインを変えたわけですね。
――ほうほう
じゃあ次のまだ『ウルトラマンA』のタイトルが出る前に、次の作品で自分がデザインをするならば「やっぱりセブンの方がデザイン的にも人気があったよな」と考えると「頭のトサカの形状がセブンのようになるだろう」とか「カラータイマーの音も変えてくるだろう」とかを当てたり。ウルトラの父には角が生えているだろう、という予測も当たりましたね。
――へーっ!
あとは基地の設定とか防衛チーム・MATの『帰ってきたウルトラマン』が海底基地だったので「じゃあ次は富士の樹海に造るだろうな」と予測すると、TACの『ウルトラマンA』が地上基地であったり、「じゃあ海底基地と地上基地ときたら次は都心部だな」と予測すると、ZATの『ウルトラマンタロウ』がそのとおりになり、翌年の「レオ」のMAC基地が宇宙ステーションだろうというところも当てました。
――なんとっ!?(驚)。ちなみに同級生の中でそういう見方をする子っていましたか?
そもそも中学生の思春期になってウルトラマンの事を考えている奴なんて、私くらいだったんじゃないかと(笑)。
――(爆笑)。次の展開を先読みして楽しむ方って、そうそういないですよね?
私はいまでもそうですが、アレンジが好きなんですね。仕事でも自分で0から1を創るのは苦手ですが、存在する作品の1を100にするのが得意だと思います。
――音楽で例えるなら作曲家よりアレンジャー気質なんですね。
まさにそこだと思います。

■大興奮した『ベニスに死す』の裏話!?
――映画で印象に残っている作品はなんですか?
いろいろとありますが洋画ですとルキノ・ヴィスコンティ監督の作品。特に『ベニスに死す』は大好きな作品のひとつですね。
――え===!僕が人生最初にアテレコをした洋画の作品です。
えっ!? まさかポーランド貴族の美少年、タジオじゃないですよね?
――そうです、そのタジオです。
ドンッ!!(※机を叩く)。素晴らしい!
――(笑)。
水島さんはビョルン・アンドレセンだったわけですね!
――はい(笑)。これでビョルン作品の主役のアテレコはもらったと思ったのですが、彼が『ベニスに死す』後の活動がほとんどなく、この1本で終わってしまって……(苦笑)。
そうですよね。それがむしろ美しいまま、伝説となっている作品になりましたからね。

感激のあまり机を叩いた、とてもチャーミングな井上伸一郎さん(笑)。また未来予測を子どもの頃から得意とし、現在も経営・指導者としのリーダーシップをとるにあたり、この培われた特殊技能を駆使して現在のKADOKAWAも引っ張る存在なんでしょうね~☆☆☆
●井上伸一郎(Shinichiro Inoue)プロフィール

以後、女性情報誌『Chou Chou』、漫画雑誌『月刊少年エース』の創刊編集長などを歴任。07年1月(株)角川書店 代表取締役社長に就任。13年4月(株)角川グループホールディングス(現(株)KADOKAWA)代表取締役専務に就任し現在に至る。書籍、映像などKADOKAWAのコンテンツ系事業を統括すると同時に、(株)角川アーキテクチャ代表取締役社長をはじめ、複数の関連会社の取締役も兼務。また一般社団法人 外国映画輸入配給協会(外配協)会長職など業界団体の要職も多数。
●インタビュアー:水島裕
