No.1
- 回答日時:
1 法的概念の整理
原告の請求が、債務不履行を理由とする損害賠償請求権に基づくものである場合(「債務不履行を理由とする損害賠償請求権が訴訟物となっている」といいます。)、立証責任の構造は、
(1) 請求原因事実(原告が立証責任を負担)
ア 債務の発生原因事実(契約等)
イ 損害の発生
ウ 債務者の行為と損害との相当因果関係
エ 損害の金銭的評価(損害額)
(2) 抗弁1(被告が立証責任を負担)
債務の履行
(3) 抗弁2(被告が立証責任を負担)
不履行に違法性がないこと
(4) 抗弁3(被告が立証責任を負担)
不履行に過失がないこと
となります。ここでご注意いただきたいのは、「不履行が問題となる債務に着目して『債権者』、『債務者』という言葉を用いる」ことです(*1)。
通常損害か特別損害かという問題は、「相当因果関係(上記(1)ウ)が認められるための要件は何か」という問題であり、立証責任の分配、つまり、「相当因果関係(が存在すること)の立証責任を誰が負うか」という問題とは無関係です。
通常損害と特別損害の区別の意義は、相当因果関係の要件として、「債務者が不履行の際に損害発生の基礎事情を知りまたは知り得たこと」が要求されるか否かという点にあります。
2 立証責任とは
立証責任とは、「当該事実を認定するに足るだけの証拠がない場合に、当該事実の存否が自分の不利益に認定されること」をいいます。
例えば、特別損害の立証であれば、債権者は、
(1) 損害が発生したこと(*2)
(2) 債務不履行と損害との条件関係(債務不履行がなければ損害が生じなかったこと・*3)
(3) 債務不履行の当時、債務者が損害発生の基礎事情を知りまたは知り得たこと(*4)
の立証責任を負います。
*1の例でいえば、Yが特別事情を知っていた(または知り得た)のかどうか証拠により確定できないとき、「Yは特別事情を知らず、かつ知り得なかった」と認定されるわけです。
つまり、立証責任を負う当事者だけが立証活動をしなければならず、他方当事者は何もしなくていいということではなく、最終的に立証に失敗した場合に立証責任を負う当事者が不利益を被るというにすぎません。
ある事実につき立証責任を負う当事者がそれなりの証拠を提出した場合、当該事実が存在したとの認定を妨げるためには、立証責任を負わない当事者が何らかの反対証拠を提出(反証)する必要があります。
3 裁判所の意図
本件の場合、裁判所は、原告がそれなりの証拠を提出したことから、duca4050さんに反証を促したのかもしれません。
あるいは、原告の立証が不十分だと考えていても、原告から「予断を持って審理している」などと非難されないよう、duca4050さんにも反証を促しただけかもしれません。
原告提出の証拠が陳述書などであれば、反証活動としても、当該陳述書記載の事実を否定する趣旨の陳述書を提出する程度で足りる場合があるでしょうが、原告提出の証拠がduca4050さん作成の「損害確認念書」などの有力な書証であれば、当該念書が偽造された可能性(例えば、指印の指紋とduca4050さんの指紋が異なること)を立証するなど、相当程度の反証活動をしなければ、裁判所が原告の主張を採用する可能性が高くなります。
私には本件の訴訟物や証拠関係を正確に知るすべがありませんので、この程度のアドバイスでご勘弁いただけませんでしょうか。
4 訴訟指揮の要請?
