水の電気分解において,陰極及び陽極で次の反応が起こって,それぞれ OH- や H+ が生成します。
陰極:2H2O + 2e- ―→ H2↑ + 2OH-
陽極:2H2O ―→ 4H+ + O2↑ + 4e-
このままでは,電気分解の進行に連れて,陰極の OH- 濃度と陽極の H+ 濃度が高くなり,反応が止まります。通常は,支持塩の Na+ や SO4(2-) が,各イオンを中和したり,生成した OH- や H+ が移動して反応の停止を防いでいます。
だとすると,イオンの濃度勾配の生成を抑えれば,電気分解は進行すると思われます。例えば,次の様に行ないます。
・陰極と陽極に別々の電解槽(溶液の流入,流出口のあるもの)を用意します。
・陰極側に硫酸水溶液を,陽極側に水酸化ナトリウム水溶液を入れます。
・陰極側に硫酸水溶液を,陽極側に水酸化ナトリウム水溶液を,それぞれ一定速度で流します。
・電解槽に白金電極を入れ,電池をつなぎ,電気分解を行ないます。
この装置では,生じた OH- や H+ を電解槽から流出させる事で,電極部分のイオンの濃度勾配の生成が抑えられます。そのため,電池の寿命がある限り電気分解が進みます(?)。
そうすると,陰極側流出液には OH- が,陽極側流出液には H+ が,それぞれカウンタ-イオン無しに存在する事になってしまいます。これは納得いかないので,何処かで勘違いしていると思うのですが,何処かが判りません。
すみませんが,私の勘違いを指摘し,私を納得させて下さい。
No.4ベストアンサー
- 回答日時:
既にご存じのことがいくつか重複するかと思いますが,基本に戻って書かせていただきます。
失礼がありましたらお許し下さい。また私自身,あまり専門とはしていない領域ですので,疑わしい部分は何なりとご指摘下さい。まずご質問の件ですが,そもそもカチオンやアニオンを強制的に流し去ることはできません。よって電気分解は起こりません。いえ,もっと正しく表現すると,電気分解は最初のごく僅かな時間しか起こりません。これは初期の電気分解に伴う電気二重層の形成が原因です。
アノードでは電子とカチオンとを生じますが,反応が進行するにつれてカチオンは電解質溶液側の界面に集中し,その電荷をうち消すために電子はアノードの表面に集中し,そしてそのまま飽和してしまいます。この様な正と負の二重の層を電気二重層と呼びます。この二つの層はクーロン力で引き合っており,流水程度の力で引き剥がすことはできません。この様な状況はカソードでも同様です。よってご質問の条件は,電気的に見れば,電池のプラス極とマイナス極にそれぞれ別のコンデンサーを取り付けたような状況と等しいかと思います。
次に,電気分解における支持電解質の働きについて考えてみます。
アノードのバルクは正に帯電していますが,表面は電気二重層により負に帯電,界面の電解質溶液はカチオンによって正に帯電しています。カソードについてはこの逆です。そして,電気分解がスムーズに行われるためには,電気二重層によるアノード上のカチオン,およびカソード上のアニオンを電極から引き剥がさなければなりません。なお,電気二重層がクーロン力で形成されている以上,電極上のイオンを引き剥がすには同じくクーロン力程度の力が必要になります。
一方,二つの電極によって電解質溶液内に電位差があるだけで,カソードの沖(=二重層の外)にはカチオンが,アノードの沖にはアニオンがドリフト(=ブラウン運動しながら一方向に流れる)によって運ばれます。そして,カソードの沖にいるカチオンが二重層のアニオンを引き剥がし,カソードでは新たな還元反応を起こして二重層を再生し,またアノードの沖にいるアニオンが二重層のカチオンを引き剥がし,アノードでは新たな酸化反応を起こして二重層を再生します。そしてこの二重層の再生の過程こそが電流の流れる過程です。カソードで流れる電流を還元電流と言い,一方アノードで流れる電流は酸化電流と言い,全電流(=ファラデー電流)は還元電流と酸化電流との和です。
以上のことより,電気分解を滞りなく進行させるためには,沖のイオン密度を上げる必要があると分かります。なおこの沖のイオンは,二重層を引き剥がすためだけに使われるため,電極反応式には現れてきません。純水の電気分解がうまく進行しないのは,純水のイオン濃度が極端に小さいのが原因ですので,沖のイオン密度が高めるために支持電解質を加えれば良いと言うことが分かります。
再度の回答ありがとうございます。
> この二つの層はクーロン力で引き合っており,
> 流水程度の力で引き剥がすことはできません。
あ,そう言えばそうですね。帯電した電極の存在を全く忘れていました。確かにク-ロン力で引き合っているものを剥がすとなると・・・・無理ですかね。
