オペラ「タンホイザー」のあらすじを幾つか読んだのですが、ストーリーが釈然としません。釈然としなくてよいという考えもありますし、自分で納得のいく解釈を編み出して納得してもよいのですが、原作や定説を無視して頭の中で勝手に演出してしまうのも如何なものかと思い、質問する次第です。「こう言われている」「自分はこう思う」のいずれでも結構です。
1.タンホイザーはエリザベートと相思相愛でありながら何故ヴェーヌスベルクに行ってみようと思ったのでしょうか?行ったら虜になってしまった、というのは仕方ないとしても全てを放棄して行こうという覚悟だったのか、無事に戻れるという成算があったのか、単なる好奇心だったのか。単なる節操のない弱い同情の余地のない男だったのなら彼に惚れたエリザベートまで単なる面食いだったということになり全く感情移入できなくなってしまいます。
2.エリザベートが一貫してヴォルフラムよりタンホイザーを選んでいるのは何故なのでしょうか。一旦タンホイザーを好きになったからには揺らがないというのは立派ですがエリザベートはヴォルフラムに全く目もくれていないのか(エリザベート面食い疑惑)、幼なじみ等で恋愛の対象となっていないのか、によってエリザベート像が変わります。
3.挫折したタンホイザーを呼び止めようとヴォルフラムがエリザベートの名を出すのはなぜでしょうか。片思いを封印し親友を救おうとするのは立派ですが、それによってエリザベートが死ぬことも知っていたのではないのでしょうか。エリザベートよりタンホイザーが大切な存在だという伏線も見あたりません。
4.タンホイザーはなぜ死ぬのでしょうか。物語的にその方が都合がよいとしても、唐突すぎます。彼女のために死んだエリザベートの亡骸にタンホイザーが涙する時点で救済があってもよさそうな気がしますが、堕落した奴は死なねば許されないのでしょうか。
No.2ベストアンサー
- 回答日時:
再びこんにちは。
私なりにお勉強&曲を聴いて出直してきました(^^
しかし,「定説」ということではなく,私の「実際に音楽を聴いてみた上での個人的意見」ですので,そこはご了承ください。
1.タンホイザー像について
幕開けの部分をどう表現するか,というのは演出上のひとつのポイントになるらしいですね。「快楽にふけるだらしない男」として描かれる場合が多いようです(どのくらいだらしなく,いやらしく表現するか,というのも演出上のポイントらしく,相当「きわどい」ものもあるらしいです。これはオペラの「エンターテイメント」としての側面を示すものだと思います)。興味本位で行ってみたらはまっちゃった,という感じですかねえ。
歌合戦でうかうかと過去の色事について漏らしてしまうあたりにも,彼の「だらしなさ」ぶりは現れているでしょうか。
2.エリザベート像について
エリザベートは純粋に理想の女性像(ワーグナーにとって,あるいは当時のドイツ社会にとって)として描きつつも,ヴェヌスを対として「女性の二面性」を現す,という解釈が多いようですね。場合によっては同じ歌手が歌ったりもするらしいです。
#しかし,そもそも何でタンホイザーを好きになったの,という所は確かに微妙ですね・・・。「面食い疑惑」は私にも払拭できません(^^
3.ヴォルフラム像について
エリザベートの名を呼ぶのは,「タンホイザーを思いとどまらせるため」というよりは,「エリザベートのタンホイザーへの愛を無にしないため」ではないでしょうか。タンホイザーが救われることでエリザベートが死んでしまう,と知っていながらあえてそうするということは,彼(ワーグナー?)にとって真に尊いのは「自分のエリザベートへの愛」ではなく,もちろん「タンホイザーとの友情」でもなく,「エリザベートのタンホイザーへの愛の形の美しさ」なのかもしれませんね。
彼の歌合戦での歌の内容や,有名な「夕星の歌」の内容に,その辺りの潔癖な性格の描写,感情の表現も入ってくるのではないでしょうか。
4.タンホイザーはなぜ死ぬ?
