有機化学を勉強しているのですが、
「シュウ酸の場合、カルボニル炭素にもう一方のカルボキシル基が直結している為著しく大きな電子吸引を受ける。マロン酸もクロロ酢酸と同様に酢酸のα位の炭素に電子吸引基が直結している為大きな電子吸引作用を及ぼす。従ってこれら二つの字カルボン酸の解離定数は大きい。」
とあったのですが、良く理解できません。
シュウ酸やマロン酸以外の炭素鎖が長いジカルボン酸は電子吸引作用は異なってくるのでしょうか?
また、解離定数が大きくなる理由についても解説して頂けると大変助かります。
どうか宜しくお願い致します。
No.1
- 回答日時:
kasagurandingさんこんにちは.
カルボキシル基はハロゲンと同様に電子吸引性基になります(COO-だと逆に電子供与性基になってしまうのでこの場合に正しいかどうかわかりませんが電子吸引性基が置換した場合として説明します).このような置換基があるとカルボキシラートアニオンの酸素上の負電荷がσ結合を介して分子全体に非局在化することが可能になります.そうなると分子の安定性が電子吸引性基がない場合に比べて増すことになります.そうなると平衡が解離する方向に片寄るので酸解離定数は大きくなります.この結果酢酸に比べてシュウ酸は酸解離定数は大きくなります.炭素鎖についてですが,このような置換基の誘起効果は炭素鎖が長くなると遮蔽されやすくなるので,長くなるとどんどん影響が小さくなります.ちなみに,このような誘起効果を考えることで酢酸よりもギ酸の方が解離定数が大きくなることも説明できます.また蛇足ですが,ここでいう電子供与性,吸引性は誘起効果に対するもので共鳴に対しては当てはまらないこともあります.このような感じでいかがでしょうか.
この回答への補足
早速のご回答ありがとうございます。
ご回答の内容について質問があるのですが、
>カルボキシル基はハロゲンと同様に電子吸引性基に>なります(COO-だと逆に電子供与性基になってしま>うのでこの場合に正しいかどうかわかりませんが電>子吸引性基が置換した場合として説明します
の部分のCOO-とはカルボキシル基のことではないのでしょうか?
すみませんがこの部分についてもう少し解説して頂けないでしょうか?
宜しくお願い致します。
No.2
- 回答日時:
おはようございます.
置換基による誘起効果を考える場合にその置換基を電子吸引性と供与性に分けて考えます.ハロゲンが置換した時は単純に電子吸引性基として考えて問題ないと思います.カルボキシル基が置換している場合は,-COOHとして存在する場合は電子吸引性基として考えればよいのですが,-COO-と解離した時は電子供与性基として考えます.ジカルボン酸の場合にどちらとして考えればよいか私もハッキリわかりませんが,酢酸とシュウ酸を比較した場合には酢酸は4.56,シュウ酸が1.04とpKaが2桁ほど大きいので,+I効果を持つ電子吸引性基として考えればいいのではないかと思います(ここでは,電子吸引性効果を+I効果としましたが逆に符号をつける場合もありますので御注意ください).言葉足らずと知識不足で混乱させてしまい申し訳ありませんでした.
