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RamanとIRスペクトルの強度が、それぞれ、分極率と双極子の大きさに伴って大きくなるイメージはできますが、
振動に伴う、それらの変化具合に伴って大きくなるイメージができません。
どなたか、イメージを教えてください。

A 回答 (3件)

まずIRスペクトルの吸収強度が電気双極子の大きさに依存する件について



簡単のために、原子と原子の間の結合とその伸縮振動について考えます。
電気双極子の大きさは負電荷-qと正電荷+qがlだけ離れている時にqlであらわされます。
正しくは双極子モーメントなのでベクトルですが。

原子Aと原子Bが結合していて電子がA側に偏っている場合、結合ABは電気双極子とみなせます。
電荷が偏ってAが-q、Bが+qで結合距離がlの場合、双極子モーメントの大きさはqlです。

次にここに、結合ABの振動を励起できる振動数(数十THz程度)の赤外線が入射した場合を考えます。
結合ABのうち、入射した赤外線の振動電場と同じ向きを向いているものが赤外線を吸収できます。
A(-q)━B(+q)に右向きに電場が加わると、A(-q)は左向き、B(+q)は右向きに力を受けます。
つまり、結合を伸ばす力になります。
赤外線が半波長分進んで電場の向きが逆転、つまり
A(-q)━B(+q)に左向きに電場が加わると、A(-q)は右向き、B(+q)は左向きに力を受けます。
つまり、結合を縮める力になります。
このように赤外線によって結合ABの伸縮振動が励起されます。
このように考えると、AとBがまったく同じ電荷を持つ場合(例えば-q = +q = 0)、
赤外線の振動電場とまったく相互作用しないというイメージがつかめると思います。
逆に、双極子モーメントが大きくなるほど赤外線と強く相互作用するので、
強度の大きい赤外線スペクトルが得られる、とイメージできると思います。


次にラマンスペクトルの強度が分極率の大きさに依存する件について・・・ですが、
ラマンスペクトルの前に分極率と散乱について説明します。

原子や分子は原子核の周りを電子が雲のように取り囲んだ構造をしていますが、
この電子雲は常に一定の形を保っているわけではなく、原子核の位置が変わらなくても
分子がどういう電場の中に存在するかによって変化します。
例えば分子を固定して正電荷を近づけると、電子雲は正電荷に寄った形になります。
逆に負電荷を近づければ、電子雲は負電荷から離れる形になります。
このように電場の存在によって分子内に双極子モーメントが誘起されるわけです。

同じ電場をかけた場合でも、誘起される双極子モーメントの大きさは分子ごとに異なります。
この、『双極子モーメントの誘起されやすさ』が分極率です。
そして、分極率は分子の体積にほぼ比例します。
たとえばHe原子とXe原子が同じ電場を受けてほぼ同じ形にゆがんだとします。
形はほぼ同じでも電子雲の大きさはXe原子の方がはるかに大きいので、
誘起される双極子モーメントはXeの方が大きくなります。

分子に誘起される双極子は、
受ける電場の向きが速やかに向きが変わってもそれに追随して向きを変えてくれます。
可視光程度の周波数(数百THz)で電場が入れ替わっても追随して双極子モーメントの向きが変わる、
つまり電子雲に光があたると、その周波数のでぶるぶると身震いしているような感じになります。
この身震いしている電子雲はその周波数の光を放出することが出来ます。
これが光の散乱という現象です。
散乱光を放出する時の強度は、やはり分子に誘起される双極子モーメントに比例します。
そのため、双極子モーメントが大きい、つまり分極率が大きいほど散乱光強度は大きくなります。


だいぶ遠回りになってしまいましたが、ラマン分光の話に戻します。
光の散乱という現象では、普通は分子が受けた光と同じ周波数の光を放出するのですが、
入射光から一定の周波数だけずれた周波数の光が散乱光に混ざります。
これを測定するのがラマン分光です。多くの場合、可視光(数百THz)のレーザーを用います。

分子が振動すると、分子の体積が変化する場合があります。
例えば二酸化炭素の反対称伸縮振動や変角振動ではほとんど体積が変化しませんが、
対称伸縮振動では結合が伸びると分子体積は大きく、縮むと分子体積は小さくなります。
そのため、数十THz程度の周期で分子体積が変動し、それにほぼ比例して分極率も変動します。
このように分極率が『数十THz』で変動している状態での
『数百THz』の可視光の散乱をイメージしてください。
結合が伸びて分極率が大きくなった状態では、散乱光の強度は大きくなります。
そのすぐ後、結合が縮んで分極率が小さくなった状態では散乱光の強度は小さくなります。
つまり、
【可視光の数百THzの電磁波の振動が、数十THz程度の分子の振動の周期でうねっている】
状態になります。

