文学カテゴリと迷ったのですが、ひとまずこちらで。
サスペンスドラマやミステリ小説のタイトルをながめますと、「誰それの○○」というタイトルパターンが花盛りです (「の」はなくても可)。
『金田一少年の事件簿』、『女医彩子の推理カルテ』、『一色京太郎事件ノート』、『作家小日向鋭介の推理日記』、『キッチン探偵・南本ちなみの推理日誌』等々。
「事件ファイル」としては『法医学教室の事件ファイル』が有名ですが、ちょっとパターンに合わないかと思っていたら、『熱血シングルファザー ~新聞記者・新庄圭吾の事件ファイル~』なんてのが見つかりました。
(いちおう『赤かぶ検事奮戦記』はぎりぎりアウト)
時代劇なら『松平右近事件帳』、『鬼平犯科帳』や『新吾捕物帳』、『幻之介世直し帖』、『佐武と市捕物控』も同じです。
『新選組血風録』は……どうなんでしょう? 『長七郎江戸日記』もちょっと微妙。
ポイントは、「個人名団体名 (主人公) の事件の記録冊子」というパターンをとっているということです。主人公のキャラクター性と冊子名が、ちゃんと呼応している部分が肝心かと思います。
で、このパターンのルーツは何なのだろう、と思いました。
自分で思いついた限りでは、
『半七捕物帳』 岡本綺堂 大正6年開始
なのですが、どうもまだ古いのがありそうな気がします。
ぱっと思いついたのは、『和泉式部日記』ですが、これは作者本人の命名ではありませんし、フィクションでも、事件性のあるものでもありません。
そこで、以下の項目を意識して、このパターンのルーツとなりそうなものを教えてください。
(1)作者による命名である
(2)フィクション作品であり、広く世に読ませる、見せることを目的とした作品である。
(3)主人公または団体名の固有名詞+その主体の活躍した「刑事事件」の記録冊子という体裁をとっている。
なんとなく、歌舞伎や浄瑠璃作品にありそうな気がしますが、当方、近世文学に詳しくないので思い当たりません。
どうぞよろしくお願いします。
No.2ベストアンサー
- 回答日時:
連打失敬。
まず、パターン化は、ホームズ原典にその例があります。これは発表が主にストランド・マガジン一誌だったためで、基本的にThe Adventure of the …… でタイトルがつきます。しかし、日本だとこのThe Adventure of the……をほとんど無視したタイトルがつくことが通例でした。
シャーロキアンの人気投票で常に上位に来る「まだらの紐」のタイトルはThe Adventure of the Speckled Band で、パターンが日本語化に際して踏襲されていません。
ウィキからの借り物ですが、
The Adventures of Sherlock Holmes - シャーロック・ホームズの冒険
* A Scandal in Bohemia - ボヘミアの醜聞
* Red-Headed League - 赤毛組合
* A Case Of Identity - 花婿失踪事件(花婿の正体)
* The Boscombe Valley Mystery - ボスコム渓谷の惨劇
* The Five Orange Pips - オレンジの種五つ
* The Man with the Twisted Lip - 唇のねじれた男(もう一つの顔)
* The Adventure of the Blue Carbuncle - 青い紅玉(青いガーネット、青いルビー)
* The Adventure of the Speckled Band - まだらの紐
* The Adventure of the Engineer's Thumb - 技師の親指
* The Adventure of the Noble Bachelor - 独身の貴族(花嫁失踪事件)
* The Adventure of the Beryl Coronet - 緑柱石の宝冠
* The Adventure of the Copper Beeches - ぶな屋敷(ぶなの木立)
で、The Adventure of the……を直訳していることは、まずありません。
ただ古い訳などに「蜜柑の種五つ」とか、赤毛組合を「銀行強盗(タイトルでいきなりネタバレです)」位の差異はあります。
で、対抗馬のルパンは原題が全部違い、保篠龍緒が原題に則して訳したタイトルがスタンダードになったので、これまた日本ではバラバラです。
捕物帳、犯科帳とは、番屋にあった業務日誌みたいな物なので、日本時代劇には五大捕物帳、と言われるようにパターン化したのだと思います。
ただ、「伝」とつけたものだったら、もっと古い時代の活劇に、多くパターン化されているのではないでしょうか。
おそらく『南総里見八犬伝』のようなものをおっしゃっているのだと思います。が、「伝」は、パターン化というのとは別ものでしょう。
まずは膨大な、実際の「~伝」があって、その蓄積の上に、フィクションとして「伝」をうたったものができているように思えます。
と言いながら、あまり自信はないのですが。
No.3
- 回答日時:
さらにすみません。
今思ったのは、1の補足を読んでからなのですが、最近日本ではドラマを力のあるプロダクションが俳優つきで押しつけてくる、という傾向があり、そうなったが故のマンネリ、ということを聞いた覚えがあります。制作会社などがテレビ局の株もっているからだという理由が大きいそうです。だから、フジテレビが45周年という節目の年には逆に局がイニシアチブをとれ、白い巨塔、の大ヒットを呼んだわけです。