No.3ベストアンサー
- 回答日時:
質問されてから大分経ちますので既に解決したのかもしれませんが,今後閲覧する方のためにも追加回答しておきます。
まず,解離定数が大きくなる(酸として強くなる)かどうかを何で判断するかですが,これは H+ が離れ易いか離れ難いかで決ります。離れ易ければ解離定数は大きくなりますね。
では,H+ が離れ易いか離れ難いかは何で決るかですが,これは O-H 間の電子密度で決ります。H+ はプラス電荷を持っていますから,O-H 間の電子密度が高ければ(電子が多くあれば)電子のマイナス電荷に引き付けられて離れ難くなります。逆に,O-H 間の電子密度が低ければ離れ易くなります。
つまり,解離定数が大きいかどうかは O-H 間の電子密度が低いか高いかを考えれば良い訳です。
ここで,X-CO-O-H の解離定数(O-H 間の電子密度)に及ぼす X の効果を考えます。X が電子吸引性基であれば,X-CO 間の結合電子(σ電子)が X の側に引き寄せられます。結合電子2個の内の1個は炭素原子が提供した電子ですから,その電子が X 側に引き寄せられる事で炭素原子の電子密度が低下します。つまり炭素原子のプラス性が増加します(δ+ 性が強くなる訳ですね)。
ここでδ+ 性が強くなった炭素原子は CO-O 間の結合電子(σ電子)を引き付けます。結果,酸素原子の電子密度が低下します。それによって O-H 間の結合電子(σ電子)が酸素原子側に引き寄せられ,O-H 間の電子密度が低下して H+ が離れ易くなります。つまり,電子吸引性の X が付くと解離定数が大きくなります。
逆に,電子供与性の X が付いた場合には O-H 間の電子密度が高くなり,H+ が離れ難く(解離定数が小さく)なります。
ここで注意していただきたい事は,この電子供与性あるいは電子吸引性効果はσ結合を介した効果である点です。言うまでもなく各原子には多数の電子が存在し結合も1つではありません。そのため,最初の X が電子を引っ張る強さに対して,次の炭素原子が電子を引っ張る強さ,その隣の原子が電子を引っ張る強さはだんだん弱くなります。結果,X の効果が及ぶのは,通常介する結合が2本程度,特殊な場合で結合3本と考えて良いです。
以上が考え方の基本です。では,お書きの酸について具体的に見てみましょう。
まず,HO-CO-CO-OH ですが,一方のカルボキシル基を置換基 X と考えます。カルボキシル基には [ O=C ←→ (-)O-C(+) ] の形の共鳴がありますから,カルボキシル炭素はδ+ 性を帯びていて電子を引き付けます。つまりカルボキシル基(HO-CO-)は電子吸引性の置換基です。すると,上で述べた様に,他方の COO-H 間の電子密度が下がって H+ が離れ易くなり解離定数は大きくなります。実際,H-COOH: pKa 3.77, HOCO-COOH: pKa 1.23 です。
ちなみに,電子供与性置換基 CH3 が付いた場合解離定数は小さくなります。H-COOH: pKa 3.77, CH3-COOH: pKa 4.76。
で,結合が1つ延びた場合も同じですね。H-CH2COOH: pKa 4.76, HOCO-CH2COOH: pKa 2.83。
では,どこまでカルボキシル基の効果が及ぶかですが,HOCO-COOH: pKa 1.23, HOCO-CH2-COOH: pKa 2.83 と一方のカルボキシル基の効果が他方のカルボキシル基の解離定数を大きくしているのに対して,HOCO-CH2CH2-COOH では pKa 4.16 と効果が無くなっています。つまり,結合2つまでしか効果は及んでいません。
ところで,上記の様にカルボキシル基の電子吸引性効果はカルボニル炭素のδ+ 性によるものですので,カルボキシラートアニオンになっても変わる事無く電子吸引性です。勿論,アニオンが生じた事によってカルボキシル炭素のδ+ 性は弱くなりますが。さらに,カルボキシラートアニオンになると別の効果が生じます。それは,アニオンが近傍に存在する場合,新たなアニオンが生じるのはアニオン同士の反発が生じるため起こり難くなり H+ が離れ難くなります。その結果,カルボキシル基の電子吸引性の効果が打ち消されて解離定数は小さくなります。HOCO-COOH: pKa 1.23, 4.19, HOCO-CH2-COOH: pKa 2.83, 5.69 と2段目は1段目と事なり一塩基酸と同程度の(むしろ小さい)解離定数を示します。
お礼が遅くなり申し訳ありません。
非常に分かりやすいご回答ありがとうございました。
また機会がありましたらご教授宜しくお願いします。
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