うねりについては高校物理で学んだ音のうねりを思い出してください。
音叉の片方におもりを固定して音を出すと、周波数の違う2つの音波が重なって
「コォオォオォオォオォオォオォン…」という音になるあれです。
うねりのある振動は複数の異なる周波数の振動の重ねあわせです。
具体的に数式で簡単に書くと、ある周波数の振動がその100分の1の周波数でうねっているとき、
振動の変位は
f(t) = 2sin(100ωt)cos(ωt) のようにあらわせます。
これを三角関数の和積の公式で変換すると、
f(t) = sin(101ωt) + sin(99ωt) になり、確かに2つの振動の重ね合わせということがわかります。

まとめると、ラマン散乱では
可視光線が分子に散乱される時、「分子振動に伴う分極率の変動」に応じたうねりが散乱光に混ざり、
そのうねった散乱光を分光すると入射光からずれた周波数の光が
ストークス(アンチストークス)線として観測される
という現象を利用して測定しています。


最後に、分子の(振動を考慮しない場合の)分極率が大きくなると、
可視光による電子雲の振動も大きくなります。
それによって散乱光のうねりも大きくなるため、ラマンスペクトルの観測対象である
ストークス(アンチストークス)シフトの強度が大きくなります。
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この回答へのお礼

大山田花子さん、ご回答ありがとうございます。
Raman散乱について、分極率(:体積)の変化の大きさが強度に効いてくるイメージは、大山田花子さんのご説明ですごくわかりました。
しかし、IRに関してはまだ分かりません。
双極子モーメントの大きさが強度に効いてくるのはイメージできるのですが、
結合に応じる双極子モーメントの「変化」の大きさが強度に効いてくるのがイメージできません。
例えばリン酸イオンユニットPO43-において、そのままでは双極子が打ち消し合っているが、T2の三重縮重伸縮振動では、振動に伴う双極子モーメントの「変化」具合が大きいからIR強度が強いと思います。
そもそも、逆に、「そのままで双極子モーメントは打ち消し合ってないが、振動に伴いその双極子モーメントの大きさがあまり変わらない場合」はIR強度は弱いですか?

お礼日時:2015/02/10 09:41

No.1の回答をした者です。


IRの吸収強度についてこのようにイメージしてはどうでしょうか。
電気双極子のモデルとして、次の2つのモデルを考えます。

モデル1(普通の化学結合)
電荷:一定
結合のバネ定数:一定
結合距離:1.5Å

モデル2(仮想的な長い結合)
電荷:一定(モデル1と同じ)
結合のバネ定数:一定(モデル1と同じ)
結合距離:150Å(モデル1の100倍)

振動していない状態の双極子モーメントの大きさは、モデル2はモデル1の100倍です。
この2つの電気双極子が振動する様子をイメージしてください。

ここで注意する必要があるのは、結合のバネ定数が同じという点です。
バネ定数が同じなので、
同じ力で振動させるとモデル1もモデル2も同じ振幅で振動します。

このとき、『モデル2がモデル1の結合よりも100倍赤外線を吸収しやすいか?』
と考えるとどうでしょうか?
仮に結合が長くなるにしたがって振幅も長くなるのであれば、
赤外線を100倍吸収しやすいといえるでしょう。
しかし『実際に変化した長さ』が同じである以上、
赤外線との相互作用のしやすさは変わらないといえます。

つまり、双極子モーメントの大きさではなく、双極子モーメントの変化の大きさによって
赤外線吸収強度が決まるわけです。


リン酸イオンユニットの三重縮重伸縮振動は1本だけPO結合が伸びた状態では
結合が伸びたO原子上に負電荷が集中するので、
『電荷が移動せず単に結合が伸びただけ』という仮想的な状態よりも
双極子モーメントの大きさが大きくなるのは確かです。

また、ご指摘のとおり打ち消しあっていない双極子モーメントの大きさが
振動によってあまり変化しない場合はIR吸収強度は弱くなるでしょう。
もっとも、そのような挙動を示すモデルは立てる事が出来ますが、
おそらく相当に不安定な分子になるはずなので
実際にそのような分子が存在するかについては確信はありません。
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この回答へのお礼

ご回答ありがとうございました

お礼日時:2015/03/19 12:17

No.1の回答をしたものです.先ほどの私の回答ですが,


イメージしやすいよう古典論的すぎる説明になってしまったことを述べておくのを忘れました.

IRの疑問点の方については私もそこまで詳しくないので即答はできませんが,
今時間がないので後ほど(調べがついたら)再度回答しようと思います.
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