No.1
- 回答日時:
生物学を学ぶ大学3回のものです。
オペロンを一言で表すなら「必要なタンパク質を必要なときだけ作る仕組み」ということです。必要なときだけ働くのでエネルギーのロスが少ないわけです。イメージ的には近頃の「派遣切り」といった感じでしょうか?(必要なときは大量に雇って儲けを増やし、入らないときは解雇して儲けを守る。生物の仕組みとよくにてます)
有名なラクトースオペロンを例に考えましょう。
まず、ラクトースオペロンは
リプレッサー領域-プロモーター領域-オペレーター領域-タンパク質をコードしてる遺伝子
という順番でつながっています。個々の説明は
リプレッサー:リプレッサーというタンパク質(後述)を作っています。
プロモーター:RNAポリメラーゼが結合するところです。
オペレーター:スイッチがONになったリプレッサーがくっつくところです。
また、ラクトースオペロンが作っているタンパク質はいろいろありますが、すべてラクトースを分解してグルコースをつくる代謝系の酵素です。β-ガラクトシダーゼなどがあります。
さて、ラクトース代謝系はなんのためにあるのか?
ラクトースが存在しているとき、ラクトースからグルコースを作って飢えをしのぐためにあるのです。
しかし、ラクトースが無いのにラクトースの酵素を作っても無意味です。エネルギーの無駄使いは生存競争の敗北に直結するのでそういうことは避けます(ダーウィンの自然選択説をイメージ)。
したがって、
リプレッサー:DNAに結合するとRNAの合成を阻害するタンパク質。ラクトースオペロンの場合は誘導物質が結合していないとリプレッサーはDNAにくっついてRNAの合成を阻害する。誘導物質が結合するとDNAに結合できなくなり、RNAが合成できるようになる。
という制御によって転写のON/OFFを制御しています。この場合のリプレッサーは「ラクトースがあれば転写」したいので誘導物質はラクトースを元にした化合物ということになります(ラクトースがなければ誘導物質も無いのでリプレッサーはONになり、DNAに結合する。よって転写は阻害される)。
しかし、グルコースがあったらわざわざラクトースから作る必要もありません。エネルギーロスです。したがって、コレを防ぐためにアクチベーターというタンパク質も関与します。
アクチベーター:リプレッサーの逆で、DNAに結合したら転写を促進させるタンパク質。ラクトースオペロンの場合は誘導物質が結合するとDNAに結合して転写を促進します。誘導物質はcAMPで、グルコースが少ないとcAMPの量は増加します(高いと低くなる)。
以上をまとめると、
グルコース+/ラクトース+ ⇒ アクチベーター乖離/リプレッサー乖離
⇒アクチベーターが結合してないのでリプレッサーが乖離してても転写不可能(×)
グルコース+/ラクトース- ⇒ アクチベーター乖離/リプレッサー結合
⇒アクチベーターが結合してない上、リプレッサーが結合しているので転写不可能(×)
グルコース-/ラクトース- ⇒ アクチベーター結合/リプレッサー結合
⇒アクチベーターが結合しても、リプレッサーが結合しているので転写不可能(×)
グルコース-/ラクトース+ ⇒ アクチベーター結合/リプレッサー乖離
⇒アクチベーターが結合している上、リプレッサーが結合していないので転写可能!(○)
ということになり、グルコースが無くて、さらにグルコースを合成できるラクトースがあるときだけ転写はONになってラクトース代謝の酵素が作られるわけです(エネルギーの効率がめちゃくちゃいいってのがわかるでしょ??)。
では最後に、以上のことから「なぜオペロンが重要なのか?」を考えましょう。
ホルモンのところでフィードバックって習いましたよねぇ?
