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ドイツ語の響きは、中世では、とりわけ中世以降は、ひどく農民風で、卑俗なものであった。......かつて宮廷調の讃美者であったドイツ人のもとで、高尚な響きへの似たような欲求が広まり、ドイツ人が不思議な「響きの魔力」に取り憑かれ始めたことに気づかされる。......ドイツ音楽の精神を分けもつものではなく、良識を逆撫でする傲慢さの新しい響きによって鼓舞されたものなのだ。
(フリードリヒ・ニーチェ『喜ばしき知恵』第二書104 村井則夫訳 河出文庫 187-189ページ)

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ニーチェは、ドイツ語はもともと「粗野で、野放図で、耳障りに響く」言語であつたが、軍隊式のものまねによつて、高尚さを得たものの、それは「傲慢さ」のあらはれでしかない、と述べました。どちらにしても、良いやうには書いてゐません。

ニーチェはともかく、ドイツ語の響きについて、あまり芳しい評判を耳にしません。現代ドイツ人は、自国語についてどんなイメージを持つてゐるのですか。

A 回答 (1件)

今回の御質問はどれも難しく、いろいろ調べたり書いたりしているうちに、パソコンの画面の見過ぎで目がだいぶ疲れてきました。

少し端折ります。

アクセス数がもうすぐ一千万に達する動画があります。

How German Sounds Compared To Other Languages


ほかの言語とドイツ語を比較しているわけですが、もちろんこれはおふざけで、ドイツ語だけわざと汚らしく、下品に叫ばせています。どういうつもりでこんな動画を作ったのか、本当の意図はわかりませんが、コメント欄のドイツ語の書き込みはあまりたくさんありません。あっても、「こんなビデオを作る前に、ドイツ語をどう発音するか勉強しろ」とか「ただのステレオタイプ」などの批判的なものが多いです。中には余裕のある人がいて、面白いことは面白い、と言っていますが、ただのユーモアとしてであって、本気には取っていません。
昨日、インターネットで少しドイツ語の響きについての書き込みを探し始めたのですが、少し検索疲れです。ほかの御質問でもそうなのですが、ニーチェの文章というのは、基本的にパロディー、ユーモア、風刺の要素が強く入っていて、まじめな哲学的文章としてだけ読むのは不可能です。翻訳を持っていないので、原文をざっと読んでみたのですが、上の動画と同じような気がしてきます。どこまでが本気なのかはわかりかねます。
ドイツの放送局のホームページに、この動画を含めて、ドイツ語の響き、さらに、言語の美しさとは何を基準に判断するのか、という内容の記事がありました。非常に内容の濃いものなのですが、ちょっと長すぎて、御紹介しきれません。この記事の最後の方に、ベルギーのヨーロッパ委員会で通訳をしているIoannis Ikonomouというギリシャ人の、「美しくない言語はない」という言葉が引用されています。この人は32か国語以上話し、さらにマヤ、古代イランなどの死語なども理解するとのことです。まず基本はこれだと思います。そして、母国語を嫌う人というのも、まず普通はいないでしょう。政治的、歴史的理由などで、母国語を捨てる例はたまにあると思いますが、母国語を悪く言われば、良い気持ちはしないものです。何年か前に、石原慎太郎がフランス語の悪口を言って反発を買っていましたが、作家があんなことを言うなどもってのほかです。
で、ドイツ人がドイツ語をどう思っているかなのですが、不満を感じる人の多くは、抑揚のなさ、単調さを挙げています。これは、フォーラムのようなサイトに散見されました。先ほどの、放送局のホームページの記事でも、以下の記述がありました。

Ist eine "harte" Sprache automatisch hässlich und eine "weiche" immer schön? Fühlen sich Menschen, die selbst hart klingende Sprachen sprechen, womöglich eher zu weicher klingenden hingezogen? Das könnte eine Erklärung dafür sein, dass Deutsche in die melodischen romantischen Sprachen des Südens geradezu vernarrt sind.
「固い」言語は自動的に醜く、「柔らかい」言語はみな美しいのだろうか? 固く響く言葉を話している人たちは、もしかして、もっと柔らかく響く言語に魅かれるのだろうか? ドイツ人が、南方のメロディックでロマンティックな言語にまさに惚れ込むということが、その説明になるかもしれない。

私のドイツ語は、外国人訛りがないとよく言われたのですが、ある時現地の友人から、抑揚を指摘されたことがあります。ドイツ語はもっと平坦だということで、私の抑揚は日本語からきているのではないかと言うのです。それから、なるべく抑揚をつけないで話すようにしました(笑)。