訴訟指揮とは、訴訟の進行を掌理することであり、今回裁判所がduca4050さんに立証を促したことそのものが、訴訟指揮です。
ですから、「異議を申し立て訴訟指揮を要請」するというduca4050さんのお考えは、誠に失礼ながら、ナンセンスです。
即断はできませんが、一般には、反証を促したこと自体がduca4050さんに対する関係で違法な訴訟指揮となることはほとんど考えられません(duca4050さんに不利益をもたらす措置ではないからです。)。
以上、失礼は平にご容赦ください。
ご参考になれば幸いです。
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*1 例えば、「鋼材業者Yが建設業者Xに期限までに鋼材を納入しなかったので、Xの工事の竣工が1日遅れ、注文主Aから1年間の取引停止のペナルティを受けた」という場合、不履行(履行遅滞)が問題となる債務はYのXに対する鋼材納入債務ですから、「債権者」とはX、「債務者」とはYです。
*2 *1の例でいえば、「注文主Aから1年間の取引停止のペナルティを受けた」ことです。
*3 *1の例でいえば、「Yが期限どおり納入していれば、Xの工事の竣工が工期に間に合い、Aから取引停止処分を受けなかった」ことです。
*4 *1の例でいえば、「Yは、鋼材納入期限当時、XがAとの間で『竣工が1日遅れるごとに1年間の取引停止処分を受けても異議はない』との合意をしていた事実(「特別事情」といいます。)を知っていた(または知り得た)」ことです。
この回答への補足
詳細かつわかりやすいご指導ありがとうございます。
本件は、業者(被告)が、換金価格より早期換金を重視する売主(原告)から、ある車の受託販売または買取の早期なほうのいずれか、という一見矛盾する仕事を併せて請け、受託期間中に、業者自らが買主を発見し、リスクを意識し先に市場価格1000万で転売(書証あり)、その後、卸価格700万で買取(書証あり)、という順になりました。なお、その顧客には、当方からでなければ買うことができない事情がありました。
以上に対し、売主が不条理にも損害賠償請求を提訴しているわけです。
訴訟の流れから見とって、大審院判決にある「損害発生を知った知り得た」基準に(立場は逆のようですが)通じ、特別損害に相当するとしてくるように考えています。
市場価格での買取以降は、当然その車についての受託販売業務は中止しており、このことは相手方も合意していたはずが、これをとぼけており、売買契約を経てはいますが、その合意については立証も困難です。
私の理解では、受託販売の債務は不履行とされ得る、債務不履行に基づく損害の有無と範囲が不明、それを損害というならば当方は損害発生を知り得たことになる、というところで壁に当たっています。
なお、当方には、自分本位な利潤追求の意図など誓ってなく、当初相手方も感謝していましたが、煽動者との利害一致により豹変、煽動者は原告代理人です。
再度のご高見をお伺いしたいと存じます。よろしくお願いします。
No.2
- 回答日時:
本件で問題となるのは、原告の損害が特別損害かどうかということではなく、むしろ、原告とduca4050さんとの間の売却媒介契約上、duca4050さんがいかなる債務を負っていたのか、duca4050さんが原告と転売先との売買契約を媒介なさらずに自ら自動車を買い受けられたことが、売却媒介契約上の善管注意義務に反しないかということにあると考えます。
1 前提となる事実関係
私が前提とした事実関係は、以下のとおりです。カッコ内は、以下で用いる略称です。
(1) duca4050さんは、平成○年○月○日、原告から、平成△年△月△日(受託期限)までに原告が所持する自動車一台(本件自動車)の売却を媒介することを受託した(本件契約)。本件契約の際、duca4050さんと原告は、duca4050さんが売却の媒介に代えて自ら本件自動車を買い受けることができる旨合意した(介入権付与合意)。
(2) 受託期限経過前の平成×年×月×日、duca4050さんは、A氏から本件自動車を1000万円で買い受けてもよい旨の希望を受けた。
そこで、duca4050さんは、原告から、本件自動車を700万円で買い受けた(本件介入権行使)うえ、A氏にこれを1000万円で売却した。
2 本件のポイント
本件のポイントとなる事実は、以下のとおりであると考えます。
(1) A氏は、原告が売主であれば本件自動車を買い受けなかったか。
本件契約は、原告がduca4050さんに本件自動車の売却の媒介という事実行為及び売却という法律行為を委任する趣旨の契約ですから、準委任契約(民法656条)と委任契約(同法643条)の混合契約です。したがって、duca4050さんは、善管注意義務(同法644条)を負います。
ところで、売却媒介契約の委託者は、通常、可能な限り高価に売却できることを希望するのが通常ですから、善管注意義務の内容として、duca4050さんは、1000万円での買受希望者であるA氏の存在を認識された以上、介入権を行使なさらずに原告とA氏の売買契約成立に努力される義務があるはずです。
