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内田百閒について、あまり詳しくないので自信なしとしますが、文学者は一般に、「言語」つまり、日本人の作家なら日本語を大事にします。その場合、日本語の何を大事にするか、重視するかは、作家の作風や、文学についての考え方で違って来るのが当然だと思います。
内田百閒は、特異な文体を持った文学者でしたし、その主題も非常に韜晦したというか、錯綜した内容を持っていました。彼にとって、自分の文学空間を十分に表現するためには、日本語の歴史的典拠全体が必要で、その上に更に彼独自の言語空間・物語の空間を築くという操作が必要であり、また、そのようなことを意図したのだと思われます。
日本語の伝統との連関で言うなら、「旧仮名遣い」の方が合理的で、伝統文学や伝統の重みの意味と整合性や調和性があります。「新仮名遣い」はいわば、日本語の歴史を無視して、或る時点での日本語のありようを切ってみせて、「標準」を決めたとも言えます。これでは、日本語の歴史に立脚して文学空間を構築しようという文体や意匠に拘泥する作家には、納得の行かないものでしょう。
現代の新仮名遣いの文学は、それはそれとして、時代を開いているのですが、日本語の文学伝統や、言語の歴史との連続性から言えば、色々なものを失っているとも言えます。失う代わりに得たものがあるのですが、どうしても、失いたくない場合は、旧仮名遣いに拘泥するのは少しも不思議なことではないと思います。
また、旧仮名遣いで育った世代にとっては、旧仮名遣いがいわば「マザータング」であり、新仮名遣いが不自然なのだということも言えるでしょう。
逆に、たかが内閣訓令ぐらいで、何故、自己の言語表現を変えねばならないのか、という疑問が出てきます。新仮名遣いを採用した結果出てきた不都合なことや、色々な矛盾は、古典を読むと、かなり分かるのですが、しかし、新仮名遣いで育った人には、古典の記述がむしろ、奇妙に見えているのだとも思えます。
旧仮名遣いで、自己の文体を築き、更に、その上に自己の文学世界を構築して来た人、また、そういう歴史的厚みのある言語空間でないと自己の世界が表現できない文学者にとって、むしろ、何で、新仮名遣いのような、確かに、「口語・会話」においては、そういう風になっているが、日本の言語伝統からすれば、整合性のない記述方法を採用せねばならないか、理由が皆無ではないでしょうか?
ベストセラー作家や、誰でも読めるエンターテインメントを目指す人は、読みづらい旧仮名遣い表現は、それだけで読者に背を向けているということになるのかも知れませんが、或る時代の読者受けすることを狙うのが作家・文学者ではないでしょう。やはり、文学者も、芸術家である以上、時と空間を越えた、「普遍」を目指すものでしょう。
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