ニーチェの文章の冒頭、「Vom Klange der deutschen Sprache」を検索に掛けたところ、おかしなことに、ほかの言語についての評価が結構出てきて、ロシア語とアラビア語の評判が悪いようでした。学問的には、言語の美醜を判定する公式などはもちろん存在しません。基本的に、自分が話す言語にない音は異質に感じる傾向があります。ドイツ語の場合、「ach」の「ch」の部分のような喉音、巻き舌や喉彦を使うrの音、声門閉鎖音、さらに、ほかの言語にはない奇妙な複合語や、文の最後になってやっと動詞が出てくるような構造が嫌われる傾向にありますが、ドイツ人自身はもちろん意識していません。イギリスでは、喉や声門の閉鎖音は醜いとされますが、ペルシャ語では全く逆で、どういう音を美しく、または醜く感じるかは、民族によって違います。奇妙な複合語とは、たとえば次のようなもの。

Weltschmerz 世界苦
Kummerspeck (心痛のベーコン→)大食いをして太る
Eselsbrücke (ロバの橋→)記憶の手掛かり、虎の巻、あんちょこ
Ohrwurm (耳ミミズ→)はさみむし
Donaudampfschifffahrtsgesellschaftskapitän ドナウ川汽船航行会社船長

しかし、ドイツ語の悪い評判は、かなり古くからあります。現在のドイツ語とは発音はだいぶ違ったはずですが、神聖ローマ皇帝、カール5世は、「神と話すときにはスペイン語を、女と話すときはイタリア語を、男と話すときはフランス語を、馬と話すときはドイツ語を使う」と言ったと伝わっています。
ドイツ語の悪い印象は、言葉の響きだけではなく、ドイツ人の気質を連想するからだとも言われています。経済的成功を導く、目的に向かってひたすら努力する気質、ペダンチズム、感覚的冷たさ、さらに悪くなると権威主義的、尊大さなど。また、ドイツ語は、醜いだけでなく「効果的」で、兵士や技師が使うのには理想的である、などという印象もあるようです。この辺が、ニーチェの文と一致するところですが、ドイツ語そのものが問題なのか、ドイツ気質がそういう印象を操作するのか、後者の傾向はかなりありそうです。だとすれば、ドイツ人自身には異質ではないのでしょう。
ドイツ語には抑揚がないと書きましたが、一応あるのです。それを少し誇張したもので、シェーンベルクの「月に憑かれたピエロ」という曲がありますので、御紹介しておきます。詩の朗読がついているのですが、Sprechgesangといって、音高は確定していないのですが、楽譜を使って大体の音高のラインを記して、朗読時の抑揚を指定しています。

https://www.youtube.com/watch?v=bd2cBUJmDr8

ちょっとまとまりがないのですが、ここでとりあえず終わります。あとで、音楽の方へもう一度うかがうかもしれません。
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この回答へのお礼

ドイツ人のユーモア感覚については、通俗的評価がそれなりに当つてゐることを教へていただきましたので、言語についてはどうなのかと、気になつてゐました。私としては、ドイツ語の歌の空耳訳で、関西弁にされることが多いので、ほのぼのとしたイメージを持つてゐます。ニーチェにつきましては御指摘のとほりで、どこまでが本心なのか判断が困難です。日本の研究者にせよ、Q&Aサイトの投稿にせよ、文字通りに受け止めすぎてゐるやうに感じます。海外の評価は知りませんけれど。

動画は笑ひました。北朝鮮のアナウンサーも是非この企画に参加してもらひたいものです。

>石原慎太郎がフランス語の悪口を言って反発を買っていましたが、作家があんなことを言うなどもってのほかです。

はい、言葉に責任を持つべき立場ですから。

>不満を感じる人の多くは、抑揚のなさ、単調さを挙げています。

これがドイツ人のひとつの意見なのですね。私にはそんなイメージがありません。日本語も平坦だと主張する人がゐますが、なんともいへません。

>私のドイツ語は、外国人訛りがないとよく言われた

さすがですね。私の日本語は、外国人以下だと指摘されることがあります。国語カテゴリの質問でも、不自然な表現を見逃してもらへませんでした。

>Eselsbrucke (ロバの橋→)記憶の手掛かり、虎の巻、あんちょこ

この単語は便利さうなので、覚えておきます。虎が驢馬になるのですね。独和辞典には二等辺三角形のことも書いてありました。それにしても、ドイツ語の合成は、ずいぶん長くなるものです。日本語なら、漢字で端的に表現できるのですけれど。先日の耳鼻咽喉科もドイツ語ではそのままの表現なのですね。

>経済的成功を導く、目的に向かってひたすら努力する気質、ペダンチズム、感覚的冷たさ、さらに悪くなると権威主義的、尊大さなど。

現在でも経済的にEU内でひとり勝ちです。さうみなされても仕方がないやうなところがあります。

シェーンベルクの動画に関しては、ほとんど演劇の台詞のやうに感じます。ニーチェの同じ本にシェークスピア論もあるのですが、また質問するかもしれません。

多くの興味深い資料を提示していただいて、ありがたうございました。お仕事の支障がないやうにお願ひいたします。

お礼日時:2015/04/26 19:52

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