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受精卵の発生における子宮の影響に関して質問させてもらいます。

受精卵にはそれ自身で発生し、器官形成、形態形成する遺伝情報がすでに
備わっていると思うのですが、受精卵の発生過程における子宮の役割とい
うのはどのようなものがあるでしょうか?
1)発生に適切な温度、体液組成を保つ。 2)栄養をコンスタントに与
えるなどというのは思いつくのですが、子宮が発生過程をコントロールす
るということはあるのでしょうか? たとえば子宮内壁からある種の物質
が分泌され、その物質をシグナルとして受精卵が受け取り、発生の過程を
制御する、というようなことは知られているでしょうか?

A 回答 (3件)

 獣医師です。

大学では一応繁殖学の研究室を出ているのですが、就職して数年で繁殖の世界から離れてしまったので、知識は少し古いかと思います。

 ご質問のような現象は1つだけ知っています。
 それは「着床遅延」と呼ばれている、クマ類を中心として見られる現象です。
 クマ(ツキノワグマorエゾヒグマ)を例に挙げると、彼らは冬眠から醒めた後の5-7月頃に繁殖期を迎えて交尾をします。そして冬眠中の2月頃に出産します。ですから"見かけの"妊娠期間は約7-9ヶ月ということになり、牛やヒトと同じくらいということになります。(牛もヒトも妊娠期間は約280日)
 ですが彼らが産む子供(つまり子熊)はせいぜい数百グラムほどの超未熟児です。牛が品種にも依りますが概ね20-40kg、ヒトが2-4kgほどで、母親の体重のだいたい1/20-1/10ほどの子供を産み落とすことになるので、クマ(ツキノワグマの雌成体で40-60kgほど)は非常に「子供を小さく産む」ことが判ります。

 実はクマの受精卵(交尾によって受精した卵子)は、すぐに着床せずに子宮内でふらふらと浮遊した状態を長く保ちます。その間、発生は胚盤胞と呼ばれる段階でほぼ止まったままとなっています。そして冬眠に入る頃にようやく「着床」して発育を始めるわけです。
 冬眠に入る直前の11月頃のエゾヒグマの子宮から浮遊した受精卵が回収されたりしていますから、着床時期は11-12月といったところでしょう。なので実質的な妊娠期間はせいぜい2-3ヶ月しかないことになります。

 この着床遅延現象は、クマだけでなくパンダ等のクマに近縁な種や、オコジョなどの一部のイタチ科の動物でも確認されていると記憶しています。

 つまり簡単に要約すると、
1.受精した卵子は直ちに着床せずに子宮内を浮遊している
2.着床遅延中の受精卵は、発生が中断した状態にある
3.ある条件下で受精卵は子宮壁に着床し、通常の妊娠-発生の過程がスタートする

 ということです。
 この3の「条件」も詳しくは判っていないのですが、クマの場合は冬眠に備えた食い溜めによって栄養状態が分娩&子育てに耐えられるか否かで、浮遊中の受精卵を着床させるかそのまま流すかを選択しているであろうことは容易に推察できます。
 夏~秋頃の"着床遅延中の受精卵を子宮内に持っている雌クマ"と晩秋~冬の"受精卵が着床して妊娠している雌クマ"では、黄体ホルモンなどの内分泌が有意に異なることは古くから確認されています。
 つまり、受精卵が着床する頃に、因果関係の前後はよく判りませんが、メスの内分泌は「妊娠を維持」する状態にようやくなるわけです。

 細かい話は複雑になりますし私も最新の知見はよく知らないのでかいつまんでシンプルに書きますが、非常におおまかな全体の流れとしては、受精卵が母体側に「子宮内に受精卵が存在するから卵巣上の黄体を維持しなければ」とか「そろそろ出たい(分娩したい)んだけど」というようなシグナルを出している、と考えられています。つまり妊娠はどちらかというと「胎児側」が主導権を持って進行している、というイメージです。
 ところがそれに対し、少なくともクマの場合は「着床」に関しては、どうも母体側が主導権を持っていそうです。子宮内に受精卵が存在しても、それを着床させるかどうかは母体側に決定権があるように思えます。まして着床までの間、受精卵の発生を止めて待たせているわけですから。