作りすぎも、作らなさすぎもいけないって事です。
同じことが遺伝子レベルでも起きているって事です。
環境に適応するためにはフィードバックが必要なわけです。
状況を見て必要なものを必要なときだけ作るって事です。
これの遺伝子が壊れると環境に適応できなくなるので重大な疾患か、死にいたります。
つまり、オペロンの考えは遺伝子の発現は巧妙に調節されており、それを調べれば病気の原因がわかるかもしれないと教えてくれたのです。
だから、ノーベル賞級の研究だということですね^^(もちろん真核生物の調節はめちゃくちゃ複雑です。)
わからなければまた補足説明要求してください。答えます!
受験勉強がんばって!
参考文献:エッセンシャル細胞生物学第2版 南江堂 など
(コレぐらいやったら高校生でもわかる(?)と思うので県立図書館などいったらあるから読んでみたら?カラーでわかりやすいし、面白い!大学が生物系ならスタンダードな教科書やから買っても損は無いと思いますよ。ただ8000円ですが・・・・。けど、医学部受験なら余裕があるなら必要なとこだけ読んどくのもいいかも・・。)
とても丁寧でわかりやすい解説ありがとうございます。
>オペロンの考えは遺伝子の発現は巧妙に調節されており
これがポイントなんですね。“いつ、どんなふうに遺伝子の発現と抑制が行われるのか”の仕組みを解き明かしたという点が大発見だったんですね。そしてすみません、解説を読んでいるうちに疑問が増えました。
1.DNAは、例えば細胞膜のタンパク質を作るDNA単位、グルコースを分解する酵素(タンパク質)を作る単位、のように固有のタンパク質を作るオペロン単位で構成されているのでしょうか。
2.なぜ大腸菌のDNAには、グルコースがなくてラクトースがある場合に働く部分、などという都合のよい遺伝子を持っているのでしょうか?人間にも、たとえば食料が藁しかないばあい、馬のようにセルロースを分解する酵素を作り出す“都合のよい部分”があってもよいような気がするのですが・・・
宜しくお願いします。
No.2ベストアンサー
- 回答日時:
No.1のものです。
追加の質問があったので。質問1:
まず最初に誤解してはいけないのは、オペロンというのは原核生物独自の機構ということです。
原核生物には核膜が無いので、転写と翻訳の場が同じで、しかも同時に起こるということになります。
したがって、オペロンのように翻訳して作ったタンパク質をすぐにフィードバックさせることが容易です。
しかし、真核生物は核があるために転写の場と翻訳の場が違うのでそううまくはいきません。
真核生物の場合は、もっと複雑で、もっと違う機構で制御しています。
例えば、ホルモンが標的細胞に結合すると、そのシグナルによって転写因子とよばれるタンパク質の合成を促進し、その転写因子がやがて目的のタンパク質をコードしている別の遺伝子の転写を活性化したりするわけです(こういう因子は星の数ほどあります)。
また、真核生物の遺伝子の大半は原核生物のようにONかOFFかではなく、転写頻度が高いか低いかの2択です。
全く転写しないことはほぼありません(大腸菌ではONのときとOFFのときの差は1000倍ですが、真核生物ではせいぜい10倍です)。
さて、こう考えると、真核生物と原核生物をごっちゃにして考えてはならないことがわかります。
もし、質問者さんが生物が得意で、医学部レベルまで必要なら知っているかもしれないことですが、大腸菌はひとつのmRNAで複数の遺伝子をコードできます。
ラクトースオペロンでは、β-ガラクトシダーゼ、透過酵素、トランスアセチラーゼという3つのタンパク質をコードしている遺伝子が同じオペロン系に入っています。
なので、ラクトースオペロンがONになると、これら3つのタンパク質が同時にできるわけです。
ただ、mRNAの合成は転写途中で中断されることが多いので、できる頻度はオペロンから近い順に
β-ガラクトシダーゼ>透過酵素>トランスアセチラーゼ
となります。
真核生物の場合は、オペロンが無いのでこういうことはおきません。
ひとつのプロモーターにひとつの遺伝子が普通です。
