日本的な感覚を表す一つの言葉として考えられるものとして「しみじみ」があります。
しみじみ(goo辞書出典)
1.心の底から深く感じるさま
2.心を開いて対象と向き合うさま
3.じっと見るさま
1.が最も一般的に考えられる意味でしょう。では漢字変換するとどうでしょうか。「染み染み」「沁み沁み」
「染み染み」「沁み沁み」のうち、「沁み沁み」の方に注目したいです。
つまり、「心の底から深く感じるさま」というのを、「沁み沁み」と先人は表したと考えます。
「沁」の漢字の作りを考えると、「さんずいに心」、つまり心に水が流れている、水で満たされているなどという意味が推量されます。
ここから考えられるのは、日本人の感性と水の関連性、水のような流動性・湿潤性が日本語の「心」という意味を表す一つの鍵になっている事です。
さらに言及すると、「沁」という漢字も、常用漢字にするべきではないでしょうか。この漢字は先述したように、日本人の感性を表す一つの大事な文字として考えられるからです。
そう考えると「しみじみ」という言葉は、「染み染み」より「沁み沁み」の方がより日本語の意味としては適切ではないかと考えられます。「沁」という漢字が常用漢字ではないという理由で「沁み沁み」という言葉を使わないのは、日本人的な感覚を阻害する一つの要因になるのではないでしょうか。
「しみじみ」という言葉の由来、現代における「しみじみ」の意味とは、「しみじみ」と水の関連性、「染み染み」と「沁み沁み」について、「沁」という言葉についてなど、よろしくお願いします。
No.1ベストアンサー
- 回答日時:
沁 シン qìn
(一)1.ひたす(浸)。また、しみる。しみこむ。2.さぐる(探)。水中をさぐる。
(二)川の名。山西省で黄河に注ぐ。
【解字】
形声。氵(水)+心[音]。音符の心は、侵に通じ、奥深くしだいに入るの意味を表す。
以上、『大漢和辞典』(大修館書店)より引用です。
『大漢和辞典』の「音符の心は、侵に通じ、奥深くしだいに入るの意味を表す」を参考にすると、「沁」は水がじわじわと奥深くに入り込む意。仰るような「心に水が流れている、水で満たされているなどという意味」ではありません。
「しみじみ」は染みるを重ねた語で、心に深くしみとおる様を表す語です。そこから、以下の意味合いに派生します。
1.心に深く感じいるさまを表す語。しんみり。
2.お互いの心にしみ入り、打ち解けて物静かなさまを表す語。しんみり。
3.心からそのように思うさまを表す語。つくづく。よくよく。本当に。
4.寒さなどが身に深くしみとおるさまを表す語。
5.じっと相手をみつめる様を表す語。
6.心からいやで、つらいさま、こりごりであるさまを表す語。
※小学館『日本国語大辞典 第2版』「しみじみ」の項を引用。
何故染みるということが心にしみとおる様を表すかというと、染色の様子がそのまま、じわじわと感情が広がって行く様、また幾重にも感情が繰り返すことでより心の深いところに入り込んでゆくといった、心の動きに重なるからだと考えられます。
古来よりの染色方法、いわゆる草木染めの様子はご存知でしょうか。
大雑把に言えば、染料となる草木の花や葉、実、根、皮(これは紅花や藍、クチナシ、紫草、黄檗など様々にあります。)などを煮出して作った染液に布などを浸して染めます。濃い色に染めるためには、これを何度も繰り返します。
「染」の字は染料となる草木を煮出した水に何度も何度も(=九)潜らせる・浸すことを意味していて、まさに染色そのものを表しています。(参考:『日本語源広辞典[増補版] 』ミネルヴァ書房 、「染める」)
衣服など身の回りの品を手ずから染める古人にとっては、布などに液体がじわじわと奥深くに入り込んで、色がつくという身近な染色の光景が心に深くしみとおる様に結びつくのは、ごく自然なことだと思います。
例えば、平安時代に詠まれた恋の歌に「恋しきは色に出でても見えなくにいかなる時か胸に染(し)むらむ」(『拾遺集』、読み人しらず)があります。
恋しい思いは色となって外に出て見えるものでもないのに、一体どんな時に胸に染み付くのだろうの意で、恋という感情がじわじわと心に深く入り込んで離れないことを、心が染まる様で表現しています。
