■「抱っこ紐外し」は昔からあった?
アルバイト店員が不適切な写真や動画を投稿する通称「バイトテロ」、従業員による個人情報漏えい問題など、SNSへの投稿がきっかけで広く世間に知れ渡った犯罪行為は多い。犯罪心理学を専門にする臨床心理士、中村大輔さんによると、
「昨今さまざまな犯罪がありますが、SNSの発達により、より可視化されるようになり、また起きたことを主張することもできるようになりました。実際に逮捕にまで至らなくても、これまでにも『抱っこ紐外し』と同様のことが起きていた可能性はあります」(中村さん)
とのこと。「抱っこ紐外し」の被害件数が最近急に増えたという根拠はないが、被害者がすぐにSNSに投稿できるという状況により、世間に広まるスピードが飛躍的に早くなったといえそうだ。
■加害者に特徴はある?
被害を受けた母親の投稿によると、加害者はごく普通の中年である場合が多いという。「抱っこ紐外し」をする加害者の特徴について中村さんに聞いてみた。
「加害者は『ごく普通の人』とは、昔からよく言われたことで、見た目から推察することは困難です。そもそも加害者は特別な存在ではなく、日常のさまざまな出来事の中で逸脱行為をして、結果的に法律に引っかかってしまうのです」(中村さん)
実際に逸脱行為をするまでは、世間で起こるニュースも人ごとのように非難しているのだという。
「私は加害者らの心理教育を日常的に行っていますが、『自分が犯罪をするとは思っていなかった』『こうなって初めて社会が怖くなった』『犯罪者のことを特別な人だと見ていた』と語っています。犯罪の直接的な引き金としては、目の前に起こるイラっとするような怒りの感情に起因しますが、背景には孤独感や虚しさ、不遇感を募らせています。また、本人もそのことに気づいていないことも少なくありません」(中村さん)
孤独感や虚しさ、不遇感は多くの人が抱えているものだ。すべての加害者を「犯罪行為をする=赤ちゃんのいる母親に嫉妬」というような単純な図式に当てはめると、本質的な解決が遠のく危険性があるだろう。
■周知されることで新しい議論が生まれる
SNSはネガティブな面ばかりが報道されがちだが、SNSによってこうした加害行為が広まり、認知されているのも事実。
「周知していくことで、こうした加害行為も議論され、防止になっていくと思います。物理的な面では抱っこ紐が外れないような工夫や周囲を気にしておくことが必要ですが、長い目では社会全体がフラストレーションを解消できるように優しい世の中になっていくことが必要になります」(中村さん)
満員電車のベビーカー、飛行機や新幹線で泣き続ける赤ちゃんに対する周囲の反応も、長い目で解消していく必要があるフラストレーションの一種といえる。とはいえ、赤ちゃんを守る母親としては、今すぐできる対策が急務。バックルが外されないようにカバーをつける、抱っこ紐の上に上着を羽織るなどの予防策を講じよう。
●専門家プロフィール:中村大輔
公認心理師・臨床心理士・シンガーソングライター。2011年神戸臨床心理カウンセリングルーム研心音を開業。犯罪心理学・裁判心理学を専門とし、数々の事件の鑑定、再犯防止活動を行っている。病院カウンセラー、刑務所カウンセラー、スクールカウンセラーなどのさまざまな心理支援に携わり、歌う臨床心理士として学校や施設などでの心理学講演ライブも開催。
(酒井理恵)