> カソードの沖にいるカチオンが二重層のアニオンを引き剥がし,
> またアノードの沖にいるアニオンが二重層のカチオンを引き剥がし,
なるほど。これで前質問からの私の疑問が全て解決したように思います。ありがとうございました。
No.9
- 回答日時:
なにやら楽しそうなんで参加させて下さい。
私の推論はこうです。先ず、プロトンや水酸化物イオンの動きですが、これは電気勾配があるから、両電極間を移動するのであって、この場合、両電極間の移動ができないと思います。となると、電極を侵蝕するか容器を侵蝕するかのいずれかでしょう。この侵蝕速度が遅ければ、電気が流れなくなると思われます。
もう一つ、私の推論を述べさせてください。プロトンや水酸化物イオンの移動は、物質の流れに比べて、圧倒的に早いはずですね。ですから、電気的な力を受けているプロトンや水酸化物イオンを物質の流れによって除去するのはほとんど不可能と思います。でも、ちょっと位は、確率の問題で出て行くかもしれませんね。
HIMADESU さん,回答ありがとうございます。色んな所でお名前は拝見しております。
> 電極を侵蝕するか容器を侵蝕するかのいずれかでしょう。
あ,これは全くの盲点でした。遅きに失しましたが,「電解槽は侵食されない理想的な材料でできている」として下さい。
> プロトンや水酸化物イオンの移動は、物質の流れに比べて、
> 圧倒的に早いはずですね。ですから、電気的な力を受けている
> プロトンや水酸化物イオンを物質の流れによって除去するのは
> ほとんど不可能と思います。
これは,プロトンや水酸化物イオンを引き離せないというのとはチョット違いますよね。少しなら引き剥がすことはできなくはないが,ク-ロン引力によって直ぐに電極に引き戻されてしまう,という事ですよね。
実際の所はどちらも同じなのかも知れませんが,いかがでしょうか。
No.8
- 回答日時:
大変興味深い議論が展開されているようなので、ちょっと参加させて下さい。
2,3疑問点がありますので、あわせて解答を下さると幸いです。
その1>38endohさんへ
rei00さんはあえて両極の溶液を指定されている様ですので、各反応は以下の様に表記した方が適確かと思われます。
陰極:H2SO4 + 2e- ―→ H2↑ + SO4 2-
陽極:4NaOH ―→ O2↑ + 2H2O + 4Na+ +4e-
(実際にはH+,OH-の酸化還元反応だけで充分ですが、ここではあえて上記のようにさせていただきます。)
この様に考えますと、38endohさんの説明されているクーロン力は、反応によって生じた過剰のイオンを拡散させる方向に働いていると考えることはできないでしょうか?
そうしますとコンデンサーによる考え方が一番的を得ているように思います。
その2>plo_olqさんへ
>つまりどんどんエントロピーが減少していく方向に反応が進んでいくわけです。
>これは、どう考えても自然界の法則に反していますよね。
そもそもこの水の電気分解自体がΔGが正の方向に進めている訳ですからエントリピーは減少しているのではないでしょうか?
その3>rei00さんへ
>1)2つの電解槽が繋がっていない状態では,電池と電極の電位が同じであり,電気が流れない。
これについてはrei00さんの勘違いかと思われますが通常の閉回路でも電池と電極の電位は同じと考えて差し支え無いと思います。
おそらく溶液と電極間の電位が一番重要なファクターであるように記憶しています。
決着がつきかけた玄人の井戸端会議に素人が茶々を入れるような真似をして申し訳ありませんが、この意見をもとにさらなる理論展開をお願いします。
文末ではありますがなにぶん最初の投稿ですので失礼等がございましたら、お詫びいたします。
回答ありがとうございます。
> 通常の閉回路でも電池と電極の電位は同じと考えて差し支え無いと
> 思います。おそらく溶液と電極間の電位が一番重要なファクターで
> あるように記憶しています。
そうですね。適切な助言ありがとうございます。何かまだまだ勘違いが残っていそうな気がしてきました。
No.7
- 回答日時:
>38endohさん
拡散律速…そういえば、そう言われていました。電気化学は講義でも分析機器の説明程度でしたので、すっかり忘れてしまっていました。
もう一度、本を読み直してみます。ありがとうございました。
No.6
- 回答日時:
plo_olqさんへの回答です。
電気化学反応では非常に表面積の小さい作用極を用います。このため反応は拡散律速を受けます。この拡散律速を定量的に扱うために開発されたのが回転ディスク電極です。そもそも,表面積の大きな電極を用いれば拡散律速はおこりません。実際に,回転ディスク電極を用いた測定の対極は,別に回転させていませんよね?
