【大喜利】【投稿~9/18】 おとぎ話『桃太郎』の知られざるエピソード

大学の化学の講義で分子軌道法(MO法)と原子価結合法(VB法)を習いました。
そこで、課題を出されたのですが、さっぱりわかりません。私は高校で化学の授業をとっていなかったので初心者です。独学で頑張っていますが、そんな私にもわかるように回答をお願いします。

「MO法とVB法の差を、水素分子の場合について考える」

という課題です。協力お願いします。

A 回答 (1件)

高校の化学では量子力学のほんのサワリくらいやりますが、大学では一から仕切り直しだと思ってください。

高校で化学をやったかやらなかったかはあまり関係なく、言うなれば「全員が初心者」です。(現に私も高校で化学を選択していない一人です)

【おさらい】
(1)巨視的世界の運動がNewtonの運動方程式で支配されるように、微視的世界の運動はSchroedinger方程式で支配される。
(2)微視的世界では粒子の位置を時々刻々追い掛けることはできない。それに代えて「波動関数」という概念が使われる。(ここが巨視的世界の力学と大きく異なる点でとっつきにくいですが、そのようなものだと割り切って先に進んでください。後から少しずつ分かってきます)
(3)「波動関数」に物理的な姿を敢えて与えるなら、原子核などのまわりにもやーっと広がった雲のようなものが近い(電子の場合、電子雲などといいます)。雲が濃い個所は粒子の存在確率が高い場所、雲が薄い場所は存在確率が低い場所である。

まず上記のことを理解してください。(必要に応じ教科書なりノートなりを読み返してください。ここが分かっていないとVBもMOもおそらく理解できないでしょう)

【水素原子】
その次の段階として水素原子の波動関数を習ったと思います。極座標系に座標変換し、変数分離を行い、Legendreの陪多項式やLaguerreの陪多項式を使って解を表し・・・と言った具合に求めます。この計算は独りでスラスラできるようになる必要は全くなく、「こういう手順で解いていくんだな」という流れだけ覚えておけば十分です。
ただし結論だけは覚えておいてください。水素原子中の電子がとることのできる状態は1s, 2s, 2p,...といった種類に限定されていて、状態に対応する波動関数(オービタル)が存在し、それぞれにエネルギー(エネルギー固有値)が定まっているということです。

【水素分子】
さて水素原子の波動関数が終わると次は水素分子の波動関数に進みます。水素分子の波動関数について習うと「なぜ水素原子は共有結合で結びついて水素分子となって存在するのか」ということが分かります。
ところでSchroedinger方程式を厳密に解くことができるのは水素原子(原子核1個、電子1個)についてだけです。それ以外のものでは厳密解は得られません。水素原子の次に簡単な水素分子ですら波動関数を正確に求めることはもはや不可能なのです。(解析的に積分ができないということでなく本質的に解けない問題なのです。多体問題といいます)
そこで水素原子以外の原子や分子については何らかの近似を行ってSchroedinger方程式を解きエネルギーを求めます。代表的な近似法がVB法とMO法です。水素分子の場合、どちらも近似の出発点は水素原子のオービタルです。

【VB】
VBはHeitler-London法(以下HL)に基づく技法です。

 / ̄\   / ̄\
| ● | | ● |
 \_/A  \_/B

図で●は原子核、その周りの輪はオービタルだと思ってください。表現の限界からオービタルを線で描きましたが、実際にはもやもやと広がった雲のようなものですから誤解のありませんよう。

HL法では水素分子の波動関数を以下のように考えます。
まず最初に、二つの水素原子Aと水素原子Bが十分に離れていて相互作用がない場合のことを考えます。電子にも番号を付け、電子1が水素原子Aの、電子2が水素原子Bの周りのどこかに存在するとします。電子1の位置をr1、電子2の位置をr2で表します(r1, r2は座標なのでx, y, zの3成分を持ちます)。
この系全体の波動関数ψ(r1, r2)はどうなるでしょうか? 電子1が原子Aのオービタルにあり電子2が原子Bのオービタルにあるならば
ψ(r1, r2)=φA(r1)×φB(r2)   (1)
と表されます。ここにφAは水素原子Aの波動関数(オービタル)、φBは水素原子Bの波動関数です*1。φAとφBは同じ形の関数ですが、空間的な場所はずれています。

次に二つの原子を接近させます。この時の波動関数はどう変わるでしょうか。一見(1)のままの
ψ1(r1, r2)=φA(r1)×φB(r2)  (2a)
でよいように思えますが、今度は電子2がφAの状態にあり電子1がφBの状態にあることも生じてきます。(電子の非個別性・・電子は区別できない・・によります)。すなわち
ψ2(r1, r2)=φA(r2)×φB(r1)  (2b)
も平等に扱ってやらねばなりません。
従って水素分子の波動関数は
ψ(r1, r2)=c1 ψ1(r1, r2) + c2 ψ2(r1, r2)  (3)
と置くのがよさそうです。これは(2a)の状態と(2b)の状態をよく混ぜた状態、と言えます。なおc1とc2は定数です。また(2a)と(2b)は等価な状態ですからc1とc2の絶対値は等しいと考えるのが自然です(どちらかの状態だけが全体の波動関数ψに強く反映されるのはおかしい)。
すると(3)は新たな定数cを用いて
ψ(r1, r2)=c{ψ1(r1, r2) + ψ2(r1, r2)}  (4a)
ψ(r1, r2)=c'{ψ1(r1, r2) - ψ2(r1, r2)}  (4b)
と表すことができます。(c1=c2かc1=-c2かで2種類の式が出てくる)
cの値は、全空間で|ψ|^2を計算してちょうど1になるように(規格化)決めます。その細かい計算法は今は必要ないので省略します。必要であれば教科書で見てください。
この(4)をSchroedinger方程式
Hψ=Eψ  (5)
に放り込むとエネルギーEの値を求めることができます。(4a)(4b)の二つの式がありますから(5)ではそれぞれの場合を分けて計算する必要があります。
結論だけ書くと(4a)では結合していない状態に比べて全体のエネルギーが下がり、(4b)だと上がります。すなわち(4a)の状態に二つの電子が入った場合、原子がバラバラに存在するよりエネルギー的に安定となり水素分子が形成されることになります。

