最高裁昭和63年1月26日判決(判例百選〔第4版〕11事件、24頁)
(手形所持人) (A会社を退任した取締役、但し登記は残存)
X――――→Y (1)昭和56年6月退任、2,3ヶ月の残務処理をした。
| (2)昭和58年4月、本件手形振り出し。
| (3)A社は間もなく倒産。手形不渡り
B―――――A会社
(金融を仲介) (振出人)
Xは会社が倒産したので、登記簿上のYに対して266条の3に基づく損害賠償請求した。
第1審、第2審判決は、Xの請求を容認した。そこでYが上告した。
最高裁判旨
「株式会社の取締役を辞任した者は辞任したにもかかわらずなお積極的に取締役として対外的又は内部的な行為をあえてしたとか、登記申請権者である当該株式会社の代表者に対し、辞任登記をしないで不実の登記を残存させることにつき明示的に承諾を与えていたなどの特段の事情のない限り、辞任登記が未了であることによりその者が取締役であると信じて当該株式会社と取引した第三者に対しても、商266の3第1項に基づく損害賠償責任を負わないものと解するのが相当である。」
だいぶ長くなってすみません。この判例についてなんですが、途中にある「登記申請権者である当該株式会社の代表者に対し、辞任登記をしないで不実の登記を残存させることにつき明示的に承諾を与えていたなどの特段の事情のない限り」とはどういうことですか?
No.3ベストアンサー
- 回答日時:
この場合は,本来手形所持人Xが会社に対して手形金を請求したところ、会社が倒産していたので,その会社の取締役Yに対して266条の3に基づく損害賠償請求をした場合です。
しかし、そのYは既に取締役を退任していました。しかし、登記上はまだ取締役として表示されていたのです。そこで、XはそのYに対して損害賠償請求をしたのです。原則的には登記上,取締役と表示されていても,当該取締役たるYは既に取締役ではないので損害賠償請求はできません。しかし、Yが当該株式会社の代表者に対して、辞任登記をしないで不実の登記を残存させることについて明示的に承諾を与えていた場合には、責任を負うと言うことです。もう少し、わかりやすくいうとX会社の代表者が退任した取締役たるYに対して、「取締役を退任されたことは承知しました。しかし、登記はこのままにしておきますがよろしいですか。」と言った場合に、Yが「どうぞ。」などと言ったという事情があった場合にはYは責任を負うと言うことです。つまり、登記申請ができるのは代表権を持った取締役であり、この場合のYは既に退任しているのであるから、登記申請はできません。ですから、たとえ、Xが登記を見てこのYが取締役だと信じて手形を受け取っても、このYに責任を追及するのはYに酷だという判断を示したわけです。しかし、上のような事情があれば(「 」で書いたこと)例外的にYに責任を負わせても酷ではないと判断されたと思います。No.1
- 回答日時:
商法266条の3は、第三者の取締役に対する責任を規定しています。
そこで、本事例においては、取締役を退任したにもかかわらず、登記のみが残存していた者が同条にいう「取締役」に当たるかが問題となります。
この点に関し、退任した以上、「取締役」に当たらないのが原則です。
しかし、株式会社において、役員に関する事項は登記事項とされています(188条2項7号)。
そこで、登記を信頼した第三者を保護する必要性が生じます。
そして商法14条は、故意又は過失によって不実の登記をした者は、それが不実であることをもって、善意の第三者に対抗することができないと規定しています。
同条を前提に形式的に考えると、退任登記がなされていないということは、不実の登記がなされている→その者は取締役でないことをもって善意の第三者に対抗できないということになるかにみえます。
しかし他方において、登記を申請する者は会社であって(不動産登記法?)取締役は登記申請権限を有しないことから、退任登記がなされていないことをもって、その者に266条の3の責任を負わせるというのは、退任取締役にとって酷な結果となります。(14条の直接適用はできない。)
そこで、判例は「不実の登記に明示的に承諾を与えていたなどの特段の事情がある場合には、14条類推適用により、取締役を辞任した者は善意の第三者に対して取締役でないことを対抗することができない 」とすることで、第三者と退任取締役との間の利益調整を図っているということです。
すなわち、その取締役に「特段の事情」を要求することで、登記申請権限を有する者と同視することができるということです。
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