「今日の東京の混乱は歴史と自然との弁証法的関係がもたらしている」
という件を読んだことがあるのですが、これは予備校の現代文担当講師(東大卒)がはっきりと誤用と言ってました。
自分では、対立する概念を高次元でまとめる思考法という弁証法の意味を考えると、「歴史」と「自然」が対立概念でないところが誤用だと思うのですが、皆さんはどこが間違っているとお考えでしょうか?
語弊がないように詳しく言いますと、「歴史」というのは記録、経過であって自然と対立するのは例えば人間そのもの、又は人類の発展、ではないか、と言うのが私の考えです。
また、「人類の発展は歴史と自然との弁証法的関係を包含していることに異論はない・・」という使い方についても同様におかしいと思うのですが、それも併せて回答お願いします。
No.2ベストアンサー
- 回答日時:
現代文の先生がどういう意図で誤用だと言っておられたのかは、量りかねます。
しかし、qwert200xさんが「自然」と「歴史」とを対立概念と見ていないことが疑念の元になっていると思われます。引用文の内容から憶測するにその弁証法という言葉は、ロマン主義以降のドイツ観念論、とりわけヘーゲルの哲学を汲んでいると思われます。ドイツ観念論論の哲学において、「自然」の対立概念は「精神」と呼ばれます。その「自然」対応して「自然科学」があるように、この時代のドイツの学問には、「精神科学」というものがありました。
これは、例えば精神病理学のようなものではなく、道徳、政治、経済、芸術、宗教、といった「人間の営為なしには存在しえないもの」を研究対象とした学問です。つまり、「精神科学」とは今日で言う「人文科学」と「社会科学」、簡単に言うと文系の学問のことを指しており、したがって、ドイツ観念論で言われる「精神」とは、「文化」とか「人間」のことを指しています。そして、自然の世界の中に人間の文化が形作られていくことを、特に「歴史」と呼んでいたようです(『法哲学』346など)。
そのため、単なる自然現象に過ぎない「自然」と固有の文化が一つ一つ形成されていく過程である「歴史」も、また、対立的な概念として把握されるようになりました(弁証法哲学の流れを汲むマルクス主義の哲学にはこういう傾向が伺えます)。よって、弁証法なる単語が出てきたときには、自然と歴史とが対立的に把握されていることが前提になっている文脈だと考えておいた方がよいでしょう。
それゆえに、引用文の後者の方、自然と歴史との(弁証法的)対立関係が人類の発展に含まれている、ということには、取り立てて誤った言葉の使い方はないと思われます。人間の創意工夫の蓄積(=歴史)と自然の猛威との戦いが人類を発展させてきたわけですから。
ただ、冒頭の引用に関して言えば、「東京の混乱」のみならず「東京の繁栄」もまた自然と歴史との弁証法がもたらしているので、偏った見解を述べた文であるとは思います。
回答ありがとうございます。
哲学的な見地からのご説明で、大変分かりやすく読ませていただきました。
どうやら講師が誤用だといったのは、「歴史と自然との弁証法的関係」という言葉の使い方ではなくそれが文脈的に合っていないからというのが理由かもしれません。
文中では「歴史」を人間の営みという意味では使っているのですが、それに対する「自然」という言葉が脈絡なく使われているように思えます。それが下でも言った「よく分かっていないのに衒学で使っている」ということで誤用と指摘したのかもしれません。
No.3
- 回答日時:
No.1です。
早速のお礼を有難うございます。コメントの中で、ご質問文の作者名が出てきましたので、少し補足説明致します。コメント1:
<その講師ですが、その作者(武満徹)のことをボロクソに言っていました。>
その講師は、武満徹のことを知っているのでしょうか。
日本を代表する世界的に有名な現代音楽の旗手です。確かに、いろいろ著作を書いているようですが、薀蓄好きなところも多々あります。また、芸術家にありがちな、気難しい性格でも有名で、彼をきらいな人はきらいなようです。
もし、その講師が武満のことを知っていて、きらいであればそれは個人の自由ですが、彼が芸術の大家と知っていればなおのこと、彼の著作や表現力に難癖つけるのは無意味です。