他にも染色に関連して心情の喩えとした歌は、数多くあります。
『拾遺集』の頃には「しみじみ」という語はありませんが、そうした日本人が育んできた心の表し方、捉え方が元になって、やがて染みるという語を重ねて「しみじみ」という語が生まれてくるということでしょう。だからこそ、「しみじみ」は日本人の培ってきた感覚を表す語なのです。
また、「染」と「沁」の字については前述のように、「染」の字は草木の花や実、根などを煮出した水に何度も何度も潜らせることを意味しますから、「染」は「沁」という字が持つ、水がじわじわと奥深くに入り込む意も内包していると考えられます。
「染」と「沁」は異なる漢字であっても、意味が似ているから同訓異字とされているわけです。
現代では「沁」の表記を常用外として一般にされないからと言って、「「染み染み」より「沁み沁み」の方がより日本語の意味としては適切ではないか」という推論は成り立たないでしょう。
日本人は水だけでなく、それこそ風や火、雷、天体、植物、動物etc.…自然現象、動植物の生態、暮らしの光景など、人をとりまくありとあらゆるものに様々な心・感情を託してきました。
この辺りは和歌を眺めれば、よく分かると思います。
他のご質問もちらりと拝見して、言葉について興味をお持ちのようだと思いました。
ネットの辞書も今は色々あり、取っ掛かりにするのも良いでしょうが、せっかくですからこの機会に図書館で詳しい漢和辞典や語源や語誌について言及のある、もう少し専門的な国語辞書を引いてみるのも面白いと思いますよ。
とりあえず、ネットで見られるもので大修館書店“漢字文化資料館”の漢字Q&Aや、ジャパンナレッジで連載されている“季節のことば”や、“日本のことば遊び”“ほめる日本語けなす日本語”などのエッセイが(語の出典も明記されていて)面白いのでは。
漢字文化資料館
http://kanjibunka.com/
ジャパンナレッジ 季節のことば
http://japanknowledge.com/articles/kkotoba/01.html
とても勉強になりました。改めて言葉の奥深さ、そして浅い知識で推論するのではなく、専門的な知識や歴史的背景を考慮して言葉の成り立ちについて考える事の大切さを実感しました。
・何故染みるということが心にしみとおる様を表すかというと、染色の様子がそのまま、じわじわと感情が広がって行く様、また幾重にも感情が繰り返すことでより心の深いところに入り込んでゆくといった、心の動きに重なるからだと考えられます。
・衣服など身の回りの品を手ずから染める古人にとっては、布などに液体がじわじわと奥深くに入り込んで、色がつくという身近な染色の光景が心に深くしみとおる様に結びつくのは、ごく自然なことだと思います。
↑
成程。「染」と「沁」の関連性は、こういう部分にあったのですね。正直に申し上げますと、上記のご教授をいただくまでは、「染」と「沁」の関連性がよくわかっておりませんでした。布などを染色する様子などを見て、何となく安心するのはこういう部分から来ているのでしょうか。
・『拾遺集』の頃には「しみじみ」という語はありませんが、そうした日本人が育んできた心の表し方、捉え方が元になって、やがて染みるという語を重ねて「しみじみ」という語が生まれてくるということでしょう。だからこそ、「しみじみ」は日本人の培ってきた感覚を表す語なのです。
↑
「しみじみ」という平仮名4文字に、このような成り立ちがあるのですね。こういった考えに自然に行き着けないのは、私の教養の浅さもあるでしょう。一方で現代日本人の生活と古代日本人の生活の差が著しくなり過ぎて、古代日本人との言葉の意味の共有を、現代日本人が出来なくなってきている事も考えられますね。生活が豊かになる一方で、先人からの贈り物を失っている気がします‥。
また、「じわじわ」という言葉の由来にも興味が湧いてきました。
ありがとうございました。
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