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私が使っている大阪開成館のコールユーブンゲンですが、たとえば 43 cのタイでのばす部分(小節線をまたいで)に「・」が印刷されています。これってミスプリントでしょうか?それともコールユーブンゲン独特の表記でしょうか?

A 回答 (3件)

回答No.1です。


なるほど、大阪開成館版では「スラー」と訳されていますか。
そういうことであれば、少しややこしい話になりますが、詳しく解説します。

大阪開成館の出版は大正14年となっています。
訳者の信時潔は日本でもドイツ人教師に師事しており、ドイツへも留学しているので、
ドイツ語はかなりの程度できたとは思いますが、
この時代は、さすがにまだ外国語の専門用語の理解、翻訳が完全ではありません。
この説明の書いてある場所からいっても「スラー」はあり得ないので、
結論から言えばこれは誤訳で、「タイ」とするのが正しいです。
ただ、翻訳された時代を考えると、誤訳したのもやむを得ない事情があります。

この箇所のドイツ語の原文は構文がかなり入り組んでおり、
直訳では日本語として意味の通る文にならないので、
回答No.1でも多少意訳をしてあります。
信時潔が「スラー」と訳した語は、原文では「Bindungen (Ligaturen)」となっています。
Bindungen は Bindung の複数形ですが、これは、「結ぶ」を意味する動詞 binden の名詞形です。
この語は、要するに「中断しない」ということであり、広い意味で「結ぶ」を意味するので、
タイのように同じ高さの音をつなげる場合にも、
スラーで異なる高さの音を滑らかに「つなげる」場合にも使うのです。

コールユーブンゲンが刊行されたのは1876年ですが、用語が現代のようには統一されていません。
現在のドイツ語では、「タイ」には「Haltebogen」、「スラー」には「Bindebogen」という語が当てられます。
しかし、Bindungen という名詞形だけでは、単に「結合」を意味するだけで、
タイなのかスラーなのか区別がつきません。
それで、タイだとわかるように、カッコの中に Ligaturen(Ligatur の複数形)という語を書き加えてあるのですが、
これが逆に誤解のもとになったと考えられます。

Ligatur という音楽用語は、まだ五線譜による楽譜ができる前から使われていたものです。
異なる高さの音の連続から成る旋律形を表す記号で、同じ高さの音を結合するものではありませんでした。
この場合の Ligatur はあくまでも「結合(記号)」というだけの意味で、
「滑らかにつなげる」という意味ではありません。
下のようなものです。
https://de.wikipedia.org/wiki/Ligatur_(Musik)#/m …

この時代には、まだ「タイ」も「スラー」も存在しません。
Ligatur も、またスラーが表す legato(レガート、滑らかに)も、
語源的にはラテン語の「ligō(結ぶ)」からきています。
そして、ラテン語の ligō には、英語の tie も訳語として使われています。
つまり、現代の楽典では、「スラー」と「タイ」ははっきり別の意味の記号として簡単に説明されるだけですが、
スラーが表す「レガート」と「タイ」はどちらも「結ぶ」の意味からきており、
言語的には非常に近いということになります。

Ligatur という語は、字面だけ見ると legato とよく似ています。
ベートーヴェンなども、legato と書くべきところを、ligato という綴りで書いていることがよく知られています。
そのため、Ligatur という語からは legato を連想しやすく、
そこからさらに「スラー」という連想につながる可能性があります。
しかし現代のドイツでは、「タイ」は「Haltebogen」という名称であり、
「別名 Ligatur とも呼ばれる」という説明になっているので、
Ligatur は「スラー」ではなく「タイ」です。

Ligatur に当たるイタリア語は legatura で、これも legato を連想しやすいですが、
やはりこれ単独では「結合」の意味しかなく、「スラー」か「タイ」かを区別するためには、
そのあとにさらに説明の語を置かなければなりません。