ただ、真核生物も1つのmRNAで複数のタンパク質を作ることは可能です。
その場合、大腸菌とは違うので同時に何種類かのタンパク質は作れませんが、プロセシング(RNAの化学修飾とスプライシングをあわせた過程)のやり方を変える事でたくさんの種類のmRNAができます。
代表例は抗体の遺伝子です(利根川進はこれを解明してノーベル賞を取りました)。
なので、質問の結論を述べると
「原核生物では同じ代謝系のタンパク質は、同じオペロン系に収まり、同時に発現されることが多い。ただし、真核生物では遺伝子個々に制御を受けており、その機構はオペロンとは異なる。」
ということです。
質問2:
これは注意しなければなりません。
下手をすると論述問題で大幅減点をくらう考え方を質問者さんは持っている可能性があります。
というのは
「生物はある目的に向かって進化をする」・・・ダメ
「生物は偶然に進化していき、都合の良い遺伝子をGETするのは偶然である」・・・・・正しい
という大原則があるからです。
前者はラマルクの要不要説です。
後者はダーウィンの自然選択説です。
詳しくは生物2の教科書の進化の章を見てください。
現在の分子生物学の基礎なので大切です(大学に入って一番に叩き込まれる概念です。1回生でならうのは数式が少ない概論だけですが・・・・)。
つまり、進化は以下のように起こるということです。
「個体間で生まれてくるわずかな差、すなわち突然変異が起きて、その突然変異はたいていは生存競争に影響は無いので後世まで保存される(木村資生キムラ モトオ の中立説)。しかし、もし生存競争に有利な突然変異があれば、その突然変異を持つ個体は持たない個体よりもたくさん子孫を残す。結果、突然変異を持たない個体は減少し、ほぼすべての個体がその遺伝子を持つ。こうして、ある集団での遺伝子の頻度(総数)が変化したとき、進化したという(進化の定義)。」
つまり、突然変異はランダムなので、ほとんど無意味な変異です(子ドンが変わってもアミノ酸が変わらない、とかアミノ酸が変わってもタンパク質の活性が変わらないなど)。
しかし、ひとたび生存競争に強いものができれば、それは持たないものを駆逐してしまうということです。
そうすると、新たにできた遺伝子がメジャーになるので、その遺伝子を持つ個体は増えます。
この遺伝子の総数(頻度)が変化したのを進化したと呼びましょうと決まっているのです。
ですから、ラクトースオペロンも、おそらく進化の過程でたまたま獲得したのではないかと思われます。
もしオペロンがなければ、エネルギーロスが大きいので必ずラクトースオペロンを持つものに負けます。
それに対して、真核生物は進化の過程でもっと優れた制御系を獲得したので放棄したということや、細胞の構造が複雑化しすぎたためオペロン系は生存競争に不利になった、などの可能性が考えられます。
ただ、この点については可能性だけであり、僕も進化は専門で無いので確定した話ではありません(生物学自体、分子的な話になってからはまだ100年もたっていませんのでしかたないです。DNAの構造を解き明かしたワトソンはまだご健在ですし・・・・)。
最後に、冒頭で記述でこの考えはまずいといったのは、
「~という風になるために進化した。」とか「~のために~がある。」と書けば内容があってても減点かばつ
「進化した結果~となった。」とか「~があるので~ができる。」などと、自然選択説を踏まえて書くと満点
となるということです。ご注意を~
とても詳しい解説、恐縮です(汗)
>原核生物には核膜が無いので、転写と翻訳の場が同じで、しかも同時に起こるということになります
>「生物はある目的に向かって進化をする」・・・ダメ
「生物は偶然に進化していき、都合の良い遺伝子をGETするのは偶然である」・・・・・正しい
とても勉強になりました。ありがとうございます。医学部志望なので(まだ受験資格はありませんが・・・)頑張ります!
「3回生」という言い方からすると京都の大学生の方でしょうか。これからも宜しくお願いします。
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