万物の素材は火であるとし、宇宙はただ火のみから成ると断じた人々は、真の理論からは、およそ遠いもののようにみえる。かかる人々の指導者として、まず第一にこの論争の口火をきったのは、ヘーラクレイトスである。彼は晦渋な表現のために、ギリシア人の間では、真理を探究する真面目な人々よりは、むしろ心なきヤカラの間で著明な人である。というのは、愚かなものは、何でもゆがめられた言葉のかげにかくれているものを見ては感嘆し、これを好み、耳にこころよくひびくものとか、なめらかな言辞にいろどられたものとかを、真理だと思いこむものだからである。
(ルクレーティウス『物の本質について』第1巻635-644節 樋口勝彦訳 岩波文庫 39ページ)
*** *** *** *** ***
ヘラクレイトスのどんな表現によつて、「心なきヤカラ」「愚かなもの」が惑はされたのですか。
No.2
- 回答日時:
お礼ありがとうございます。
へラクレイトス自身は、かなりひねくれた人として、他の哲学者から評価されていたようですね。
断片から窺われるのは、論理的な言説というより、ヘラクトレイトスが真理としている事をヘラクトレイトス独自の表現で語っている事です。
それが直接的で無い故に、理解しづらい、もしくは曖昧な表現と捉えられたと言う事でしょう。
断片67は、全ての現象は一見2面性を見せるが、その本質は同一であると言う事を言っているようです。
ヘラクトレイトスは、燃焼する火に自然現象のロゴス(もしくはその源泉)が存在すると考えていたようです。
その思想には、対立する現象の根源が変化にあるという考えがあります。
また、断片76は、事物が他の消滅による変化によりあらわれる事を示唆しているようです。
ヘラクトレイトスは、ロゴスにより万物の変化が生じる、もしくは規定されるという概念を根源としました。
断片123は、ロゴスは見えやすい物では無い事を示唆しますから、隠れたものを探し出す事を哲学として認識していたのでしょう。
Web上では、wikiや哲学者のWebページなどで、ヘラクトレイトスの真理と思われる断片が紹介されています。
追加回答をありがたうございます。断片集の解説をしていただいて助かります。
>かなりひねくれた人として、他の哲学者から評価されていたようですね。
ソクラテスは、ヘラクレイトスの著作を読むと溺れてしまふと嘆いたさうです。
「わたしに理解できたところはすばらしいし、理解できなかったところもそうだろうと思う。ただし、この書物は誰かデロス島の潜水夫を必要とするね」
(さきほどのディオゲネス・ラエルティオス第2巻第5章(上)135ページ)
>断片67は、全ての現象は一見2面性を見せるが、その本質は同一であると言う事を言っているようです。
なぞなぞみたいな言葉です。二項対立による極端な主張は集団社会にとつて好ましくないやうに感じられます。状況次第でさまざまな見解が採用されてゆくべきだと思ひます。今哲学カテゴリで集団的自衛権の問題が議論されてゐますが、反対派の意見のほうが排他的で柔軟な姿勢が見られません。平和とは相容れない態度のやうに私は感じてしまひます。
>断片76は、事物が他の消滅による変化によりあらわれる事を示唆しているようです。
?????
具体例があれば理解しやすいのかもしれませんが、前後の文脈もなく私の軽い頭では何を言つてゐるのかわかりませんでした。
>断片123は、ロゴスは見えやすい物では無い事を示唆しますから、隠れたものを探し出す事を哲学として認識していたのでしょう。
ロゴスとは、普通に「ことば」を指すのではないのですか。?????すみません。やはりヘラクレイトスは理解しがたい人のやうです。
今後とも御指導よろしくお願ひいたします。
No.1
- 回答日時:
ヘラクレイトスの著作は現在失われて、断片しか存在しません。
難解(あいまい)な表現としては、以下が該当しそうです。
互いに異なるものからもっとも美しいものが生じる。万物は争いより生じる。(断片8)
みずからと対立するものは、みずからと調和している。逆方向に引っ張り合う力の調和というものがあるのだ。たとえば弓や竪琴の場合がそれである。(断片51)
神は昼にして夜、冬にして夏、戦争にして平和、飽食にして飢餓である。(断片67)
火は土の死により、空気は火の死により、水は空気の死により、土は水の死による。(断片76)
戦争は遍きものであること、正道は争いであること、万事は争いと必然に従って生ずることを知らなければならない。(断片80)
魂には、自己を増大させるロゴスが備わっている。(断片115)
自然は隠れることをこのむ。(断片123)
先日の日中辞典韓日辞典の質問につづいての御回答ありがたうございます。ルクレティウスの言葉は、テキサス大学の先生がモンテーニュの見解(『エセー』第2巻第12章 岩波文庫原二郎訳(三)132ページ 私は持つてゐません)として哲学カテゴリでときどき引用なさるので、どんな用例があるのかと思つて質問してみました。「整備文」のやうなもの、期待です。
内山勝利編『ソクラテス以前の哲学者断片集』岩波書店
http://www.iwanami.co.jp/.BOOKS/09/X/0920910.html
にヘラクレイトスの著作が部分的に紹介されてゐるのだと思ひますが、この本も貧乏人には買へません。
廣川洋一『ソクラテス以前の哲学者』講談社学術文庫
http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784 …
のなかで取り上げられた言葉を読む程度です。ここではさほど難解な表現は見られません。
>神は昼にして夜、冬にして夏、戦争にして平和、飽食にして飢餓である。(断片67)
これは「謎めかして語る人」(ディオゲネス・ラエルティオス『ギリシア哲学者列伝』第9巻第1章 加来彰俊訳 岩波文庫(下)95ページ)といふ評価にピツタリです。
>魂には、自己を増大させるロゴスが備わっている。(断片115)
こちらは「暗い人」(ストラボン『地理誌』第1巻第26節 私訳)でせうか。
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コメントでストラボンの出典をまちがへました。『地理誌』第14巻1章26節です。ついでに訳しておきます。
「注目すべき人物が古来よりここ[エペソス]で生れた、暗い人[スコテイノス]とも呼ばれるヘラクレイトスや、ヘルモドロスである。」
断片72の元ネタですけれど、Tastenkastenさんの訳文のほうがこなれてゐます。引用者マルクス・アウレリウスのコメントを期待したのですが、「ヘラクレイトスのことばを心に銘記しておく」ことの大切さを述べてゐるだけでした。高評価してゐたやうです。
「不断に交わっているもの、つまり万有を支配するかの理性[ロゴス]、と人々は最も仲違いをしている。日々出会うことどもが彼らの目には無縁なものと映る」
(マルクス・アウレリウス『自省録』第4巻46章 鈴木照雄訳 講談社学術文庫 66ページ)