 これは受精卵側だけで発生停止や再開の制御ができるとは考えにくいですから、子宮側が「発生を一時停止しろ」というシグナルを出しているのだと考えられます。
 その物質がなんであるか、という研究は意外に進んでいないように思えますが、とりあえずこんなのを見つけました。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/9713804?ordin …

 完全な学術論文ですし、そもそも英語なので読むのは苦労するとは思いますが(私も今見つけたばかりなので、まだきちんと読んでません)、興味があれば読んでみて下さい。この論文はフルテキストフリーなので、リンクを辿れば全文も読むことができます。
 一応、タイトルだけ訳すと、「着床遅延時の子宮由来蛋白による着床遅延胚の栄養膜外胚葉におけるDNA合成再開の阻止」ということになります。まあご質問にはズバリの例ではありますね。

 ここから先は想像ですが、クマなどの着床遅延動物では初期胚の発生と着床に関しては母体側(子宮)が主導権を持っていて、子宮から分泌される物質によって初期胚の発生が制御されている、ということは、他の哺乳類でも基本的には同じかもしれない、ということです。
 他の動物ではクマのように何ヶ月も受精卵を待たせるようなことはしませんが、基本的に同じようなメカニズムで子宮内の受精卵の着床を子宮が"許可"しているのかもしれません。
 pubmed ( http://www.ncbi.nlm.nih.gov/PubMed/ )で"delayed-implantation"で検索すると、けっこう興味を引くタイトルの文献が出てきます。
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この回答へのお礼

とても具体的な例を挙げていただいて、ありがとうございました。
>それは「着床遅延」と呼ばれている、クマ類を中心として見られる現象です。
熊類にみられるというのは面白いですね。紹介していただいた論文はじっくり
読んでみたいと思います。DIAP170Kというタンパク質がそのシグナルに相当
するもののようですね。

お礼日時:2008/07/14 18:07

こんにちは。



>子宮が発生過程をコントロールするということはあるのでしょうか? たとえば子宮内壁からある種の物質
が分泌され、その物質をシグナルとして受精卵が受け取り、発生の過程を制御する、というようなこと

あるのかも知れません。でも、まだ研究途上であり未解明の部分だと思います。
#1さん御紹介の本は私も精読いたしましたが、ご質問内容に関わるようなことには触れられていなかったと思います(っていうか、かなり古い本ですしこれ(^_^;))。
それよりも「胚 共培養」や「子宮由来細胞 共培養」等で検索するとご質問の答えに少しは近づく内容が出てくるのではないかと思います。
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2006/09/s0914-5d1.h …
http://www.niph.go.jp/wadai/mhlw/1994/h060608.pdf
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この回答へのお礼

>それよりも「胚 共培養」や「子宮由来細胞 共培養」等で検索すると
>ご質問の答えに少しは近づく内容が出てくるのではないかと思います。
検索のキーワードは大事ですね。子宮由来細胞 共培養 などの単語は
思いつきませんでした。

>でも、まだ研究途上であり未解明の部分だと思います。
この分野は非常に活発に研究が行われていると聞いていたのですが、
なかなか難しいものなのですね。逆に考えると、これまで見つかっていない
ということはそういう現象はない、という可能性が高いのかもしれません。

お礼日時:2008/07/07 18:18

受精卵が卵巣・子宮に及ぼすのはご存知なのですね


そして、胎盤性性腺ホルモンについても知っていると仮定して
さらに、授精から着床の間の子宮の役割を質問されていると考えます

胎児の環境としての母体―幼い生命のために(岩波文庫)を紹介しているブログがあります
http://d.hatena.ne.jp/emau/20070530

授精は卵管で行われ、子宮は膣との口を塞ぎ、PHのバランスを取る
このあたりが質問に対する回答ではないでしょうか
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この回答へのお礼

紹介していただいたブログ拝見しました。
とても丁寧に分かりやすく書いてありますね。
>授精は卵管で行われ、子宮は膣との口を塞ぎ、PHのバランスを取る
やはり、環境を一定に保つというのが大事で、積極的に発生に影響を及ぼす
ということはしていないのでしょうか。

お礼日時:2008/07/07 18:14

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