一方NHKだけは近年まですべて輸入物以外は自前でドラマ作っていて、そのような傾向に走っていないといいます。
で、一方に洋モノがあります。コジャック、コロンボ、スタスキー&ハッチ、ハンターとありますが、原題はみな「刑事」がありません。あと、宇宙とつくものも、アメリカでは基本的にSpaceがないとおもいます(宇宙家族ロビンソンにはあります)。これらは日本なりのアレンジで、これもタイトルパターン化の一例でありましょう。
蛇足ですが、ご笑納ください。
お話はたいへん興味深いのですが、当質問は、「タイトルのパターン化についてのあれこれを考察する」ものではありませんので、そこのところ、ご了承ください。
貴重な時間を割いていただいているのに、申し訳ありません。
No.1
- 回答日時:
ずれた話になるかもしれませんが、
だとすると、明治以降の西洋ものが走りだと思います。ポオのモルグ街の殺人(The Murders in the Rue Morgue)は1841年で、初の近代探偵物であり(魔法とかではない、トリック(この場合は密室)を、探偵が見破る)日本では1887年に「モールグの人殺し」というタイトルで翻案(翻訳とちがって、日本向けになおしてあるもの)され読売新聞に連載されています。明治20年です。これが日本でも走りだと思います。で、××殺人事件とか、××事件、怪奇××とかつくようになり、当時、日本では事実上版権がなかったので、ホームズ、ルパン、などがドンドン翻訳され、黒岩涙香(くろいわ・るいこう)がそれらを訳しつつ1889年に「無残」を書いて、国産がでます。その以前にも、登場人物を日本人にして、舞台も東京などにして訳したり、盗作したりして出回ったものがたくさんあります。人が流れ込む都市、治安組織、がないとミステリは成立しないので、西洋でも警察組織が確立した時期に、探偵小説がでたわけですね。
この時期までに日本では玉石混淆の翻案、翻訳があふれていて、SFもヴェルヌの海底2万里が、英仏のぞいた世界初翻訳が本邦ででるなど、読み手もそのような論理的なお話に飢えていたことがわかります。無名の時代劇推理ものも、きっとあったかに思います。
そのような経緯を経て、半七捕物帳がでたわけです(この作者岡本綺堂の逸話で、ネタにつまっていたとき風呂屋にいって、湯船につかろうとした瞬間に閃いて、そのまま帰ってしまい、近所の笑い物になったというのがあります。あと、彼はシャーロック・ホームズの大ファンでした)。
この人のおかげで、捕物帳、というジャンルが、探偵小説の一角として確立します。おそらく、今に伝わっていない日本人の書いた探偵小説は山とあるでしょう。
で、1923年、大正12年に江戸川乱歩が「二銭銅貨」を、雑誌、「新青年」に発表して、日本の推理小説が本格的に動き始めます。雑誌「新青年」が日本の推理小説に与えた影響は、それだけで本が書けるほどですが、戦前はSFも探偵小説の亜流とされていたのが興味深いです。日本SFの祖、海野十三も、SFチックな探偵ものを多く書いています。いまでは探偵の「偵」の字が当用漢字ではないので、この呼び方は廃れ、推理小説、ミステリと言われるようになりました。
で、これらをみてみると、以外にパターン化は実は少数です。それだけ近現代の日本人は、ひらかな、カタカナ、漢字という、外国にはない3種類の文字を巧みに使って、タイトルをつけていると思います。ある作家さんが自分のシリーズにパターン化したタイトルつける例はあります。それがその作家の目印になる場合が多い、というのが結論ではないでしょうか。たとえば三毛猫ホームズ、なんてつくと赤川次郎氏の作品ですし、翻訳物ではディック・フランシスの競馬シリーズは、漢字2文字のタイトルを貫いています。
まあ迷文ですが、なんかの足しになれば幸いです。ご笑納ください。
たいへん参考になるご意見ありがとうございます。
回答される方の傾向を読んでこちらのカテゴリに出しはしましたが、質問をしようと思ったきっかけ自体は、テレビのサスペンスドラマの「○○の××」パターンでした。
小説のタイトルは、おっしゃるように工夫を凝らした個性的なタイトルが数多くあり、決してパターン化というほどのものは多くないと思います。が、より広い視聴者の興味を引くためにキャッチーなフレーズをつけて印象づけることの多いテレビの世界では、シリーズ名のパターン化というのは意図的に行われています。「推理日誌」「事件ファイル」「推理カルテ」、どれも「捕物帳」の変種と考えると笑えるでしょ(笑)。本日、今さっきも『名犬フーバーの事件簿』がやっていました。
それはさておき。ご指摘の「洋もの探偵小説」にルーツを見られるのではという点、もちろん考えはしたのですが、当時の翻訳ものに関する知識がほとんどないので、実際に、提示したパターンで邦訳タイトルをつけたものがあったのかどうか、判然としません。そもそも、その時代ならば、特に日本向けのタイトルをつけるより、直訳に近い「原題の日本語化」が一般的だったと思われますので、原題からして「個人名+記録冊子」パターンが存在しなければなりません。
こちらも、その方面の識者のご回答を待ちたいと思います。
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