哲学の初心者です。
キルケゴールの「死にいたる病」の冒頭で、
死にいたる病とは絶望のことである。
としながら、文中では
こういう意味では絶望とは死にいたる病とは呼ばれえない。
絶望者は死ぬことができない。
死ぬことさえも出来ない希望のなさ
などと、絶望と死のつながりを否定している箇所があります。
いったい、彼のいっている「死」とは、何なのでしょうか?
ごく一般的に言われている、息が止まり心臓が止まる肉体の死をいっているのでしょうか、それとも精神的な死をいっているのでしょうか?
私は、この本を読む前に目次を読んで、直感的に絶望が引き金となって自殺を図るのかな、と考えていたのですが、それは単なる思い違いなのでしょうか?
広く解釈すれば、生物は生まれた瞬間から死にいたっているのですが、そんなことをいいたいわけではないですよね?
No.5ベストアンサー
- 回答日時:
キルケゴールは死に至る病について、ラザロの死をひいてきたと思うんですね。
クムラン宗団において、刑罰があり、重大な規律違反を犯した場合、処刑されるんです。
実質的な死ではなく、破門のことが 死。
死者の衣装を着せ 穴の中に3日間拘留したあと、集団から永久追放する。
これがクムラン式処刑。
イエスはラザロは死に至るまでの罪を犯してはいないとして、ラザロを復活させた。
つまり、穴の中に閉じ込められ死者として扱われていたラザロは、死に値するほどの罪が無いとイエスが抗議し、ラザロは復権した。 と。
で、キルケゴールは、人は肉体的な死と精神的な死とがあると考えた。
精神的な死が絶望。
>こういう意味では絶望とは死にいたる病とは呼ばれえない。
この文の前は どのようなことが書かれています?
調べてみましたが、その箇所が見つかれないので、よかったら教えてください。
【絶望である事を知らない絶望。
言いかえれば、人が自己を、しかも永遠的な自己を持っているという事についての絶望的な無知。】
とも言ったようです。
キルケゴールは、「全員赤になるべきだ ならないものは地獄に落ちる これは絶対である」というキリスト教の考えに猛反発したようなんですね。
「信仰が大きければ水の上を歩ける」と言う本人すら水の上を歩けないのに、「信仰で歩けるようになる」と言い張るこの虚構を鋭く突いた。
人々が盲目的に水の上を歩けるようになるようにと、絶対的支配者にかしづいているのをみて、この情況は絶望的で、支配の言うなりになり、自分独自の生というものを喪失し、既に死んでいるのにそれを知らないでいる大衆を無知者だ と嘆いた。
この既に死んでいるのに自覚していない人々の風潮が、死に至る病だと思ったんじゃないかと。
>彼のいっている「死」とは、何なのでしょうか?
彼は人は実存的に生きるしかないと悟った。
主体的真理は個人の中にある。
絶対的支配者の主体的真理と個人個人の主体的真理は違う と。
そして一人の主体的真理に統合され、自己を失なってしまい、生を失ってしまうことが、死。
そして人々は死に至る病を発病し、自己を手放し死のうと必死になっている。
キルケゴールに言わせれば、この風潮は病気。
「大衆は虚偽だ」「真理は常に少数の側にある」など、カーメルの笛に踊りながら崖に向かっていく大衆の背中に向かって叫んだわけです。
空しい叫びでしかなく、人々は崖に落ちていった。
ロマン主義の人は現実不可能なことを夢見て、それをさも実現可能であるかのように錯覚して、眠りこけるわけです。
キルケゴールはその逆。
人は実存的な生きかたしかできない限定的な存在であることを自覚し、実存的に生きるしかない と。
生きている以上 いろいろな困難な壁にぶつかる。
支配者の言う通りにするのではなく、一人で決断し、一人で飛んで超えるしかない。
この決断するのは誰か?