武満は感性の世界の人で、文字の世界の人ではありません。著作の分野で素人であっても、それもご愛嬌で通る範疇です。イチローの自伝に、専門家が難癖つけても何の得もないのと同じことです。
もし、その講師が武満のことを知らなかったとすれば、講義で使う例題文の作者の略歴は、講義前に予め調べるべきです。それは講師の仕事です。
コメント2:
<「この作者、簡単な漢字を間違えるくせに難解な用語をよく使うんだよな~しかもよく理解していない。」というような感じです。>
彼は「理解の世界」=reasonの人ではなく、「感覚の世界」=senseの人ですから、批判するだけ無駄です。
コメント3:
人類の歴史と自然が対立関係にあるというのは~違うと明言した理由はそうではなく文脈的に合っていないからかもしれません。>
そうですね。文脈を拝読しないと全体像をつかめないかもしれません。
以上ご参考までに。
再度の回答ありがとうございます。
先の講師ですが、「この人音楽の世界では有名だけど、音楽家は音楽だけやっていればいい。」ということを言っていましたので著者の経歴は知っていたと思います。
No.1
- 回答日時:
はじめまして。
「(人類の)歴史」の持つ意味を多様な角度から考えれば、この謎が解けます。
「自然」と対峙するのは「文明」「人為」「人工」といった言葉で、「歴史」は確かに、対立概念と置くには、違和感があります。
しかし、「人類の歴史」を振り返った時、それは「文明の歴史」であり、「自然破壊」の歴史でもありました。
一方、人類は「自然との共存」という道を、今も昔も見捨てていません。それがなければ人は生きていくことができないからです。
つまり、「自然を壊しながらも、自然を愛で保護する」といった、矛盾するテーゼVSアンチテーゼは、歴史(=長い時間の流れの中に点在する諸事実)の中で、確かに存在し続けた永遠のテーマなのです。
ご質問の1文では、借者は「歴史」を、=「文明のための破壊」「進歩のための人為」と解釈しているがために、対立させたのだと思われます。
「破壊」はそれを続けていれば、人が住めなくなります。また、「自然」を保護しすぎても、自然の生物(動・植物)に人間の領域を侵略され、人間の居場所がなくなります。
「破壊の歴史」と「自然の温存」は、確かに互いに淘汰し合って初めて、両者をより高みへと高揚させることができるのでしょう。そこから、「弁証法的関係を内包している」といった弁になっているのだと思われます。
要は、話し手の主観によりけりというところでしょう。
おっしゃる通り、<「歴史」というのは記録、経過であって>というのは、一つの定義かもしれません。しかし、ご質問の一文の発言者が何ゆえ「歴史」と「自然」を対峙させたか、その意図を推し量ることもまた、新しい物の見方が生まれるかもしれません。
「歴史」といった言葉の持つ、固定的な枠組みからはずれ、柔軟に視点を変えることで、新しい発見もあるのです。東大卒のその先生は、固定観念という枠組みから、自由に意識を解き放つこともできず、ひらめきや、新しい概念といったものを生み出すことも受け入れることもできないのではないでしょうか。
自分とは反対の意見をする人、信じられない発言をする人、それらの意見を頭から否定的に排除しないで、テーゼVSアンチテーゼで論証してみれば、意外と新しい真理が見つかるかもしれないのです。それこそ、弁証法的対人関係と言えるでしょう(笑)。
以上ご参考までに。
回答ありがとうございます。
その講師ですが、その作者(武満徹)のことをボロクソに言っていました。「タキシーの運転手」と書かれているのを「タクシーって言えよ」、とか、「違和感」の違を「異」と間違えている所で、「この作者、簡単な漢字を間違えるくせに難解な用語をよく使うんだよな~しかもよく理解していない。」というような感じです。ですが、例の件は肝心のどの箇所が違うのかということをはっきり思い出せないので質問しました。(今その講師に聞くというのは難しいです。)
人類の歴史と自然が対立関係にあるというのは、歴史を広義で捉えれば分からなくもないとは思うのですが、違うと明言した理由はそうではなく文脈的に合っていないからかもしれません。(「自然と風土」からの引用です。*91’早稲田(教育)に出題)
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