「回転させる必要性=作用極の表面積が小さいため拡散律速が起こるから」
です。さらに,電気二重層の厚さはナノオーダーです。いくらバルクの流速を上げても,ナノオーダーの表面ではほとんど流動はないと思います。
No.5
- 回答日時:
大半の答えが出ているような気がしますが、面白そうな話題ですので私も参加させてください。
rei00さんの考えておられる事、良く分かるような気がします。
確かにイオンの濃度勾配を解消すれば、電気が流れそうな気がしますよね。
逆の例になるのですがダニエル電池の授業を受けた時に似たような想像をしました。
まず、この装置では私もanisolさんの言われるように電極と溶液の間に電位の差がないので
反応は起きないと思います。
電位差がなければイオンが集まる起動力がないわけですから。
もし、電極に既に陽電荷・負電荷が集まっていたとして、この場合には電極を差し込んだ瞬間は
反応が起こるのでしょうが、次の瞬間からは皆さんが言われているように電気二重層が出来ますし、
その溜まっていた電荷分を消費した時点で反応は止まり、さらに電位もなくなるので、その二重層
もないのではないかと思います。
もし仮に、電圧がかかっているとしてイオンが集まってくると考えても(二重層が出来ないと仮定しても)
その状態は物理的に無理があると思います。
なぜなら、陽極側の溶液は陽イオンがどんどん増え、陰極側は陰イオンが増えていくわけですよね。
いくら流れのある装置があったとしても、その両極の溶液槽の系は片方の電荷に偏っていくわけです。
つまりどんどんエントロピーが減少していく方向に反応が進んでいくわけです。
これは、どう考えても自然界の法則に反していますよね。
ここまでがrei00さんの提案に対する考えです。
あと、ちょっと気になった事があるのですが。
38endohさんの
>この二つの層はクーロン力で引き合っており,流水程度の力で引き剥がすことはできません。
というところですが、そうなんでしょうか?
ボルタンメトリーの電極の中に、回転ディスク電極というものがありますが、
これは電極を回転させる事でむりやり電極の近傍の溶液を交換し一定の条件での測定をするための
工夫だったと記憶しています。
実際に使ったことがないので分かりませんけれど、ある程度の流れでは剥がされると思うのですが、
いかがでしょうか。
この回答への補足
回答をお寄せいただいた皆様,ありがとうございました。質問者 rei00 は次の点で勘違いがあったと気付き,納得いたしました。
1)2つの電解槽が繋がっていない状態では,電池と電極の電位が同じであり,電気が流れない。
2)電気分解で生じるイオンは電極表面とイオン対を作った状態なので,電解質イオンのようなもの(ク-ロン力)で引き剥がさないと剥がれない。したがって,すぐに電気分解が停止する。
まだ若干の疑問をお持ちの方も居られるようですので,質問自体はあと少し開けておきます。何か追加情報のある方は,よろしくお願い致します。
回答ありがとうございました。
> これは、どう考えても自然界の法則に反していますよね。
そうなんです。自然界の法則に反しているのは判るんですが,どこでどう反しているのかが判らず,落ち着かない思いでした。
皆さんのお陰で,それもスッキリしそうです。
No.3
- 回答日時:
陰極と陽極が別々の電解槽であれば、各電解槽の中の溶液の電位と、電極の電位は同じです。
溶液から見た電極の電圧は0Vですから、当然反応は起きません。『「電気が流れるから電極反応が起きる」のではなく、「電極反応が起きるから電気が流れる」ということです。』これは正しいと思います。溶液の中でイオンが移動する必要は必ずしもないでしょう。コンデンサが交流を通すのも、コンデンサの中で電子が移動しているわけではありませんよね。
また、硫酸ナトリウムを加えると電解しやすい、というのは溶液の抵抗が低くなるため、P=I^2*Rで表わされる電力損失が少なくなるということです。純水であろうと硫酸ナトリウム水溶液であろうと、1クーロンあたりの発生する気体の量は変わらないでしょう。
