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キタコのメッキシリンダーは、アルミのシリンダーボア内に直接ニカジル(ニッケル・シリコン)メッキを施したもの、タダのボアアップキットは、アルミのシリンダーボアに鋼製のシリンダーライナーを入れたものです。
>どのような効果があるのでしょうか?
特にキタコのシリンダーに限った話ではなく、一般論になりますが・・・
※ピストンリングは固い鋼材でエッジがシャープに加工されており、『刃物』の様なものです。
アルミシリンダーに直接当てて上下すると、アルミ側が一方的に削り取られてしまいます。そこでアルミシリンダーでは、ピストンが当たる部分に鋼材で出来たシリンダーライナーを入れるのが、古典的設計です。
※これに対し、アルミシリンダーの内面に固いメッキを施し、シリンダーライナーを不要にしたのがメッキシリンダーです。
アルミシリンダーにメッキをかける技術は、既に1950年代には実用化されていましたが(例えば・・・ポルシェの911の前のモデルで、1950年代に作っていた356のエンジンは、既にメッキシリンダーでした)、コスト的に量産車に見合うものではありませんでした。ところが1980年頃、レース用鍛造ピストンで有名なマーレ社が量産に対応するメッキ工法を考案し、1980年代中頃から、急速に量産車でのメッキシリンダー採用が増えました。(日本で最初にメッキシリンダーを採用した市販車は、1986年発売のホンダNSR250Rだと思います。今では別にスポーティでも何でもない、フツーのバイクやクルマにさえ、メッキシリンダーが使われています。)
※メッキシリンダーのメリットは、鋼製ライナーのデメリットを改善したものになります
①製造コスト
メッキ工程は、シリンダー内でニカジル材を『爆発などで』膨張・放射させて壁面に付着させます。加工時間は一瞬です。対する鋼製ライナーは、切削で精密に仕上げたライナーを、内径を加工したシリンダーにねじ込んだり、或いはライナーをシリンダー鋳造時に鋳込んだりします。
部品点数と工程数の点で、メッキシリンダーの方が安く製造出来ます。
②ピストンとシリンダーのスキマ
ライナーは鋼製なので、アルミのピストンとは線膨張係数(熱による膨張率)が違います。
そこでライナーは、常温時にはピストンと『ブカブカ』で、エンジンが温まるとちょうどよいスキマとなる様に加工されています。
そのため、ライナー型では冷間時に、『ディーゼルエンジンの様な』ゴロゴロ音が出て、また温まるまではオイルの消費が大きくなります。
対するメッキは、層が薄くアルミの膨張によく追従し、冷間時からピストンとのスキマをタイトに仕上げておけます。
③冷却性能
ライナー型では、燃焼時の熱は熱伝導率の低い鋼製ライナー→熱伝導率の高いアルミシリンダーと順次伝わりますが、メッキ型ではメッキ層が薄く、燃焼室の熱は冷却効率の良いアルミシリンダーにほとんど直接伝導します。
この『冷却性能』は性能にかなり効き、ノッキングやデトネーションが発生し難くなります。メッキシリンダーとすると、ライナー型よりも圧縮比が上げられるほどです。(例えば・・・’86年にメッキシリンダーを採用したロータス社では、当時の主力だった912型エンジンの圧縮比を、’85年型よりも1.0も上げました。)
④シリンダー剛性
水冷のライナー型では、冷却効率を上げる為にライナーの裏側に冷却水を直接流す設計手法(ウェットライナー)がありますが、するとシリンダーを上から見てシリンダーとライナーの間にウォータージャケットのスキマが出来ることになり、シリンダーデッキ(燃焼室と接する面)の剛性低下を生みます。これは、部分的な熱の集中やヘッドボルトの軸力のバラツキなどによるデッキ面の変形を許し、『ヘッドガスケット抜け』の原因となります。(かつてウェットライナーを使っていたホンダでは、ヘッドガスケット抜けがしばしば発生していました。既に空冷のバイク用エンジンで世界最高と言われたホンダでも、水冷の自動車用エンジンはうまく作れなかったというワケです。)
メッキシリンダーでは、当然こういうトラブルは一切起きません。
⑤ヘッドガスケット抜け
エンジンがオーバーヒート気味になると、ライナーが上に膨張し過ぎてヘッドを押し上げ、ヘッドガスケット抜けの原因となります。(こちらは確か、スバルで出ていたトラブルだった様な記憶がありますが・・・記憶違いかもしれません。いずれにしろライナーの伸びでガスケットが抜けるトラブルが、日本のどこかのメーカーのエンジンで多発していたことがありました。)
当然ですが、メッキシリンダーではこのトラブルも一掃出来ます。
⑥軽量化
鋼製のライナーが無い分、メッキシリンダーの方が軽量になります。
※一方、メッキシリンダーのデメリットは・・・
①シリンダーがすり減ったりピストンが焼き付いたりして、シリンダーボアを再加工する必要がある時、ライナー型なら内面を少し削ってオーバーサイズのピストンを入れれば済みますが(メーカーでは、焼き付き時の修理用として、ボアが若干大きいオーバーサイズピストンを販売しています)、メッキシリンダーでは、当然シリンダー内面の切削は出来ません。メーカーでは、シリンダーの交換を『指定の修理方法』としています。
ボアアップキットの場合、更にシリンダーを追加工することも無いでしょうし、オーバーサイズのピストンが用意されているとも思えません。
焼き付いたりしたらまたキットを買って取り換えるだけなので、メッキシリンダーでも問題ないでしょう。
②レーシングカーや一部のスポーツカーにのみニカジルメッキが使われていた頃は、メッキ表面に露出した固いシリコンがアルミピストンのスカート部にキズを付ける、という事が問題となっていました。
ここから先は『多分こうなんじゃないか?』っという話になりますが・・・・現在のニカジルメッキはかなり改良されましたが、しかしアルミピストンに対する攻撃性は依然残っていると考えられ、それはピストンの耐久性に影響していると思われます。(例えば・・・ライナー型だったら50万km持つピストンが、メッキシリンダーに組むと30万kmも持たないとか、そういうレベルでの耐久性の低下はあると思います。いずれにしろボアアップした原付では、変速機や駆動系がそれほど長持ちしなくなるので、ピストンの耐久性は気にしなくてもいいでしょう。)
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