私でしかない。
私が飛ぶぞと強く意志を持って、壁を乗り越えるしか、壁を乗り越える手段は無い。
「壁の内側にとどまって泣いて私にすがっていれば神様が助けてくださる。だからわたしのそばを離れないように」という独裁者の撒く毒に、じわじわ犯されて死ぬより、毒を飲まされていると気づいて、奪われた自分だけの生を取り戻し、毒から離れればいいわけです。
そのままなら生きながら既に死んでいるわけですから、悪魔から逃げ、自分の人生を取り戻すしかない。
で、これを死者の復活と言うんじゃないかと。
ラザロの場合は、イエスは復権を与える権限があったから、ジャッジして復権させたのではないかと
これによりイエスは不利になった。
そして処刑され、死者として扱われ、イエスを復権させる権利を持っていた地位の人が彼を復活させた。
これが当時のやりかた。
キルケゴールが、その風習を知っていたかどうかわかりませんが。。。。
結局、肉体的に死がおとづれるより前に、大衆の毒により既に死んでしまっている人が多いってことを彼は指摘したんじゃないかと。
>キルケゴールは死に至る病について、ラザロの死をひいてきたと思うんですね。
おっしゃるとおりで、ラザロは肉体的に死んだのではないことが、分かりました。
よって、彼のいっている死はキリスト教的な死で、精神的な死であることがわかりました。ありがとうございます。
ところで、
>こういう意味では絶望とは死にいたる病とは呼ばれえない。
ですが、以下の段落の一部分です。(枡田啓三郎 訳)、
C 絶望は「死にいたる病」である
死にいたる病というこの概念は、あくまでも独特な意味に理解されなければならない。文字どおりには、それは、その終わり、その結末が死である病のことである。それだから、致命的な病のことが、死にいたる病と同じ意味で用いられている。こういう意味では、絶望は死にいたる病とは呼ばれえない。むしろ、キリスト教的な意味では、死はそれ自身、生への移り行きなのである。そのかぎりにおいて、キリスト教的に見ると、いかなる地上的な、肉体的な病も、死にいたるものではない。なぜかというに、確かに死は病の最後ではあるが、しかし死は終局的なものではないからである。もし最も厳密な意味で死にいたる病ということを言おうと思うなら、それは、終局的なものが死であり、死が終局的なものであるような場合の病のことでなければならない。そして、この病こそ、まさに絶望なのである。
>結局、肉体的に死がおとづれるより前に、大衆の毒により既に死んでしまっている人が多いってことを彼は指摘したんじゃないかと。
おっしゃるとおりで、ほとんどの人の生き方は、キルケゴールのいう酒場の親爺と同じように、自己を見出せないまま、単に生きているのだと思いました。
No.4
- 回答日時:
『「死にいたる病」は、いわゆる「死病」のごときものとは本質的に違う。
「死にいたる病」は死ぬべくして死ねない病であり、絶えざる死の体験である。普通にいう「死」は、過ぎ去ったものであるか、もしくはきたらんとするものである。そこには現在的な何ものもない。もしそこに苦痛があるとすれば、それはきたらんとする死の期待のうちにあるにすぎない。しかるに、「死にいたる病」のうちには、過ぎ去ったものもしくはきたらんとする何ものも存在しない。そこにあるのはつねに現在的な苦痛のみである。』『では、「この病は死にいたらぬ」ということは何を意味するのか。それは絶望の反対であり、大いなる希望である。信仰と希望はキリスト教の教えの中でわかちがたく一つに結ばれている。』
『キルケゴール著作集11』白水社 訳者松浪信三郎氏の解説より
ここにおいて死は、信仰を離れ精神が閉塞し、生きた骸となりつつもそのことについて、意識が苦痛を感知している状態を表す部分と、生物的な死とが使い分けられられていると考えます。
『なぜなら死はけっして最後のものではなく、キリスト教的に解するならば、実に生命への移行でさえもあるからである。』
上記書籍翻訳部分より
彼のいっている死は、一通過地点である肉体的な死ではなく、キリスト教的な死で、精神的な死であることがわかりました。ありがとうございます。
No.3
- 回答日時:
絶望が自殺を引き起こす、というのは間違ってないと思いますが、キルケゴールはもっと突き抜けて考えている点があります。
私もテキストが手元にないので
http://www.geocities.jp/enten_eller1120/text/kie …
を参考に答えますと、
---引用---
絶望は自己における病であって,これは死に至る病である.絶望者はこの病によって死ぬことはできない.この病の恐ろしいところは,人が普通に死ぬとよんでいる意味である,肉体的な死によってはこの病は終わらないのである(普通の病は肉体的な死でもって終わる).この病の苦悩は,死は,死ぬことができないということそのことだからである.
---引用終---
あたりがヒントになるのではないでしょうか。
あるいはもっと前の段階、つまり「絶望とはあらゆる可能性に対する絶望なので、『自殺』という行為すらなしえない」という話なのかもしれませんが。
ヒントになれば幸いです。
彼の言っている死は、精神的な死で、そこまでいくと自殺(肉体的な)すら考えられないほど絶望するということが分かりました。ありがとうございます。
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