そうすると、本件介入権行使が原告に対する関係で善管注意義務違反とはならない(=duca4050さんは自らの債務を履行された)というためには、「A氏は、原告が売主であれば本件自動車を買い受けなかった」という事実を、duca4050さんが立証される必要があります。
duca4050さんがこの観点から防御を試みられるのであれば、A氏が原告から買い受ける意思がなかった理由について合理的な証言をしてくれるかどうかが大きなポイントとなりそうです。
(2) duca4050さんがA氏の買受希望価格を原告に報告なさったか。
duca4050さんがA氏の買受希望価格を原告に報告なさったにもかかわらず、原告が本件介入権の行使を承諾ないしは容認していたのであれば、本件介入権行使は、原告に対する関係で善管注意義務違反とはならない(=duca4050さんは自らの債務を履行された)か、原告が本件介入権行使を理由に損害賠償を請求することは信義則違反(民法1条2項・禁反言)にあたると解されます(duca4050さんの報告及び原告の承諾・容認は、いずれもduca4050さんが立証される必要がある事実です。)。
duca4050さんがこの観点から防御を試みられるのであれば、duca4050さんの報告及び原告の承諾・容認を裏付ける書証をどれだけ確保できるかが大きなポイントとなりそうです。
なお、下記(3)とも関連しますが、本件契約が無報酬ないしは実費程度(受託者(=duca4050さん)の報酬は、転売利益をもってあてる予定であった)だったのであれば、本件契約上、duca4050さんには、買受希望者の買受意思が未確定であるリスク(duca4050さんがおっしゃる「リスク」とは、この趣旨でしょうか。)を考慮して相当と認める場合には、買受希望者と原告の売買契約成立を媒介なさらずに介入権を行使される裁量権が付与されていた、といい得るかもしれません。
(3) 本件介入権当時、A氏の買受意思がどこまで強固であったか。
本件介入権行使当時、A氏の買受意思が未確定であった場合、duca4050さんが原告とA氏の売買契約成立を媒介なさらなかったという善管注意義務違反行為とA氏の損害との間の因果関係を肯認し難いことになります。
A氏の買受意思が確定的であったことは、因果関係の要件の問題ですから、原告が立証する必要があります。
duca4050さんがこの観点から防御(反証)を試みられるのであれば、確定的な買受意思を持つに至った時期・契機について、A氏がduca4050さんに有利な証言をしてくれるかどうかが大きなポイントとなりそうです。
3 損害論について
本件では、原告の損害は300万円であり、これは通常損害であると考えます(さらに高価での買受希望者が存在したことと、その存在をduca4050さんが知りまたは知り得たことを原告が立証すれば、別論です。)。
ご期待に沿うような回答ではなく、申し訳ありません。
ご参考になれば幸いです。
この回答への補足
なるほど本件は、介入権付与合意付媒介契約、媒介(事実行為・準委任M656)と売却(法律行為・委任M644)の混合契約で、当方は、善管注意義務(M644)を負い、本訴では、善管注意義務違反が争点、ということ、よく理解しました。
事実関係は、ご賢察通りです。
(1)転買主が原告からは買わなかったことと、その合理的理由を立証。
(2)原告への報告義務を果たし、原告が熟知承諾容認していたこと(信義則違反M1-2禁反言)を立証。
(3)転買主の買受意思リスクに対する裁量権付与と緊急換金の背景(特定団体追込み)を立証。
(4)善管注意義務違反との因果関係としての転買主の条件付買受意思(融資条件付契約は外部意思になりますか?)と、確定的買受意思決定の時期・契機の立証。
以上を防御の指針としてやっていきたいと思います。
転買主との関係は「普通」なので、有利な証言を導くためには、資格信用上、相手方代理人、当方は本人が不利かと懸念され、その点について検討の余地を残します。
ご回答を待ち望んでいました。
数日後が期日なので、勝手な身動きで恐縮ながら、厚くお礼を申し上げて失礼し、準備書面作成を急ぎます。
おかげさまで、本日10時間もかかって、今準備書面を完了させました。
後日また質問させていただく際には、懲りずにご指導賜わりますよう、お願い申し上げます。
No.3ベストアンサー
- 回答日時:
「融資条件付契約は外部意思になるか」とのご質問について。
duca4050さんがおっしゃる「外部意思」の意味が判然としませんが、それが「A氏の買受意思を左右する外部的条件」という意味であれば、回答は、「なる」です。
duca4050さんがこの観点から防御を試みられるのであれば、A氏が本件自動車の買受資金の融資を受けるにあたって、いかなる融資条件を金融機関との間で取り決めていたかを立証する証拠(端的には、A氏と金融機関の契約書)を入手されることが望ましいでしょう。
duca4050さんにとってよき解決がもたらされることを祈念しております。
意思を左右するということは、A氏の確定的購入意思決定前であることの表れとも考えうる点から、この点にも着目してみたいと思います。
何かの形でまた成り行きを報告し、また何かの形で恩返しができることを望んでいます。ありがとうございました。
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