我が国最初の漢和辞典とも言うべき『和名類聚抄』は
二十四部、百二十八類に細分化された百科辞典の要素も兼ね備えたものです。
「鬼」について
“鬼は物に隠れて顕はるることを欲せざる故に俗に呼びて穏と云うなり”
という解説です。
その和名は「於爾」(おに)であり、かつ、その「於」は「穏」(おん)が訛って発音されたものだとしています。
十世紀では「おに」と称されるものの原型は「おんに」であり、その言葉を漢字の「鬼」に当てはめた、と言っているわけです。
つまり元々は「穏爾」⇒「於爾」⇒「鬼」と変化していったのです。
何とも分かったようで分からない「解釈」です。
オニの正体とは、一体何なのでしょうか?
良く分からない処が「おに」の「オニ」たる由縁なのかも…。(笑)
No.2ベストアンサー
- 回答日時:
鬼は隠が変化したもので、隠れて人の目に見えないもの、死者の霊魂や精霊と言われるが(『和名類聚抄』)が、日本の鬼は、非常に多様な現れ方をしており、ある特定のイメージで語ることは困難である。
馬場あき子氏は、説話などに出てくる日本の鬼について五種類に分類している。一は日本民俗学上の鬼で祖霊や地霊、二は山岳修行系の鬼で山伏系の鬼、例えば天狗、三は仏教系の鬼え、邪鬼・夜叉・羅刹等、四は人鬼系の鬼で盗賊や凶悪な無用者の系譜。五は怨恨や憤怒によって鬼に変身する変身譚系の鬼である。中国における『鬼』は死人の魂を言う。『鬼は帰なり』と説明され、使者の魂の帰ってきた姿のことである。死者を意味するこの中国の『鬼』が六世紀後半の頃に日本に入り、日本の固有の『オニ』と重なり『鬼(オニ)』になったのだと馬場あき子氏は述べている。『鬼』以前の『オニ』がどのようなものかよく分からないが、一の話はある程度『オニ』の姿を現している。特に『目一つ』というのは注目される。柳田國男氏は『一つ目小僧』で、かつて神のしるしとして片目、片足を潰す習慣があったことを述べているが、このように『一つ目』の鬼を、片目という神のしるしを帯びた神の眷属とみる味方や、あるいは『一つ目』を『山神』の姿とする説(五来重)もある。いずれにしろ、一つ目の鬼は、死霊というより民俗的な神の姿を彷彿とさせる『オニ』であろう。『日本書紀』には、この他、まつろわぬ『邪(あ)しき神』を『邪しき鬼(もの)』としており、得体の知れぬ『カミ』や『モノ』が鬼として観念されていたことが分かる。
二の『日本霊異記』の鬼の話は、まさに中国の『鬼』の観念による死霊である。髪の毛が残っているというところがリアルだが、二本の角が生えた虎皮の褌をはいているような、我々にとっては鬼の固定的なイメージになっていない。角と虎皮のイメージは、『艮(うしとら)』の方角を鬼門とする習慣によって生まれたものであると言われている。説話の人を食べる凶暴な鬼のイメージは、死霊や邪しき『カミ』『モノ』から、仏教系の獄鬼や怪獣、妖怪等の想像上の変形を受けて次第に成立したものだろう。平安から中世の説話に東条する多くの鬼は、怨霊の化身であったり、人を食べる恐ろしい存在であるが、都人が闇に感じていた恐怖をどのように造形したかが、これら鬼のイメージによって窺うことができよう。説話上の有名な鬼である大江山の酒呑童子は、源頼光に退治されるが、酒呑童子は都から姫たちをさらっては食べていた。『伊勢物語』第六段に、夜女を連れて逃げる途中に鬼に女を一口に食われてしまう話がある。ここから危機に会うことを『鬼一口』というようになるが、まさに説話には『鬼一口』型の話が多い。しかし、鬼の昔話には、『こぶとり爺さん』や『一寸法師』の鬼のように結果的に福をもたらすイメージをもっていたことも付け加えておかなければいけないだろう。
鬼とは、安定した秩序を指向するこちら側の世界を侵犯する異界の存在ということができよう。鬼のイメージが多様なのは、社会やその時代によって異界のイメージが多様であるからだ。異界が不服従の地域であれば鬼はまつろわぬ反乱者であり、法を犯す者であれば盗賊となり、山という異界に住み不思議な能力を持つ者であれば鍛冶屋のような職能者もまた鬼の系譜に重ねられた。異界を幻想上のものと考えれば、死霊や人間の怨霊の化身、地獄の羅刹、夜叉、山に住む妖怪等と、とめどなく鬼のイメージは広がっていく。『鬼一口』の話が多いのは、戦乱や災害、飢饉等の社会不安の中で頻出する人の死や行方不明を、異界がこの世に現出する現象と解釈したものとかんがえられる。人を食べる凄惨な場面は、まさに異界で人の体が消えていくことのリアルな実演であり、それをこの世に侵犯した鬼が演じてしまうのだろう。鬼は、異界の神の使いなのであり、人間を向こうの世界に拉致することもあれば、昔話のように福を残して去ることもあるのである。その意味では、鬼は禍も福ももたらす神なのである。
No.1
- 回答日時:
日本書記・欽明天皇5年12月の記事に、
「彼嶋之人言也 亦言鬼魅不敢近之」
「有人占云是邑人必為魅鬼所迷惑」
と言う形で「鬼魅(魅鬼)」と言う言葉が出てきます。土蜘蛛などの表現と同じで異民族を指していたと考えられているようです。
中国においても商(殷)の時代に「鬼方」と言う形で、異民族を指した用法があります。一方で中国で「鬼」と言えば「死者の霊魂」を指しています。
日本においては、古い時代に自分たちの結界の外に存在する、異なる民を「おに」と呼んでいた時期があり、文字の伝達と共に「鬼(異民族のイメージ+死者の霊魂のイメージ)」の字が「おに」に当てられ、その後霊的な存在の意味だけが強く残るようになったのではないでしょうか?
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