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刑法38条2項
「重い罪に当たるべき行為をしたのに、行為の時にその重い罪に当たることとなる事実を知らなかった者は、その重い罪によって処断することはできない。」

 これは、軽い罪(たとえば器物損壊罪)の認識で重い罪にあたる行為(たとえば殺人)をした場合、重い罪の故意犯は成立しないということを規定しています。

 刑法における錯誤論が故意犯処罰の例外(つまり、故意のないところに無理やり故意を作り出す方法)ではなく、故意成立の限界を探ろうとする議論であると僕は理解しています(これが通説ではないでしょうか?)。この理解からすれば、錯誤事例において結果に対する故意が認められる場合というのは、その結果の認識があったと認められる場合ということになります(認識の存否の判断基準として、抽象的法定的符合説や具体的法定的符合説などが対立)。

 そうだとすると、
(1)重い罪の認識がなかった場合にはそもそも重い罪が成立するいわれはないし(したがって注意規定としてはあまりに無意味)、
(2)仮に一見軽い罪の認識で重い罪の行為をした場合であっても、両者に符合が認められる限りは(例外的にではなく)重い罪の認識はあったといえるのだから、端的に重い罪で処断すればよいのであって、38条2項の適用は問題とはなりません(したがって例外規定と解することもできません)。

 このように、38条2項を注意規定、例外規定のいずれと解することも妥当とは思えません。
 しかし判例も学説もそのことについては一切触れず、あたかも「錯誤論=故意犯処罰の例外」、「38条2項=錯誤論の例外規定=故意犯処罰の原則通り」と解するような運用を行っています。

 僕の考え方に何か誤りがあるのでしょうか? 皆さんの意見をお聞かせください。

A 回答 (3件)

補足の後のお礼の段階で、誤りに気付かれているかもしれませんが、念のために返信します。



やはり、補足の中にも問題があるようです。
具体的には、
「そして重い結果が発生した場合に、(38条2項を無視すれば)重い結果(※についての犯罪)の成立が認められることも「理論的には」(稀ではあっても)ありえます。覚せい剤所持と麻薬所持とが法定刑が違うだけで実質的には重なり合っていることを判例も認めているからです。」(※は、PonyoOnBlyが追加)
の部分。判例は、両罪の符合を認めていますが、あくまで軽い罪(麻薬所持罪)の限度であり、同判例が符合を認めているからといって、(軽い結果についての認識しかないのに)重い結果についての認識まであるものと擬制するとは読めません。
「38条2項を無視すれば」と留保してありますが、無視した上で、錯誤論の考え方でいっても、認識の方をスライドすることはできない(事実を軽く見ることは、包含関係にあれば可能ですが、逆は不可です。認識について重いほうで扱うというのは、極めて特異な故意論 [およそ、広く犯罪の意思があれば、結果に対して故意がある][←こんな理論があるか知りませんが] を採らない限り、成り立ちません。軽い罪の認識は重い罪の認識を包含しないからです。)。

おそらく、「符合」を「イコール」と考えておられるのではないでしょうか。だから、双方向にスライド可能だと誤解してしまうのかも。
国語的意味や、重なり合い、というと、なんとなく、双方向な気がしますが、具体的な犯罪で考えると分かり易いかもしれません。
たとえば、殺人と傷害。保護法益が個人で、客体が人、行為態様も似ている。しかし、結果の点では、殺人は、「死」(三徴候)だけど、傷害は「生理的機能の障害」。三徴候のうちの1つ該当でも、生理的機能の障害があったとはいえるが、生理的機能の障害があったからといって、三徴候があるとはいえない。
したがって、「符合」というよりは、「包含」といった方が理解的にはしやすいのかもしれませんね。

アドバイスですが、「一見成り立ちそうな公式」を前提に論理を組み立て、通説的な話が誤りに思われることがある場合、そもそも、その公式があっているのか、再考してみると、誤りに気付けるかもしれません。自分もよく、そういう誤りをするタイプですが、通用している議論はだいたい正しいから、広まっているわけで、自分の方に誤りがあると疑った方が、勉強を進めるうえでは、良いかもしれません。

ついでに、私は、「馬鹿な質問」とは思っていませんよ。結果的に理解に誤りがあったとしても、質問という行為を蔑むことはするべきではないし、自虐的に考える必要もないです。疑問を口にすることが大切ですから。
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この回答へのお礼