これは,物語としての都合のよさ,というのはやはりあると思いますが,一方で,ワーグナーの思想の潔癖さを示しているとも私には思われます。
「堕落した奴は死なねば許されない」とは,やや過激な表現ですが(^^;,ワーグナーは実際にそう意図していたのかもしれませんね。
#そのわりには,ご本人はずいぶんとだらしない人生だったようですが・・・。
---
以上,私の主観がほとんどですが,ご参考に。
難しいかもしれませんが,学術的に話をしてくれる人が現れるのをもう少し待ってみましょう(^^
わざわざ再度のお手数をおかけしての回答をありがとうございます。なるほどと思う部分や自分が思いつかなかった部分があり、楽しく興味深く読ませて頂きました。歌詞についてももう少し読み込んでみます。
No.3
- 回答日時:
ワグネリアンはみな議論好きです。
私もこのような話題にそそられるのですが、はっきり言って結論は出ません。ワーグナーのスーパー哲学を理解できる人は、ワーグナー自身しかいないのでは…とさえ思うのです。特に、4.の質問は、女性による自己犠牲という、ワーグナーの作品に一貫するテーマですが、よく分からんです。あえてこの作品のテーマを考えると、「人間の持つ二面性」ということでしょうか。エリーザベトもヴォルフラムもヴェーヌスも、一面しか持っていない(というか、片面を押し殺している)から、人間的にはあまり面白くない。しかし、唯一、タンホイザーだけは両方持ち合わせている(というか発散させている)ので、エリーザベトもその魅力の虜になるし、ヴォルフラムも、ある種の「憧れ」をタンホイザーに感じているのでは…とさえ思います。
最後に、タンホイザーがヴェーヌスベルクに行く気持ちは、男なら誰でも理解できるのではないでしょうか。「不倫は文化だ」とまでは言わないが、誰しも聖人君子にはなれない。ただただ、家庭あり、世間体ありなので、実行できないだけなのです。
丁寧な回答をありがとうございます。もちろん簡単に結論を出そうとは思っていませんが、一人で悶々と考えるより他の方の話を聞くことができて嬉しいです。
ワーグナーのオペラを通しで観るのはタンホイザーが初めてで、ストーリーについて深く考えるのも初めてですが、どうやら他のワーグナーの作品についても知ることが有用なようですね。ワグネリアンという言葉があるのですか。もしかしたら私はワグネルベルクへ向かいつつあるのかもしれません。
No.1
- 回答日時:
こんにちは。
オペラも含むクラシック音楽マニアです。回答とはちょっと違うのですが・・・。
質問者さんが気にしているような解釈に関する部分は,演出家・指揮者・歌手・オーケストラがオペラを上演するにあたって,大変に重要な部分です。
逆に言うと,これらの解釈は,演奏によって全然違ってしまうのです。時代背景を映してしまうくらいはざらだし,人の生き死にまで変えてしまうこともあります。
#私が最近某劇場で見たリゴレットは,宇宙人の中に紛れ込んだ地球人親子,という話になってしまっていて,その二人以外(マントヴァ公爵も)は全員「サルの惑星」のような特殊メイクでした。また,アンフォルタスの傷が聖槍をもってしても治らずに死んでしまう,というパルジファルもあるらしいです。
・・・すいません,脱線しましたね。つまり,
・演出家が脚本と音楽を解釈し,時代背景や登場人物の性格などの大枠を決め,
・指揮者が音楽表現を決め,奏者に要求し,
・歌手やオーケストラが各自の思いをさらに注入し,実際に表現する,
という流れの中で,ストーリーの枠組みや登場人物の性格描写は大きく変わってしまうのです。
*上記の役割分担はおおまかなもので,実際には各自の役割にはもっとオーバーラップがあります。
*そうなる背景として,脚本が音楽の都合でちぐはくになっているオペラがけっこう多い,というのがあると思っています(タンホイザーがどうか,は私は分かりません)。
タンホイザーの場合どういう演出・演奏があってどういう解釈が一般的なのか,あるいは,そもそもワーグナーがどう考えていたか,というのは,申し訳ありませんが良く分かりません。というのも,実は一度も通して観た(聴いた)ことがないので・・・。
実際の演奏の表現を聴きながら,その演奏の解釈に思いをめぐらすのもオペラを聴く楽しみのひとつと思いますよ(^^
以上,ぜんぜん回答になっていませんが,ご参考に。
「実際の演奏の表現を聴きながら,その演奏の解釈に思いをめぐらすのもオペラを聴く楽しみのひとつ」とのアドバイスに意を強くしました。自分なりに思いをめぐらせていますが、論文で言えば先行研究を読まずに自己流の説を立てるのは拙いと思い、質問している次第です。「タンホイザーの場合どういう演出・演奏があってどういう解釈が一般的なのか,あるいは,そもそもワーグナーがどう考えていたか」について御存知の方がいれば御教示頂きたく、もうしばらく質問は開けておきますが、Ta595さんのアドバイスは役に立ちました。ありがとうございました。
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