街中で見かけて「グッときた人」の思い出

Arthur Hailey の「In High Places」という小説の邦訳表題は「権力者たち」となっています。

中身に合った適訳だと思います。
就いては、お伺いしたいのは英語圏で生まれ育った人たちは「In high placese」という句を見たり読んだりした時に、やはり権力者たちといった言葉をイメージするのでしょうか。

私の知りたい事がうまく伝わるか心配ですがお尋ねします。

追記:私は日本生まれ、日本育ち、英語圏での生活経験皆無です。英語は海外経験のない田舎教師に学びました。

A 回答 (1件)

日本人が英語の「語感」をはかりかねる時、英語圏の「キリスト教的バックグラウンド」を考えると、理解が進むことがあります。

日曜日に欠かさず教会に行くという人が減っても、世俗化が進んでも、彼の地の文化には、歴史的にキリスト教が色濃く影を落としています。
place は、動詞で「(人、特に聖職者を)任命する」という意味があります(『プログレッシブ英和中辞典』小学館から引用)。世界史を振り返ってみると、叙任権闘争、ヒエラルキーといったことが思い出されますね。

【叙任権闘争】
11世紀後半から12世紀にかけて、帝権(世俗の権力)と、教権および高位聖職者の叙任権(教会の権威・権力)をめぐって、神聖ローマ皇帝とローマ教皇との間で行われた争い。
(『世界大百科事典』平凡社から引用)

高位の(in high places)聖職者を任命する権限は、世俗君主にあるのか、教皇にあるのか。教会法によれば、当該教会の聖職者と信徒にあるそうですが、中世のヨーロッパでは、事実上、各世俗君主が国内の高位聖職者の任免権を握っていました。
これに対し、11世紀半ば以降、教皇は俗権に対する教権の優越を主張し、ここに聖俗の激しい闘争が開始されました。「カノッサの屈辱」なんてのは有名ですね。「この叙任権闘争を通して、今日につながる『国家』の概念が姿を現してきた」という説もあるくらい、重要な歴史的事件です。

【ヒエラルヒー】(または、ヒエラルキー)
一定の価値原理にもとづき、または一定の職能体系のなかで、人びとやこれに準じた対象が上下の序列関係に位置づけられ、ピラミッド型に組織された場合、この組織原理および実際に形成された組織体のことをいう。
(『世界大百科事典』平凡社から引用)

ヒエラルキーは、企業であれ役所であれ軍隊であれ、現代の巨大な組織体に共通して存在します。しかし、この語はもともと教会用語で、中世ヨーロッパの教会の、聖職者の位階制から来ています。ヒエラルキーの頂点にある教皇は、「神の代理人」と呼ばれました(教皇自身は「神のしもべのしもべ」と自称するらしい)。


以上、「叙任権闘争」、「ヒエラルヒー」について、引用を交えて解説しました。
さて、要するに私は何を言いたいか。

in high places を直訳すると「高い地位にある」、
「権力者たち」を直訳すると men of power あるいは men of influence になるでしょうが、
「英語圏の人は、in high places と聞くと men of power を思い浮かべる?」と問うても、「そう言えばそうだね」程度の愚問であろうということです(失礼千万をお許しください)。日本語訳者と日本の出版社が工夫した、うまい邦題なのですから。
それよりも、作者アーサー・ヘイリーが優れているのは、in high places というありふれた言葉で、聖的な悲劇性を示唆する効果をあげている点です。

この世の権力・地位を争い、いくら「勝った、負けた」と騒いでも、死ねば皆、神の前に引きずり出されて最後の審判を受けなければならない。人が人を place するのと、神が人を place するのとは違う。そういう基本認識がありますから、カナダ政界の権力闘争絡みの物語が、次第に聖的な悲劇性さえ帯びてくるのです。「切った張った」の娯楽読物に終わらない、重層性と言えましょう。

なお、偉そうに書いてきた私は、こてこての日本育ちです。英語を勉強したのは大学受験が最後で、英語の微妙な語感など金輪際持ち合わせていません……。厚かましいにも程がある? お呼びでない? こりゃまた失礼しました……。
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この回答へのお礼

先ずもって厚く御礼申し上げます

ご懇篤な解説を下さいまして、とても勉強になりました。
広範かつ深い知識があればこそのご回答かとぞんじました。
海外の小説を読む上でのスタンスといったものがわかりました。

簡単ですが御礼まで申し上げます。

お礼日時:2005/08/21 11:47

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