No.2ベストアンサー
- 回答日時:
沈降平衡の実現している一番簡単な例は大気です。
重力が働いていれば落ちてくるはずです。でも上空までずっと大気は存在しています。
上空に行くと圧力は下がります。5.5km上空で半分、11km上空で1/4、16.5kmで1/8です。でもいくら上に行ってもなくなりません。
分子が動いているから当然だという人がいるかもしれません。
人工衛星が落ちてこないのと同じだという理屈です。でも速さが全く違います。
地球を周回する軌道に乗るために必要な最低の速さは第一宇宙速度と呼ばれています。
秒速8kmという値です。高校の物理でも出てきます。
空気中の分子の速さは秒速500mほどです。音速よりも大きいが音速に近いという値です。
放物運動の式をあてはめると地上から500m/sで打ち出した物体の上がることのできる高さは12.5kmです。上空に行くと重力が弱くなるということを考慮に入れても16kmも上がれば空気はなくなっていることになるでしょう。
でもまだ1/8ほど残っているのです。超低圧というほどではありません。
互いに無関係に飛び回っている小さな粒子の運動から箱の中の気体の圧力を導くときとは少し事情が異なります。
・分子は熱運動をしている。
・互いに衝突しながらエネルギーを交換している。
上から落ちてくる気体粒子を下にある気体粒子が跳ね返しているのです。
落ちてくるはずの粒子が落ちてこなくてある高さのところに分布しているというのが「沈降平衡」です。
重力が働いているところでの気体分子の数密度分布は
n/no=exp(-Mgz/RT)
で表されます。Mは気体分子1モルの質量、gは重力の加速度の値、zは地上からの高さ、Rは気体定数です。
位置エネルギーに対してボルツマン分布を考えたものとしてもいいでしょう。
両辺の対数をとった時の表現が示されている場合も多いですが熱分布というイメージが見えなくなります。
液体の中に小さな固体の粒が分散している場合にこの式をあてはめたものがコロイドの分散、沈降平衡の式です。Mgの代わりにMg(1-ρo/ρ)で置き換えます。ρ、ρoは固体粒子の密度、溶媒の密度です。浮力の効果を入れた式になります。溶媒の影響は浮力を通じてあらわれているということができます。zを溶液内の2点の高さの差と考えるとそのまま当てはまります。
沈むはずの粒子が沈まないという場面を考えていればρ>ρo、浮かぶはずの粒子がなかなか浮いてこないというのであればρ<ρoです。ρ=ρoであればn=noです。これは一様分布ということです。
遠心分離機を使った場合は重力では沈降が遅すぎるという物質にたいしてgを変えてみようということになります。それでもやはり、ある分布をします。その分布は回転のエネルギーの表現を入れると得られます。Mgzの部分が(1/2)M(1-ρo/ρ)v^2=(1/2)M(1-ρo/ρ)(rω)^2に変わります。
密度勾配遠心法にはちょっとからくりがありそうです。
沈めて分離するとか、浮かして分離するというのではなくて途中でとめて分離するということです。
そのためにはρ=ρoになればいいです。
この場合、溶媒(水)と分散媒(ショ糖液)の区別が必要でしょう。
細胞小器官がさらに含まれているとします。遠心機を回転させれば、水、ショ糖、細胞小器官がその回転の影響を受けます。分子量の小さい水が一番動きやすいです。濃度勾配は一番小さいです。次はショ糖です。
水の密度勾配は無視してもいいような値だと思いますから沈降平衡で密度勾配ができるのはショ糖なのです。出来上がったショ糖の密度勾配の中を細胞小器官がゆっくりと動いて行き、密度が等しいところで止まってしまうのです。ショ糖の密度勾配を作るために超遠心という操作が必要なのでしょう。
乱れのないきれいなショ糖の密度勾配を作るにはどうすればいいか、等のいろいろなノウハウがあるようです。
これはもう専門外の私にはわかりません。
沈降平衡については
米沢富美子「ブラウン運動」(物理学 One Point 27 共立出版)
が手ごろでていねいです。
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