以上、断定的に書きましたが、自信はありません…
回答ありがとうございます。
> 陰極と陽極が別々の電解槽であれば、各電解槽の中の溶液の電位と、電極の電位は
> 同じです。溶液から見た電極の電圧は0Vですから、当然反応は起きません。
あ,なるほど。目から鱗の感があります。確かにそうですね。
> コンデンサが交流を通すのも、コンデンサの中で電子が
> 移動しているわけではありませんよね。
なるほど。コンデンサ・・・・確かに。
> 硫酸ナトリウムを加えると電解しやすい、というのは
> 溶液の抵抗が低くなるため、
なぜ,硫酸ナトリウムを加えると溶液の抵抗が低くなるのでしょうか。ANo.#4 で 38endoh さんが書いてられる様な理由でしょうか。
No.2
- 回答日時:
こんにちは。
いくつかの勘違いが複合しているようです。1.>陰極の OH- 濃度と陽極の H+ 濃度が高くなり,反応が止まります。
電気分解、電池などの反応を止めてしまう分極作用はイオンの濃度勾配ではなく、発生する水素、酸素などの気体によって、電極と溶液の接触が絶たれる為です。
2.別々の電界槽にそれぞれ片方づつの電極を入れて電圧をかけても電気が流れず、電気分解は起こりません。2槽式の電解槽を使う場合は、二つの溶液を、電解質溶液を寒天などで固めたものなどで作る塩橋で結ばないと電気分解は起こりません。塩橋の中ではイオンは移動できます。
電気分解でも、電気回路なわけで、閉じていない電気回路では電流は流れません。
早速の回答ありがとうございました。
【1.について】
その可能性は考えないでもなかったんですが・・・。送液で液を動かすぐらいでは,これは回避できないということでしょうか。また,そのために,ごく少量反応した段階で電気分解が停止してしまうという事ですか。
【2.について】
すみません,チョット説明不足だったような気がします。申し訳ありません。
実はこれの前の質問(QNo.102234 水の電気分解でのイオンの役割は?)で戴いた回答では,『基礎化学コース 電気化学』渡辺正・金村聖志・益田秀樹・渡辺正義 共著(丸善)によると,『「電気が流れるから電極反応が起きる」のではなく、「電極反応が起きるから電気が流れる」ということです。』だそうです。それならば,電極反応が停止する原因(イオン濃度の増加)をなくせば,電気が流れなくても反応は進み続けるのではないかと考えたわけです。
これがおかしいのは何となく感じるのですが,こういう理由でだめだと言った風にスッキリしないものですから,こんな質問をしてみました。いかがでしょうか。
No.1
- 回答日時:
私も興味がありますので、一緒に考えさせてください。
ただ、今すぐにはまとまらないため、とりあえず私の知っている情報を羅列します。1.電気化学反応(サイクリックボルタンメトリーなど)における電流値は、種の(1)泳動、(2)拡散、(3)対流に支配的である。
2.水中での水素イオンの移動度は、実質的な移動を伴わないため、一般的な他のイオンに比べて100倍程速い。
3.水のイオン積Kw=[H+][OH-]は一定である。
…後で真剣に考えます。
早速の回答ありがとうございます。
> 電流値は、種の(1)泳動、(2)拡散、(3)対流に支配的である。
今の場合,強制的に液を流す事で,これらの支配は解除されているように思うのですが。そんなに簡単には行かないのでしょうか。
> 水中での水素イオンの移動度は、実質的な移動を伴わないため、
> 一般的な他のイオンに比べて100倍程速い。
水酸化物イオンもそうですね。ただ,これはイオン濃度の上昇を抑えるのには有効ですが,今の場合イオン濃度の上昇は送液によって抑えていますから,あまり関係ないように思うのですが・・・(違うのかな?)。
> …後で真剣に考えます。
すみません。「暇なときにでも」ですので,あまり真剣になって本業に影響ないようになさって下さい。
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