【MO】

 / ̄\_/ ̄\
| ●   ● |
A\_/ ̄\_/B


最初から分子全体に広がったオービタルを考えます。このときのオービタルはそれぞれの水素原子のオービタル(φAおよびφB)の線形結合だと仮定します。すなわち
φ(r)=c1 φA(r) + c2 φB(r)  (7)
とします。
電子はどちらかの原子に偏って存在することはないので、
c1=±c2  (8)
とするのが妥当です。(要するにc1とc2は絶対値が等しい)
水素分子全体の波動関数ψ(r1, r2)は
ψ(r1, r2)=φ(r1)×φ(r2)  (9)
なので、(7)(8)を代入して
ψ(r1, r2)=c[{φA(r1)φB(r2)+φA(r2)φB(r1)} + {φA(r1)φA(r2)+φB(r1)φB(r2)]  (10a)
ψ(r1, r2)=c[ -{φA(r1)φB(r2)+φA(r2)φB(r1)} + {φA(r1)φA(r2)+φB(r1)φB(r2)]  (10b)
を得ます。cは新たな定数です。全空間に亘って|ψ|^2を積分して1になるようにcは決められます。
VBの場合と同様、Schroedinger方程式(5)にそれぞれを放り込むとエネルギー固有値Eを求めることができます。これも結論だけ書くと(10a)の方は系全体のエネルギーが下がり、(10b)だと上がります。VBの場合と同様、水素原子としてバラバラに存在するより結合して水素分子になったほうが安定という結論が導かれます。

【MOとVBの違い】
MOでもVBでも水素分子の形成を説明することはできました。
さてそれぞれの波動関数の近似法を精査すると分かるのですが、VBでは「どちらか一つの原子のオービタルに両方の電子が入っている」状態が考慮されていません。しかし現実にはそのような状態はあり得るわけで、その分も計算に含める必要があります。
一方、MOはその影響を過大に取り入れています。どちらか片方の原子のオービタルに両方の電子が入る確率は、両方の原子のオービタルに分散して入る確率より低いと予測されますが、これを同等に扱っています。
式で具体的に見てみましょう。VBでのψの試行関数は
ψ=c{φA(r1)φB(r2)+φA(r2)φB(r1)}  (11)
一方、MOでのψの試行関数は
ψ=c'[{φA(r1)φB(r2)+φA(r2)φB(r1)}+{φA(r1)φA(r2)+φB(r1)φB(r2)}]  (12)
でした。cおよびc'は規格化のための定数です。
2つの式で前半は同じですが、後半の{φA(r1)φA(r2)+φB(r1)φB(r2)}の項(両方の電子が片方の原子に入っている状態、イオン項などとも言う)がVBでは全く入っておらず、一方でMOでは前半の{φA(r1)φB(r2)+φA(r2)φB(r1)}と対等の扱いで入っています。これがMOとVBの大きな違いです。
このイオン項の取り入れ方を工夫するとよりよい近似になると考えられます。実際、変分原理*2を用いてイオン項の取り入れ方を調節するとエネルギー固有値はさらに下がり、原子間距離も実測値により近い解が得られます。

そのほか水素分子の場合に限らずVBとMOの違いを比較すると以下のようになります。
VB:
分子の構造や性質を定性的に調べるのに向く。
各原子の最外殻不対電子が、共有結合を作る価電子となると考える。

MO:
定量的計算に向く。
最初から、分子全体に広がったオービタルで考える。
内殻電子を計算に入れることも容易にできる。

上記は本来なら大学の授業何回分かをかけて説明される内容であり、この限られたスペースで全てを伝えるのは難しいものです。なんとか特急コースで説明しましたが、上記の説明で分からなければkyon1110さんご自身でもう一度教科書を読み返してください。(私の説明も完全に自信があるわけでありませんので)

*1 いずれも基底状態として1s軌道のみを考えます。以下特に断らない限り1s軌道について考えます。
*2 近似された波動関数が真の波動関数(基底状態)に近いほど、エネルギー固有値を計算した時に低い(安定な)エネルギー値を与える、という原理です。従って試行関数に含まれるパラメータを変化させながらエネルギー固有値を求めた場合、エネルギーがもっとも小さくなった時のパラメータが最善のパラメータ、ということになります。
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この回答へのお礼

大変助かりました!!とてもわかりやすく説明していただき、たくさんの知識を得ることができました。本当にどうもありがとうございました。

お礼日時:2003/06/03 20:20

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