イタリア語
スラー legatura di portamento(「運び」の「結合」)または legatura di frase(「楽節」の「結合」)
タイ  legatura di valore(「音価」の「結合」)

ドイツ語
スラー Bindebogen(結合弧線)または Legatobogen(レガート弧線)
タイ  Haltebogen(保続弧線)または Ligatur(結合)

Bindung(ドイツ語)= legatura(イタリア語)= 単に「結合」を意味する言葉

今ならば間違えることはありませんが、大正14年では知識も文献も十分ではなく、
混乱しても致し方のないことと思います。

20bのあとの説明文をもう一度、カッコ内に補足を入れながら、できるだけ直訳に近く訳しておきます。

「楽譜番号20bには付点音符があり、その音符の玉だけが最初の小節に、付点は2番目の小節に書いてある。
このような(記譜法の)場合は別として、異なる小節から取られた複数の拍(の合計)や、
一つ、もしくは複数の付点の追加によっては合計値が表せられないような拍の長さは、
タイを使って、(たった)一つの音符であるかのように演奏されるべき一総合体へとまとめられる。
このような方法によって、リズム上の新しい多様な結合を生むことができる。」

原書は、下のサイトからダウンロードできます。
https://urresearch.rochester.edu/institutionalPu …
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回答 No.2 に貼った Ligatur の図のリンクが開かないようなので、別の URL を張っておきます。



四本線によるネウマ譜の時代の Ligatur の例

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/de/6/6f/L …

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/7 …
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ミスプリントでもなく、コールユーブンゲン独特の書き方でもなく、古い時代の記譜法の一種です。



コールユーブンゲンが書かれた時代には、もうこの記譜法は少なくとも器楽では使われていませんが、
もともとこれは合唱の教本として書かれたもので、まだこういう記譜法の合唱の楽譜は使われていたはずです。
現在市販されている楽譜ではみな現代の記譜法に改められているので、目にする機会はほとんどないでしょう。

私が昔使ったコールユーブンゲンは今探すことができず、大阪開成館のものだったかどうかはわかりませんが、
大阪開成館の楽譜の校訂者は、ドイツへ留学した作曲家の信時潔です。
ドイツ語の原書を見ると、43cの楽譜よりもだいぶ前の箇所、20bですでにこの記譜法が出ています。
20bの楽譜のすぐ下には、この付点の書き方について説明が書いてありますが、
もし大阪開成館版のその箇所に何も説明がないのならば、翻訳時に省略したものと思います。

「20bでは、音符そのものは最初の小節に、付点は次の小節に表記されている。このような場合を除いて、異なる小節にまたがる拍、または付点の追加による合算で書き表せられないものは、タイを使ってその全体の長さをまとめる(以下略)。」

とあります。

古い合唱曲の楽譜を使うことがあるので知っておいた方がよいということで、両方の書き方を採用しています。
ルネッサンスごろまでの楽譜では、小節線そのものもなく、タイも使っていないので、
それをのちの時代にわかりやすく書き直していったわけですが、
記譜法は少しずつ発展していったので、様々な書き方があります。

コールユーブンゲン第3巻に掲載されている合唱の楽譜の中には、
伸ばす音と同じ高さの線上、また線間に、付点の代わりに小さな黒い符頭のみが書かれているものもあります(画像参照)。

また、古い合唱の楽譜では、小節線を五線の上ではなく、五線と五線の間に書いているものもあり、
その場合は小節線の存在を無視して、実際に伸ばす長さの音符をそのまま書いています。
https://i.ytimg.com/vi/n4yUch3k7qQ/hqdefault.jpg
「コールユーブンゲンの謎」の回答画像1
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この回答へのお礼

よくわかりました。ありがとうございます。ただ
「タイを使ってその全体の長さをまとめる(以下略)。」の部分は「スラーによってあたかも一音符のようにまとめられる」となっています。

お礼日時:2018/10/22 07:26

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