>「符合」を「イコール」と考えておられるのではないでしょうか。
まさしくその通りでした。

 わざわざ補足の誤りまで正していただいて、重ね重ね本当にありがとうございました。具体例もとてもわかりやすかったです。

 今後も疑問を持つことをためらわず、探究心を持って勉強に臨みたいと思います。

お礼日時:2009/09/14 14:20

まず、38条2項が「注意規定としてあまりに無意味」とされる点ですが、1項本文をみると、「罪を犯す意思がない行為は、罰しない。

」とあります。質問文(1)で想定されているのは、「重い罪の認識はなく軽い罪の認識で重い罪を行なった場合」と思われますが、「軽い罪の認識」はあるので、「罪を犯す意思がない」(1項本文)とはいえず、1項本文の「故意犯処罰の原則」の理論のなかでは対処できないことになってしまいます。そういう意味では、注意規定ではなく、創設的な規定と考えられます。(ただ、注意規定かどうかを議論することは生産的ではないので、重要ではないですが…。)

次に、符合の概念につき、質問者さんのご理解に誤りがあります。
質問者さんは、「軽い罪の認識があれば、重い罪の認識があったといえる」とされています(そこでは、「認識」を比較しています)。しかし、正しくは、「客観的構成要件」ないし「事実」の比較です。つまり、軽い認識を重い方にあわせるのではなく、重い事実を軽い認識の方にスライドさせるのです。
あくまで、発生しているのは重い事実であって、軽い事実は存在していません。現行刑法は「殺人したい」と考えるだけでは処罰されないですね。同じく、「軽い罪の認識があるだけで軽い罪の事実がなければ処罰できない」のが本来です。しかし、軽い罪の事実と重い罪の事実が符合するなら、軽い罪の事実があったことにしよう、そうすれば、認識と事実にズレがなくなる、とするのが抽象的事実の錯誤の議論です。

少し、原則・例外の観点を意識しすぎて、逆にこんがらがっておられるように見受けられます。法律学では原則例外の考え方は重要ですが、本来の議論からズレてしまっては、本末転倒になってしまいます。

この回答への補足

 ご丁寧にありがとうございます。

 確かに僕の符合概念の理解は誤っていたようです。
 ですがそれを認めた上で、少しだけ補足をさせてください。

 錯誤論においては、行為者の思い描いた犯罪事実と客観的に発生した犯罪事実との「客観的構成要件要素」ないしは「事実」を比較し、発生した犯罪事実が「成立するか」を検討します。その検討の結果、「成立」ということになると、当然発生した犯罪事実について「故意あり」と判断したことになります。認識をスライドさせるにしろ、事実をスライドさせるにしろ、故意がなければ犯罪は成立しないのですから、これは当然です。そして故意の主要な要素が認識である以上、「故意あり」と判断したのならその前提として「認識あり」と判断していることになります。
 上記の理屈は、「理論的には(実務を考えなければ)」発生した事実の方が軽い場合だろうと重い場合だろうと成立します。そして重い結果が発生した場合に、(38条2項を無視すれば)重い結果の成立が認められることも「理論的には」(稀ではあっても)ありえます。覚せい剤所持と麻薬所持とが法定刑が違うだけで実質的には重なり合っていることを判例も認めているからです。麻薬所持(軽)のつもりで覚せい剤を所持(重)した場合、覚せい剤所持罪の成立が認められることもありうるわけです。ところがそれでは不当ということで、38条2項により不成立の方へ修正しよう、というのが通説であるように感じました(「38条2項の限度で軽い罪が成立する」という言い方をしている説は、このような思考プロセスをたどっているのではないでしょうか)。
 しかし、本来「成立する」犯罪は、本来「故意がある」はずであり、つまり本来「認識がある」ことになります。そうすると、「認識がない」場合を規定した38条2項は適用されず、したがって原則通り犯罪が成立してしまう気がするのです。

 僕の疑問はそういうことでした。やっぱり専門家の方から見たら馬鹿な質問だったのかもしれませんね。お忙しいところありがとうございました。

補足日時:2009/09/13 12:26
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この回答へのお礼

 ご丁寧にありがとうございました。とても参考になりました。
 原則例外の考えにとらわれすぎて本末転倒になっている、というご指摘はごもっともだと思います。今後は気をつけるようにしたいです。

お礼日時:2009/09/13 12:35

ハッキリ言って勉強不足。


テキストを読み直してきましょう。

ここで説明しても、テキストの内容以上のものは説明できません。

この回答への補足

 それならば説明は結構ですので、僕の考え方のどの部分に間違いがあるかだけでも指摘していただけますか? 誤りがあるのならば以下のいずれかの点だと思うのですが……。

(1)錯誤論は故意犯処罰の例外ではない。
(2)したがって錯誤論は故意のないところに故意を作り出すわけではない。
(3)錯誤事例で故意犯として処罰されるからには、結果に対して認識があったといえる。
(4)38条2項は「軽い罪の認識で重い罪に当たる行為をした場合、重い罪の故意犯は成立しない」ということを規定している。

補足日時:2009/09/12 17:52
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